今は、サトシのエイセツジムリベンジマッチの真っ最中。完全覚醒したサトシゲッコウガがクレベースを撃破し、交代させてゴウカザルを出した直後。ウルップからシトロンを驚愕させる一言が発せられた。
「ゴウカザル……やっぱりそうか。―お前さん、フロンティアブレーンだな?」
「……!」
「ええッ!」
「「え?」」
サトシの一言で分かりやすく動揺したシトロン。その一方で、ジムリーダーであるシトロンとは違ってまだ新人トレーナーの域を出ないセレナとまだトレーナーでないユリーカは『フロンティアブレーン』について知らず、有識者のシトロンに説明を求めた。
「ねえお兄ちゃん、『フロンティアブレーン』って?」
「……カントーとシンオウにあるバトル施設、バトルフロンティアのジムリーダーのようなものです。その実力は四天王に並ぶ方も居ると言われています。あるトレーナーが七人全員を下し、八人目になったと風の噂で知っていましたが、まさかそれがサトシだったとは……」
「ね、ねえ。それってサトシも四天王並みのすっごい実力者だったってこと?」
シトロンの言葉ではっ、と気が付いたセレナが、震える声でシトロンに尋ねる。唯一それを知るピカチュウは、苦笑しながら三人を見つめる。
「……チャア……」
「……はい、おそらくは。……何故なら、七人全て倒したということはあのジンダイさんのレジロック・レジスチル・レジアイスのどれか一体を倒したということなのですから」
「レジ……?」
「幻・伝説のポケモンの一種です。あの三体のどれかを倒すとは……僕たちはとんでもないトレーナーと一緒に旅をしていたんですね……」
(出会った時から、何処か私たちとは一線を画す雰囲気があったけど、まさかそんな雲の上のトレーナーだったなんて……)
そこまで考えたセレナは、ぶんぶんと首を振り、その思考を振り払う。
「……だとしてもサトシはサトシよ。ほら、応援応援!」
「!は、はい。そうですね。頑張れ、サトシー!」
「いっけーサトシ、ゴウカザルーッ!」
時は少し戻り、サトシはウルップのその一言に、ばれたか……といった感じで苦笑した。
「そうですよ……よく分かりましたね」
「うむ、風のうわさで聞いたんだがな。―先日、カントーのバトルフロンティアに制覇者から幻の八人目が生まれたと。曰く、そのブレーンはたとえどんなフィールドでもその地形を利用して自分のペースに持ってゆく。曰く、そのブレーンはピカチュウを連れている。曰く、そのブレーンは強者のゴウカザルを使ってリーグ戦で激闘を繰り広げた。ピカチュウ、シンオウと聞いて疑っておったが……お前さんのゴウカザルを見て確信に変わったわ。よく鍛えられているな、そのゴウカザル」
「ありがとうございます!……まあ確かに俺はカントーバトルフロンティア・フロンティアブレーンの”フィールド・ルーラー”ですけど……今は一人のトレーナーとしてあなたに挑んでます」
「……はっはっは。そうか、そうだったな。……いや、すまん。忘れてくれ。……さあて、おっぱじめようか!」
「はいッ!ゴウカザル、マッハパンチッ!」
「ウァキャッ!」
「ユキノオー、ウッドハンマー!」
「ノッオーッ!」
ゴウカザルが左拳にエネルギーを纏わせて超速で突撃し、ユキノオーはウッドハンマーで迎撃し、衝撃波が風となってジムを揺らす。ゴウカザルとユキノオーはお互いを強敵と認め、歯を見せてニヤリと笑いあう。両者共に一旦距離を取った後、ゴウカザルは一瞬しびれたものの、そこから激しい攻防戦を繰り広げ始めた。
「ユキノオー、こおりのつぶて!」
「ユ、ノォ―ッ!」
「ゴウカザル、穴を掘る!」
「ウキャキャッ!」
ユキノオーが放ったこおりのつぶてを、氷が溶けた所のフィールドを掘って躱すゴウカザル。しかし、追尾性のこおりのつぶてはゴウカザルを穴の中まで追撃してきた。
「ウキャ!?」
「何!?」
「まずい、これでは逃げ場がありません!」
「サトシ……」
サトシは一瞬焦ったもの、ゴウカザルのキメ技を思い出してニヤリと笑い、ゴウカザルにすぐさま指示を飛ばす。
「ゴウカザル、フレアドライブ!こおりのつぶてを焼き尽くせ!」
「ウァッキャーッ!」
ゴウカザルは心得たとばかりに体に炎を纏って解き放ち、追尾してきたこおりのつぶてを全て燃やしたばかりか、その炎は地上にまで延び、ユキノオーの体を炎で焼いた。
「ノオーッ!」
「ユキノオー!」
たまらず悲鳴を上げ、動きが止まるユキノオー。その隙を……サトシは見逃しはしない。
「今だ!地面の下から出てこいッ!」
「ウキャーッ!」
ゴウカザルはユキノオーの真正面から飛び出ると、炎をまとったままその拳をクリーンヒットさせた。ユキノオーの体が数メートル後ろに吹き飛び、そこで何とか踏みとどまった。……それでもこうかばつぐんのフレアドライブ+あなをほるを喰らったため、ダメージは大きい。
「ノ、ノオッ……!」
「やる……!……ここまでお前さんたちの絆、本質、熱さ、そして未来を見せてもらったんだ。あれだ、今度は俺たちの応える番ってやつだ」
そう言いながら首からネックレスを外し、その蓋を開けるウルップ。その中に収められていたのは―キーストーン。
「キーストーン!?」
「ウキャ!?」
「コウ!?」
「ピカ!?
