異能バトルにTS魔法少女は似合わない   作:ツキシロ

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その4

 ――翌日。

 朝は七時を回った頃。もうそろそろ、ツキもシロネも学校に向かわなくてはならない。今日はゼンイを使ってシロネを転校してきたことにした、初日の登校日。

 持って回った言い方をしているが、ようするにシロネの転校初日。

 

 早めに行って、色々と挨拶やらなんやら、済ませなくてはならなかった。

 

 そこもゼンイですっ飛ばすことはできるが、流石にもったいないという意識が勝った。

 

「……どうぞ」

 

「――行く」

 

 しかし、そんな朝の時間。シロネとツキは、神妙な面持ちで洗面台の前に立っていた。

 

「あ、で、でもあんまり力込めないでね、無理にやっちゃだめだよツキ、あ、あ、あ、あ、あ」

 

「――――ふん!」

 

「ああああああああああああ!」

 

 二人は、そして。

 

 

 ――シロネの胸に、なんとかブラをつけようと、奮闘していた。

 

 

 さて、ここで昨夜の出来事を少し振り返ってみよう。

 シロネは変身を解除すると、肩の出たちょっとエッチな白いワンピースを着ている状態に変化した。で、これは魔法少女であったときも同様なのだが、そんなシロネはブラとショーツを身に着けていた。

 猫柄の、可愛らしいランジェリーである。

 

 が、しかし。

 

 ――夜、それをつけたまま寝ると、寝苦しかったシロネは、ブラを外して就寝した。そして起きた後、恥ずかしながらも再びブラを身に着けようとして、

 

 

 うまくつけられなかったのだ。

 

 

 ブラを付けるのにも、技術が必要となる。そしてそれを、シロネは要していなかった。というか少女になって一日目なのだから当然である。

 であれば、当然同居人となった元許嫁の美少女、ツキに助けを求める。

 

 が、しかし。

 

 

 ――ツキもうまくブラをつけることができなかった。

 

 

 ブラを付けるのにも、技術が必要となる。この技術、総じてある言葉で表現された。

 

 即ち、女子力。

 ツキにも、シロネにも。それがなかった。そもそもツキはブラが必要ない。一応、サラシを巻いているものの、基本的にはノーガードオブノーガード。生まれてこの方、ブラジャーというものを、身につけたことは皆無だった。

 

 そんな二人は、現在。力任せに何とかブラをつけようとしていた。

 

「い、いたいいたいいたい! ダメだよ! なんかこう、破裂しちゃう!! 爆発しちゃう!!!」

 

「ダメ、若。こらえて、これは必要なこと」

 

 泣き叫ぶシロネに、至って真面目に宣告するツキ。そんなツキの努力はかない、なんとかブラジャーのホックを、ツキは装着することに成功した。

 

「良し」

 

「う、うう……もうお嫁に行けない」

 

「……? 若は私のお婿さんだよ?」

 

 どこかズレた会話をする二人は、けれども奇妙なやり遂げた感に包まれ、直後。

 

 

 ぷち。

 

 

「あっ」

 

 ――ホックが外れて、ブラジャーがすごい勢いで弾け飛ぶのだった。

 

 

 ◆

 

 

 結局、変身すれば衣装を無限増殖できることに気付いたシロネが、変身して、それを解除することで朝の騒動は事なきを得た。

 

 そんな日に、シロネはツキが任務のために潜入している高校へ、転校してきたのである。

 

「木宮シロネと言います。奏世ツキとは親戚同士で、一人暮らしをしている彼女を頼って、こちらまで引っ越してきました。これから、よろしくおねがいします」

 

 ――自己紹介は、そんなところだった。

 なお、この時シロネは敬語を使っているが、シロネは朝の出来事を鑑みて、基本的に学校では敬語で通すことに決めていた。

 

『敬語で喋れば、男の子っぽい喋りにならないよね?』

 

『そうかもしれない。けど、若の敬語、すごいむずかゆい……』

 

『が、頑張って。別にツキを敬って遠ざけたいわけじゃなくて、あくまでキャラ付けだから――』

 

 なんてことを、周囲に人だかりの出来た若――大切な人のことをとなりで眺めるツキは、回想していた。ほわんほわん。

 

「それで、木宮さんも奏世さんと同じところから来たんだ」

 

「はい。すごい田舎の方で、こういう大きい街で暮らしたことがなかったので、楽しみです」

 

「ふたりとも仲いいの?」

 

