並行世界の先導者   作:Feldelt

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第十六話 緑の大地と五人の女神

さって、ダンジョンと海を越えてボクたちははるばるリーンボックスに両の足をつけたんだけど……なにここ、自然と四角が融合してるよね、外観。軽く見回して石が取れそうな鉱山というか、山が見えないからちょっと残念だなぁ。

 

「みてみてゆ〜ちゃん、おっきいハンバーガーがあるよ〜」

「ほんとだ……ってデッカ!?ちょ、えぇ!?食品ロスとか生まれないか心配だよ、これ……」

「あなたたち、観光じゃないのよ。」

「わかってますよ。でもほら、教会に行くまでは何があるかわからない、ボクたちにとって未開の地だから少しくらいはこう、調べたくなるよね。」

「知的好奇心をくすぐられているのかしら。まるで調べ事をしている時の影ね。表情がそっくり。」

「まぁ、親子ですからね。あぁ、こっちの影さんじゃなくてボクの次元の影さんがお父さんです。」

「……いつ聞いても驚くわ。でも、納得がいくわね。」

「ねぇ夕。ちょくちょく通信で話すけど、ご両親ってどんな人なの?」

 

リーンボックスの教会に向かいながら、ふと聞かれたボクの両親、お父さんとお母さんの話。ボクが知ってるのは少しくらいだけど、話していいのかな。

 

「どんな人……かぁ。お父さんもお母さんも賢くて優しくて、とっても強い人。でも、二人ともふと悲しい顔をする時があって、ボクはなんでって聞いた時があるんだけど……」

「あるんだけど〜?」

 

ふぅ、と一息つく。横断歩道の信号はちょうど赤になったし、メリハリをつけるにはちょうどいい。

 

「お父さんは何も言ってくれなかったし、お母さんは気のせいってはぐらかすんだ。それでも気になってたら、お母さんが教えてくれたんだ。……お父さんが、世界を守るために世界を壊した話を。」

「守るために、壊す……?世界を……?」

「さっぱりわからないわ。夕の次元の女神にとって、夕の父親はなんだったのよ。」

「……頼りになるけどいつまでも許せない、そんな人。お父さんのしたことは、そういうことだから。」

「ますますわからないわね……」

「ぷしゅぅ〜……」

「プルルートが限界ね。はぁ、夕も夕で、複雑なのね。」

「だいたいお父さんのせいというか。うん、そんな感じです。」

 

なんて話をしてたら着いた。横断歩道を渡って割とすぐとは。いやでもそうか、教会へ行く利便性は大事だし。

 

「お母さんの話はまた後で。行きますか。」

「そうね。全くどんな考えで呼びつけて来たのか分からないけれど、乗り込んでやろうじゃない。」

 

 


 

 

なんて意気揚々と突入したまではいいんだけど、リーンボックス教会の執務室はゲームハードの棚、本のように並べられたゲームソフト、壁一面にいかがわしいポスター、その他いろいろセンシティブなもの。

 

「……あまり見られたものではないね、これは……プル、目を塞ぐよ。」

「ひゃあぁぁ、ゆ~ちゃん、びっくりさせないでぇ~」

「そういう夕にも、悪影響よ。」

「もっと悪影響を及ぼしかねないものを見たことあるんで大丈夫です。」

「そういう問題じゃないでしょう!?」

 

せめてプルだけは純真なままでいてもらわないと。

 

「これが、神聖なる女神の仕事場だというの?」

「目で見るものはだいたい真実だし、そうなんじゃないかな……」

 

やれやれ、趣味に生きているような人じゃないか。一体どんな人なんだ全く。なったばかりのボクが言うのもあれだけど、女神としての在り方がなってない……

 

「ふふふ、わたくしの教会の様子に感動しているようですわね。」

「……はぁ、そうですか。どこをどんなふうに曲解すれば感動なんて言葉が出るのか。」

「その声は~、ベールさん~」

「えぇ。わたくしがリーンボックスの女神、ベールですわ。先だっては正体も明かさず、失礼いたしましたわ。」

「まさかあなたが女神だったとはね……」

「そう。ならルウィーに来てたのは、女神自らスパイ活動をしていたというわけね。」

「ご明察ですわ。」

「はぁ、怪しいとは思っていたけれど。」

「ほぇ~、ベールさんスパイだったのぉ~?」

「そちらの夕ちゃん、でしたか。貴方には驚かされましたわ。同時に、脅威たりえるのではないかとも考えました。ですが、わたくしとあなた達は争う必要すらないと判断いたしました。」

「争う必要がない……?」

「えぇ。わたくしは正々堂々、この大陸のシェアを全て貰ってしまおうと考えておりますの。普通にリーンボックスの最新ハードを普及させてしまえば、それで事足りますもの。」

 

それはそう。まったくもっての正攻法。なるほど宣戦布告と豪語しただけはある。

 

「なるほどね……」

 

じゃあプラネテューヌの貿易拠点あたりだとそろそろリーンボックス製ハードが来るかもしれないということか……まぁどんなものか興味はあるしそれぐらいは許容かな。正攻法で来るなら真っ向から相手してあげないと失礼ってものだし。

 

「それに……」

 

と、ベールさんは次から次へ視線を移してゆく。ボクたちを見ているにしては視線の向きが変だ。足元じゃない、胸……?何をもって見ている?

