並行世界の先導者   作:Feldelt

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第十話 仕組まれた陽動

ルウィーとラステイションの国境付近、ルウィーの女神を目視で確認できる距離にまで近づいたボクたちは、いよいよルウィーの女神にコンタクトをとるというところまできた。

 

「……へぇ、ずいぶん気合が入ってるじゃない。」

 

ノワールさんは変身して向かっていくけど……もし仮に戦闘になったら、ノワールさんでは勝てない。殺気、迫力、この距離でわかるんだから、相当なものだ。それでも本気のお父さんには到底届かないけれど……

 

「ボクたちは隠れておいた方がいいかもね。勢いで来ちゃったけど、本来ボクにはあまり関係ないことだし……」

「でもでもぉ~ルウィーの女神さんには会っておくべきかなぁ~って思うよ~?」

「その点は賛成だよ。」

 

茂みに隠れながら、二人の口論を眺める。うーん、ボクは議論は意味があるからやるものだと思うんだけど……これは議論ですらない、口喧嘩だ。国の長が揚げ足取りや煽りあいに興じている。聞くに堪えない。

 

「……耳栓、欲しいかも。」

「たしかに~、聞いててあんまりよくないねぇ~」

「お母さんが言っていた、ボクは人の言葉に込められた感情に敏感で、感受性が高いって。だから……今、ものすごく気分が悪い。」

「それじゃあ~、えぇ~い。」

 

唐突にプルがボクの両耳を塞ぐ。自分でやれよ、って話なんだけど……これはプルの優しさ。身をゆだねたくなる。

 

「ありがとう、プル。プルの手、あったかいね。」

「えへへ~、ゆ~ちゃんのほっぺもぷにぷにだぁ~」

 

はてさて今は緊急事態なんだけど……と、ほっぺをつんつんされながら二人を眺める。ひと段落着いて口の動きはゆっくりになってるけど……歯切れが悪い?女神が動くってことは理由は重大……宣戦布告なら悩まないだろうからその線はない。てことは……まさか勢いだけで来た?プラネテューヌとラステイションが接触したというのはあのモンスターが撃破されたことを理解できるか、あるいは何かしらの方法で情報を手に入れたか……ちょっと言葉を聞いただけで判断するのは早計だけどかなり短気な女神っぽいし……あーでも変身後だから?プルがかなり変わる以上変身前後は性格が変わるものと考えて……

 

「ゆ~ちゃん、頭から煙出てるよ~?だいじょ~ぶ~?」

「止めないでプル。もう少し……お父さんの考えていたこととこの状況、つながるんだ。そして繋がってしまったら……まずいかも。」

「ほぇ?」

 

その懸念は当たる。国境警備隊の人がまた、息を切らして血相を抱えてやってきたのだ。プルの手をどかし、その人の報告を聞く。曰く、ラステイション内の工場が襲撃を受けていると言うこと。

 

「なんですって!?あーもう!なんでこう次から次に!あえて言うわよルウィーの女神!これ以上ラステイションに変なことするんじゃないわよ!」

 

と、現場へ颯爽と飛び去っていく。緊急事態すぎてボクたちいること忘れてない?

 

「とりあえず、プル!おんぶするよ!」

「いいの~?ゆ~ちゃんの背中あったかいから、すぐ寝ちゃいそう~ふぁぁぁぁ……」

「涼風が走るから寝させないよ!」

 

霊装・霞を装備して、全速力で走る。途中、警備隊の人の車に拾われたからそんなに走ることはなかったけど、意外と疲れた……

 

 


 

 

ノワールさんを追いかけて車を走らせてもらうこと十数分、件の工場前に到着する。ノワールさんは工場前で変身を解除して立っていた。

 

「着いた!」

「二人とも!?どうしてここに!?場所は教えてもらってないはずよね!?」

「ノワールちゃんが一人で飛んで行って~、びっくりしたから~」

「警備隊の人に送ってもらったんですよ、ノワールさん一人でも大丈夫だとは思うけど念には念を~って。」

「そう……思えば急いで飛んできちゃってあなたたちを忘れていたわ、ごめんなさい。」

「いいですよ。国を守ることが女神の仕事ですからね。それに……」

「女神は助け合いだよ~?」

「それはプルルートだけよ!その、ありがと。夕も……」

「友として、手伝います。」

 

紅月と蒼陽を装備して、破壊されているような轟音が響く工場の中に入る。そこにはモンスターも跋扈していて……え、どういうこと?