「そうですね……幼馴染、というやつなので、ツキのことは、すごく頼りにしています」

 

 ――何故回想なんてことをしているかと言えば、暇だったからだ。

 シロネはゼンイを使うまでもなく、ツキの隣の席に座ることになった。そのほうが何かと都合がいいだろう、という判断。

 ただ、しかし、それ故に。

 

「んー、木宮さんかわいい! 奏世さんもカワイイけど、木宮さんもすごい! 美人幼馴染だよ!」

 

「え、えっと……」

 

「照れてるところもかわいい!」

 

 目の前で、少女たちの人気者と化した、シロネの姿が、なんとなく気に入らない。遠巻きに眺める男子たちも、ツキはとても気に入らなかった。

 

 だからむぅ、とむくれているが、ツキは表情筋が死んでいるので、それが周りに伝わらない。

 

「でも、木宮さんが来てくれてよかった。奏世さん、すごく可愛くて、お近づきになりたいんだけど。なんていうか話しかけにくくって」

 

「あ、ああうん……ツキ、人見知りですから。しょうがないですよ」

 

「だよね! 前に転校してきたときに、こんな感じでお話したかったんだけど、全然返してくれなくて!」

 

「木宮さんはそうじゃないし、木宮さんがいれば、奏世さんとも仲良くなれるよね!」

 

「……どう? ツキ」

 

 少女たちの言葉を受けて、シロネがツキへと声をかけてきた。いきなり話が振られて、心ここにあらずだったツキは、思わず驚いて、シロネを見る。

 

「――――あ、ごめん。拗ねちゃってた?」

 

 そして、すぐにシロネはツキの様子に気がついた。本当に小さな変化ゆえに、周りはだれも気付いていなかったのに、シロネは即座にそれを察してくれたのだ。

 ツキの顔が、ぱぁ、と明るくなる。――それも、周りには伝わらないけれど。

 

「ん」

 

「よかった」

 

 以心伝心。

 伝わった心に、ツキはなんだかとっても暖かくなった。

 

 そんな時だった。ふと、ツキの隣を、長いポニーテールの少女が通り過ぎる。長身で、スタイルのいい彼女。確か、名前は――

 

「――ねぇ、そろそろ移動しないと、遅れるよ?」

 

 そう、彼女はシロネと、それを取り囲む少女たちへ呼びかける。そういえば、次は教室を移動しなくてはならないのだと、ツキはそれで思い出した。

 

「あ、マッド」

 

 “マッド”。

 そうだ、たしかに彼女は周りからそう呼ばれていた。なんでそう呼ばれているのか、ツキにはさっぱりだし、興味もなかったけれど。

 

 周りの少女たちは、そんなマッドに何かを言いたげだったけれど、彼女はつかつかと足早に離れていくものだから、何も声をかけられず、なんだか気まずい雰囲気を醸し出しながら、シロネたちに移動を促す。

 

 なんというか、浮いていた。

 

 ツキも人のことは言えないけれど、あのマッドという少女は、明らかに輪の中に、加われてはいなかった。とはいえ、ツキが気になったのはそこではなく。

 

(――あの人。若の“髪”を、じっと見てた)

 

 周囲は、若――シロネの透き通るようなホワイトの髪色に疑問を抱かない。原理はわからないが、シロネの髪の色はそういうものらしい。

 魔法少女の特権だと言っていたけれど。

 

 ――それに、気付いている?

 

 なんとも気になる視線が、ツキには否応なく印象に残るのだった。

 

 

 ――――

 

 

 一日を何事もなく、というにはにぎやか過ぎるほど、にぎやかに過ごして。最後までその賑やかさに押し流されながら、シロネとツキは何とか一日を終えた。

 

(女子ってすごい)

 

 なんというか、男として高校に通っていた頃は、遠くに感じていたからわからなかったけれど、女子というのはそれはもう姦しい存在で、話が弾めば弾むほど、とどまることを知らなくなる。

 すごい生物だ。

 そして、自分もそうなってしまったのだ。

 

 あまりにもかわいい、かわいいと言われすぎて、少しだけそれに嬉しくなってしまったシロネは、自分が男だという意識はまだあるけれど、こういうのもいいのかな、という気持ちになってしまっていた。

 

 というか、全体的に浮ついていた。

 

「じゃ、この後はどうする?」

 

「え、っと。実はまだ引っ越してきたばかりで、全然荷物がなくって、買い出しができればな……と」

 

