「ルウィーが、崩壊する……?」
「おおむねお父さんと同じ結果だね。それで、どうしてなの?」
「簡単な話さ。現状の大臣、つまり俺の後釜は七賢人の一員というわけさ。」
結論から聞いた過程は予想通りと言えば予想通りで、どうしようにもどうしようもないものだった。
「何よそれ、それじゃあ!」
「あぁ、ブランは、この国の女神は、それを知らずに今も奴を大臣として重用している。奴は優秀だからな。七賢人でさえなければ、尊敬できるほどには。」
「ブランちゃんに~教えてあげないの~?」
「それができていれば、俺はここにいない。俺はルウィーの大臣であったが、罷免された時に言われたのは次に教会の敷地に入ったら即処刑だと。まぁ、奴の差し金だろう。牢にぶち込ませたくないブランが最後まで頑張って、俺を守ってくれた結果だ。変に動いて無駄にしたくない。」
「そっかぁ~、大切なんだね~、お互い~」
「そうだな。そうだ。俺が大臣になったのは俺がちょうど、君くらいの年齢だった時だよ。夕ちゃん。」
「それはいくらなんでも若すぎない!?」
「そもそも俺は根無し草。どこで生まれてどこで育ったのかわからず、気づいたらルウィーで保護されていた。その感謝のために勉強し、仕事を覚え、認められるまでになったさ。対外的な仕事に出るようになったのはそれでももう少し後だったけどな。」
影さんは昔を思い出すかのように天井を見上げている。きっとそれは、大切な思い出。お父さんがあの帽子を見てるときと、同じ目。
「感傷に浸ってる場合でもない。今頃教会では女神が二人来たという情報の裏が取れた頃だろう。だから……君たちには悪いが、正面から戦ってもらいたい。正直、どちらが勝っても奴らの思うつぼだ。だから……せめてブランを倒してほしい。できるなら俺が一発ぶん殴ってやりたいが、できないから。」
「わかったわ。ちょうど別件でルウィーの女神に一発ぶちかましたいとこだったし、乗りかかった舟ね。任せなさい。」
「頼む。教会へのルートはこの通りだ。検討を祈る。それと、夕ちゃん。」
「なんですか。」
「……いいや、なんでもない。」
地下のアジトを抜け、ボクたちはルウィーの市街へ向かうことになった。その道はクリアで、誰かに会うこともなく……いや、たった一人だけ、会った。
「待って、誰かいる。」
「そうね……でも見たところルウィーの人間ではなさそうね……」
「こんにちは~」
『はやっ!?』
プルがコンタクトをとったのは金髪のお姉さん。紅葉が綺麗なルウィーの景色から少し浮いている緑色の服。そして視線を吸われる大きい胸。あぁ、これお父さんが苦手な奴だ。お母さんが言ってた。間違いない。
「あら、ごきげんよう。」
プルは人と会話してアイスブレイクをする分にはこれ以上ない適任で、みるみるうちに談笑が進んでいく。でも、この人は何か考えてる。
「思索をするなら、もう少し顔に出さないようにするべきですね。」
「え……?見抜いておりましたの?」
「もろばれですよお姉さん。……ボクは夕、凍月夕。差し支えなければ、名乗るほうが身のためですよ。」
「夕、何もそんな脅すような言い方は……」
「脅してるわけじゃないですよ。ただ、ボクは顔に出るような思考をしてる人が名乗らないのは、怪しいって思うだけです。」
「それもそうですわね。わたくしはベールと申しますわ。それでは、わたくしはこれで失礼しますわ。」
「だから、顔に出てる。会いたくなかった、みたいな顔をしている。……ボクはあなたのことを知らないけれど、薄っすら見えてるよ、目的とか。」
「んなっ……」
「冗談です。ノワールさん、とりあえずこっちの目的を急ぎましょう。この人はどうせ後でまた会いそうな気がしますし……」
「ますます怪しいわね。でもそんな怪しい奴と一緒にいるより、目的を優先した方がよさそうね。それじゃ、正々堂々正面切って、ルウィーの教会へ突撃するわよ!」
「お~!」
「おー、ですわー」
「……なんであなたも来てるのよ。」
「なんでって……興味が湧きましたの。あなた方がどうしてルウィーの教会に突撃するのか……」
「興味、か。ノワールさん、この人、ベールさんと言いましたか。怪しい動きをしたらボクがなんとかするからとりあえず連れていこう。振り切るのに時間をかけるよりも早いから。」
「疑り深いですわね……」
この疑り深さはお父さん由来だけど、とりあえず……こっちの目的を優先しないとね。
「中略!待たせたわねぇ!」
とまぁ、勢いよく扉を開けたのはノワールさん。いやまさか教会の中にモンスターがいるなんて思わなかったよ。いや警備としては確かに普通の人じゃ突破不可だけど……解せない。でも、七賢人がモンスターを操れるんじゃないかっていう仮説がある以上、そして大臣が七賢人である以上、警備の実権、つまりは軍権も握ってモンスターを侍らせていた、なんてことだったらつじつまが合う。合ってしまう。
「遅かったじゃねーか、途中でリタイアしたのかと思ったぜ。」
「既に戦闘準備万端、か。どうするの?ボクは女神じゃないから介入しないでおくけど……」
