典坐のやり直し   作:はる

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典坐の年齢とか分からなかったので想像です。


典坐と先生

 

「先生は本当に俺におきたことが現実だと思ってくれるんすか…?」

 

自分で現実としか思えないと言っておきながら、典坐は士遠の言葉に疑問を呈した。

それは客観的に見て、これが現実だとい言い張る典坐の方がおかしいということは分かっていたからだ。

典坐がこれが夢ではないと言い張るのはあまりにも鮮明に島での出来事が感覚として残っているからであって、士遠にとってはとても信じがたいことであるはずだ。

なのにも関わらず士遠は典坐におきたことが充分現実の可能性はあると言ってのけた。

それが何故なのか…典坐はそれを聞くために士遠に催促をする様に目を向けた。

 

「あぁ…夢や現実だとしたら分からないところが多々ある。まず夢だった場合はお前が言うようにあまりにも記憶が鮮明すぎる。島への移動から戦闘まで何週間にもわたりそれを細やかに覚えているなど現実的に考えづらい。

そして、幻術だとした場合…確かに幻術ならば夢よりも高精度にそういった体験をお前の脳に植え付けることができるかもしれない。しかし、それを誰がなんの為に、いつ行った?

お前が幻術にかけられたとしたら明らかに稽古からお前が抜けた数十分の間、山田家の道場の敷地内でたったそれだけの時間で、誰がお前を幻術にかけれるんだ?現実的にそんなことができるほどの隠形と実力の持ち主を私は知らない。

なによりもお前にその幻術をかけてなんの得があるというんだ?山田家の人間に幻術をかけるリスクを負ったのにも関わらず、かけた幻術はお前に少しのトラウマを植え付ける程度の嫌がらせの範疇でしかない。明らかにリスクとリターンが見合っていない馬鹿げた行為だ。」

 

かなり長い考察だったが、士遠は噛むことはなくスムーズに言いきった。

そんな士遠の言葉は典坐の心にもすっと入ってきた。

 

「確かに…どちらも客観的に見て考えにくいっすね。でも…先生はなんで現実の可能性もあるって言ってくれんすか?俺におきたことが現実だってことの方が夢や幻術なんてことより客観的に見て馬鹿げてる」

 

典坐の言ったことはもっともなことだった。

夢や幻術であるということだと分からないところはあるが、それが=典坐に起こったことが事実であるということにはならない。

客観的に見て夢や幻術であるということの違和感よりもこれが現実であるということの方が受け入れられないはずなのだ。

 

「それは簡単だよ典坐…お前がそれを現実だって感じてる。先生ならばそれを信じてあげるものだろう?」

 

典坐はその言葉に目頭が熱くなるのを感じた。

 

「ははっ…!なんすかそれ…理由になってないっすよ…」

 

目に溜まるものを誤魔化すように典坐は笑った。

先生はやっぱり最高の先生だ…典坐はそんなことを思った。

典坐が笑ったのがわかった士遠は、同じように笑った。

 

「こほん…まだ話は終わっていないよ。ここからはお前におきたことが現実だとして話を進めよう。

そうなった場合の疑問点はいくつかあるが…まとめるとこんな感じだろう。なぜ死んだはずの典坐が今生きているのか。そしてお前が今いる場所が島ではなく山田家の道場であるということ。最後にお前と一緒に島に行ったはずの私にその記憶はないということ」

 

「概ね分からないところはそこっすね…」

 

「それを確かめる為に今からお前に質問をする。典坐…お前は今何才だ…?」

 

「十八っすけどそれがなんなんですか?」

 

「やはりそうか…典坐…お前は過去に戻ってきたんだよ」

 

「過去…?」

 

その言葉を聞いた時、典坐の頭には衝撃が走った。

確かに過去に戻ってきているのならば疑問は全て解決する…典坐は生き返ったのではなく過去に戻ってきたからこそ負った傷もなく、島ではなく道場におり、士遠は島への記憶がない、状況全てに説明がつく。

 

「あぁ…お前は先日十六になったばかりだ。みんなで祝ったのだから間違いない。いくらお前でも自分の歳くらいは忘れないだろう?」

 