「牙を剥け!凍てつく力よ!メガシンカァ!」
キーストーンと隠れていたメガストーンが繋がり、ただでさえ大きかったその巨躯がさらに巨大に変貌し、その姿を現したメガユキノオー。
「ユノォォォォォッ!」
「メガシンカ!?」
メガシンカが完了し、雄叫びを上げるメガユキノオー。その雄叫びは、フィールドをビリビリと揺らすほどだ。強敵の出現に楽しそうに笑みを浮かべるサトシとゴウカザル。
「メガユキノオーか!」
「俺の魂をこんだけ熱くさせてくれたんだ!こうなりゃメガシンカで受けて立つのが礼儀ってもんだろう!」
拳をぎゅっと握りながらそう熱く思いをぶつけてきたウルップに応じるように、サトシとゴウカザルの熱も高まっていく。
「だったらこっちも全力で行きます!ゴウカザル、かえんほうしゃ!」
「ユキノオー、れいとうパンチッ!」
「ユノァァァーッ!」
「なッ!?」
「ウキャ!」
かえんほうしゃとれいとうパンチがぶつかった結果に、サトシやゴウカザルのみならず、その場の全員が驚愕した。
―かえんほうしゃを、れいとうパンチが引き裂いてしまったのだ。
(これが、メガユキノオーのパワー……。ははは、バトルはこうでなくっちゃ!)
だがそれを見せられてもなお、サトシの闘志はさらに熱く煮えたぎる。
「マッハパンチッ!連続でうちまくれッ!」
「だったらこっちもだ!ユキノオー、連続でれいとうパンチ!」
それぞれ両方の拳にエネルギーを纏わせて、激しくぶつかり合うそれぞれのエースポケモン。パンチが時たま両者の体を掠めるものの、気にも留めず激しく打ち合いを続ける。セレナやポケモンたちは、無言でその勝負を静かに見守る。
しばらく激しい打ち合いが続き、やがて両者の動きが鈍ってきたためそれぞれのトレーナーが一旦下がらせた。
「ゴウカザル、一旦距離を取れ!」
「ウ、ウキャ……」
「ユキノオー、お前もだ!」
「ノ、ノオッ……」
一旦後退したゴウカザルとメガユキノオー。それぞれ致命傷はないものの体中に傷が付き、ダメージが積み重なっていることが分かる。両者共に息が荒いのがその証拠だ。
(ゴウカザルの体力が持たない……早く決着を着けないと……)
焦りを感じ始めたサトシ。その焦りが……致命的な隙となる。
「ユキノオー、こおりのつぶて!」
「ノオーッ!」
メガシンカ前とは比べ物にならない量のこおりのつぶてが、ゴウカザルに襲い掛かるように降り注ぐ。それに表情を険しくしたサトシは、腕を薙ぐようにして指示を飛ばした。
「ゴウカザル、かえんほうしゃで薙ぎ払え!」
ゴウカザルはかえんほうしゃを薙ぐように放ってこおりのつぶてを迎撃し、爆発して白煙が生じる。……白煙?
(しまったッ……!)
