夏。日差しは蝉の鳴き声とともにどんどん強くなっている。
しかし、とある工場では蝉の声ではなく、悲鳴が聞こえていた。
そこに男二人が駆けつける。
「それを使うんだ。トウヤくん。」
今となっては稀にみる和服のような恰好をした男が声をかけたもう一人の彼は、瀬戸透也、この物語の主人公。
彼は今から、仮面ライダーに変身する。どこの誰かも知らない怪物と戦うために。
「仕方ねぇ。やってやるよ。」
彼が腰に巻いているベルトのスイッチを押すと、ホログラムのモニターが彼の前に出てきた。彼はそれに習ってもう一人の男からもらった変身アイテムを起動し、ベルトに挿入する。
「変身!!」
彼は叫んだ。
すると、彼の後ろには巨大なスピーカーやドラムセットなどが現れ、彼が両手を思いっきり広げた途端彼に引き寄せられ、彼の体の一部となった。
『Z!ORIGINAL! KAMEN RIDER!』
いつの間にかあたりにいたはずの蝉はいなくなり、場の空気は冬であるかのように冷くなる。
「俺は正義の味方、仮面ライダーZだ。」
◆◇◆◇
透也が仮面ライダーになるたった三時間前。
彼はちょうど公園で音楽を聴いているところだった。
風が吹き、彼は決めてきた前髪を整えるためにスマホの内カメラをのぞく。そしてただ前髪を整え、遊んでいる子供を横にしながら音楽に集中するのだ。
彼は、自分が世界で一番洒落ていると思っている。聞いている音楽も、普通の人から見れば【センスがある】という音楽ばかりだ。
実際、モデルのスカウトなどをされたこともあり、女性にもモテないわけではなかった。しかし彼はすでに述べたがナルシストというところがあり、彼に近づいた女性は中身を知って離れていくのだった。彼はその自分のことを【罪な男】だと本気で思っているのだった。
大学一年生の夏休み、彼は何もしない気でいるのだった。
一つのプレイリストを完走した。
彼がプレイリストを変えようとスマホを手にすると、隣に人が座っているのが見えた。彼が移動しようとすると隣人は「まって。」と言って引き留めた。
「どうしました?」と透也は尋ねる。
隣人は20代前半くらいの男性で、和服のような服を着ていた。
男は透也の問いに答える。
「私は丸山。暇な大学生に夏休みが楽しくなるものを配っていてね。君にもこれをあげよう。」
丸山はそういうと持っていたスーツケースからベルトを出し、押し付けるように透也の手に乗せた。
「これは...?」
透也が聞くと彼は即答した。
「それはZドライバー。君には仮面ライダーになって...この日本を守ってもらう。」
透也は知らない単語ばかりで混乱した。
仮面ライダー?Zドライバー?透也は怪しいと思ってドライバーを返そうとする。
しかし
「頼む。もらってください。」
と丸山が土下座をしようとしたので土下座を止めてドライバーを受け取った。
「...それで、日本を守ってもらうってどういうことですか?」
「その感じだと信じてもらえないかもしれないが、私はシンガポールの闇組織《ドレイン》から抜け出してきた人間だ。勿論命を狙われている。そのドライバーも本来、AからZまであったものの一つで私が担当だったものだ。」
「ドレイン...」
透也は名を忘れないように繰り返した。
「ドレインは日本をライダーシステムを使って自分たちだけの国にしようとしている。奴らは人間の細胞を急速に分裂させて怪物化させる技術をもっている。きっともう日本にも《使徒》達がきているはずだ。」
透也はドライバーを握りしめる。
「俺は何をすればいいんですか?」
「君には最終的にドレイン自体を潰してほしい。」
丸山は透也の目を貫くほどまっすぐ見て訴える。
「やってくれるかな。」
透也は丸山を信じてうなずく。
「その、使徒っていうのはどこにいるかわかるんですか?」
「ああ、敬語じゃなくていい。そんなの、今はネットっていう便利なものがあるはずだ。あと――」
丸山は自分の後ろを見つめる透也に気付き、そちらを見る。
そこではもう、子供が怪物を襲っていた。
「あれ、使徒だよね。」
返事はなかった。
「早く子供を隠せ!!こいつは大きな音のほうへ集まる習性がある!」
透也が使徒のほうへ向かったときには丸山が公園にいる人を非難させていた。
子供の泣き声は蝉より大きかった。
一人逃げ遅れた子供が泣き叫んでいる。使徒はそこへ走って襲い掛かった。
しかし、それは透也に止められた。
透也は生身で使徒に体当たりをし、転ばせたのだった。子供を逃がすと自分も一旦使徒から離れる。すると使徒は団地のほうへ走っていった。
「そいつを逃がすな!」
丸山が叫んだ。透也は使徒の後を走っていく。
使徒がたどり着いたのは、民営の工場だった。透也ももちろんその中へ入っていく。
そこで透也は驚いた。なんと一体だった使徒が四体に増えていたのだった。
透也が見ていると使徒たちはだんだん工場の従業員に近づいていく。従業員は次々と悲鳴をあげる。
彼は見ていられなくなり、その場に飛び込んでいった。
そのとき、
バァン!
と銃声が聞こえた。
全員の動きが一瞬止まる。
丸山ではなかった。
警察の服を着た男が「警察だ。」と言いそこに入っていく。
「これは着ぐるみか?」
と使徒のほうへ近づき、体を触る。
「離れろ!」
駆け込んだ丸山が叫ぶが、もう遅かった。
警察の男は壁に投げられ気を失った。
またその場には悲鳴が飛び交う。
そうして彼は、仮面ライダーZへと変身したのだった。
瀬戸透也の長いライダー生活が始まる瞬間だった。