全地球防衛機構軍は平時も戦時も忙しい 作:レンジャーを愛する兵士
みんなが脱出しようと奮戦する話です。
「さあ始めよう。今日の仕事は基地内の車両誘導だ。君はビークルの点検、君は荷物運び、君は今日の飛行ショーの主役だったかな?みんな忙しいと思うけど、最後に動きの確認だけしておこうか」
新人達に仕事を教えるのは久住。言わば全員の先輩に当たる人だ。皆が皆、動きの最終確認の為に歩いたり飛んだりしている。飛行装置を吹かしたり、パワードスケルトンの調子を確認したりと、各々が正常に動ける事を確認する。
さて、そろそろ各々の仕事に取り掛かるとしようか。そう先輩が言うと、ほかの4人もそれに賛同する。車両倉庫を出て、車両誘導を担当する浅見、軍用機の点検や整備を行う斉藤、飛行ショーに出演する間中、パワードスケルトンを着用して荷物を運ぶ三上の4人と、彼等を纏める先輩、久住の5人で倉庫を抜けてそれぞれ別の道を歩き始めた。持ち場に向かい、仕事を務めようと各々が背を向けた瞬間だった。
視界が突如赤く染まり、緊急事態を知らせるブザー音が彼等の鼓膜を襲った。皆が皆、警報装置を見て事態を掌握しようとするが、何が起こっているか全くもってわからなかった。
けたたましい警報の音で4人は不安そうに辺りを見渡す。久住もさすがに不安を隠しきれないようで、しきりに後ろを振り向いたりしていた。
「先輩、私達はどうなっちゃうんですか?」
「ど、どうだろう。今はとりあえず基地から出ないと。ついてきて」
間中が、久住に問いかける。彼もどう答えるべきかわからずに、とりあえずの解決策を提示する。全員がそれに応じた事で、久住を先頭に5人は歩き始めた。
「な、なんで誰も居ないんだ?誰かいないのか!?」
「おーい!誰かいませんか!?」
斉藤の発言に便乗するように三上が大きな声で呼びかけたのを諌めたのは、久住だった。
「しっ!静かに......!」
その一声でみんなが息を潜めて耳を澄ませる。そうすると、何かが聞こえてくる。けたたましい警報の音に隠れて聞こえにくいが、彼等の耳に届いた音は火薬の爆ぜる音。すなわち、銃声だった。
「......先輩、これって...........!」
「誰かが戦ってるんだ!もしかしてテロリストか!?」
三上と久住が焦ったような声を出す。それを聞いた間中もその居るかわからないテロリストに怯えてしまっている。そこに浅見が口を挟んだ。
「落ち着いて。もしテロリストならどうやってここに侵入した?......みんな体験したと思うけど、ボディチェックは厳戒だった。武器のひとつどころかポケットナイフの一本でも拘束される事のあるこのEDF基地で、どうやって武器を持ち込む?」
「そ、それは......ほら、武器庫に侵入して......」
久住が意見を述べるが、浅見がバッサリ切り捨てた。
「できるはずがありません。武器倉庫に入るにはIDが必要の筈です。それも、IDが適用される階級は三等軍曹からです。そもそもの話、武器庫や軍事車両倉庫は警備が厳重です。数ヶ月前にもスクープを求めて中に入ろうとしたフリーライターが捕まったらしいですよ、それも外で。そんな所に入り込めるはずがありません」
それを聞いた斉藤が顔を青ざめさせた。
「......まさか、内部犯か?それなら説明ができる。結構前からEDFと対立するゲリラ組織があったろ?そいつらがわざわさ入隊したのかもしれん」
「カインドレッド・レベリオンだったか。まさか、ずっと前に解体されて久しいはず」
議論を後目に間中が辺りを見渡していたようで、叫び声を上げて他の4人を驚かせる。
「どうした!?」
「あ、あれ!あれ見て!人が倒れてる!」
その言葉に全員が間中の指差す方向に目を見やる。と、そこには確かに人が倒れていた。しかしそれは人と言うには少しばかり黒ずんでいた。遠くに転がっていったのか、ライフルやショットガン、数個の手榴弾は無事だったようだ。