サトシがウルップの狙いに気付いた瞬間、煙を裂いて腕に新緑の力を宿したメガユキノオーが現れる。
「ユキノオー、ウッドハンマー!」
「ノオォォォォッ!」
「ッ!ゴウカザル、マッハパンチで迎え撃て!」
「ウ、ウキャッ!」
慌ててマッハパンチを発動させたものの……一歩遅かった。
「ウキャァァァ!」
「ゴウカザル!」
ウッドハンマーが直撃し、ゴウカザルは宙を舞った。そこにさらに、追撃が届く。
「エナジーボールだ!」
「ユッノォォォー!」
「ゴウカザル、防御だ!」
未だ空中でくるくる回って体勢が立て直せないゴウカザルは腕をクロスさせて、せめて威力を軽減しようとした。……が、メガシンカして威力が上がっていたためたまらず吹き飛ばされて左手の壁に激突した。
「あ……。た、立て!立つんだ、ゴウカザルッ!」
「ウ、ウキャ……」
サトシはそちらを思わず呆然として見た後、ゴウカザルに必死に立つように呼び掛けた。ゴウカザルは懸命に腕を地面に立てて立ち上がろうとするが……。
「ユキノオー、もう一発だ!」
「ノオーッ!」
そこへ容赦なく追撃のエナジーボールが届き、今度こそゴウカザルはフィールドに倒れ伏してしまう。
「ゴウカザルーッ!」
「ゴ、ゴウカザルが……」
「ゴウカザル、負けちゃうの……?」
「サトシ……」
シトロンとユリーカは、サトシのゴウカザルのピンチの状態に動揺してしまう。一方セレナは心配そうにサトシの方を見やり……あることに気が付いた。
(サトシ……笑ってる……?)
そう、笑っていたのだ。小さくではあるが、口元には笑みが浮かんでいた。……このピンチにも関わらず。
「ゴ、ゴウカザル戦闘ふの……」
いっこうに立ち上がらないゴウカザルに、審判は戦闘不能の判断を下そうとしたが……。
「待て!」
「え?」
「よく見てみろ」
ウルップに止められて、もう一度ゴウカザルを見やる審判。ゴウカザルは……なんとふらつきながらも立ち上がっていたのだ。サトシは顔を上げてニヤリと笑い、ゴウカザルに呼び掛ける。
「ウルップさんの言う通りだ。……まだいけるだろ、ゴウカザルゥゥゥ!」
「ゴウキャーァァァァァッ!」
ゴウカザルが雄たけびを上げた瞬間、その体を灼熱の炎が包み込み、爆発的に膨れ上がった。その熱はフィールドの氷をすべて溶かし尽くし、観客席にもその熱を届かせる。
「あ、あっつい……!」
「シ、シトロン、これって……」
「……これは、まさか『もうか』!?」
「お兄ちゃん、もうかって……」
「ええ、初心者用ポケモンのほのおタイプの大半が持つ特性です。みずタイプ、くさタイプにも『げきりゅう』、『しんりょく』という似たような特性があります。体力が限界に近づいた時、ほのおタイプの技の威力が上がる特性ですが……ここまで強力なものははじめて見ました……」
「……もしかして、サトシはこれを狙ってたの?」
「「え?」」
シトロンとユリーカがセレナの方を向いて、説明を求めた。
「さっきサトシ……笑ってたの。全然動揺してなかったし……これの発動はサトシの想定の範囲内だったんじゃないかしら」
「……ありえる話です。確かにこれは……『特別な力』ですね」
「ゴウカザル、いけるな!」
「……ウキャ!」
ゴウカザルは振り向き、目を真っ赤に光らせながらコクリとうなずいた。
「……ゲッコウガ、これがゴウカザルの特別な力。『もうか』って言うんだけど……ふつうのもうかとは違くて最初の頃は全然制御できずに暴走してたんだ。……でも最終的に、俺たちの絆の力で克服できたんだ」
「……コウガ」
ゲッコウガは自分と同じように特別な力に苦しみながら、完全に制御してのけた先輩の勇姿に目を輝かせる。
「……熱い。いやー、これは驚いた。こんな熱いのは初めてだぜ!」
そう言って嬉しそうに破顔するウルップ。サトシは釣られて笑顔を浮かべながらも、真剣な表情をする。
「ありがとうございます!……それじゃあ、たっぷり味わって行って下さい!ゴウカザル、かえんほ……」
うしゃ、と指示を出そうとして硬直するサトシ。彼の視線の先には、何かの技の兆候のように体を赤化させるゴウカザルの姿だ。それを見てサトシが思い出したのは……カントー・グランドフェスティバルのハルカとシュウのバトル。それから無意識にサトシが浮かべた笑みにウルップが危険を察知し、ユキノオーに呼び掛ける。……が、今度はウルップの方が遅かった。
