夢現恋神~かくてアルファの死を禁ず~   作:水と油も使いよう

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第13話

今度は、ストライフだけではなく、その場の全員の耳に届いた最後の魔女の笑い声に、

一同は、虚をとられ、その瞬間、ダンピールの足下の床が円上に消えた。

 

「なっ!」 「あれま」

 

穴に落ちていく少女等に驚き、追いかけようとするが、穴は塞がってしまう。

しかし、両軍はすぐさま何もなかったかのように、殺し合いを再開した。

お楽しみは後にとっておくか、と両頭目は笑みを浮かべていた。

 

 

 

 

一方、ダンピールの面々、まるで重力がなくなったかのように、

フワフワ、くるくると落ちていく様はまるで童話。

 

 

『チクタク、チクタク』

 

『急がなくっちゃ、急がなくっちゃ』

 

『ほらほら、はよ来い、時計ウサギ』

 

『アリスを連れてこっちゃ来い』

 

『さもないと、さもないと』

 

『その首根っこ、ちょん切るぞ』

 

『きひひっ、きひひひひひいっっっっっ!!!』

 

 

しわがれた笑い声そのまま、囃し立てる歌声が聞こえてくる。

 

ストライフとナラカ以外のダンピールには、何を歌っているのか意味がわからないのだろう。

しかし、その性根の腐った歌声の不気味さだけは伝わってくる。

 

そして、ついに、墜落。

 

「あいたっ」

 

いつかと同じように、尻餅をついて声をあげるリンダ。

続くように、その他のダンピールも落ちてくる。

 

しかし、

 

「あれ、ストライフとナラカは?」

 

そう、二人の姿がない。

急いでタブレットを取り出し、マップを開く。

 

「嘘、どうやって?」

 

いま、自分の置かれている状況だって十分に不可解だというのに、

そう声を上げずにはいられなかった。

 

二人は、アーコロジーの管理者マリアの本体がある場所、

最初期の崩落で道が閉ざされたそこへ飛んでいたのだ。

 

 

 

 

 

「ここは?」

先ほどまで歌声の中、墜落していたはずなのに、

突然知らぬ場所に飛ばされたナラカは、辺りを見回す。

目の前には、真っ黒い塔、そして、台座、いや、寝台?

 

『はじめまして、お嬢ちゃん』

 

「えっ?」

 

ナラカの目の前には、童話の魔女そのままローブを被った老婆がいた。

 

『あたしは、そうさね、恐れ多くも最後の魔女なんて呼ばれてる。

 ただの前座なんだどねぇ』

 

そういって、また、きひひ、と笑い声を上げると、こう続けた。

 

『ねえ、最後の魔女ナラカ』

 

 

わかならい、なにを言っているのかさっぱり皆目見当もつかない。

 

「何を言ってるの?」

 

『事実さ。

 あたしは残滓だからね、嘘はつけない』

 

そして、突然ナラカの頭に囃し立てる声と、時計?が浮かび上がった

 

 チクタク、チクタク。

 急がなくっちゃ、急がなくっちゃ。

 

時計は今もなお、すさまじい勢いでゼロに向かって減り続けている。

そしてその意味、ストライフの余命を悟ったナラカは魔女に言う。

 

「あなたが、ストライフを呪ったんでしょ!!

 止めてよ、これ、お願いだから!!」

 

魔女はその言葉で呆気にとられ一瞬黙り込む。

 

『それは、勘違いだよ、お嬢ちゃん。

 その子はね、変わり種。

 あんたたちダンピールを名乗ってたんだっけ、数奇だねぇ。

 ああそうさ、ストライフ、その子はダンピール。

 ヴァンピーアとヒューマンの合いの子だよ』

 

『あたしは呪ったんじゃない。

 祝福さぁ。余命に気づかず、死ぬのはあんまりだろぅ。

 だから誕生祝いにあげたんだけどね、気に入っては、もらえなかったかぁ』

 

魔女は落ち込んだように言う。

その様子は、性根の腐った笑い声とは印象がかみ合わず、なおさらナラカは混乱した。

 