 ――昨日初めてお邪魔したツキの部屋には、荷物が何一つなかった。

 仕事に使う、霊子呪具が脇に整頓されて置かれているだけで、後は備え付けの家具しか存在しない。洗面台などをみれば、歯磨きなんかは置かれているけれど、それだけだ。

 

 本当に、何もなかった。シロネも驚いてしまうくらい。

 

 なので、買い出しをしたかったのだけど。

 

「解った! あ、でもついでに、この前オープンしたっていう、カフェによってかない!? そこのミルクティーがチョー美味いんだって!」

 

「いいねー!」

 

 ――したかったのだけど、これは本当に買い出しができるのだろうか。

 

 なんて考えた、その時だった。

 

 

「ご、ご、ごめん、どいて――――!」

 

 

 何かが風を切る音と、その奥から、声が聞こえた。

 

 見れば、何やら空を飛ぶ機械が、こちらへと突っ込んでくる。

 ――シロネもツキも、後に初めてしったけれど、この機械は、ドローンと呼ばれるものらしい。低空を飛行しながら、すごいスピードで飛んでいる。

 

 当たっても、そこまで大きな怪我にはならないだろうが、危険ではある。即座にシロネはツキへと目配せして、周囲の女子を横へ押しやった。

 皆が困惑するなか、シロネたちが即座に動いたおかげで、ドローンは間一髪、女子の一団の中央を突破して、更に先へと飛んでいった。

 

 やがて、上空へと飛翔したそれは、人の体にぶつからない位置まで上昇すると、その場で滞空を初めた。ともあれ、これで一安心だろう。

 

 しかし、一体何が? 疑問に思うシロネたちを他所に、状況を把握した女子たちが、ドローンを操縦していた少女へと声をかける。

 

「もう、危ないでしょマッド!」

 

「そんなんだから、いつまで立ってもマッドなのよ!」

 

「ご、ごめんなさい!」

 

「マッド!」

 

「マッドサイエンティストー!」

 

 謝る少女に、女子からの一斉のブーイング。致し方のないことをしたとは言え、若干過剰に思えるほど、マッドと呼ばれた彼女は、周囲から文句を言われていた。

 

(――なんか、やだな)

 

 ドローンを回収して、立ち去っていく少女を眺めながら、少女へと向けられたどこか侮蔑の混じった視線へと、シロネは嫌悪感を示す。

 どちらが悪いか、ではなく。周囲の行動そのものに、なんだかシロネはいやなものを覚えてしまったのだ。

 

「……今の、なんだったの?」

 

「あ、奏世さんたちは知らないか」

 

 そこで、ポツリと呟くツキに、周囲が気がつく。

 

「――天鳥マコ。アマドリ、のマドをもじって、仇名はマッド」

 

「科学部ってところに一人で所属してて、ああいうドローンを使って、いつもなんか変なことをしてるの」

 

 マッド――マコは、学校の問題児であるらしい。

 ドローンを勝手に飛ばしたり、変なことを実験と称して初めたり。その度に教師に怒られたり、周りから馬鹿にされたりしている。

 

 あまり、素行がいいとは言えない少女だった。

 

 ああ、けれど――

 

 

「……どうして、彼女のことを馬鹿にするんですか?」

 

 

 思わず、シロネは思いを言葉に変えていた。

 

 周囲が、困惑したように視線を合わせる。それに気がついて、慌ててシロネは訂正した。

 

「……あ、ごめんなさい。皆さんを悪くいうつもりはなくって」

 

 そんなシロネを見ながら、ツキはなにも言葉にしない。ただ、シロネの話を聞いている。

 

「どうして怒ってあげないんですか? 悪いことをしてるのは、マコさんの方だと思うんですけど」

 

 いくら悪いことをしているからといって、それを馬鹿にするのは、なんだかシロネには違う気がした。きちんと怒って、それはダメだと厳しく言わなければならない。

 マコの行動は、そういうものだと。

 

 シロネはそう考えたのだ。

 

 対して、周囲の少女たちは、どこか気まずそうな顔をした。

 

「えっと、別にバカにしてるつもりはなくってね?」

 

「アタシたち、なんて言えばいいんだろ。えっと、アタシたちは――」

 

 

「――別に、マッドのことは、嫌いってわけじゃ、ないんだよ」

 

 

 それは、情緒の育たないツキとシロネには、些か不可解に思える、言葉だった。

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