夢現恋神~かくてアルファの死を禁ず~   作:水と油も使いよう

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第12話

 

 

「ストライフっ!!」

腐った紅薔薇(クルースニク)を止め、立ち尽くしたストライフは、

ひもが切れたように力が抜け、駆け寄ったナラカに支えられた。

本体が絶命すれば、伝染力は失われるので、ダンピールの面々も集合する。

が、一定の距離を保っているのは、今まさに、

ストライフが新たな伝染源になっている可能性があるからだ。

 

当のストライフは安堵と不安の両者を感じていた。

まず前者、どういう訳か、先ほどまで転移を続け、ストライフの体を侵食していた、

永久腫瘍が次第に勢力を弱め、代謝機能によって、取り除かれている。

そして、後者、心臓の鼓動が、一分に数千回というあり得ない速度で拍動している。

このままではもって数十分と言ったところだ。

 

「この馬鹿は私が連れて行くから。

 こう見えてもヴァンピーアだし、それなりに力もあるから大丈夫」

 

だから、気にしないで、そう言って、ナラカは永久腫瘍の伝染を恐れる面々に先を促した

 

 

「そうね、ここで立ち止まっていても意味はないし、

 先に進……」

 

言いかけるリンダの声に重なって、銃声が響いた。

 

「偉いぞ、少年。

 よく悪魔を葬った。

 どうやったかは知らんが、感謝しよう」

 

「驚いたなー、ストライフ。

 いやはや、変わってるとは思ってたけど、

 まさかアレを殺すとはね。」

 

 

腐った紅薔薇(クルースニク)からの逃亡で、ダンピールは疲労困憊。

にもかかわらず、通路で挟んで前後から、今一番聞きたくない声が2つもかかった。

 

「それに愛しのリンダではないか。

 少々、煤に汚れているようだが、

 そんな君も麗しいよ」

 

「やあ、こんにちは、ナラカ。

 まだ、芽も出てなければ、花も咲いていないみたいだけど。

 相変わらず可憐だね」

 

不倶戴天の敵が眼前に控えているというのに、お互いを歯牙にも掛けず、

銀十字、不死軍団の両頭目は、揃って自分のお目当てに声を掛ける。

 

後門に控えるのは銀十字。  白獅子、銀狼、その男はゼノン。

前門に控えるのは不死軍団。  魔女狩りの串刺し公、食人鬼(カニバリスト)、その男はヴラト。

 

 

ああ、だめだ、絶体絶命、逃げ場などどこにもない。

そうダンピールが確信するのも無理はない。

 

 

「リンダ、どうかなこの衣装は、君のために用意したんだ」

 

ゼノンはそう言って、外套をたなびかせる。

まるで、婚約者に挙式の礼服を披露するように。

 

「少々、血に汚れてしまっているが、バージンロードの代わりとでも思ってくれ。

 いやさ、部下はカーペットの一つや二つ運ぶと行ってくれるのだがね。

 ヒトの希望、太陽への架け橋を、そんな私事に使うわけにはいかんからね」

 

「本当に君の瞳はいつ見ても良い。意思の強さを感じる。

 俺は基本、嗜虐趣味の人間だ。

 だから、そんな君を虐めたくて仕方ないが、

 同時に、そんな性根のねじ曲がった俺を罵倒して欲しくてたまらない。

 そんな風にも思ってしまうのだよ。

 ああ、きっとこれが愛だ。君にしか感じたことのない情動だよ!!」

 

「忘れもしないよ。

 『わたしたちは、ヒトでもトワでも、ヒューマンでもヴァンピーアでもない。

  どっちつかずの蝙蝠野郎? 上等だ。

  昼の太陽と夜の月、どっちも謳歌したいやつは、わたしに着いてこい。

  わたしたちは、ダンピールだ』

 今こうして目を閉じても君の美声が響いてくる

 こうしてここに立っているのも、俺が君に魅せられた一人だからだよ」

 

「だがね、申し訳ないが、アレはだめだ。

 好いた女の我が侭を聞いてやりたいと思うのは男の性であるし、

 好いた女の我が侭を叶えてやるのが、男の甲斐性だとは、思うのだがね」

 

「トワ、ヴァンピーア、呼び名は何でも良いだろう、あのマザコン共は生理的に好かん」

 

「考えてもみろ、お母様、お母様と、

 それが腹を痛めて産んでくださった母上なら、可愛いものよ。

 しかしな、餌を運んでくれる機械に媚びへつらう、その絵面、

 まるで家畜ではないか、気色の悪い」

 

「ゆえに、すまんな、あれらは皆殺しだ。

 代わりといってはなんだが、婚約指輪には、日輪を送ろう。

 となると、挙式は夜がいいか、君は月も見たいと言っていたからね」

 

 

一方で、相変わらず怠惰をまとったヴラトも、自分のお目当てに語りかけている。

 

「うーん、それにしても、二人とも美味しそうだなー

 ストライフはさ、どうして永久腫瘍にかからないのかな?

 その足下の垢みたいなの、腫瘍の残骸でしょ?」

 

「でも、ほんとに感謝するよ。

 さすがの僕もさ、アレには手を焼くというか、

 殺せないからね」

 

「ナラカも無事で良かった。

 入れ違いだったんだよ。ストライフが守ってくれなかったら、

 まだまだ若い君のことだ、蜂の巣になって死んでたかもしれない」

 

心底、二人のことを安堵する、声音ながら、

その目は間違いなく獲物を捉えた捕食者のそれである。

 

「魔女何人だったかなー。

 血を飲んだのに、まだマギになれないんだ。

 最後の魔女は公開処刑までしたのに無理だった。」

 

「ストライフ、ナラカ、僕らは兄弟。

 お母様のもと、血を分けた兄弟だ」

 

「君たちを僕にくれるよね。

 そしたら、もっとすごくなれる。

 きっともう、あんなことにならずにすむ」

 

そういうヴラトの目は充血し、手足が震え出す。

間違いない、あの時見た、心的外傷(トラウマ)のフラッシュバック。

 

 

「「とりあえず、邪魔者を殺そうか」」

 

 

それまで相手を視界にも入れず、お目当ての相手に語りかけていた二人が一斉に開戦を告げた。

 

その瞬間、

 

『きひ、きひひひひ、きひひひひひひひひっっっっっ!!』

 

最後の魔女、その性根の腐った奇笑が響き渡った。

 

 

 

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