 

「ラステイションが急成長してたのはモンスターを工業的に利用していたから?それはちょっとさすがにあれですよ……モンスターとはいえ生命倫理に反している……」

「えぇ〜!?ノワールちゃんそんな酷いことしてたのぉ〜!?」

「してないわよ!でもどうしてモンスターがこんな所に……!」

 

ノワールさんはそんなことはしないと思ってたけど、だったらどうしてここにモンスターがいるのか。周辺は工場群。市街に近めではあるがダンジョンに近くない以上モンスターの自然発生はありえない。

 

「モンスターを操る存在がいる……?」

「な、そんなことが有り得るって言うの!?」

「そうでなきゃ説明つかないでしょ!?っと、奥の方、音が大きい!」

 

機械系のモンスターには刃が通りにくい。紅月と蒼陽をアクティブ状態にして氷と炎で倒していく。

 

「けど〜、壁があるよぉ〜?」

「それは……お父さんが使ってたこれを使えばなんとかなるかな。」

 

グロウ-Cを取り出し、お母さんが一応って渡してくれた専用の弾丸を込める。雷銀式炸薬弾……当たった瞬間爆発する弾丸ってことだけど……

 

「銃……?弾丸一発でなんとかなるもんじゃないでしょ!?」

「何とかします。プル!ボクを支えててよ!」

「いいけど〜、どうして〜?」

「こうなるから!」

 

両腕でしっかりと狙って、引き金を引く。大きい音と反動。プルに支えられても……って!

 

「ふにゃぁ!?」

「へぶっ……」

 

壁が崩れる轟音。そしてプルともども吹き飛ぶボク。

 

「ちょ、夕!?プルルート!?」

「うへぇ、反動が予想よりおっきかった……大丈夫?プル……ってうおっと!」

 

倒れたところにモンスターは群がってくるもんだからすぐにプルからどいてモンスターを一掃。しばらくこれは使わないでおこうかな……

 

「うひゃあ~、びっくりしたぁ~」

「ごめんねプル。ボクもあれだけ飛ぶとは思わなくて……」

「とりあえず二人とも無事!?親玉も見つけたし早く来てちょうだい!」

「了解。プル、行くよ!」

「わぁ、ゆ~ちゃん待って~」

「緊張感ないなぁ……まぁいいけど!」

 

使わないとは言ったけれど、弾丸は込めなおす。いつでも撃てるようにしてなきゃ、脅しでも意味がないし。

 

「そこの悪人!止まりなさい!」

「ちょ、明確に悪と定義するのは早計じゃ……いやまぁそうなんでしょうけど!」

 

ノワールさんが片手剣を向けた先にいるのは巨体を持つロボットのようなものとネズミが一匹。あれ、このネズミどこかで見たような。

 

「わぁぁぁ、ネズミさんだぁ~」

「ぢゅーー!?来るなっちゅー!?」

 

あぁ、この怯えよう、そういうことか。

 

「プル、ネズミは往々にして汚いから触っちゃダメだよ。」

「あぁ、そうだった~」

「失礼っちゅね。オイラほど文化的で清潔なネズミはネズミ界のカリスマ以外にはオイラくらいっちゅ。」

「あ、そ。」

ええい!うるさいわ!俺が気持ちよく暴れているというのに!水を差すな小娘!

 

鼓膜が破れかねないような大声。頭にも響いて痛い……!

 

「ぐわんぐわんする~」

「ったく……何も聞こえたものじゃないわ、けれど……」

「どこからどう見ても、七賢人の仕業に違いない。」

 

七賢人がこんなに直接的に動いてきた……まさか。いや、偶然かもしれないが……

 

いかにも!我が名は!七賢人最強!コピリィィィィエェェェェス!!!