「何言ってるのよ夕。吹けば飛ぶようなプラネテューヌをその能力で支えてるのは夕じゃない。なんなら、女神より女神してるんじゃない?」
「ノワールちゃんひどいよぉ~、あたしだってちゃんとお仕事してるよぉ~」
「……実際問題ボクがクエストをやらなかったらいつ潰れててもおかしくなかったのは事実なんだよね……なに、ボクも一緒にドンパチやれって言うの?」
「そういうことよ。」
「はぁ、気乗りしないなぁ。」
「わたしは別に二人だろうが三人だろうが構わねーよ。」
「言ったわね?夕、やるわよ。」
挑発に乗せられるようにノワールさんは変身する。もう少し冷静に物事を見ないのかな、とも思ったけど、ノワールさんがここにいるのはいわば数多の嫌がらせの報復のため。やれやれ。好戦的すぎないかな。
「だから気乗りしないって言ってるでしょ。そもそも用があるのはノワールさんだけだったでしょうが。」
「それはそうだけど!あなたたちもあるでしょ目的!」
「まぁ、そうだけど。」
どうしたものかなーなんて思ってると、視界の端からどたどたとした人の動きが見える。あれは……
「がらっ!勝手に始めるんじゃないわよ!」
「……なんか来た。」
「なんかって何よ!?あーもう!ネズミ!とっととカメラ運んじゃって!」
「ぢゅー……なんでオイラが毎回駆り出されるっちゅか……」
「アブネスちゃんとぉ~、ネズミさんだ~、どうしてここにいるのかな~」
「別に驚くほどの事でもないでしょ。七賢人とルウィーがグルだってこと、わかってることじゃない。」
「人聞きが悪ぃーな。ちょっとばかし協力してやってるだけだ。」
「協力、か。ノワールさん、気が変わった。ボクも戦うよ。」
「そうこなくっちゃ。後はあなただけよプルルート。変身して、思う存分暴れてちょうだい。」
「ほぇ、いいの~?」
目を輝かせるプル。確かにプルを変身させるのはいいけど、さっきアブネスはカメラを回していた。まさか。
「待ってプル。ねぇ、ルウィーの女神様……えっと、ブランさん。まさか、カメラを回してるてことは、中継してるの?」
「あぁ。てめーら新米女神が完膚なきまでに叩きのめされるさまを見せつけてやろうって思ってな。」
「そう。……プルの変身はやめておいた方がよさそうな気もするけど……ノワールさん一人では、勝てない。」
「ちょ、夕!?いまこの私が勝てないって言った!?」
「言った。ノワールさん、前から思ってたけど戦う相手の力量が見えないの?だとしたらそれは勇敢をはき違えた無鉄砲な愚か者でしかないよ。なんで女神になれたのかわからないくらいに愚かだよ。」
「ぐさっ!?容赦ないわね!じゃああなたには見えてるって言うの!?ルウィーの女神の力量ってやつが!」
「それはもう。ボクが本気を出して、勝てないレベル。ノワールさんが本気を出しても、勝てないレベル。だから、プルと三人がかりでどうなるか、って感じです。」
カメラに向かってアブネスがキャピキャピした声でしゃべっている。正直言って吐きそうなキャラの変わりようだ。カメラを持ってるネズミもげんなりしている。
「背に腹はなんとやら。仕方がない。プルも変身させて、ドンパチやるしかない。」
「そうね。そう言うことだから、プルルート、お願いね。」
「わかった~。えぇい~!」
プルも変身して、ボクも霞と紅月と蒼陽を装備して正対する。
正直、勝てる気がしない。
「アクティブ……!」
けど、こうなってしまった以上、やるっきゃない……!
激戦はもう何分、何十分経っただろうか。お父さんとの模擬戦よりもずっと長い時間戦っている。室内だからうまくボクの取り柄の機動性を活かしきれてないのもあるけど、あの斧の一撃は重いから短剣で突っ込むのは危ない。炎と氷の魔法じみた遠隔攻撃も有効打になんてなるわけないし、そもそも前衛二人が大苦戦している。落とせない。
「ぐぅ、大口叩くだけあって!」
「ずいぶん、焦らしてくれるじゃない!」
「うるせぇ!とっととくたばりやがれ!」
振りは大きい。隙はある。あるけれど。このままではこっちに攻撃が来てしまう。女神の斧の一撃を防ぐには、紅月を大剣にしないと厳しい。いや、むしろ出し惜しむことなく突っ込むべきか?でもすぐ壁にぶつかって……
「夕!」
「っ……!」
「戦闘中に考え事なんてする余裕があるとはなぁ!」
前衛が振り切られた。継戦による疲労の蓄積で鈍った動きを突かれた。まったくもって戦闘のセオリー通りだ。避けるにしても受けるにしても時間がないが直撃だけは避けないと。
「ちぃ!」
「ッ……!面白れぇ!」
結果、振り下ろされる斧に敢えて真っ直ぐ突っ込んで打点をずらし、斧の柄を押すことで防ぐ。
「やっぱり重い……!」
「そりゃ、そうだよ!」
今度は蹴りが来る。斧に押される勢いでバックステップをしながら蹴りを腕を交差して防いで斧の軌道から外れる。セオリー通りくるなら、ボクから倒しに来る。ならそれを利用してやるしかない。
「まずは、てめぇからだ!」
ノワールさんとプルを同時に吹き飛ばし、勢いを維持したままこっちに来る。後ろは壁。逃げ道はない。
「エクスポート!」
紅月を大剣に変形させ、構える。一瞬でいい。止めさえすれば!
