全地球防衛機構軍は平時も戦時も忙しい 作:レンジャーを愛する兵士
次で戦争です。
写真を撮っているのは、EDFのネタを中心に活動する、フリーの記者だ。名前は篠田。齢27のベテランだった。彼の写真はブレなく正確で、狙った獲物は必ず抑えると評判だった。今日もEDFの基地に張り込んでいる所だったが、今日は何か様子がおかしい。普段はのんびり屋の隊員たちが、今日は忙しなく動き続けているのだ。サボり気味の見張りすら今回ばかりは厳重に警戒していたせいで、これ以上は近寄れそうもなかった。
だが、その状況が逆にチャンスなのではないかと篠田は考えた。内部に潜り込めさえすれば、或いは大スクープを撮れるのではと愚考したのだ。普段サボっているとはいえ、彼等は訓練された一流の兵士。厳重な警戒網を突破出来るはずもなく、EDF隊員に拘束されてしまった。
「......で、篠田さん、今日はどうしてここを嗅ぎ回ってたんですか?理由によっては拘留されたままですよ」
「理由なんかありもしねぇ、ただ、スクープの匂いがしたんだ。それもドデカい奴だ。それを掴めりゃ、高値で売れると踏んだんでな。で、この騒ぎはなんなんだ?」
現に尋問室の外からは絶えず隊員達の指示の声や足跡、戦車のようなビークルが行き交う音が聞こえてくる。篠田はこの騒がしさにこそ、その秘密が隠されているのではないかと考えたのだった。
「......どうします?教えておきます?」
「.....................良いだろう。どうせ何も出来ん。俺達にもどうしたらいいかわからないからな」
「へぇ、旦那達がどうしようもない事と言っちゃあ、まさか悪霊でも出たのかな?」
揶揄うが、その表情は双方共に固い。冗談を吐いた口も、全くもって笑っていなかった。篠田だってベテランのパパラッチ。何があってこんな大忙しなのか、見当こそつかないが察しはついていた。
「......本当に、化け物か何かが出たってか」
「現状はわからない。ただ、最近になって配電の不備や不自然な溶解痕が目立っていたからな。それを調査しているうちに、何かしらの生命体が存在する可能性が示唆された。そして、そいつは基地の外部に逃走したとも言われている」
「...........へっ、さしずめ『酸の怪物』だな」
「おおよそそう捉えて間違いはない。事実、セラミクス製の金属防護壁が、中程まで溶かされていたんだ」
「あのブロック間を仕切ってるシャッターか」
あれを溶解させる程の濃度の酸となると、出会った隊員は一筋縄ではいかないかもしれないだろう。何故なら、そんな強力な酸を浴びせられる様なやつがいるのだとしたら、それはきっと体内の構造を考えても非常に巨大であると捉えられるからだ。
「目処はついてんのか?そんな奴野放しにしてみろ、一般人に被害が及ぶぞ」
「俺達だってわかってる!だが、居場所の特定が不可能なんだ!こんな事、有り得ないはずなんだぞ!?」
「やめろ!言い争ったって何も解決しないだろう!今はただ、敵を探し、脅威を討滅する。それだけだ」
そう言って寡黙だった方の隊員はドアの向こうに消えていった。雄弁な方の隊員はしばらく黙っていたが、ふと口を開いた。それは、篠田を解放する代わりに、今回の事は誰にも伝えないで欲しいという事だった。
「......わかった。市民を混乱に陥れたくない、そういう事だろう?なら仕方ない」
「......助かります。くれぐれも内密に、頼みますよ」
そう言って、彼は釈放された。誰も見ていない所でほっと安堵のため息を吐く。やっと開放された、というため息が、思わず口先を突いて出たのだ。
「とりあえず、帰って酒でも呑むか」
篠田の帰り道は静かだったが、妙な恐ろしさを感じて、帰宅した後はそのまま家から出る事はなかった。それはある種で正しい判断だったのかもしれない。だが、非常事態が起きたことを考えれば、その決断は間違いなく死に繋がったろう。篠田は、戦闘に巻き込まれて消息不明なのである。
篠田さん
享年27歳。住んでいた地域がプライマーの先制攻撃区域に指定され、そのままEDFとの交戦中に、侵略生物αの酸に巻き込まれ、以降消息不明。