「む…俺がいくら馬鹿じゃないっすよ!…それはともかくなるほどっすね…俺があの島に行ったのは二十になってすぐ、つまり約2年間分俺は過去にいるってことっすか!」

 

「まぁ…そういうことになるだろうな。そしてそう仮定するのならばそれが事実かどうかを確認する方法は簡単だ…お前が持っている2年分の未来の知識。それで答え合わせをすればいい」

 

「答え合わせっすか…?例えばどんな…?」

 

「はぁ…少しは自分で考えろ…考えることも大切だと私は教えたはずだぞ…」

 

「うっ…だっていきなり過去だ未来だって言わられたら混乱するっすよ!ただでさえ俺馬鹿なのに!」

 

それを聞いた士遠は、本当にどうしようもないものを見たといった感じで頭に手を当てて顔を落とした。

典坐の話が本当ならば今の典坐は見た目よりも二年分経験を積んだ状態であるということだ。しかし、精神的な成長は二年であまりしていないようだ…そんな風に士遠は思った。

 

「まぁ説教は後だ…例えばお前がこれから仕事で切る罪人の名前。お前は切る罪人についての情報は誰よりも深く読み込んでいたからな…名前だけでなくどんな人物だとか罪状なんかも覚えているだろ?それを覚えている限り書き記しておいて実際その場面になった時に答え合わせをすればいい。

まぁ…記憶違いで違うところがあったり、俺たちが未来を知ったことで多少変わってくるところもあるのかも知れないが、概ねは一緒なはずだ」

 

「それは確かに…」

 

「あとは山田家周辺のことだな。お前が知る二年間でもし不幸があったりしたものがいればそれを防ぐことだってできるかもしれない。誰がどの位になるとかも情報になりえる」

 

「誰が不幸とかは聞いてないっすけど…位については覚えてるっす。佐切(さきり)が十二位になりました…俺が十六になってすぐっすからもうすぐなはずっす」

 

「…!そうかあの娘はそこまで…」

 

佐切とは力が求められる稼業である山田家では珍しい女性であった。

自らが女であるということと山田家の人殺しの業の間で揺れる心優しい女性。

しかし、自らの職務、目的と心が一致した時の剣技は一流以上だと誰もが認めていた。

そんな彼女は女であるということで位は与えられていなかったのだが、ある人物の訴えで位を与えられることになった。

士遠はそんな彼女のことを気にかけていた。

女ということでいくら腕があっても周りには疎まれる…実の父ですら向けられる落胆の目。

そんな状態で悩みながら生きる彼女を士遠が気にしないはずがなかった。

 

「先生が佐切のことを気にかけてるのは知ってるっすけど、今はそれは置いておきましょう…」

 

「あぁ…そうだな。それにあの娘が決めたことだ…私がどうこう言ったところで彼女にとっては迷いを深めるだけだろうしな…」

 

「そうっすね…佐切は迷いながらも前に進んでる…それを俺たちが邪魔をしちゃいけない…俺はそう思うっすよ」

 

「そうだな…よし!この話はここまでだ。典坐…お前の話に戻ろう。先ほどまでに言った方法は大なり小なり確認までに時間がかかる。そこでだ…もっと簡単に確認する方法を思いついた」

 

「おぉ!流石先生!その方法ってなんすか!?」

 

士遠は一旦言葉を止めてゆっくりと正座を崩し立ち上がった。

そして扉の前まで歩みより扉を開け、典坐の方へとゆっくりと振りかえってこう言った。

 

「道場に行くぞ…ついてこい典坐」

 

「え?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山田家の本道場とは違う、少し離れにある小さな道場。そこに典坐と士遠はいた。

普段から使用者が少ないその道場は現在も使用者がおらず、典坐と士遠の二人だけの状態であった。

その使用者である二人はそれぞれ別々の行動をしている。

士遠は正座の状態で精神統一を、典坐は木刀を振る。

木刀を振るっている典坐はいつもの反復練習をしているというよりか、今の現状を確かめるかのように慎重に剣を振るっていた。

 

「やはり違和感はあるかい…?」

 

士遠は正座の姿勢を崩さす典坐へと声をかけた。

 

