典坐のやり直し 作:はる
ということで今回は短いです。
浜辺に建てられた簡易的な仕切り、その中に手縄をはめられ座らされたもの達が三十〜四十人ほど集められていた。
年齢や性別に一貫性はないが、ほとんどのものは屈曲な肉体をしていた。
座らされたもの達はいずれも死刑が確定している罪人達…大勢の人間の命を奪ってきたもの達が屈強な肉体をしているのはもはや当然というものだった。
そんなもの達を同じところに集めて危険はないのかと、当然の疑問を誰もが思うだろうが、この場においてその心配は不要であった。
罪人達を囲うように左右に配置された、皆同じような装束に身を包んだ十人ほどの男女…全て山田浅エ門の門下のもの達であり、その実力は誰もが認めるものであった。
山田浅エ門…改めて説明するが、それは刀剣の試し斬りや処刑執行人を務めた浪人山田家の屋号である。
処刑執行人ということは、所詮武術とは無縁の存在であると思うかもしれないがそうではない。
打ち首には卓越した技術が必要だ…具体的に言うならば首の第二頸椎と第三頸椎の間、それを一刀の元に正確に切らなければ人の首は切れない。
畳と畳を合わせた際の隙間ほどしかないそれを皮膚の上から見極め切り伏せる…技術と共に人体への理解も求められる。
そしてそれを当たり前のように実行する存在である山田浅エ門というのは、当然の如く刀剣の達人であるのだ。
そんな浅エ門の一人として典坐もいた。
典坐は何か心配事があるのか…そわそわと体を動かし、罪人の中にいるヌルガイを見つめていた。
それは、これから起こることを典坐が知っていたからだ。
島へと向かう罪人達…しかしこの場にいる全員が島へと向かうことができる訳ではないのだ。
それは人員的な問題…罪人一人につき一人の浅エ門をつけるという都合上、ここにいる罪人では多すぎる。
多すぎるということはここからある程度罪人達を選別していく必要があり、その選別方法が典坐にとって問題だった。
選別方法は罪人同士の殺し合い…将軍がリアルの殺し合いを見たいからと思いつきで決めたこの方法は、正直ただ罪人達を使い物にならなくさせるリスクがあるので、賢い方法であるとは典坐は思わなかったが、しかしそんなことが言えるはずもなく…立場がある典坐ではヌルガイを助けに入る訳にもいかないのでここは見守っているしかない。
もちろん前回はヌルガイは島まで行けている。それはつまり、ヌルガイは前回はここでは生き残っているのだ。
高い身体能力に判断力。どれもヌルガイは高いレベルで備えているし、ここにいる罪人達のほとんどはヌルガイよりも実行が劣ることは典坐は知っている。
そう…ほとんどは
何事にも例外はいる…罪人達にはヌルガイよりも強いものは少ないが存在している。
そしてそのもの達にヌルガイが狙われた場合は、かなりまずいことになるだろう。
ヌルガイとて自分より強いものに挑んでいくようなことはしないだろうが、何が起こるかが分からないのが人生というものだ。
前回起きたことが今回も絶対同じになるということはありえない…それはこの二年間で典坐は分かっていた。
だからこそ典坐はヌルガイを心配していて、だけれでも、立場上協力することも出来ずただ体を揺らしそわそわとすることしかできない。
そんな典坐の様子が分かったのだろう。典坐の横にいる人物が煩わしそうに声をかけてきた。
「先程からそわそわと…山田家のものなら姿勢を正さぬか!将軍様の前だぞ」
「うげっ…源嗣さん…すみません…ちょっと心配事がありまして…」
山田浅エ門 試一刀流八位。浅黒い肌に大きい体、短髪で筋骨隆々の男だ。
源氏は典坐のことを目を細め厳しい表情で見つめていた。
「心配事…罪人のことか…?」
「いや…別にそうでは…」
「誤魔化すな!お前が罪人の減刑を上に願いでたことは知っている…全く…山田家の人間が罪人の肩を持つなど…恥ずかしいとは思わんのか?」
「そうっすね…確かに俺のやったことは山田家の人間としてダメだったかもしれません…でも、後悔はしてないっす」
「貴様…!」
源嗣は懐に刺した刀に手をかけ典坐を睨む。今にも切りかかっていきそうな勢いだ。
このままいけば源嗣は勢いのままに抜刀してしまうだろう…しかし、そうなることはなかった。
「落ち着いてください…将軍様の前…っすよね?」
典坐は源嗣の目の前へと移動して、抜刀しようとしていた手を押さえていた。
そしてその手を源嗣は信じられないといった風に見つめていた。
(全く反応出来なかった…典坐…貴様どれほど強く…)
押さえられている手はピクリとも動かせない…山田家の中でも随一の剛剣の使い手であるはずの源嗣だからこそ、それに隔絶した実力差を感じとってしまった。
二年前から典坐が尋常ならざる鍛錬を積んでいるのを源嗣は知っていたが、これほどまでに力をつけているとは露程も思っていなかった。
そんな風に源嗣が驚いていると、前方から声がかけられた。
「これよりっ!諸君らが向かう島について説明する」
それを聞いて、ヌルガイはようやく来たかと身を引き締めた。
これから何が起こるかについては典坐から聞いてはいるが、それはどこから手に入れてきたかも分からない情報…あまりヌルガイは信じてはいなかった。
典坐の提案に乗ってここにはきたが、ヌルガイはまだ典坐のことを信用している訳ではなかった。
(あの男…絶対何か隠してやがるしな…オレを利用して何かする気かもしれない…)
典坐はヌルガイに隠していることが多い、ヌルガイの気持ちを知っているような言い草に、自分を必死に助けようとする姿勢もヌルガイにとっては違和感でしかない。
そんな不信感を抱えながらヌルガイは黙って役人の説明を聞いていた。
目の前で役人がする説明は典坐がしたものと同じであり、聞き流してもいいものであったが、どこかに齟齬があるかもしれないとヌルガイは真剣に話を聞いた。
(殺し合い…本当にそんな方法で選別すんのか…?)
