バッカじゃないの!!
ふざけてる、おかしいし、ありえない。
銀行強盗? 何それ、美味しいの?
あー、あー、あー、もうほんっとに、ついてない。
ランチの会計済ませて、残高減ってたからチャージしようと、銀行に寄ったらこの有様。
ちょっと映画始まっちゃうから、盗るもの盗って、さっさとどっか行きなさいよね。
どうせ、”おいたが過ぎる子は、お仕置きされてお終いなんだから”。
そもそもこの都市にいたら、お金に困るなんてことはありえない。
必要なものを申請すれば、マリアが審査して、十分なお金を与えてくれる。
もちろん、身の丈に合わない要求は突っぱねられるけれど、
高価なものが欲しければ、都市内でそれに応じた仕事につけばいいだけの話。
学生、ホワイトカラー、土木業など職業にはランクがあり、それに応じて貰えるお金が変わる。
都市にとって有益な仕事であるほど、見返りは大きい。
旧時代のように一度、出世コースから外れたら戻れない、みたいな不公平もない。
当然、相応の努力は必要だけど、機会は平等だ。
全ては時間の問題なのだから。
つまるところ、時間は永遠なのだから、急ぐ必要はない。
お金に困るという概念がまず存在しないし、足りないなら、足りるまで待てばいいのだ。
だから、心の中で罵倒を続けるナラカを含めて、その場に居合わせた全員は、
賊の目的はおそらく銀行強盗だろうと、当りはつけられても、その理由が皆目見当がつかないのだ。
加えていうなら、この都市の住人は、体温、血圧、遺伝情報、そういった生体情報(バイオグラフ)を、
全てマリアに管理されている。
個々人がどこにいて、何をしていようが、それが秘すべき自慰行為の類でも、マリアには筒抜けなのだ。
当然、銀行に”突然、現れた”賊の身分はマリアにばれているはずで、銀行強盗なんて全く意味がない。
ここから逃げても、結局、この都市はアーコロジーであり、袋の鼠、逃げ場はなくなる。
最後には捕まって、地下牢獄送りは目に見えているというのに。
だからこそ、ナラカは、心の中でそんな愚か者共を罵倒せずにいられなかった。
バッカじゃ……、
そこに銃声とともにガラスの破砕音が鳴り響く。
耳が痛くなるほどの突然の高音に驚いて、音源の窓に目を向けると、
大きなひびが六角形状に入っているではないか。
そして次の瞬間、そのガラスを蹴破って、何者かが転がり込んでくる。
実銃なんて全くもってエコじゃない。
それは、その場に居合わせたヴァンピーアだけでなく、賊にとっても共通認識であった。
ゆえに、賊は、彼らの現れた銀行の奥に陣取り、数人を見張り、威嚇として入り口に配置した。
一般人であれ、ヴァンピーアの不死性は無視できないし、何より銃の利点を生かすために、
居合わせたヴァンピーアは多少距離を取る形で、銀行の受付横にまとめられていた。
そして、賊もまた、実銃を使うのは自分たちくらいで、
フロントガラスを粉砕して突入してくるなんて、露ほども想定していなかった。
だからこそ、ガラスが粉砕され、何者かが突入してきたにも関わらず、
入り口付近にいた賊数名は呆けたようにそれを眺めてしまった。
その間数秒にも満たない時間で、乱入者は賊と一般人の配置を確認、
次の瞬間、両手に2丁のデザートイーグルを構えると、入り口で突っ立ている賊の側頭部めがけて撃ち放った。
そして入り口付近の賊が反撃する間もなく倒れると、男は言い放った。
「逃げろ!!」
あのバカは!
曰くマグロ、曰くアヒル、曰くピエロ。
蔑称は数あれど、結局この名に落ち着く男、”生き急ぎ(ストライフ)”。
この都市に住んでいて、仮に悪い意味であっても、
特大の変り種であるその男を知らないヴァンピーアは一人もいない。
しかし、それでも、正体不明の賊とは違い、彼は紛れもなく自身の家族ヴァンピーア。
そして、彼が賊に対抗し、自分たちに利する行動をとっているのは火を見るより明らかだった。
「動くな!!」
奥に陣取る賊は制止の声を上げるが、そんなものに従う者はいなかった。
1人を残して全員が、賊のいなくなった入り口に殺到する。
そして止まる気配のないヴァンピーアに賊が銃撃を仕掛けようとした瞬間、
カウンターを楯にしながら、ストライフはリロードの終えた銃を再度、撃ち放つ。
一方で、逃げるタイミングはいくらでもあったというのに、
当の私は棒立ちになって、銃撃戦を始めた馬鹿を見ていた。
ああ、今日一番の大馬鹿はあたしじゃない。
そんな自嘲が頭に浮かぶが、体はちっとも言うことを聞かない。
まるでそこに縫いとめられたみたいだ。
ねえ、なんで、あんた、そんなに楽しそうなのよ。
いつも見ていたわけではない。
それでも、同じ都市で生きている以上、たまに見かけることはあって、
周りからは、馬鹿にされて、蔑まれて、昔は乱闘騒ぎもあったらしいけど、
ここ数年はそんな周りの中傷もどこ吹く風で気にも留めず、生き急いでた。
正直に言うと、初めて見たときは、怖かった。
だって、餓えた狼みたいに目がぎらついてるんだもの。
なのに、何しても退屈そうで、2個も3個も同時並行でこなしてるくせに、
実のところ、全く別のものを見ている気がした。
そんなあいつを見ると、ふつーに過ごしてる自分が間違っている気がして、落ち着かなくなるのだ。
そして、そのまま呆けているナラカに気づいた賊が、銃口を向けていた。
あ、やばいかも。
そんな頭悪そうな感想しか浮かばない。
でも、でも、目の前で楽しそうに遊んでる男の子から目が離せない。
このままもう少しだけ見ていたい、そう思ってしまうのだ。