「今更そんな大仰なものを出したところでなぁ!」
上段からの振り下ろし。なんだ。見切ってる攻撃で来てくれたんだ。慢心かな。それとも、得意の大技だろうか。もうこの戦いの中で何回も見たよ。それは。
ふぅと一息ついて大剣を強く握り、振るう。お母さんのように、叫んで。
「《緋一文字・紅椿》!」
「んなっ……!」
振るった刃は振るわれた大斧の横を打ち付け、体重を乗せていたブランさんは持っていかれるようにバランスを崩す。当然ボクも慣れない大剣をフルパワーでぶん回したから大コケするんだけど、それでも向こうほどではないし、何よりこっちにはまだボク以外に二人いる。あとは崩れたバランスを咎めるように、ここぞとばかりに必殺技を撃てばいいだけ。
「うわぁぁぁぁぁぁ!?」
撃破完了ではある。でも全身痛い。息も上がっている。きっつい。今までの誰との戦いよりもしんどかった。思えば、お父さんやお母さんとの模擬戦はしんどいと思う前に一瞬でやられてたもんなぁ。
「ぜぇ、はぁ、ど、どんなもんよ!ルウィーの女神!」
「散々手こずらせてくれたわねぇ……でもその分、たぁっぷり楽しませてもらわなきゃねぇ……」
「さっきの反動がまだ響いてる……しばらくは動けそうにないや……」
へとへとながらも勝利の余韻に使っていたんだけど、そんな空気をぶち壊す声が響く。
「けっちゃーく!結果はルウィーの女神の負け!完全敗北でぇーっす!あはは!みんな見てるかしら!さっきまで偉そうにふんぞり返っていた女神の成れの果て!あはははは!」
は?何言ってんの?確かにその通りではある。ブランさんは確かに高圧的だった。女神として国を治めていた期間は、多分ボクの人生より長いだろう。でも、今こうなった結果だけを見て、過去の蓄積を全否定するようなことが、ましてや意図的な言葉選びでメディアという手段で不特定多数に、受け取らせ方を一辺倒にするようなことが、あっていいのだろうか。そんなこと、あっていいはずがない。
「うわ、むかつくわねあいつ。別にルウィーの女神を擁護しようなんてこれっぽっちも思ってないけど!」
「でも、確かに癪ねぇ、あたしより先に虐めていいなんて言ってないわよぉ?」
「はぁ、はぁ……」
ふつふつと湧き上がる情動。視界の端じゃあ変身が解けたブランさんと大臣らしい人が会話をしているが、そんなのは聞こえてこない。ボクは、あいつを!
「夕?」
「夕ちゃん?」
「許、さない!」
間に合うか、駆け抜けられるか、そんなものはどうでもいい。確実に、奴を!
「《
真っ直ぐ、アブネスへ、刃を首筋に……!
「痛った!なによ、って、血……!?」
「浅い……!」
周囲にはルウィーの軍隊みたいな人達。深追いは、できない。
「くっそ……!浅いならせめて火傷させとけば……!」
もう追撃できない。悔しいけど引き下がるしかない。
「夕!いくらなんでもそれは!」
「止めないでよ!あんな吐き気の催すような悪を生かしておいていいわけがない!人の努力を!蓄積を!その結果を!嘲るように小馬鹿にするような奴を!許せるわけなんてない!ボクだって知ってるわけじゃない!でも!ただ心無い言葉を外野から投げつけるような、そのために手段を選ばないようなあのクズは!裁かなきゃ!」
「落ち着きなさい!今あなたがあいつをやったとしても、この結果は何も変わらないわよ!」
「だとしても!」
ボクはあいつを許せない、と続けさせてくれなかった。プルがボクをはたいたのだ。
「うるさいわよぉ、夕ちゃん。少し、お黙りなさいな。」
「……ッ!」
強く強く歯を食いしばる。結果、ボクたちはブランさんともども牢屋に入れられることに。……あれ、そういえばあの人、ベールさんはどこに行ったんだ……?
次回、第十三話「栄華の終わりを告げる刻」
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