全地球防衛機構軍は平時も戦時も忙しい 作:レンジャーを愛する兵士
レンジャーチームの隊員が新聞を読むようです。
「ふぅ、アチチっ!」
朝一番のコーヒーを啜るのは、先日から3日間休みを貰った朽木隊長。階級は軍曹である。
「参ったなぁ、もっと冷やして置くべきだった」
淹れて直ぐのコーヒーを飲みながら『冷やしておけば』とは矛盾しているが、それは後の話。朽木はふかふかの椅子に座りながら『地球防衛軍広報新聞』を開く。大見出しにはでかでかと『高機動型ニクス、大量導入』と書かれている。恐らく先日にベース236に搬入されたニクス・Cバーナータイプの事だろう。近接戦闘に特化した黄色い塗装のコンバットフレームが、色付き写真に大きく収まっている。
次に目を通したのは『レーダー訓練、一般公開』という内容だった。確かレーダー技術は全て機密事項だったはずだが、上の意向で解放したのだろうか。
先日、我々全地球防衛機構軍はレーダー技術の殆どを一般市民の皆様にもご覧頂けるよう、公開いたしました。これによって普段何をしているかわからない、という市民の皆様の声にもはっきりお答えできると踏んでいます────
そんな内容だった。
確かに、元航空技師などであればいざ知らず、レーダー技術に全く知識を持たない民間人がレーダーを見た所で、何をしているかさえわからないだろうに、軍曹が言えたことではないが、何を考えているのかわからないというのが正直なところだ。
次の見出しは『UFO発見か!?インドにて未確認の飛行体発見さる』。これに至っては訳がわからない。どうして公明正大なEDF広報部発行の新聞が、こんな嘘とも本当とも付かないニュースを取り上げるのか、理解できなかった。
「はァ......。今日はいつにも増して奇怪な内容ばかりだな。いや、ニクス搬入だけはまともだったか」
新聞を閉じてすっかり冷えたコーヒーを一息に飲み干すと、頭が冴え渡るような感覚を覚えた。外は冬景色、季節も二月上旬と、銀景色を見るには遅すぎる時である。息を吐けば凍って白くなり、妻と息子は外で遊んでいる。
家庭を持つ隊員は、こうして駐屯地の外に家を持つ事を許可されている。更には日本だろうとアメリカだろうと関係なく、EDF隊員は自宅に装備一式を常備する事を義務付けられている。なんでも有事の際、家族や身近な市民を守る為なのだとか。EDFに入隊して早3年、そんな事はついぞ起こっていないのだが。
「お父さん!お父さんもかまくら作ろー?」
不意に声が聞こえる。息子が父を遊びに誘おうと声をかけに玄関の戸を開けたのだ。その姿を在りし日の自分に重ねた朽木は、懐かしい気分になって口元を綻ばせた。
「おっ、かまくらか!懐かしいな、父さんが子供の頃は良く雪のお家を作っていたんだよ」
「本当?じゃあお父さんはかまくら作りのプロだね!」
「おうとも!父さんは凄いんだぞ!なぁ、紗友里」
そう言って息子の肯定に便乗して、妻の紗友里に話を促す。それを聞いて彼女は目元を下げて笑った。
「そうね。あなたが昔小さかった頃は、いっつもあなたに連れ回されて、空き地で皆と雪合戦をしていたわね」
「はははっ、もう30年も前の話だな。よーし、優!父さんと一緒にかまくら作るぞ!」
父と子、親子の絆を深める大切な時間は早く過ぎていくものだ。そして辛い時間は何故か長く感じてしまう。
朽木少尉にとって、家族を失った時からがそれだった。
「少尉殿!西方2700mに敵の一団!攻撃を仕掛けますか?友軍の到着を待ちましょうか?」
「生かして返すな。ここで殺さなければ市民に危険が及ぶ。民間人を守るのが私達の使命だ、行くぞ!」
一年前、家族を失った男は、最後に失ってはいけないものを守ろうとしていた。それは、彼の信念であったとも、EDFの掲げる理念であったとも、失った家族との思い出だったとも、彼の部下の口から語られているが、その真偽はもはや彼以外に知る者はないだろう。
ちょっと不穏な終わり方。あと二話で戦争が始まる。