典坐のやり直し   作:はる

2 / 6
よろしくお願いします


典坐のやり直し

「おい…起きろ典坐」

 

そんな声と共に体を揺すられる感覚で、典坐は目を覚ました。

典坐は起き上がると共に大きく飛び上がり、その場から距離をとった。

なぜ自分が生きているのか典坐は分からなかったが、生きている以上はあの危険な島にいるわけであり、そうならばいち早く今の状況を確認しなければならないと典坐は思った。

 

「人が起こしてやったのに、飛び跳ねて逃げるなんて…ショックだぞ典坐…」

 

その声に反応して典坐が上をむくとそこにはガックリと肩を落とした士遠がいた。

 

「先生…生きてたんすね…!」

 

もう見ることが出来ないと思っていた自らの師の姿…それは典坐にとってなによりも嬉しいものだった。

典坐は士遠の前まで行き、ガッチリと肩を持ち嬉しさを表すように前後に揺する。

 

「生きてたって…当たり前だろ…何をそんなに喜んでるんだ…」

 

士遠は喜ぶ典坐に対して訳が分からないといった感じで対応する。

 

「だって…!あんな化け物と闘って先生は生きててくれた…!先生だって本当は逃げたくなかったはずなのに俺の思いを汲んでくれて…!というか俺はなんで生きてるんすか…!まさか先生が治療を?俺あんな傷でもう死んだと思ったのにどうやって!?あとヌルガイさんは無事ですか!?先生が無事なんだからヌルガイさんも無事っすよね!?」

 

士遠の言葉を無視して、典坐は士遠を揺する力をさらに強める。

そんな状況にいい加減鬱陶しくなったのか、士遠は無理やり典坐が掴んでいた腕を外すして、逆に典坐の肩を強く握りしめ、まっすぐと典坐へと顔を向ける。

 

「どうした典坐!化け物?治療?ヌルガイ?私にはお前の言ってることが一つも分からない…」

 

「え…分からない?どういうことっすか!?先生だって見たはずでしょう!?島に住んでるあの化け物を!それでそいつに俺が負けて…先生はヌルガイさんと一緒に逃げて…」

 

話しているうちにあの化け物と負けた自分を思い出し、徐々に声と顔が下がっていく。

弱かった自分の不甲斐なさと、先生に嫌な役を押し付けた後悔で典坐は顔を歪めた。

 

「島…?何を言ってるんだ典坐…お前はここ最近ずっと道場にいただろ…」

 

その一言で典坐はハッとしたように顔を上げ、辺りを見渡す。

そこで典坐の目に映ったのは、自らがいつも鍛錬をしていた山田家の道場の廊下であった。

 

「あれ…?道場…?じゃあ今まで俺は何を…?」

 

「何をって…お前は道場で稽古をしてたんだよ…それを私が()逃した隙にいつの間にかいなくなって…それで心配になって探してみたら道場の廊下で寝てたんだよ」

 

「稽古…寝てた…じゃああれは夢…?いやそれにしてはやけにリアル…」

 

典坐は訳の分からない状況に混乱し、独り言を繰り返す。

そんな典坐の異変に長年典坐を見てきた士遠が気づかないはずもなく、心配そうに典坐へと声をかけた。

 

「そこは先生見えてないでしょってつっこんで欲しかったんだが…そこまで余裕がないということか。典坐よく聞け…今のお前は明らかにおかしい!何を混乱しているのか分からないが一回落ち着け…それで一から整理して私に話してみろ…これでもお前の先生だ、一緒に考えるよ」

 

盲目である士遠はそのことを弄った冗談を言ってくることがよくある、普段の典坐であれば何かしら反応をしめすのだが、それにつっこむ余裕は今の典坐にはなかった。

真剣な表情で典坐を見つめる士遠。

典坐のことを真剣に思い、そして心配してくれていることが伝わってきて、典坐は冷静さが取り戻ってくるのを感じていた。

元より処刑人という常人ではやっていけないような仕事をしている典坐は、人よりもハプニングな状況に強い。

いかに信じられない状況に陥ろうともすぐに立て直すことができた。

 

「ありがとうございます先生…俺に起こったこと…正直俺の頭じゃ処理できないっす…全て先生に話します」

 

「あぁ…そう言ってくれて嬉しいよ。話しにくい話なんだろ?一応周りに聞かれないように私の部屋で話そうか。とりあえず私は道場のみんなに抜けることを伝えてくるから、典坐は先に私の部屋に行っていてくれ」

 

「分かったっす…」

 

士遠はそういうと道場の方へと歩き出した。

それを確認した典坐は、士遠の部屋へ向かうべく足を動かす。

典坐の足取りは重かった…いつもは元気でキビキビと歩く典坐だが、今は先生へとどう説明をするべきかで頭がいっぱいで、結果下を向きながらとぼとぼと部屋へと移動することになった。

士遠への部屋までの道のりはいつもの何倍も長く感じた。

そして、士遠の部屋へとたどり着いた典坐は扉を開け、適当なところへ正座をする。

頭の整理は移動の間についていた。

頭は混乱していたが、結局は自らにあったことをなぞって説明していくだけ、整理自体は簡単なものだった。

 

「簡単に整理できるってのがまた怖いっすけど…」

 

もし、典坐に起きたことが夢だった場合、もっとあやふやな部分があって然るべきなのだ。

しかし、典坐の記憶ははっきりと、あの化け物の戦闘の細かな展開ですら記憶していた。

それが典坐には怖かった…まるで典坐にあったことが現実のものだと証明しているようで。

そんなことを典坐が考えていると、ゆっくりと扉が開かれた。

扉を開けたのは、当然のことであるが士遠だった。

士遠は真剣な表情で典坐の対面に正座をした。

 