「ユキノオー、避け……「ゴウカザル……オーバーヒートォ!」!」
「ウァッキャァァァーッ!」
「ノオーーーーッ!」
ゴウカザルの口から放たれたのは、通常のオーバーヒートを遥かに上回る威力のオーバーヒート。その超強力な熱線がメガユキノオーを飲み込み……放たれ終わった後、既にメガシンカが解除されたユキノオーが目を回して倒れこむ。
……一撃。たった一撃で、メガユキノオーがノックダウンされてしまったのだ。その威力に圧倒され、その場の全員が呆然とする。
「……なんという……」
「ユ、ユキノオー、戦闘不能!ゴウカザルの勝ち!……よって勝者、マサラタウンのサトシ!」
なんとか平静を立て直した審判が、サトシの勝利を告げる。それを聞いてもしばらく呆然としていたサトシであったが……耳から入った言葉がようやく理解出来た。
「……勝った?俺たち、勝ったんだ!」
「……ウキャウキャ!」
「コウガ、コウガ!」
「バクバク!」
もうかが解けたゴウカザルと見守っていたゲッコウガ、それにボールに戻されていたバクフーンが出てきてサトシに飛びつき、喜びを分かち合う。
「ほんっとうによく頑張ってくれたな、お前たち!」
「ウキャ……」
「コウガ……」
「ヴァウ……」
サトシの労いに、涙ぐむゴウカザル、ゲッコウガ、バクフーン。そこに、同じく喜んでいるピカチュウ、ルチャブル、ファイアロー、オンバーンも僕も私も、と飛び掛かる。
「ピカピー!」
「チャ―ブル!」
「アアーッ!」
「バァーン!」
「おわっとと……お前らも、応援ありがとうな!」
「「「サトシーッ!」」」
「デネデネーッ!」
「オロロロ!」
「ちょ、皆待てって……うわああッ!」
サトシが手持ちたちを労っていると、シトロン、セレナ、ユリーカにデデンネ、プニちゃんも飛び掛かり、流石に耐え切れず倒れこむ。
「サトシ、すごかったよー!」
「本当にすごいバトルを見せていただきました!僕、サトシの仲間でよかったです!」
「私も、こんなにかっこいいバトルを見せてくれてありがとう!」
(バトル中のサトシは、もっともっとかっこよかった……はあ……)
サトシがもみくちゃにされながらも、心から笑っていると、ユキノオーを労りながらボールに戻したウルップがジムバッジを携えた審判と共に近づいてきた。
「いやー、久々に激熱なバトルを堪能させてもらったよ。今のお前さんになら、安心して渡せる」
ウルップがバッジを手に取り、サトシに差しだした。
「これがエイセツジムを突破した証、えーっとあれだ……アイスバーグバッジだ」
「ありがとうございます!……アイスバーグバッジ、ゲットだぜ!」
「ピッピカチュウ!」
「コウガ!」
「ウキャキャ!」
「バクッ!」
「バァーン!」
「アアィッ!」
「チャブル!」
ウルップからバッジを受け取り、いつもの決めポーズを決めたサトシ達。取り出したバッジケースに、ようやく八個すべてが収まった。
「すごいわね、こうして並ぶと!」
「僕もなんだか感慨深いです!」
「あれだろあれ、ジムバッジがそろったんだろう?だからあれだ、カロスリーグだ!」
「はい!」
「ポケモンに好かれてるお前さんが、どれだけポケモンを信じているか分かった。だからあれだ、お前さんが好きになったよ。どこまで行けるか、自分の目で見て来い」
「勿論です、必ず優勝します!」
「おおー、そりゃ頼もしい限りだ」
こうして、全てのバッジを揃えたサトシ。ここから、さらなる飛躍が始まる。
ゴウカザルの新技、オーバーヒート。この技は、ゴウカザルVSユキノオーの戦いの流れを考えている時に出そうか、と思い立ちました。もうか状態の時は威力は激やば。くさ、こおりと四倍とはいえ一撃でメガユキノオーを戦闘不能に追い込みました。
ゴウカザル
サトシのシンオウのエース。同じほのおタイプのリザードンや、一個前のエースジュカインを超えるのが今の目標。
使用する技
マッハパンチ、かえんほうしゃ、あなをほる、フレアドライブ、インファイト、かえんぐるま、オーバーヒート(NEW!)