並行世界の先導者   作:Feldelt

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第二十二話 動乱の序章

車の中で目が覚めると、基地と呼んでいた場所に着いていた。明さんいわく、影さんは寝起きの機嫌が最悪のため自然に起きるのを待つべきだと。

そうして待つこと一時間。ようやく起きてきた影さんはぽけーっとした表情から大きなあくびを一つ。するといつもの切れ味をもった表情に変わる。

 

「おはよーえー君。よく眠れた?」

「久しぶりに、な。早速本題に入ろう」

 

モニターに表示されるのは各国の情報とシェアの割合……これ、とんでもない機密情報じゃないの?

 

「怪しいんだ。シェアの動きが妙に不自然で……」

「全体の合計値が100%にならないのはまぁわかるけど、各国同時に数%落ちているのは……うーん、いうほど不自然かな?」

「女神の信仰者が急にニヒリズムに目覚めるなんてこと、ありえはしても同時多発的に起こるものではないだろう……」

「それが七賢人のせいだってお兄ちゃんは読んでるんです」

 

データから読み取れるのは確かに不自然な減少。これが七賢人の仕業だとしたら……少し納得がいく。それでも、あの連中がこんな回り道をする……?

 

「あれ、えー君。なにかモニターに映ってるよ?」

 

ボクの思考は止まらないなか、茜さんが一言。確かにさっきなかったウインドウが表示されている。

 

「……ッ!」

 

次に表示されたのは"You knew too much."という英文。これ、確か……

 

「伏せろぉぉぉぉぉぉッ!!!!」

「ッ!?」

 

ボクの女神化と天井が爆発したのはほぼ同時だった。

 

 

 


 

 

「あの~……アノネデスさん、こんなにおっきな爆発を起こして大丈夫なんですか?」

「レイちゃんは心配性ねぇ……大丈夫よ。どこの女神も対応できないように各所で大暴れしてもらうんだから。そうでもしないとアタシの労力に釣り合わないわよ。アクさんを脱獄させるのもここを突き止めるのもずいぶん骨が折れたのよ?それに……」

「それに、何?」

 

首筋を狙った剣の一振りは近くにいた機械のようなモンスターに阻まれる。爆煙で見えたなかったはずなのに……まぁいい。なんとか女神化と防壁の展開が間に合ったからみんなかすり傷くらいで済んだけど……ボクはこいつを許さない。

 

「危ないわねぇ……初めまして、アタシは七賢人のアノネデス。呼んだわけじゃないけれど、ようこそこちら側の世界へ。居心地はどう?」

「さっきまでは最高だったよ。……そう、やっぱりボクの世界にちょっかいをかけたのはお前たち七賢人なんだ……」

「あら、この子たちにも見覚えがあるのね?話が早いわぁ!」

「お前と話をする気なんてない。今すぐにでも、消し炭にするだけ」

「怖いわぁ、でもアタシたちの目的はここの破壊。だからとっととお暇して……次の仕事に取り掛からせてもらうわ!それじゃあレイちゃん!帰るわよ!」

「え、あぁ、はい!その……失礼します!」

「逃がすわけ……!」

 

でも、今追ったら防壁は距離減衰で弱くなるしまだ機械モンスターが何体かいる。

 

「くそっ……まずはこの雑魚を……!」

 

剣を再び顕現させ、モンスターを撃破していく。本当にただの時間稼ぎ用の捨て駒を相手にさせられた。今更もう追うことはできない。

 

「助かったよー……夕ちゃん、ありがとね」

「とりあえずここ全員、ついでに車もある程度は無事だ。さっきブランから連絡があって特別牢から奴が出たというのもこれに関連してるだろう。明、ひと段落着いたらとんぼ返りだ」

「だね……結局休めなかったね、お兄ちゃん」

 

よかった、みんな無事だった。

 


 

 

この仕事をしていて思うことは、思考の本質はどこにあるのか。何を考えて、次にどうするべきか。それは本当に正しいことなのか。そもそも考えている事象の根拠となる情報は正しいものなのか。国のナンバー2ともなるとうかつな判断はできない。ゆえに入念な事前準備や綿密な計画性が重要である。たとえ今のように突拍子のない状況になったとしても、やることはいつもの延長だ。

 

「それにしても、やはりあの子の力は……使い分けが本質ではないな……」

「えー君もそう思うんだ。やっぱりこう、無駄が多いよね。今のゆーちゃんは」

「茜もそう思うか……ここからは仮説だが、あの子は物事に対する視点が主観しかない。主観しかないから、隠された本質に気づかない」

「私もそう思うな。って……えー君はじめて名前で呼んでくれたね?嬉しいな♪」

「あー……そういえばそうだったな。まぁそれは置いておいて、その本質をどう伝えるかなんだけど……」

 