「そうっすね…体の大きさも多少変わってますし…何よりも自分の想像に体が追いついてこないと言うんすかね、自分の振るう剣が遅く感じます」

 

ここまで聞けば分かるとは思うが、士遠が典坐を道場に連れてきたのは典坐の剣の違いを感じとる為だ。

二年間の体のズレ。それは本人である典坐はもちろん感じるだろうし、毎日のように典坐の剣を見て…いや感じている士遠にももちろん分かる。

昨日まで感じることがなかった典坐の剣の違和感…それを感じとった士遠は、典坐に起きたことが現実であるという可能性をさらに高くした。

 

 

 

典坐が士遠へと体験したことを話した時、士遠は当然の如く驚いた。

当たり前の感性で言うのならば到底信じられる話ではなく、一番初めは何物かが典坐へと幻術をかけた可能性を第一に疑った。

しかし、典坐が話すことはあまりにもリアルであり、それを話す典坐の鬼気迫る態度…それを見て現実の可能性もあるのではないかと思ってしまった。

超常のことではあるが、その可能性を士遠が視野に入れたのは、士遠自身も理屈では説明できない不思議な力を持っていたからだ。

 

 

その力を士遠はそう呼んでいた。目が見えない士遠が周りの様子を見えているかのように行動できるのは、それを感じとって行動しているからだ。

人間は元より自然界に存在するものには例外なく存在するそれは、人それぞれ大きさが違い、大きなものは人とは思えぬ凄まじい力を持つ。

また、その力を応用して忍達は様々な特殊能力を使ったりしている。

その力を使えば時を戻すことだって、もしかしたら出来るかもしれない。

典坐が死にいく最後に時を戻す力に目覚めその力を行使した…たかが一人の人間にそのようなことが出来るかは分からないが、絶対ないとは言い切れないと士遠は思った。

そしてそれを証明するかのように、今刀を振るっている典坐は昨日とはまるで別人のようであった。

それを見て士遠はこんなことを思う。

 

(不甲斐ない…典坐が言うことが現実だったのならば…私は弟子を見殺しにして逃げたということだ…!)

 

そのことについて典坐は精一杯のフォローをしてくれた。

元より自分は死にかけで助かるとは到底思えなかった、先生が逃げたのは不甲斐ない自分の最後の思いを汲み取ってくれたからだと。

逃げるという選択は明らかに正しい判断だった。

相手は切ってもいくらでも再生する化け物で、不思議な力で腕を振るうだけで人間に風穴を開けることが出来るらしい。

そんな化け物に情報もろくにない状態で応戦するよりかは、死にかけの仲間を見捨て一旦引き、情報を集め、仲間と合流するという選択は正しい選択だろう。

 

(だが、仲間として、典坐の先生としてはどうだ…!?)

 

確かに助かりもしない仲間のために化け物と応戦するのは愚かな選択なのだろう。

でも士遠は思ってしまうのだ…愚かであろうと刀を抜くのが仲間というものではないのか、そんなことを士遠は思ってしまうのだ。

士遠は自分の不甲斐なさに言い様のない悔しさを感じながら、剣をふるい続ける典坐を見た。

 

(相変わらず剣速に関しては山田家でも随一だな…踏み込みの甘さや剣速頼りの雑さは相変わらずだが、二年間での成長は確かに感じる…)

 

体の違和感でおそらく十分な力を出せている訳ではないが、それでも二年間の経験があるというのは典坐にプラスに働いていた。

二年間まじめに剣を振り続けたのだろう…士遠にはそんな風に伝わった。

そして成長したのはおそらく剣技だけではない。

 

(人助けに意味などないと言っていたお前が、最後は人を生かすために剣を振るった…私はそれだけで嬉しいよ)

 

典坐が拾われてすぐ、典坐の口調や態度は荒々しく、よく道場のものと揉めていた。

しかし時が経つと口調も柔らかくなり、人の為を思える優しい青年に成長した。

そして最後は命をかけて少女を守ったのだ。

それが士遠は何よりも嬉しかった。

 

 

 

木刀が振るう手が止まった。

一心不乱に木刀を振るっていた典坐からは大量の汗が流れ、少しだけ息も上がっていた。

 

