「総員、整列」
「さあ、行こうか」
明らかに数千に下らない数の兵隊が続々と現れ、広場へ散開していき、
銀行内での10列横隊から、広場へ、20、30、40……、そして100列まで広がる。
しかし、それだけの人数にも関わらず、足音はその全てが左右揃って交互に聞こえてくるというのだ。
兵隊は全て、紺色の軍服を身にまとい、同色の軍帽、腰には軍刀、そして、同型のアサルトライフルを抱えていた。
そして、その先頭、画一化された兵の最前線に一人立ち、軍隊を率いる男は異様であった。
まず、服が違う。配下の兵が纏う紺色の軍服に対して、男のそれは純白。
その上、同じく純白、ところどころ金糸の施された外套を羽織っている。
頭には軍帽を被らず、髪はオールバックに固められているのだ。
腰に下げたサーベルも白塗りの鞘に収められ、銃は持たず、その手には白手袋。
物々しい軍隊に反して、最前のその男だけ、さながら礼服といった様相である。
「止まれ」
カッ、という軍靴の音とともに総員が停止する。
白い男のさらに前方、軍隊の整然に対して、まばらにヴァンピーア、数百人が集っている。
ヴァンピーアは、男もいれば女もいる。服装もカジュアル、スーツ、ジャージと取り留めもない。
そして、ヴァンピーアの青年が口を開く。
「これはいったい何のパレードだ? 愚弟」
見たところ、この青年は白い男とは違い、同族の代表というわけではないらしい。
少なくとも、後ろに控えるヴァンピーアは青年の行動に困惑しているし、
むしろ、白い男の率いる軍団の物々しさに当てられたと見るべきだろう。
白い男は笑いを漏らしながら、答える
「クハッ。愚弟、愚弟ね。なるほど、聞いたとおり、いやそれ以上か」
「何笑ってやがる。答えろよ、なんでここにいる?」
「見ての通りだよ、愚兄殿。遊びに来た」
「そうかよ、生憎、こっちにはそんなつもりはない。
とっとと巣に帰れよ」
白い男は嗜虐の笑みを浮かべて返す。
「おいおい、つれないなー、愚兄殿。可愛い弟との顔合わせだというのに。
いやしかし、仕方ないか、典型的なマザコンでいらっしゃるようだからな。
機械(ママ)の電極(おっぱい)はそんなに気持ちいい(美味しい)のか?」
その言葉に、青年は激怒すると、
「貴様!!」
雄叫びとともに、突進してきた。
「撃て」
一方の白い男は、実に詰まらなそうに、号令をかける。
すると、最前列の数百人が、白い男に迫っていく青年に向かって、
一瞬の隙もなく、射撃を開始する。
「うがぁぁぁああーー!!」
たとえ不死のヴァンピーアと言えど音速で飛来する銃弾をかい潜って、
白い男の元へ到達することはできない。
文字通り蜂の巣になって、もんどり打つ。
「なんだ、情けないな、愚兄殿。
いくらマザコンとはいえ、おつむが足りなさ過ぎるだろう」
そう言いながら、白い男は、青年の元に近寄っていく。
そして、青年の頭を踏みつけると、自分の配下に向かって、声を上げた。
「よく見ろ、諸君!!
不老不死? 笑わせる。
要は、少々、我々に比べると頑丈なだけだ」
視線を足下に落とすと、青年は自分を踏みつける足を、掴んでいた。
それを見て鼻で笑うと、再び、軍隊へ向かって、宣誓を続ける。
「永遠だの、なんだのに胡座を書くから頭が足りなくなる。
それでこの様だ。笑えるだろう。
よく、よーく、見ておけ」
「こいつらは、」
そう区切って、
「殺せる!!」
青年の頭蓋を粉砕した。
先ほどまで、自分を踏みつけていた足を引っ掻き回していた手から力が抜け、地に落ちた。
「いかんな、服が汚れてしまった。
折角、用意したというのに」
足下に横たわる青年のことなど、この白い男はもうすでに頭になく、
まったく関係のないことを思案し始めた。
「はっちゃけ過ぎだぞ。兄弟」
白い男に向かって、先ほどの青年のような剣呑さは微塵も含まない、
言葉通り、おいたの過ぎる年少者を諫めるそんな声音で、声がかかる。
無造作に撫でつけられた明るい金髪、ボタンを掛け違えた白いシャツ、
動作からは、さも面倒くさいという雰囲気が滲み出ており、
白い男とは実に対照的で、よく言えば鷹揚、率直に言えば怠惰、
そんな男が、ヴァンピーアの集団を割って、歩いてくる。
周囲の反応から察するに、先ほどの青年は血気はやって、先走っただけであり、
この男こそが本命であるらしい。
そして、それを正確に察したのか、白い男は慇懃に名乗りを上げた。
「お初にお目にかかる。兄上殿。
不躾な訪問になったことは、お詫び申し上げるよ。
我々は、銀十字。
俺は、その団長を務めているゼノンだ」
ゼノンはそう区切ると、そちらは、と名乗りを促してくる。
「ああ、そういう趣向ね。
困ったなー、俺たち家族だからさ、そういう派閥?
