誰もが衝撃を受けた影さんの決断。天井が割れて影さんが吹き飛ばされるまでは1秒もなかった。だからこそ、この存在は……間違いなくやばい気がする。
「えー君!?」
「っ……!」
茜さんは影さんのそばに行き、ボクたち女神は再び変身して武器を構える。コンソールフォルムで見る目標は……なに、これ……
「シェアエナジーの量が異常すぎる、まるで、無尽蔵……」
「そんなことありえるのかよ!?」
「ボクですら大気中の残留シェアエナジーかき集めて活動してようやくってとこなのに……」
目標は姿勢をファイティングポーズに戻し、こちらを見たあとにアノネデスを見る。
「パパ!助けに来たよ!」
「ありがとう助かるわぁ!それじゃあ少しここを任せちゃうわね~」
「うん!みんなやっつけていいんだよね!?」
「えぇ。み~んなやっつけたらい~っぱいご褒美をあげちゃうわ~!」
「やったー!」
無邪気に喜び、再びこちらを見る。来る……!
「やぁぁぁぁ!」
「ッ……!」
突撃をノワールさんが剣で防ぎ、同時にボクたちは三方向に展開する。お父さんでもない限り、女神の三次元的展開を捌くことはできない。ましてやボク相手では……!
「
ブランさんの斧を避け、ベールさんの槍を防ぎ、プルの蛇腹剣を見切ったとしても……ボクのこの速度には対応なんてさせない……!
「速いね!」
「ッ……!」
同化解放の速度を目で追われた。いや違う、どこに移動するか先読みされた?シェアエナジーの動きで?
「ぐっ……」
強烈な正拳突き。腕を交差して防御するも腕に鈍い振動と痛みが走る。それに直撃したタイミングでアームクローがボクの腕を掴み力を逃がすことを許さない。へし折られる……!
「ぴぃ、パァンチ!!」
「ぐあぁぁぁッ!」
咄嗟の同化解放の再使用も間に合わず両腕が全く使い物にならなくなるほどの大ダメージを受ける。……折れてるね、これ……それに……
「
焦ってコンソールフォルムで向かったせいで腕がやられたけど、おかげですぐ回復には入れた……目に入れるのはボクが使える残りのシェアエナジー量。同化解放に再構築、かなり使ったからもうまともに動けるだけの残量はない。かと言って解除するわけにもいかない……今は四人が突発の連携で見事に圧倒している。だったら戦闘は向こうに任せた方がよさそうだ。
「あらあら……相変わらずとんでもないわねぇ、折れた腕を治すなんて造作もないのかしら」
「アノネデス……ねぇ、一つ聞かせてよ。あの子の正体はわかった。今の一撃でね……その源はなに?」
「それを教えるわけないじゃない?」
「そうだよね……痛くて痛くてあんまり考えが回んないや」
わかっていることを聞く、それは時間稼ぎに過ぎない。大丈夫、欲しいのはその時間だけ。腕が動くようになれば、まだいける。
「でも、そうねぇ……ちょうどいいから貴女も試してみちゃう?あの子のように無尽蔵に力を振るえるわよ?」
「謹んで遠慮させてもらうよ。お父さんが言ってた、無限は大抵ろくでもないって……!」
まだ完全には直ってないけど、動きはするようになった。それならもう、やるしかない。
「コンプリートフォルム……!」
X字のプロセッサ、展開される二重円と虹の羽、コンソールフォルムの情報量とコンバットフォルムの戦闘力、全部詰め込んだこの姿なら……!
「24秒……これだけあれば!」
一気に飛翔し、1v4を演じている目標の意識の外から急接近。避けられるものなら避けてみせろよ……!
「うそ、いつの間に!?」
「いくよ……《
氷と炎、そして虚数。交差した斬撃は黒の軌道を置き、「斬られた」という情報が認識される前にダメージを与える因果逆転の必殺技。もちろん連発はできないし、空間の構造条件をリアルタイムで理解していなければ成立しない。それでもこの技は……お父さんにも通用すると思う。
「きゃぁぁぁぁ!?」
「後、お願い……!」
空中で女神化が解除されたボクは茜さんの近くへ落ちていく。後ろ目には一気攻勢にでる皆。これで……なんとかなるはず……!
次に意識を取り戻したのは、あの女神の名前がイエローハートだと判明した瞬間だった。もっとも、それを知ったのは一度ルウィーに帰ってからだったが。
「起きた?えー君」
「茜、か……痛……」
「動いちゃダメ。骨が数本折れてるから、まだ絶対安静。軽く応急措置はしてあるけど、内臓がやられてるかもしれないから本当に……なにもしないで……」
「……状況、は?」
戦闘の音は聞こえない。代わりにさっきまでなかった日の光が差し込んでいる。外まで行ったのか、あるいは外から突っ込んできたのか……
「……ボクも、少し寝てたみたいだね……」
そばで夕が起きる。夕もやられたというのか?
「ゆーちゃんも起きた?じゃあ起きぬけに悪いんだけど……」
「うん、影さんの修復だね。待ってね……」
夕は女神化をし、特殊なフィールドを展開する。
「……
「い"ッ……!?」
一瞬とてつもない痛みが走るが、直後には身体が動くようになった。これは……
「ッ……しばらく女神化できないや……」
「ありがと、ゆーちゃん」
「あぁ、助かったよ……」
視界に映るのは明の骸。なぜ、俺は生きているのだろうか。例え真実でなくとも、植え付けられた記憶だとしても、明は、あの子はちゃんと俺の義妹だったというのに。
「すまない、明……俺は……ッ!」
嗚咽が零れる。頭ではわかっている。あぁしなければ明は女神として七賢人の手先になっていたか、あるいは適合できずに退治不可の異形となってしまうかの二択だ。どちらも明の生命の存在を前提としているんだから、それを否定してしまえば、あの状況は破綻する。だから今のこの状況まで持ってこれてる。だけれども、本能では動転している。ぎりぎりの理性で自分の行動とその結果を受け止めている。受け止めきれるものでもないが。
「ッ……」
「あ、かね……?」
「感情に身を任せても、いい時くらいあるよ……私も受け止めるから……」
茜に抱き寄せられ、堰を切るように慟哭が溢れる。
いつ以来だろうか、こんなに涙が止まらないのは。
影さんの涙は……きっとお父さんも同じように苦しんで、茜さんのぬくもりも……お母さんが同じように、ボクが生まれる前に起きたことなんだと思う。そんな確信がある。だからボクはそれを繰り返させないために、みんなと合流することにした。影さんや茜さん、お父さんお母さんに、悲しい思いはこれ以上させないためにも。
「……そう。やっぱり、そうだったんだね」
地上に上がったボクが見たのはアノネデスに抱き上げられているのは女神化が解除されたであろうあの女神。ボクはその姿を知っている。あのパンチを受けたときに感じたことは間違っていなかった。だからボクは余計に参ってしまう。血は争えないのかと。
「自分の知人を捧げ続けるのが、宿命なのかな」
風が強く吹く。七賢人の国『エディン』がこの瞬間に建国された。
四ヶ国に対する、全面的な宣戦布告と同時に。
次回、第二十六話「道化」
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