それは唐突に起こったことだった。
唐突に、空が歪んだ。ただ、それだけ。
「一言でいうなら、異変ですね。」
女神、ネプギアはそう言う。
「...別次元...別世界からの干渉が多くなっているから起きたものと考えるのが自然っぽいが...それとは違うのか?」
「考えられないよ。私が何度も何度も見て導き出した結論だもん。」
「だとしたら一体あれはなんだ。」
「わかりません。そして厄介なのは...あの歪みは、シェアエナジーを感知できる存在にしか知覚できないということです。」
「現状、女神であるネプギア、俺と茜...そして夕とイストワールだけということか...」
ねじれているように見える空。シェアエナジーによる歪み...女神かそれに匹敵する何かがこちらに干渉してきている...か...
「待ってください影さん。夕ちゃんも見えるんですか?」
「あぁ。」
「...今はその点よりも...この歪みの原因を突き止めないとだね。干渉してきているというのなら、逆探知はできると思うんだけど...」
「試したさ。だがわからずじまい。この世界の法則で動く俺の義眼じゃわかんないよ。」
「私の把握も同じような結果だなー、向こうからもう一アクションないと絞れないよ...」
「ですがそれは、後手に回るということですよね...」
沈黙。打つ手がない。厄介な事象だ。
「ただいまー。」
「お、ゆーちゃんおかえり。空はどんな感じ?」
「ねじれてねじれて...でもボク以外のみんなは見えてないみたい。それと...だんだん黒い空間ができてきた。」
「...気取られたと悟ったとみるのが自然か。ギア、各州のトップに都市防衛システムの起動を催促しよう。...24時間以内に仕掛けてくると見たほうが...」
いい。そこまで言い切る前に振動が襲った。プラネタワーが揺れるほどの振動...!?
「状況を報告してください!」
「それが、いきなり上空から無数のメカが!新種のモンスターか何かでしょうか!?」
「私が出てさくっと調べてくるからギアちゃんは内政をね!えー君、ゆーちゃんをお願い!」
てきぱき動くギアと茜。...俺はもう10年もこの建物の外には出ていない。
「...まずいな...」
「お父さん?」
「本格的にまずいかもしれない。夕、イストワールを呼んできてくれ。俺の勘が当たるのなら...当たってしまうのなら...これは相当にまずい。」
「...わかった。」
「その必要はございません。私はここにいますよ。」
不意に現れたイストワール。その表情は重い。
「敵襲、別次元からのか。」
「はい。幸い物理法則は共通のため現在茜さんや各地の冒険者たちが迎撃にあたっていますが...特にここ、プラネテューヌに戦力が集中しつつあります。」
「そんな...!」
「ネプギアさん。まずは茜さんの援護に向かってください。女神が戦うべき非常事態です。」
「わかりました。いーすんさん、あとをお願いします!」
ネプギアは外へ駆けだし変身して空へ飛ぶ。歪みが広がった空と黒い星のような敵。
「...元を断ち切らない限りは終わらないか。」
「はい。どうやら少し調べたのですが、向こうの次元の私からの情報によると...」
「待て待て、向こうの次元のイストワールだと!?」
「はい。にわかには信じられない話ですが、彼女の情報は全て真実です。ほかでもない私なのですから。」
「頭が痛くなってきた...まぁいい。それで?」
「この襲撃の原因は、向こうの次元に存在している何者かが行っているということです。」
「...その元凶を叩かない限り...か。」
「はい。そして、向こうの一日は、こちらの一年に等しいとのことです。」
「精神と時の部屋だったのこの次元...」
「わかるぞ夕、俺も思った...だがそうなると...向こうが一週間送るだけで7年も、か...なら向こうに乗り込んで片づけないと...」
「ですが、影さん茜さん、それにネプギアさんはこの次元から出すことはできません。」
「ネプギアは唯一の女神であり、俺と茜はこいつが邪魔というわけか...」
首のチョーカーに触れ、眉間にしわを寄せる。このまま手をこまねくしかないのか。
「ちょっと待って、イストワールさん。その言い方だと、誰か一人はその向こうの次元に送ることができるの?」
「はい。そうです。こちらの一年以内に、一人だけ送ることが可能だということです。」
「...ボクが行くよ。」
「は?」
「それは可能でも、影さんと茜さん、ネプギアさんが認めないでしょう。第一、私も反対です。」
「いくら俺と茜の娘で、ひとしきりの技術や能力は叩き込んでいるとはいえ、それは...!」
『いいんじゃないかな?』
だめだ、と言おうとしたら茜からの通信に遮られた。全部聞いていたのか。