 

「人並み1、平均以下2、絶望的1。なるほどなるほど。大陸の民たちは、女神に恵まれておりませんわね。」

 

などと真意を測りかねる言葉が。数え方はまるで震える山の撃墜王のごとく……

 

「てっめぇぇぇ!誰のどこが絶望的だゴルァァァァ!」

 

なんて思索はブランさんの突然の激昂でかき消される。え、キレる要素あった?

 

「あらあら、名指しした覚えはありませんわよ?それとも自覚がおありで?」

「っ……!」

「良かった私は人並みか……って!そんな言葉回しすると大変な目に遭うわよベール!」

「そうだよぉ、そんな言い方するとゆ~ちゃんが怖いよ~」

 

走る苛立ち。これはまた、誰かが誰かを間接的に傷つける言葉。嫌で嫌でしょうがない、吐き気のするもの。でも。

 

「上等だ!今すぐ叩き潰してやる!」

「ブランさんストップ!」

 

ブランさんが変身して斧を構えたと同時にボクも変身して抑える。コンソールフォルムだとパワーではブランさんに劣るからじりじりと引っ張られるんだけど……この際近づくならベールさんを解析してやるしかない。

 

「離せ夕!HA☆NA☆SE!」

「決闘者みたいになってないで深呼吸してください!」

「あらあら野蛮なこと。やはり争うまでもなさそうですわね。」

「……あぁ、そういうことか。」

 

ふと、ブランさんにかけてた力を緩める。ブランさんはブランさんで勢いよく前に行こうとしたから逆にびたんと床に激突したけど、ごめんなさい。ボクも怒ってるから。

 

「最低な人。でも、争うまでもないという点については同意するよ。結局あなたは、『他人にない自分の利点を押し付けてマウントをとりたいだけ』でしかないから。」

「なっ……」

「あーあー、もうわたしは知らないわよ。なんでこう、プラネテューヌの女神って怒らせると背筋が凍るような怒り方するのかしら。」

「ノワールちゃん、もしかしてあたしも入ってる~?」

「当然よ!あなたが一番怖いのよ!」

「ぷる~ん……」

 

教会の中だし暴れるのは得策じゃない。あまり権能も見せたくないけど、2m以内にいるからやるだけやる。

 

「いってぇ……おい夕、離せとは言ったがあんまり早いとこうなっちまうだろうが……」

「あぁ、ごめんなさい。ボクもボクで怒ってるから頭が回らなくて。でも、やっぱりどう考えてもリーンボックスとは争うことはなさそう。だって争いは同じレベルでしか起きないんだもの。ベールさん、あなたの女神に対する低俗な価値観のままでは、争いになる前に勝負はついている。出直してこい。」

 

解析完了。悟られにくいように遠回しにやったから時間はかかったけど、思いっきり言いたいことを言ってやった。

 

「それはわたくしの宣戦布告における回答と受け取ってもよろしくて?」

「お好きにどうぞ。少なくともプラネテューヌでは、リーンボックス製ハード及びソフトの流通に制限はかけないよ。結局あなたがなんであれ、選ぶのは国民のみんなだから。……帰ろう。ボクもこんなに怒ると逆に自分の気分のほうが最悪だ。こんな気分になるくらいなら教会にこもってた方がよかったかも。」

 

変身を解除し、執務室を後にする。

 

「待って~、ゆ~ちゃん~」

 

啖呵切ったはいいけど、さてどうしようかな。

 

 


 

 

同時刻、ルウィー教会大臣室。一人の青年と少女が邂逅していた。

 

「へぇ、ほんとに若いんだ。ルウィーの敏腕大臣さん。」

「若いのはお互い様なんじゃないのかい?リーンボックス外交特使、仙道茜さん。」

「ふふふ。めんどくさい仕事だなーって思いながら各国回ってきたけど、最後がここでよかったかも。」

「ルウィーを気に入ってくれたのなら幸いだよ。リーンボックス製ハード及びソフトの販売認可書類だ。まさかこちらの精査の手間を省くために諸々書類を持ってきてくれるとはね。しかもその言い草だと三国分持ってたのか。大変だったろう。あまり大したものも出せないがお茶くらいは出せるけれども、どうかな。」

「二つ返事でイエス、だよ。足が棒のようだしさ。」

「そうかい。それじゃあお茶を二つ、頼むよ。」

 

大臣室の机の内線からお茶を頼み、休憩に入ろうとする影。内線の先の部下はこんなことを言う。

 

「それは構わないのですが凍月大臣、ブラン様にはどうご説明を?」

「何の説明だい?まぁ特使が来たタイミングで休憩をとる時間になったから一緒に休憩してる、だな。それ以上でもそれ以下でもない。」

「わかりました。」

 

全く何を心配しているのやら。やれやれと思ったのもつかの間、眼前に紅の瞳が己を映し出しているさまを見る。

 

「近い。」

「まーまーそんなこと言わないでよえー君。それにしても、ルウィーの女神様はこんなイケメンを大臣にしちゃってるとはね。」

「社交辞令として受け取っておくよ、仙道特使。そちらも大概美少女じゃないか。って、えー君ってなんだ、俺の事か?」

「社交辞令のお返しだね。もちろん、えー君以外に誰がいるのかにゃ?この二人きりの大臣室で。」

「……ふっ、悪くない。」

 

その邂逅は女神同士の印象が最悪だった両国にとって関係を存続させうる価値の高い邂逅であった。もっとも、それは本人たちは知る由もない。

 

「お茶をお持ちしました。」

「ありがとう。……さて、民心は何を選ぶのか、どこを選ぶのか。」

「ふふ、楽しみだね。」

 

 




次回、第17話「想定内の想定外」

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