典坐のやり直し   作:はる

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地獄楽見てどうしても典坐があそこで死ぬのやだなぁって思って書きました。
一応原作見てなくても分かるように書きたいなぁと思ったんですが、自分の文章力だと厳しそうです。
ジャンププラスで見れるので、ぜひ見ていない方は見てほしいです。


典坐の一生

視界が朧げになり、指先が冷たくなる。それに反発するかのように胸にはとてつもない熱さを感じた。

力が入らずだらりと垂れる頭が下に落ちることで、その原因がまざまざと突きつけられた。

胸に空いた4つの穴。明らかに背中まで貫通しているその穴からは、止めどなく血が流れている。

普通とは異なるあきらかな異常事態であり、普通の人間…よりは大分頑丈な体をしている山田浅エ門(やまだあさえもん)典坐(てんざ)であっても、死を悟らさずおえない状況であった。

なんだこの状況は、痛みで混乱している頭でそんなことを典坐は思う。最早助かる状況ではないので状況整理など無意味であると思うが、しかし頭だけが加速しているような状況の中で最早することもなく、このよく分からない状況を解明するためにも、典坐は過去を振り返ることにした。

 

 

 

 

典坐が産まれたのは江戸の小さな街であった。親が誰かなどは分からず、物心がついたときには盗みによって小さな体を生きながらえさせていた。

そんな状況でまともな感性など育つはずがなく、少年の頃の典坐は荒れに荒れていた。

体がある程度大きくなりはじめてからは盗みではなく暴力によって奪った方が効率がいいことに気がついた。

幸いというべきか不幸というべきか、典坐には才能があった。

典坐より一回りも二回りも大きい大人達ですら殴り合いでは典坐には敵わず、典坐に向かっていたものは全て地に伏せることになった。

典坐は江戸の街を転々としながら暴力を振るっていく日々を過ごしていた。

典坐のそんな日々が変わったのは先生に出会ってからだった。

それは晴れた日だったか、いつものように偉そうに典坐に絡んできた大人達をボコボコにしていると、それを止める人物がいた。

典坐が殴るために動かしていた手を止め後ろを見ると、刀をこちらに向けた男が立っていた。

その男の顔を見たとき典坐は驚いた。

短髪の男の両目には大きな傷があり、それはすなわち男が盲目であるということだった。

そんな状態で典坐へと刀を向ける男…その刀は典坐のことが見えているかのように真っ直ぐと典坐を捉えていた。

その時どんなことを言い合ったか…今の典坐は覚えていないが、結果として典坐が負けたことだけを覚えていた。

盲目であるはずの男は典坐の攻撃を見えているかのように全て捌き、半刻ほど経った時には、典坐は立ち上がる力すら残っておらず、最後には気を失ってしまった。

 

次に典坐が目を覚ますと、知らない屋敷の布団であった。

典坐が状況が分からず、あたりを見渡していると部屋の扉があき、そこには典坐を倒した男が立っていた。

その姿を見てさらに頭が混乱した典坐に対して、男はそれを知ってか知らずか呑気に自己紹介を始めた。

山田浅エ門 士遠(しおん)それが男の名前だった。そして…士遠は典坐を置いてきぼりにして話を進め……

 

 

そして気づいたら…典坐は山田浅エ門典坐になっていた。

 

 

山田浅エ門とは斬首と試し斬りを生業とする一門であり、ようは罪人の処刑を担当する浪人であると士遠から教えられた。

そして典坐はその才能を士遠から認められて山田浅エ門の一門に加わることになった。

典坐は意味が分からなかった。

士遠は自分のようなものを拾って名を与え、帰る家をくれ、ご飯を食べさせ、鍛えてくれた。

初めは騙されているのかと思ったが、士遠と話すうちにそれはないと気がついた。

まず大前提として自分を騙したところで士遠に何かメリットがあるとは思えないし、そもそも士遠の力ならば無理やり自分を使うことだってできるはずなのだ。

そして…なによりも士遠は底抜けにお人好しだった。

同じ門下生が士遠を見る目はどれも尊敬のもので、士遠の周りには常に教えをこう人だかりができる。それを士遠は嫌な顔一つせずに対応する。

士遠が優しい人間であることは誰の目から見ても明らかであった。

そんな士遠を典坐は自然と尊敬するようになり、慣れていない敬語で話すように心がけ、先生と呼び慕った。

門下生のやつらとは気があったり合わなかったりしたが、気が合わないやつとの言い合いも今まで一人で生きてきた典坐からしたら楽しかった…もちろん本人たちには言わないが。

門下生の中でも才能があったらしい典坐は山田浅エ門に伝わる流派である試一刀流もすぐに覚え、剣速については山田家でも随一と言えるほどのレベルになった。

一〜十二ある山田家の位で十と決して高い位ではないが、位ももらうことが出来た。

 

 

 

 