「どういうことよ?」

 

『言葉通りさぁ

 生態情報的にはね、ヴァンピーアと、同等、でもね。

 心臓の活動が活発すぎる。

 その分血の巡りも良くて、頭も回るが、永遠でもなければ、寿命も縮む。

 もって、生後二十年かねぇ』

 

その内容とは裏腹に、うっとりとした声で続けた。

 

『この子は奇跡さぁ』

 

そう言って、最後の魔女はまた、例の笑いを漏らした。

 

『さて時間も足りない、急がないとね』

 

『ナラカ、あんた、ストライフのことをどう思ってる?』

 

「どうって……」

 

『決まってるだろ、男女のあれこれだよ。

 この子は、叶えたい夢、なりたい自分、たぁくさんあるだろぉ。

 不遇だねぇ、救ってやりたくないかい?

 かなうなら、叶えてやりたくないかい?』

 

言葉とともに、三日月の笑いを浮かべる最後の魔女。

ああ、性根の悪さなら、こいつの方が余程、悪魔だ。

 

その言葉に、ナラカは即答する。

 

「助けたい、どうすれば良いのよ!」

 

『たった、一言でいい。

 真実、ストライフをどう思っているか、お言い』

 

それだけ、たったそれだけ、さあ、と促す最後の魔女の言葉に、

ナラカは、決意を固め、言い放った。

 

「愛してる」

 

 

 

その瞬間、ナラカの周囲に、膨大な数式、術式、魔方陣が展開される。

見る者が見れば理解できる、しかしそうでないものには子供の思いつき、落書きにしか見えないそれは、

魔道科学の神髄、統一理論に他ならない。

 

ナラカの目は焦点をなくし、虚空を見つめた。

ナラカに抱きかかえられていたストライフは、宙に浮くと、

奥の台座、いや、寝台に寝かされた。

 

そして、ナラカの胸、ストライフの胸、奥の黒塔、すなはち聖母マリアから光が落ちる。

魔女はそれらを拾い上げると、まるでそこに火鍋でもあるかのように放り込み、かき混ぜ始めた。

最後に、懐からガラス瓶を取り出す。

中には、つい先ほどまで、ストライフ達が対峙していた、腐った薔薇色の肉片。

それも放り込んで、ぐつぐつ、ぐつぐつ、煮立てるように、かき混ぜる。

 

『聖母の脳髄、悪魔の細胞、少女の祈りに、青年の願い!』

 

『きひひっ、きひひっ、きひひひひひははははははああああぁぁっ!!』

 

魔女の狂ったような奇笑と喝采。

 

『ああ、ついに、ついになった。

 科学の深奥、探求者の夢。

 其は、第四種永久機関、神座なりぃっっ!!』

 

そう、最後の魔女の目的、それは永久機関。

数多の科学者が夢破れたそれに他ならない。

魔女などと呼ぶから、その目的がぶれるのだ。

魔的であろうが、魔道の装飾がつこうが、科学は科学、科学者は科学者。

もちろん、善悪の区分はあるだろうが、

その目的は至って単純、遙か錬金術師の時代から変わらない。

神秘、真理の解明、開発である。

 

無から有を取り出す、第一種永久機関。

熱量を可逆循環させる、第二種永久機関。

似非科学で取り繕われた、第三種永久機関。

 

そして、魔道科学により、最後の魔女がなしたそれこそ、第四種永久機関である。

 

第一種永久機関がシオロジー、第二種永久機関がデモノロジー、第三種永久機関がオカルトであるなら、

第四種永久機関はロマン、あるいはメルヘンであろう。

なぜなら、それは、少女の祈り(あい)と青年の願い(ゆめ)を源泉にしているのだから。

少女の愛が、青年の夢を永遠に縛り付けるのだ。

 

虚空を見つめるナラカが口ずさんでいるのは、その祈り、

ストライフ死なないで、とそれを叶える延命治療の数々。

 

「神坐 かくてアダムの死を禁ず」

 

そう歌い終えると、寝台で眠るストライフの胸によりかかり、

二人は、永い永い、眠りについた。

 

 

 

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