モンスターとの戦闘は夕が一手に請け負い、全く問題なく各個撃破でもって今最後の一体を撃破したところだ。

 

「おわったみたいだね。ここからどうするの?」

「ルウィーにとんぼ返りだ。脱獄したアクダイジーンの捜索と再逮捕するまで寝れないだろうな……」

「私もたった今ベールから新しい仕事が来たや、さすがに後回しにできるほどの余裕はなくなっちゃったなぁ……」

 

二人そろって頭を抱える。立場があれば悩みも仕事も多い。

 

「ねぇ、影さん」

「どうした、夕」

「ボクをルウィーに連れてって。アクダイジーンを見つけるから」

「……そりゃ頼もしい話だが……断る。さっきの戦いを見てはっきりわかった。君はその女神の力を使いこなしていない。本質からかけ離れた"わかりやすい"力しか見ていないからな」

「どういう、こと?」

 

きょとんとする夕は本当に何もわかっていない。心当たりがないのだ。それもそうだろう。この子は子供だ。俺がブランに出会った頃からあの子はもう女神だった。女神になる前は、子供だったはずなのに。またここに、子供のまま女神の力を手に入れてしまった女の子がいる。ブランや俺のように、子供の頃から大人にならざるを得なかった、そんなことが連鎖する。

 

「物事は、単射じゃないってことだ」

「1対1じゃないよってことだね。一つの行動で、一つ以上の結果が生まれるってことだよ」

「それはわかってるよ、でもボクの力は……!」

「いいや、わかってない」

 

一喝する。この子は危ない。力に驕っているわけではない。物分かりが悪いわけでもない。力の使い方を間違えてたりはき違えたり、そんなことはしていない。ただ一つ、純粋すぎるのだ。だが、その清浄すぎる精神構造は人の世で生きるには逆に毒でしかない。蒸留水の中で魚は生きることができないように。

 

「夕、人間は愚かだ。過ちを繰り返し、人を傷つけ、罪を重ねる。人間はそんなのばかりだろう?」

「え……?」

「同時に人間は聡い。規律を守り、人を思いやり、罪を赦す。そういうのもごまんといる。」

「なにが、言いたいの……?」

 

理解が及んでいない。きっと夕の父親である、夕の世界の俺ならもう少しうまく伝えられてたのだろうか。それはわからない。だが、向こうの俺は怠慢だ。

 

「人間の本質はなんだと思う?」

「人間の、本質……?」

「愚かなのか聡いのか、はたまた別の何かか……」

 

明も茜も黙って俺の言葉を聞いている。

 

「……わからない、どっちも正しいし、それはダブルスタンダードってやつで……だから矛盾だよ、でも……どうして……?」

「矛盾の存在を内包する柔軟性、あるいは矛盾そのものが人間の本質だ。少なくとも俺はそう考えている」

「矛盾が、本質……?」

「そうだ。力については自分で考えろ。本質を知ったのなら、もう少しましな使い方ができるだろ。明、行こう」

 

明とともに車に向かう。茜もついてくる。まぁいいか。

 

「まって、お父さん……!」

「……違う。俺は凍月影であって、夕の父親じゃない。俺が教えるのはここまでだ」

 

背中に受けた呼び声は俺を呼んではいない。振り返り、冷たく少女を睨む。

 

「教えてよ……ボクの力は、本当は、本質はなんなの!?」

「自分で考えろ。他の誰でもない、夕自身の力だろう?」

「っ……」

「……出してくれ、明」

 

車に乗り、ルウィーに向けて出発する。送られてきた資料を読み、何から手を付けるか考える。

 

「酔わないの?」

「何年これをやり続けてると……茜。その人脈を生かして四国の七賢人による影響をまとめてほしい」

「もうやってるよ、正確にはやり始めてる、かな」

「そうかい。俺の予想が正しければ奴らの狙いは……新しい国。夕を狙ってくるかと思ったが違った……」

「女神メモリー、か。世界が国を治める器を見定めるなんて、女神もまた、世界の傀儡……なんてね」

「傀儡……か。そう考えるなら、七賢人の反女神思想もわからんでもない。まぁ、理解はするが共感も賛同もしかねるが」

「そーだね。それでえー君、ゆーちゃんはどーするの?」

「勝手にこっちに来るはずだ。話に意味があったかは、その時見定めればいい」

「……まるで本当にお父さんみたいだね」

「やめてくれ、そんな歳じゃない」

 

恐らくここからは七賢人と四女神の全面戦争が始まる。その時鍵になるのは間違いなく凍月夕だ。

 

「……種は蒔いた。芽吹くか腐るかは、わからんだろう」

「芽吹くよ。絶対に」

 

そう断言する茜のその凛々しい顔つきに一瞬目を奪われたことは……ブランには黙っておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回、第二十三話「本質の胎動」

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