「うるさっ……」

 

天井も少し穴が開いているおかげで反響することはなかったけれど、やっぱり、大きい声はそれだけで痛い。

 

「がっはっは!どうだ!強靭!無敵!ゆえに最強!暴れられるだけ暴れられる舞台がこんなところにあるとはなぁ!」

「ちゅ、本音と建て前が逆っちゅよ、これを読むっちゅ。」

「なにぃ?おいネズミ、俺様の本音は俺様だけが知るものだ、建て前など必要ない!」

「いいから読めっちゅ!命令にあったっちゅよ!」

「うるさい!ネズミの分際で俺様に命令するな!」

「一番うるさいのはおまえっちゅ……オイラのことはもういいからこれだけ読んでくれっちゅ、そしたらもう好きなだけ暴れていいっちゅ。」

「ネズミのくせにしつこいな。そこまで言うなら読んでやる。なになに……」

 

ネズミとコピリーエースがあーだこーだ言ってる間に本来はもう仕掛けてるんだけど……まだ満足に動けそうにない。音は空気を通ってくる以上、普通の防御は効かないもんなぁ……

 

「るうぃーのめがみがおまえたちをひきつけてくれたおかげですんなりと……おいネズミ、読めんぞ。なんて読むんだこれは。」

「破壊工作っちゅ。」

「はかいこうさくっちゅをすることができたわ!これでいいのか?読んだからもう暴れていいな?」

「オイラを巻き込まないでほしいっちゅが、もう勝手にしろっちゅ。それじゃ、オイラは報告しにいくっちゅ。」

「暴れていいんだな?ならば!好き放題暴れ倒してやる!」

 

あからさまにカンペを読んでいたけど……それが事実ならやっぱり、お父さんの読み通り。これは帰ったらもう一回交信してみんなで情報共有しないと。

 

「ルウィーの女神が……?なるほど、そういうことね……」

「やっぱり、そう考えるのが自然だよね。」

「どういうこと~?」

「ルウィーの女神と七賢人が繋がってるってことよ!はぁ、頭に来すぎて、逆に冷静になっちゃったわ。」

「奇遇ですね、ボクも相当に、です。」

「そう、なら!」

 

ノワールさんは女神化する。眩しい。だけど、うるさくないのなら。

 

「あなたが暴れると言うのなら、こちらも十二分に暴れられるわね!プルルート!あなたも変身して手伝いなさい。」

「っちょ、正気ですか!?」

「正気よ。そうでもなければこんなこと言わないわ。」

「はぁ、ボクもそこそこ覚悟を決めて……」

「覚悟って、どぉんな覚悟かしらぁ?」

「──ッ!?」

 

甘くて怖い囁き声。反射的に二本抜刀してプルとの距離をとる。

 

「おぉ、怖い。」

「プル……今はボクじゃなくってあいつだよ。」

「でもぉ、また3対1じゃあねぇ、かわいそうじゃない?」

「同情の余地なんてさらさらないわ!遠慮なんていらないわよ!」

「……はぁ。敵も味方も血気盛んだなぁ……お母さんなら、多分一瞬でいさめてただろうなぁ。」

 

けど、ここにはボクひとり。

 

「かわいそうに。だからせめて優しく、ううん。苦しまないように倒してあげるよ。」

 

 


 

 

なんて宣言してはや4分。もう戦闘は終わっていた。口だけというか、確かに一撃は重かったしそこそこ技量はあったけど、やっぱり女神二人とボク相手ではね。最後まで騒がしく崩れていったのはいいんだけど……崩れてるのは工場もだからなぁ。

 

「瞬殺……あまりにも早すぎた……」

「一番無慈悲な攻撃してた貴方が言うの?夕。」

「お父さんの戦闘効率論通りにやっただけです、弱点を見極めて狙え、傷口を繰り返し狙え。そうすれば勝手に自滅していくからって。」

「涼しい顔で言うわね……一番怖いのは夕かもしれないわ。」

「あ~あ……不完全燃焼だわぁ。こんなに簡単に壊れちゃったんじゃぁ、楽しめないわよぉ。」

 

あからさまに不機嫌なプルはいるものの……おおむね終わったからいいかな。ただ一点を除いて。

 

「……だからさ、プル。ボクに攻撃するのやめてよね?」

 

プルの伸びる剣を弾き、正対する。

 

「かわいらしいわぁ、その目、ゾクゾクしちゃう。」

「ボクはさっきから鳥肌立ちまくりだよ。どうしてくれるのさ。さて、プル。変身を解いてくれるならそれでいいんだけど……足りない?」

「えぇ!足りないわぁ!」

 

プルの急接近。お父さんほど、見切れないわけじゃない。

 

「アクティブ。」

 

剣の一閃を紅月の氷壁で防ぐ。思ったより重い、か。

 