 

(思いだしてきた…)

 

 

典坐は意識が急激に覚醒していくのを感じていた。

覚醒してきた中でまずはじめに意識したのは自らに与えられた任務。

罪人と共にある島に行き、不死の薬である仙薬を手に入れる…それを手にして持ち帰った罪人は幕府より御免状が発行され無罪になる。

典坐の役目は罪人の監視であった。

10人ほど送り込まれた罪人一人につき一人の山田家の監視がつく。

 

 

(そうだ…俺はヌルガイさんを守らないと…)

 

 

ヌルガイ…それは典坐が監視する罪人の少女の名前だった。

浅黒い肌にまだ子供であるので低い身長…そして縮れた髪をちょんまげのようにして纏めている。

初見では男であると勘違いしてしまう…事実典坐は最初はヌルガイを男だと思っていた…そんな少女だ。

典坐はその少女が本当に悪人であるとは到底思えなかった。

罪人達の過去は監視役として同行する典坐達にも当然のように知らされており、ヌルガイの罪は山の民という、幕府に帰属せず独自の文化で生きる民族であるというだけであった。

典坐はヌルガイが本当に死ぬべき人間ではないと思った。

どうしようもない産まれで暴力しか取り柄のない自分ですら、士遠によって生きる目的を…生きる価値を与えてもらった。

だからこそ山の民というだけで賢くて才能溢れる彼女が死ななければいけないなど、典坐には到底受け入れられなかった。

典坐は少女を助けると決めた。

そうと決まればと典坐はすぐに行動にした。

島についてすぐに舟に乗って幕府の船へと引き返した。

幕府の船は沖で3日間は滞在していることは聞いていた。

それに乗ってひとまず江戸へと帰還してその後少女の無罪を上へとかけあう。

客観的に見れば穴だらけで無謀な作戦だが、あまり頭のよくない典坐ではこれ以上の考えを思いつくことが出来なかった。

必死に舟を漕いできた道を引き返す。

道中愚直に舟を漕ぐ典坐をヌルガイがもっと海流の流れを読めと怒られたりしたが、立場がヌルガイよりも遥かに上なはずの典坐はそれに怒るでもなく、彼女のその冷静さにやはり彼女は生きるべき人間だと再確認した。

そんなこんなで典坐達は幕府の船へと辿りついた。

しかし、そこで典坐達は衝撃の光景を目にした。

 

 

幕府の船はすでに沈んでいたのだ。

いや、正確にいうとそれは幕府の船ではなかった。

今まで島から出ようとした船の残骸…それがいくつも浮かんでいた。

そして、その船の間からは人間よりも明らかに大きいであろう、タコの触手のようなものに顔が付いている化け物達。

舟の上という極めて不安定な足場の中で化け物の相手…非常に厳しい戦いであったが、典坐達はなんとか生き残り、化け物を退けるごとができた。

しかし海流の影響で島の外には出ることが出来ず、結局は島へと戻ることになってしまった。

 

 

(そこであの化け物に…)

 

 

天女のような羽衣を纏い、髪をオールバックにしている女のような…一見すると普通の人間にしか見えないような化け物。

島の外周を周り外へと続く海流を探している時に出会い、島を荒らしたのはお前かと典坐達へと襲いかかってきた。

最初は典坐達は逃げようとしたが、あまりにも動きが早く到底逃げることなど出来ない状況だった。

仕方なく典坐は応戦し、化け物を切り裂いた。

凄まじく早い化け物であったが典坐の剣速には反応出来ず、普通の人間であれば即死レベルの傷を負わせることができた。

しかし、それで化け物は死ななかった。

切られた首から植物の根のようなものが生えて繋がろうとする。

他の部位も植物が根を生やすかのように回復していく。

このままでは完全に回復するまで数秒もかからない、そんな状況で典坐達に助けが入った。

凄まじい速度で刀が飛んできて、それは再生しようとしていた化け物の首を完全に切断した。

刀が飛んできた先を見るとそこにいたのは、典坐が先生と呼び慕う士遠の姿があった。

士遠の掛け声によってその場から走りだし、化け物が再生に時間を取られているうちに逃げることに成功した。

 

(いや…成功してはないな…)

 

典坐の思考はようやく今の現状へと戻った。

体に4つの穴があき、地に膝をつき首をぐったりと下げている自分。

この状況は結局は化け物に追いつかれ、自らが無様にも負けたからこうなっている。

 

(俺は…死ぬのか)

 

そう典坐が考えた時、視界の端に泣きそうな顔のヌルガイと、化け物に喉をやられて苦しそうに、しかしそんな状況であるにも関わらず心配そうに典坐へと顔を向ける士遠が見えた。

 

(みんなここで殺されるのか…この化け物に…)

 

そこまで考えた時、典坐の心がふつふつとマグマのように熱くなり、そして弾けた。

 

(絶対させねぇ…!)