近くに寄って見れば、その黒ずんだ理由がハッキリとわかった。その人はEDFの隊員だが、グズグズに溶かされていた。よく見るとアーマーやヘルメットだけが少し焦げている程度で済んでいたのに、肝心の人体は明らかに強い酸のようなもので攻撃されたようだった。
「ひっ!」
「見ないで。残念だけどもう死んでる。武器は借りていきましょう。万が一に備えるべきだ」
怯えた声を上げる間中を手で制し、銃を借りようと言う浅見。それに賛同するのは斉藤だ。
「...........そうだな。ライフルといえばレンジャーだ。一番歩兵に近い格好をしてるのは浅見と久住先輩か」
「じゃあ僕達が武器を持つよ」
怯え気味だった久住も死の危険を前に腹を括ったようでショットガンを手に取り、決意を顕にした。
「やれる事はやりましょう、先輩。......そうだ、その人のアーマー、持っていった方がいいでしょう」
「ええっ!?こ、この......焦げた...........アーマーを?」
そう言って嫌悪感を隠さない久住。もちろん防御面を確保するだけではない、アーマーにはもしかしてひとつ秘密があった。
「その人のヘルメット、赤いですよね。肩当ても片方が赤。赤いカラーは三等軍曹の階級色なんです」
そう説明しながら肉片のこびり付いたアーマーを引き剥がし、ネームプレートを確認した。そして、その名前が浅見にとって馴染み深い人間のものだったのだろう。その名を叫んで驚嘆の声を漏らす。
「......飯島さん!?そうか...........死んじまったか」
「あの、浅見さん。飯島さんって、どなたですか?」
間中の疑問に沈黙で返す。その様子を見て察したようで、間中もそれ以上口を出そうとはしなかった。が、その疑問は拭えなかったようで、それを理解した浅見が軽くだが説明した。
「俺は元軍人でさ。飯島さんは俺が伍長だった時の上官だ」
「元軍人......そうか、だから階級色に詳しかったんだな」
そう言ってアーマーの中のくすんだ肉片を払い落とし、アーマーをゆっくりと着込む。膝当てや肩当ては無いが、胴体に対する防御力はこれで問題ないはずだった。
「行こう。外に出て、俺達は家に帰るんだ」
「まずは武器庫だな。出る前に死んじまったら幾らなんでも最悪すぎるだろ?」
「俺が道を知ってる。ついてきてくれ」
久住に代わって道案内を行うのは、アーマーとライフルで軽く武装した浅見となった。従軍時代から変わらない構えで警戒しながら歩を進める。その動きはまるで軍人だった頃とまったく変わっていなかった。
「ここです、ロックを解除しますよ」
「みんな下がって!」
浅見の言葉に乗じて久住が武装していない全員に注意を促す。
「......なんか音が聞こえないか?」
「これは......足音?」
「後ろだ!」
後ろを振り返ると、別の道に通じる半開きの金属防護壁が鎮座していた。その向こうから、確かに軍靴が聞こえてきていた。人だった。
「おい、人だぞ!おーい!俺達はここだ!」
『聞こえたか!?民間人かもしれん、行くぞ!』
その声は確かに届いた様だった。防護壁が完全に開き、その先にいたのは紫とオレンジの迷彩服とアーマーを着用した一等軍曹だった。
「......民間人か?よく無事だったな。そのアーマーは......誰のか教えてくれないか」
「誰だ、こいつら?」
「民間人でしょう。よく無事でしたね」
「全くだ。俺達軍人ですら、奴らの奇襲に対応出来てないってのに。とんでもない悪運の持ち主がいるらしい」
4人のレンジャーが隔壁の向こうから現れる。その内の一等軍曹に、浅見は恩人の顔を思い出した。
「もしかして...........橋村一等軍曹殿!?俺です、誠司です!」
「誠司................まさか浅見伍長か!生きていたか!どうしてここに?そのアーマーは誰かから借りたのか?」
軍曹......もとい、橋村軍曹は思わぬ昔の部下との再開に喜ぶが、それも束の間、直ぐに表情を戻し、アーマーの元の持ち主が誰かを尋ねた。
「その、持ち主は飯島三等軍曹です......既に死んでいました」