『可愛い子には旅をさせよって言うじゃん。それに...ゆーちゃんは自分の身は自分で守れる強い子だよ。そう、育ててきたじゃない。』
「あくまで護身用だ、大掛かりな戦闘技術はまだ詰めてないしそれに...!」
『ゆーちゃんの意思を尊重しよーよ。私たちは、そうされなかったんだからさ。』
「それを言うか、ここで...はぁ...」
溜息をつき、右手を眉間に当てて考える。ふと夕を見ると、こちらをじっと見ていた。
「茜にゃかなわねぇな...!」
「うわっと!っと!」
諦めたような言葉を口にし、不意打ちのように蹴りを夕に入れてみる。すると驚くことにその小柄な身体を活かして避け、空を薙いだ右足をつかんで押すことでこちらのバランスを崩し、右足が床に着くタイミングと同時に
逆立ちをし、俺を左から蹴ったぐる。その勢いを利用し振り返ると夕の手刀が脇腹をかすめていた。
「ナイフ、持ってたら致命傷だったな...わかったよ夕、合格だ。」
肩をすくめ、娘の頭を撫でる。
「えへへ、ボクだって世界で4番目に強いってずっとお母さんに言われてたんだからこれぐらいはできるよ。」
「...茜、ギア、イストワール。向こうに行くのは夕だ。だが...装備が足りない。」
「いいのですか、影さん。」
「いいも悪いも...最善手なだけだ。茜...夕の装備はどうする?」
『ゆーちゃん用の装備?んー、えー君用の装備なら作っておいたんだけどゆーちゃん用は作ってないなぁ...えー君のいろいろを改造するにしたって戦闘スタイルが違うし...ギアちゃん!えー君をプラネタワーから引っ張り出して防衛に回したいんだけど...いい?』
『......何が起こるかわからない別次元に夕ちゃんを送るのだから...それ相応の準備をしたいのはわかります。影さんでは作れないのですか?』
『残念ながら。こーいうのは私の得意分野だからね。把握して、それに合わせて作ること...いわゆる専用装備だからさ。』
『...わかりました。影さん。出撃許可を女神ネプギアの名において出します。ここを防衛してください。』
「...装備は。」
『ギアちゃんの机の左側、一番下の引き出しだよ。』
茜に示された場所の引き出しを開けると、そこにはシェアデュアライザーのような何かがあった。
「使い方は?」
「えー君ならわかるでしょ。名前はハード・アーマライザー。」
戻ってきた茜を見るとそこそこ傷が目立つ。...それだけで、戦場に戻るには十分だった。
「...親切なのか不親切なのか...あれを殲滅してくればいいんだな。」
「そーいうこと。ゆーちゃん。ちょっと手伝ってくれる?」
「うん!」
茜と夕は自室に向かい、俺は10年ぶりに外に出る。空は戦場。一人ネプギアが駆けている。
「もう一度...戦うことになろうとはな...だが...」
ハード・アーマライザーを起動し、装備する。
「戦おう。もう一度。ハードチェンジ、シャドウドライヴ!」
黒の鎧をまとい、空へ駆ける。二丁の銃剣を顕現し、8枚の羽根を開く。
「影さん...!」
「ギア...待たせたか?」
「...いいえ。ぴったりですよ。」
「そうかい。それじゃあ派手に殲滅する。ハードチェンジ、シャドウトゥブラック!」
装甲の一部をパージし、それを埋め合わせるように黒の装甲と新しい剣と銃を装備する。
「茜さんの考えた...影さんの新しい装備...」
まるでノワールのような高速機動とユニのような長物のライフル。感覚的にはパーフェクトストライクと言ったところか。
「迷うな、恐れるな...一度壊して...修復しつつある世界...罪滅ぼしにもならないがせめて...これ以上、この世界を壊させるわけにはいかないんだよ...」
空を駆けて敵を狩る。数多の敵を。
『えー君さすがだね!唯一の問題は敵が減らした分増えていることだけだよ。やっぱり大元を叩くことこそが大事っぽいから...ゆーちゃんを向こうに送り次第、えー君とギアちゃんは超火力をあの歪みに向けて撃ってみて。』
「わかった、茜。」
「ですが...減りませんね...!」
「ハードチェンジ...ブラックトゥシャドウ!」
装備を元に戻し、羽を分離する。
「演算開始...敵性因子多数補足、マルチロック、問題なし。...《ホープレス・スコール》!」
全方位にビームの雨を正確無比に撃つ。...さぁ、まだ来るなら来いよ...
「10年ぶりに見ても...影さんのこれは...避けられる気がしませんね...」
落ちて、消えていく敵だったものに囲まれながら、かつて悪魔だった己を顧みる。
「......力ってもんは本当に...難しいものだ。」
次回、第二話「世界の歪みに飛び込んで」
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