「体力がないのは分かってたっすけどこの体だとさらに体力ないっすね…!ふぅ…先生!体の違和感はなんとかマシになってきました!」

 

「あぁ…私も君の剣を見て君に起きたことが現実にある可能性は十分にあると感じた…一人で剣を振るうのはここまででいいだろう」

 

「そうっすね…一人ではここまでだ…!だから…

 

          試合っすよね先生…!」

 

典坐は木刀の切っ先を士遠の方へ向けて笑いながら言った。

 

「私が言おうと思っていたんだが…まぁいい。お前の二年間…私に見せてくれ」

 

「見えてないでしょ先生…」

 

相変わらず冗談を言う士遠に緊張が一気に弛緩し、典坐はガックリと肩を落とす。

 

「ふふ…それじゃあ初めようか…構えなさい典坐」

 

「っ…!分かったっす。お願いします」

 

お互いに木刀を構えて向かいあう。会話をしている間に典坐の乱れた息は完全に回復しており、汗もすでに止まっていた。

おそらく士遠は冗談を言ったのはこの時間を作るためだろう。

そんなところにも典坐は士遠の優しさを感じた。

 

しばしの間睨みあう。

士遠から放たれる威圧感は凄まじく、どこに踏み込んでもたやすく返されてしまうと錯覚するほどだった。

しかしずっと睨みあう訳にはいかない。

おそらく士遠が見たいのは典坐の二年間の成長だ…ならばこそ最初に攻めるのは典坐でなくてはならない。

典坐は今自分が出せる最大の力で踏み込み一気に間合いに入る。

近づいて放つのは試し一刀流の奥義。

 

(試し一刀流奥義…!篠突く雨!)

 

上下左右斜めから雨のように降り注ぐ斬撃…剣速自慢の典坐から放たれるそれは、常人であれば同時に複数の斬撃が放たれたようにすら見えるだろう。

そんな回避不可避の斬撃を士遠は当たり前のように体を僅かに剣からずらして避ける。そして一気に典坐の懐へと迫る。

それは完全に典坐の剣を見切っていなければ出来ないことで、典坐は士遠との実力差をまざまざと見せつけられた。

全ての斬撃を避けられ距離を逆に詰められた典坐は大きく飛び退き距離をとる。

しかし、それを士遠は予測していたかのように、居合の構えをし、低い姿勢で退いた典坐の方へと飛んでくる。

低い姿勢のまま典坐へとぶつかるほどに距離を詰め、体を思い切り捻り切りあげる。

体に隠れた木刀はギリギリまで姿を見せず、典坐から木刀が見えた時はもはや目の前であった。

それを典坐は上体を逸らすことで回避する。

それは予測や反射ではなくもはや勘だった。

長年手合わせを続けてきて、この後士遠ならばこう動くだろうというある種の信頼。

それが典坐を反射では追いつけない斬撃をギリギリで避けさせた。

ギリギリのところで避けた典坐は上体を逸らすことでよろけた体を敢えて立て直すのではなく、その流れのまま後走りをすることで距離をとる。

バランスが崩れ尻持ちをつく形になるが、後転し距離を取りつつ体制を立て直す。

すぐに視線を前へと向き直し、木刀を構える。

 

(…目の前にいない…!?)

 

そこにいるはずの士遠はおらず、目の前には誰もいない道場が広がっている。

 

(まさか…!?)

 

目の前にいないのならば後ろ。そんな当たり前の結論を典坐が導き出し後ろを向こうとした時、典坐の肩に木刀が置かれた。

典坐が振り返るとそこにはにやりと笑う士遠の姿があった。

負けたことを悟った典坐は木刀を置き、悔しそうに吠えながら尻持ちをついた。

 

「かぁー!強すぎっすよ先生!」

 

「雑さが目立つよ典坐」

 

「成長はしてるはずなんすけどねぇ…ここまで一方的に負けるとは…」

 

「まぁまだ体との違和感はそう簡単に合わさるものではないからね。成長してる部分も確かに見えたがそれ以上に不自然さが目立つな」

 