「ちょっとあんたたち、いつまでやってんのよ。」

「それはプルに言って。ボクはそろそろ反撃しなきゃ危なくなっちゃうし。」

「うふふふふ、あははははは!いいわぁ夕ちゃん。まさかこのあたし相手に出し惜しみするなんてねぇ!それじゃああたしも、もぉっと楽しませてもらわなきゃねぇ!」

「っ……手加減はお互いさま、か。」

 

回避と防御で手一杯になりつつある。うーん、このじわじわくる感覚は……どことなくお父さんの戦い方に似ている。そうなると、ボクだって手の打ちようはある。

 

「しょうがない、やるっきゃないか。」

 

伸びる剣の鞭のような攻撃を防御して大きく距離をとる。当然プルは詰めてくるからその間に炎の壁を作って視線を切る。そして。

 

「エクスポート……!」

 

紅月の機能をさらに開放する。あとは、プルの攻撃のタイミングに合わせて……!

 

「そこっ!」

「っ……!?」

 

炎の壁を切ったプルの攻撃が届く前に、紅月が変形した()()でプルの横っ腹に一撃当てる。

 

「浅い……!」

 

吹き飛ばしはしたものの直撃じゃなかった。お母さんほどの振りの速度はできないからなぁ……

 

「武器が変わった?いったいどういうことなの?夕。」

「まぁ、そういうものとしか。あんまり見せたくなかった切り札だったんだけどなぁ……」

「うふふふ。まさかこのあたしを出し抜こうとするなんて……悪い子ねぇ……?」

「もうやめてくれないかなぁ、元気なのはいいけどさ。あまりにも欲望に正直なのは、いただけないよ。」

「夕……?気のせいよね?何か夕からもプルルートみたいな怖さを感じたんだけど気のせいよね!?気のせいって言って!?」

「やだなぁ気のせいですよー。少なくとも今は。」

「やめてー!夕までプルルートみたいにならないでー!」

「あらぁ、どういう意味かしら、ノワールちゃん?」

「ひぃぃぃぃ!?」

 

ノワールさんが首をつっこんでくれたおかげで少しプルの興味がうつったかな。休めそうだよやっと。

 

「はぁ、せっかく楽しかったのに興ざめさせられちゃったわ。」

 

プルはそう言うと変身を解除していつものほんわかモードに。

 

「ほえ~、ゆ~ちゃんつよかった~、びっくりしたよ~」

「あれを使わされた時点でなんだかなぁ感強いけど……ありがと、プル。さ、やることやって帰ろっか。」

「そうね。驚くべきなのは、あんたたちが結構派手にどんぱちやってたのに建物にそんなに追加の被害が出てないことね。」

「それぐらいは気を付けれるよ~」

「あぁ、やっぱりそうなんだ。」

 

崩れた工場の中で戦うなんてことはそうそうないだろうけど……まぁ工場群を蒸発させた人を知っている以上これぐらいで済んでよかったと思うべきなのかな……というかお父さんのトンデモ昔話はこれぐらいじゃ済まないのほんとに……お父さんもお母さんもなんでこう、さらっと無茶苦茶なことしてるかなぁ、ネプギアさんもネプギアさんでいろいろあったっぽいし……いや、冷静になってふつう娘にする話じゃないんじゃないかな。あれ。ボクが聞いたのは悪魔の話と女神の話だけど、それだけじゃない気がする……そうじゃなきゃあの帽子とかお父さんの腕とか説明がつかないしそれに……

 

「ゆ~ちゃ~ん、ゆ~ちゃ~ん、もしも~し。」

「ほぇ?あぁ、プル。どうしたの?」

「どうしたの?じゃないわよ。急に黙り込んでずっと考え事してたもの。」

「あぁ、いや。工場の壊れ具合がこれで済んでよかったな、って。」

「どこがいいのよ!いったいどこが!?復旧に何日、いや何か月かかると思ってるわけ!?」

「どーどー……一度にある一定範囲の工場群が蒸発した事件を知ってるからつい……」

「じょじょじょ蒸発!?なによそれ!?事故じゃないの!?」

「うん、事件。詳しい話は省くけど……どうしてこうなったって話。」

「消えてなくなっちゃった~ってこと~?こわい~」

「その話を聞くと……えぇ、そうね。建物が残ってるだけ有情だわ……」

「あはは……」

 

ほんと、ボクの両親はとんでもなさすぎるって改めて思うよ……いやほんとに。




次回、第十一話「白の大地へ」

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