今のところ役人からはそんなことを言い出しそうな感じもしない。
流石にそんなことはしないかとヌルガイが気を緩め出したころ、一人だけ腰掛けに座っている明らかに偉い男が側近に耳打ちをした。
耳打ちされた側近は少しだけ嫌そうな顔をした後すぐにこちらに顔を向け、白々しくこう切り出した
「あー…すまんが…舟の定員もあるし、浅エ門の数も限られている。なので今から人数を絞ってもらう…」
「え…それって…」
「つまりどういう…?」
それを聞いてほとんどの囚人は意味が分かっていないようだった。
それは当たり前の反応だった…これが殺し合いをしろという意味だなんて、すぐに分かる方がどうかしている。
(まじかよ…それってつまり…あいつの言う通りってことかよ!)
ヌルガイは典坐の言っていたことが本当であったことを悟り驚いた。
役人が言った意味をすぐに理解できたのはこの場では二人。
一人は典坐からあらかじめ話を聞いていたヌルガイ…そして…
「つまりあれだろ…?この場で雑魚を削れってこった」
そう言ったのは顔に大きな三本の傷がある青年であった。
凶悪な笑みを浮かべたその青年は、横にいた罪人の首を締めて絶命させていた。
そのあまりに唐突な行動に他の囚人達は驚きを隠せない。
「おめぇ…何して…」
罪人の一人が惚けたように言った。
それを聞いた青年は、幕府の役人達の方を指刺しながら言葉を続ける。
「ほら…これを見ても何にも言わねぇだろ…?」
指を刺された役人達は何も答えない。しかし、この状況で注意もせずに見ているというのは、青年の行動を肯定しているのと同じであった。
それを見て青年はさらに笑みを深める。
「殺しあえってことだよ!モタついってと死ぬぜ…!?」
その青年の言葉に、役人はそうとられても仕方がないと肯定の言葉を返した。
それでようやく罪人達は状況に気づいたのか、一斉に動き始めた。
しかし、お互い手縄をはめたままなので、ほとんどの罪人達はまともに戦うことはできない。縺れ絡み…ほとんどが泥仕合にしかならない。
だが、どの世界にも例外はおり、そんな中で異常とも言える強さを見せる者たちがいた。
他の罪人達と区別するために朱の印を付けられたもの達。
典坐はヌルガイが万が一にもその者たちと交戦しないように情報を伝えていた。
ヌルガイは混戦の中その人物達を一応確認した。それは、典坐の情報が本当かどうか確かめるためだ。
例えば、先程いち早く役人の意図に気づき罪人を絞め殺した男…若いながらに盗賊団を率い賊の村まで作り上げた傑物。
その他にも、鷺和城侵入の下手人であるくのいちや、剣龍と恐れられた大剣豪、刀も槍も効かない大男など…ヌルガイではおよそ勝てないであろう者たち。
そんな中でも一際注目すべき男
(がらんの画眉丸…動いてねぇしそんなに強いとも思えねぇけど…)
白髪で小柄な体躯…一見するとひ弱に見える男。
とても強そうだとはヌルガイには思えなかったが、典坐が言うには霧隠れの有名な忍びであるそうだった。
(まぁ…動かない分にはこっちには関係ないからいいか…とりあえずオレは人数が減るまで適当にいなしてればいい)
幸いなことに、典坐の伝えてくれた情報は概ねあっていたようで、今見たもの達以外はヌルガイでも容易に捌くことが出来た。
襲いかかってくるものだけを持ち前の身体能力で躱し、時に反撃し、朱印の者達には決して近づかない…ただそれだけを意識したヌルガイに危機など訪れる訳もなく…
「そこまで!今生きている十人を上陸組とする…!」
あっさりとヌルガイは生き残ったのだった。
勢いだけで書いてるので読みにくいところが多々あるかもしれません。