「そうか......飯島が...........わかった。民間人を守るのは軍人の務めだ。だが、ここには無数の敵が潜んでいる事がわかっている。俺達でもお前達を守ってやれる自信はない。よって武器庫で装備を調達、各々で身を守ってもらう。異存はないな?」
それで死なずに済むなら、と全員が戦う事を決意する。それぞれ久住と浅見にはアサルトライフルとロケットランチャー。間中にはレイピアとサンダーボウ。銃器の扱いが苦手な斉藤はサプレスガンとセントリーガン。三上には民間用パワードスケルトンの恩恵を活かしてフェンサー用のディフレクションシールドとガリオン軽機関砲。軍曹達は新たに弾倉を補充して、戦闘準備はここに整う事となった。
「こっちだ。まずは車両搬入口から脱出するぞ」
「でけぇエレベーターって奴だ、着いてこいよ?戦えなきゃ奴らの餌にしちまうからな!」
「そう言うな。出来る限り俺達が守る」
そう言って軍曹の率いる部隊が先行し、安全を確保する。そうしてから民間人5人がついて行く。
結局の所、大した脅威にも出くわす事無く脱出は叶った。
そう、脱出は。
「なんだ......これは......!?」
軍曹が驚愕の声を漏らす。そこには先んじて基地を離脱していたレンジャー3個分隊が、3倍以上の敵に苦戦を強いられている光景があった。
「撃て!撃ちまくれぇ!」
「ダメだ、このままじゃやられちまう!」
「ニクス!まだ動けないのか!?」
『《現在起動シークエンスを終了させた!クソッ、早くしろこのポンコツ!何とか20秒稼いでくれ!!》』
「む、無理だ!ぅあ、うわあああああぁぁぁ!!」
そこは阿鼻叫喚の地獄だった。紛争ではその機動力や装甲から猛威を振るったコンバットフレームが、酸によってたったの数秒で再起不能に至らしめられ、歩兵は必死に銃を撃ち続けている。文字通り弾丸をばらまいていた。
「どうすんだよ!?これじゃ地下の方がマシだった!」
「黙って撃て!仲間を助けるぞ!」
「そういう事だ、悪いな民間人。もう少しだけこの馬鹿げたショーに付き合ってくれ!」
そう言って軍曹の部隊が先行して友軍と合流し、敵に立ち向かっていく。
「ぼ、僕達も行かないと!」
「結局軍を抜けても、戦う事になるとはな!」
「斉藤!あんたのセントリーガンが頼りだ、リロード時間には注意してくれよ!俺はフェンサーになるのが夢だったんだ!前線は任せろ!」
「わかった!間中さん、援護を頼む!」
「わ、わかりました!」
決意を固めた5人の民間人たちが、巨大な怪物に向かっていった。戦いを知らない4人を率いる浅見という男。彼こそが、後の戦争にて
浅見
ストーム1枠。元軍人であり、紛争によって大きな功績を挙げるも、当時の彼には戦闘狂的一面が見られ、精神科医を頼った上で除隊。更正し、民間の警備会社にて働くが、EDFの車両誘導を任された時に運悪く侵略生物に遭遇。そのまま成り行きで再入隊する事となった。後に伝説の英雄と呼ばれる。
久住
ストーム2枠。浅見の先輩であり、警備会社に勤めながらもどこかのんびりとした性格をしている。軍に入隊後は軍曹の率いる部隊に編成される。後にストーム2のスーパールーキーとして名を馳せた。
三上
ストーム3枠。EDF基地で仕事を始めた時に、侵略生物の攻撃を受け、現地の部隊と脱出の後軍に入隊。民間人の時に優れた戦績を挙げた事から精鋭フェンサー部隊『グリムリーパー』に入隊。単独任務で大きな功績を挙げる。
間中
ストーム4枠。三上と同じような経緯でEDFに入隊。臆病な性格ながら戦闘中は感情を押し殺して高い位置から強襲攻撃を仕掛ける『ダイブ』という戦術を取り、優秀な隊員として他の味方と共に表彰され、後にスプリガン隊に所属する。
斉藤
本部お墨付きの最新鋭爆撃機『フォボス』のパイロットとなる。後にストーム1へ再編成され、ストームチームにエアレイダーありと言わしめる程の正確な座標指定精度を見せる他、数々の軍需兵器を使った戦法を会得し、長らく防衛戦において優秀な戦績を誇った。