 

激情の中で最早痛みは感じなかった。

手に持つ刀を振るう余裕すらなく、きつく拳を固めて、めんどくさそうに典坐を見下ろす化け物へと殴りかかった。

その拳は化け物の目にあたり、少しの時間視覚を奪うことに成功した。

その勢いのまま吹き飛んだ化け物に馬乗りになり、一心不乱に殴りまくる。

ひたすらに顔、顔、顔…少しでもダメージが入るように、そして視界を回復させないために顔面だけを殴り続ける。

とにかく時間を稼がなければならない…二人が逃げる時間を作ることが、僅かに命が残された自分の役目だと典坐は感じていた。

殴り続ける典坐だったが、お腹へと走る凄まじい衝撃でその手が止まった。

典坐が下を見ると、そこには典坐へと手を向ける化け物の姿。

顔の上半分が典坐の拳によって消えているにも関わらず、残った口はにやりと上がっていた。

そして、化け物が手を向けている典坐の腹は、はじめに空いた4つの穴よりも大きい穴が空いていた。

そんな状況で典坐に殴り続ける力は最早なく、棒立ちになりながらヌルガイ達の方へと目を向ける。

すると、刀を持ってこちらへと泣きながら向かってくるヌルガイの姿が見えた。

こんな状況でも自分を思い刀を振るおうとするヌルガイへと若干の嬉しさを典坐は感じるが、それよりも強く思うことがあった。

 

(きちゃ駄目だ…逃げてくれ…)

 

ヌルガイではあの化け物には絶対に叶わない。先生であろうとも情報がない、そして手負いでは化け物には勝てないだろう。

だからこそ典坐は逃げてほしかった。

逃げて生き延びる…そうすればきっと先生やヌルガイならばあの化け物に対抗できる策を考えてくれると典坐は思った。

なんたってヌルガイや先生は頭がいい…典坐では考えつかないような策を考えてくれるはずだ。

そんな典坐の願いを士遠は正確に分かっていた。

士遠はヌルガイの服を掴みヌルガイを止める。

しかし、その後すぐに士遠は刀を構えた。

士遠は典坐の思いは分かってはいた…しかし、大事な弟子である典坐が化け物に命を終わらせようとされている状況。

士遠は仲間として愚かな行動だと分かりながらも仲間の元へと駆ける心を止めることができなかったのだ。

 

(先生駄目だ…!勝てない…!分かるだろ!!)

 

士遠へと伝わるように必死に目を見て訴える。

声を出して伝えられればいいのだが、怪我が深すぎて喉から声は全く出ない。

それでも典坐は士遠へと伝えるために必死に喉に力を込める。

しかし、そんな必死も虚しく、出たのはゴボボという喉の血が弾ける音だった。

そんな声にならない音。

だが、その音を聞いて士遠は止まった。

典坐の必死の思いをその音を聞いて感じ取ったからだ。

しばしの硬直…その後、士遠はヌルガイを抱き抱えて典坐とは反対方向へと全力で駆け出した。

典坐はそれを見て自分の拳に力が戻るのを感じた。

 

化け物へと向きなおり拳を振るった。

まだ再生に力を割いているのか、化け物の反撃は弱かった。

もう楽になりたいという思いを典坐は押し殺し、拳を振るい続ける。

 

(ごめん先生…目をかけてくれたのに…!)

 

そんな中で典坐が思い出すのは、士遠のこと

士遠は言っていた…典坐を拾ってくれたのは可能性を感じたからだと。

しかし、そんな思いに典坐は答えられない

 

(生きてくれ…ヌルガイさん…!君には可能性がある…!)

 

次に思うのはヌルガイのこと。

初めは男だと思ったが、女であると分かったことでより守らなければと思った。

そんな彼女は典坐以上に可能性を秘めている。

 

(可能性…俺にはどんな…)

 

典坐自身の可能性…もう命が残り僅かだと分かりながらも、典坐はそんなことを考えてしまった。

このまま生きていれば門下生達を典坐が指導するなんてこともあったかもしれない。

典坐が上手く教えられるか分からないが、それはきっと誇らしいことだろう。

もしかしたらヌルガイの婿になったかもしれない。

ヌルガイは典坐のことを婿にしたいと言っていた…自分を命がけで助けてくれた典坐の男気に惚れたと。

典坐はヌルガイのことをそんなに知っている訳ではないが、不思議とヌルガイといたら退屈することはないだろうと思った。

 

気づけば典坐の拳は動かなくなっていた。

目ももう開かず、ひどく眠い。

あぁ…死ぬのかと典坐は悟りながらも、こんなことを思ってしまった。

 

(あぁ…もう少し…生きていたかった…)

 

そんな思いを最後に典坐の意識はなくなり、永遠の眠りに…

 

 

「おい…起きろ典坐…」

 

 

つくことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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