みたいなの特に決めてなくて……、とはいえ、便宜上ないと不便か」
そう言って、数秒考え込むと、
「不死軍団(ノスフェラトゥ)。
一応、最年長ってことで、代表のヴラトだ」
ヴラトはゼノンの足下に転がる青年に視線を向けると、ため息をついて、
「まったく、来て早々にやってくれたもんだな」
「いや、俺も少々気が高ぶりすぎていたと反省している。
なにぶん、つい先ほどまで、後ろの配下含めて、血も知らぬ童貞だったのだ。
若気の至りだ、許せよ」
傲岸不遜に許せと言ってくるゼノンに対して、やはりどうでもよさそうにヴラトは答える。
「まあ、いいよ。そいつも先走ったみたいだし」
「感謝する」
「で、本題だ、今日は何の用で?」
先の男と同じ問いをブラトは重ねるが、ゼノンの答えは先ほどとは違っていた。
沸き上がる壮絶な怒気を押さえて、笑みを浮かべた。
「太陽を、奪い返しにきた」
そこから数秒の間を置いて、ヴラトは口を開く。
「なるほどねー。長生きってのもいいことばかりじゃないね。
とはいえ、これも年長者の勤めか。
ゼノン、歴史のお復習いだ、いいかい?」
「よいよ」
ゼノンは目を伏せ、話が脇道にそれることに同意した。
「まずは、600年前、アレが俺たち、ヴァンピーアの住居シェルターの天井を倒壊させた
天井がなくなれば当然、太陽が降り注ぐ。
当時そこに暮らしていて、上層にいた、数千万人が永久腫瘍に罹患。
永久腫瘍はヒト、トワ問わずに伝染するからね。当然、救助は難航した」
永久腫瘍、それは、不老不死を誇るヴァンピーアの最大にして唯一の弱点である。
ヴァンピーアは物理的衝撃、毒物等ではまず死なない。
もちろん先ほどゼノンがしたように徹底的に破壊を尽くせばその限りではないが。
とはいえ、通常なら後遺症が残るような怪我でも完治するし、癌を始めとした不治の病というものが存在しない。
しかし、永久腫瘍、これに罹患すると、一転して手の施しようがなくなる。
発症原因は単純明快、太陽光線との接触である。
永久腫瘍はヴァンピーアが太陽光線を浴びた部位から、発症し、全身に転移していく。
血を通じて、全身に発生因子が巡るので、早期発見できたとして、発症部位を切除しようが完全に手遅れ。
そのうえ、発症後、罹患者の血液は、永久腫瘍の伝染媒体となる。
それも、ヒト、トワ問わずに伝染するのだから質が悪い。
よって発症したが最後、隔離する以外に手はないのだ。
そのため、不死血清の開発からも、ヒトのままでいるもの、トワになることを望むものに二分された。
前者はそれまで通り、後者は太陽光を避けるため、地下シェルターを建設しそこで生活を始めた。
そうして、さらに数百年がたち、ヒトとトワは完全に別の生存圏を確立、
国家といった民族自治も分担されるようになる。
「637年前だよ、兄上」
「おう、ありがと。
で、次に何が起きたかな? 弟」
「同年、事件発生から、10日後、永久腫瘍の伝染リスクに加えて、
兄上殿らが恐れてならないアレが当該地域で暴れていたこともあり、
先におっしゃられた通り、救助は難航、事実上、不可能であった。
そのため、」
そこで区切ると、ゼノンは演技でなく確かに沈痛な表情を浮かべて続ける。
「我ら銀十字の祖先にあたる、ヒトの政府は当該地域の核による焼却処分を決定した」