「頭の整理は出来たようだね…混乱していたさっきまでと比べて()違えたよ」

 

「…ツッコミ待ちっすか…?」

 

「ふふ…余裕が出てきたじゃないか…いつもの典坐に戻ってきたね」

 

「っ…!心配かけてすみません!」

 

士遠の典坐を気遣う言葉。

それを受けて典坐は士遠の優しさを感じ、嬉しさがこみ上げてくる反面、余計な気を使わせてしまった自分を恥じていた。

典坐は士遠に与えてもらってばかりだった…名前、仕事、力、家…それ以外にも色々なことを士遠は与えてくれた。

位をもらいようやく一人前と言われる立ち場になったのにも関わらず、相変わらず士遠に与えてもらうばかりの自分を、典坐は許せなかった。

化け物と戦い、士遠に恩返しも出来ずに死んでしまったという経験をしたからか、典坐は士遠に対して負い目のようなものを背負ってしまっていた。

 

「弟子のことを心配するのは先生として当然のことだよ、お礼を言うようなことじゃない。それよりも…本題の方へいこうか」

 

そんな典坐の気持ちを分かっているかのように、士遠は慈しみに満ちた表情で典坐の謝罪に答えた。

盲目なのにも関わらず、誰よりも見えている…そんなことを典坐は感じた。

 

「はい…まず前置きさせてもらうっすけど、多分これが現実の話だって言っても普通の人は信じてもらえないような話です。色々と途中で聞きたいこともあると思うっすけど、一旦最後まで聞いて欲しいっす」

 

「あぁ…わかった」

 

そんな前置きを置いて典坐は自分が経験したことを話した。

一度に全てを聞いても到底覚えきれるような体験ではないので、なるべく重要なところだけ、流れに沿うように…頭の悪い典坐ではあるが、そこら辺の気遣いはできた。

 

まずは自分達が罪人達と島に行くまでの経緯、幕府の命令により仙薬と呼ばれる不死の薬を探すために罪人を使った。そして自分達はその罪人達の監視で島に行ったこと。

島には、見たことがないような虫や植物が生えており、この世のものではないようであったこと。

そこで典坐が監視をしていたヌルガイという少女のこと…典坐はその少女が処刑されるような悪人だとは思えず、舟で幕府の舟へと引き返したこと。

そして、それは結局触手の化け物に邪魔をされて失敗…島に逆戻りになった。

その後に出会った人間の女の姿をした化け物…切ってもすぐに再生し、士遠と共に戦ったが結局は典坐は士遠とヌルガイを逃がすために死んでしまった。

 

「あそこで俺は死んだはずでした…体にいくつも穴を開けられて、どうやっても助かるような状態ではなかったはずっす。なのにも関わらず俺は生きていた…なぜ生きていたのか…それも分からないっすけど何よりも分からないのは俺があの島じゃなくて道場にいて、先生もここにいる。俺には何が起きてるのか分からないっす…」

 

典坐は士遠へと一通りの説明を終えた。

それを士遠は典坐の前置きを守り黙って聞いていた。

罪人を助けるために動いたということを言った時に若干顔が険しくなったが、それはあの島で典坐は経験済みだったので特に気にはしなかった。

士遠は結局はヌルガイを助けることを認めてくれていたからだ。

なんだかんだ言っても全力で向かい合えば応えてくれる…士遠はそんな人間であることを典坐は知っていた。

そして典坐が殺されたと言った時は明らかに怒っていた。

それは典坐を殺したという化け物に対しての怒りか、その場におりながらも弟子を守れなかったという自責の感情か…それは典坐には分からないが、きっと後者であろうとなんとなく感じていた。

典坐の話を聞き終えて、士遠はすぐに何かを言うことはなく、手を顎の下に当て斜め下へと顔を向け、真剣に考え込んでいた。

士遠、典坐ともに喋らない。

そんな時間が五分ほど続いたころ、静寂を破ったのは士遠だった。

 

「とりあえず…お前に起きたことに仮説を建てるとしたら三つ思いついた。まず一つめはこれがお前の夢だったってこと。私が見たのは道場の廊下で寝ていたところだ…ならば何か夢を見ていたってのは普通の考察だ。

二つめは何かしらが幻術によってお前の記憶の操作をした可能性。忍びの中には幻術を使うものもいるらしいし、それによってお前が幻を見せられていたことは十分考えられる。

そし…」

 

そこまで聞いて典坐は士遠の言葉を遮るように大きく声を上げた

 

「夢や幻術…確かに現実的に考えたらそれが一番考えられるかもしれないっす…でも俺はあれが夢や幻術なんてふわふわしたものだとは思えないんっすよ…!俺はあの島に行った経緯、ヌルガイさんとの会話の一つ一つ、そしてあの化け物と戦った時に体を貫かれた痛み…!どれも鮮明すぎるほどに覚えてる…!俺にはあれが嘘だったなんて思えないんすよ…!」

 

普通の人間が典坐の状況を客観的に見れば確かに夢や幻を見たと思うだろう。

しかし典坐の心はあれが実際のことであると訴えてきていた。

 

「落ち着け典坐…仮説は三つあると言っただろう?最後まで話を聞けと最初に言ったのはお前のはずだ。話は最後まで聞きなさい」

 

「うっ…すみません…」

 

「じゃあ最後の仮説のを言うよ。

 

………それは典坐の言うことが全て本当におきた出来事だった。

 

そして私は…この可能性は充分にあると思っている」

 

その言葉に典坐は胸が熱くなるのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。