「…それもあるっすけど…俺は弱いっすね先生…」

 

「いや…別にそんなことはないだろう。お前は試一刀流で段位を持っている…常人には出来ないことだ」

 

「そんなことは何の意味もないんすよ…!俺は守れなかった…!ヌルガイさんも!先生も!俺自身も!先生からの期待に応えられず…ヌルガイさんとの約束だって守れなかった!俺は自分が不甲斐ない…!何も出来なかった自分が…!」

 

典坐の目からは自然と涙が流れていた。

士遠に負けたことが、あの化け物に負けたことと重なり、何も出来なかった自分の不甲斐なさで心がいっぱいになった。

思い出すのは典坐の為に泣きながら刀を振るおうとするヌルガイ、そして自らの思いを必死に押し殺した士遠、そしてそれを死にかけの体で見る自分。

そんな自分が情けなさすぎて涙が止まらない。

胡座を組んだまま悔しそうに拳を合わせて泣く典坐…そんな典坐に士遠は近づき肩に手を置く…そして…

 

 

頭へと思いっきり拳骨を落とした。

 

「痛ぁ!何するんすか先生!ここは優しく励ますところじゃないんすかぁ!?」

 

「いや…あまりにもお前がしょうもないことを言うものだからついな…」

 

「しょうもないってなんすか!真剣な話じゃないっすか!」

 

「しょうもない話だよ典坐…そもそも不甲斐ないのはお前ではない…私だ。

化け物から弟子一人守れずに逃げ出した…山田浅エ門士遠こそが不甲斐ないんだ」

 

「そんな…!先生はただ俺の願いを!」

 

「ええい!この話はもういい!そもそもの話今お前がやるべきはそんな後悔じゃないだろう!?お前はこうやって記憶を持ったまま戻ってきたんだ!やるべきは本当に今後悔して足踏みすることか!?お前に起きたことが事実ならば二年後にはまた島に行くことになる!その時またお前は同じ未来を繰り返すのか!?」

 

それを聞いた典坐はハッとしたように顔を上げた。

また同じことの繰り返し…今のまま無意味に二年間を過ごせば典坐はまた島に行き、そして同じように化け物に殺されるだろう。

島行きへの任務を拒否すれば典坐は生き残るかもしれない…だがそんなことは最初から典坐の頭にはなかった。

典坐が拒否したところでヌルガイや士遠は島に行くだろう。

なのにも関わらず典坐だけが行かないなんて選択はありえない。

また島に行った時、典坐は何ができる?何をしなければいけない?

それはあの化け物を倒すこと…ヌルガイ、士遠、典坐の三人が生き残ること。

あの化け物を倒す…ただの人間である典坐がそれを成すためにはここから二年間、無駄な時間など1秒たりともありはしないはずなのだ。

それに典坐が気づいた時、涙は止まり、自然と立ち上がっていた。

 

「先生…俺強くなります…!ヌルガイさんや…先生だって俺が守ってみせる…!

 

「私もか…随分強気に出たな典坐…」

 

「当然っすよ!今度こそ先生の期待に応えて見せますよ!」

 

そう言って典坐は笑った。

そこには先ほどまでの暗い感情は一切なかった。

 

「そうと決まれば俺走ってきます!うぉおお!やるぞぉおお!」

 

「はぁ…単純な奴だな…道場の片付けはやっておくから行ってきなさい」

 

「ありがとうございます先生!行ってくるっす!」

 

そう言い残し典坐は風のような速さで外へと飛び出していった。

そんな典坐を見送り、士遠は開けっ放しにされたドアへと手をかけ外を見た。

そこには快晴の空が広がっており、さんさんと降り注ぐ太陽が盲目の士遠ですら感じられた。

まるで典坐のようだなと士遠は思った。

誰よりも元気で明るく真っ直ぐで、出会った当初からは考えられない姿だった。

 

(期待に応えるね…それはもう十分叶っているよ…)

 

典坐は士遠の期待にはもう十分応えていた。

なのにも関わらず典坐は今の現状には満足していない。

そんな典坐を見ていると士遠はこう思うのだ

 

 

 

 

 

「応えるべきは私だよ…典坐…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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