並行世界の先導者   作:Feldelt

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第二十六話 道化

エディンの建国から約一週間。宣戦布告と言いながら音沙汰のなかったエディンの女神、イエローハートがプラネテューヌに向かっているとの情報があった。

 

「ピーシェちゃん、あたしたちのこと忘れちゃったのかなぁ~?」

「どうだろう。どちらかといえば挿げ替えられた可能性のほうが高いかな。……ボクが迎え撃つからプルは国のみんなをお願いするね」

「ゆ~ちゃん……?」

「ピーシェは……そうだね。できるだけ呼びかけてみるよ。でも……油断したらボク、やられちゃうかな……」

 

全ての装備のメンテナンスも、ボク自身へのシェアエナジーの貯蔵量も問題ない。けれど、同化解放すら見切られるのなら、それ以上の力を出さないと勝てはしない。必要最低限、「負けない」ことが重要である。

 

「ゆ~ちゃん……」

「……二兎を追う者は一兎をも得ず……っていったところかな、プル」

 

一呼吸おいて振り返る。

 

「じゃあ、またね」

 

それは、少しの覚悟の表れだった。ボク一人では多分、かなりしんどい戦い。それでも……お父さんやお母さんはそんな場面を何度も乗り越えてきた。ボクもできる。そう信じて、戦いに向かう。

 

 


 

 

涼風が吹くエディンとの国境、コンプリートフォルムに変身して待ち構えていたボクの前にはちょっとした軍隊とイエローハート。相手にとって不足なし……なんてことを言えるほどの余裕はない。張りつめた緊張感だけがここにはある。

 

「……ここから先には通さないよ」

 

女神化し、コンバットフォルムで相対する。ぱっと見で戦車中隊一個ぶんかな……その程度ならボクにはかなわないけど問題は間違いなく……

 

「あー!わるい女神だぁー!」

「……悪い、か。何をもって悪とするのかは聞かないでおこうかな、要領を得なさそうだし」

「んっとねー、パパが言ってた!」

「そう……それじゃあ悪い奴らしくいこうか、な!」

 

シェアエナジーの光弾をすべての戦車の履帯と主砲に叩き込み擬似的な1対1の状況を作る。

 

「わっ……ほんとにわるい女神だ……」

「そもそもこの程度でボクに挑もうなんて考えてる方がおかしいんだよ。それじゃあ始めようよ」

 

コンプリートフォルムになり、同化解放を起動する。出し惜しみなんてしない、なるはやで片づける!

 

「うん!あそぼっ!」

 

と言うが早いかボクが早速肉薄する。相手の間合いにわざと入っていることにはなるけれど、ここはボクの距離でもある……!

 

「やぁっ!」

「せぇい!」

 

剣先とクローが正面からぶつかる。このクロー、状況に応じて形状が変わるから厄介ったらありゃしない……!

 

「くっ……!」

 

力押しならこっちが不利だ。距離をとる。その一瞬の動きを詰めてくるが……!

 

「それは読めてる!」

 

懐に入ってきたイエローハートはパンチを繰り出す姿勢。だけど、ボクは左手にも剣を生成し、そのパンチを流す。追撃ができるほどの余裕はない。……やっぱり、近づいて戦うのは無理だ。

 

「やるねっ!じゃあこれでいくよ!」

 

イエローハートは右腕のクローのパーツを引き伸ばし、この距離でパンチの構えをとる。

 

「ぴぃ、どりるぅ……パァンチッ!!!」

 

さっきよりも速い、さっきよりも殺傷力の高い一撃が、ボクの腕を襲う。というのも咄嗟に腕をクロスさせたからなんだけど……この加速、女神が飛行に使うシェアエナジーの思いっきり贅沢な使い方だね……ッ!

 

「い"ッ……!?」

 

壁に叩きつけられる。両腕は……目も当てられない。即座に再構築を入れる。……繋がってるだけ御の字だ、これならまだ短時間で済む。

 

「あー!また赤くなっちゃった!パパに怒られちゃうよぉ……」

「じゃあ、もっと赤くしてあげようか!《音速たる隠密の痛撃(ソニック・スニーク・ストライク)》ッ!」

 

余裕そうに自身の獲物を見ていたその隙に、右腕だけを応急で治して一撃入れる。奴と違ってプロセッサユニットを貫通するほどの威力は出ないが、それでも吹き飛ばし返すことくらいは、できる。

 

「ッ……やっぱり速さを求めたらそれ以外がおろそかになる……二物は神ですらそう簡単には得られないようだね……」

 

戦況は劣勢、まともに戦って勝てる未来はあまり見えない。それでもまだボクには切り札がある。同化解放以上の切り札、《信仰同調(シェアリングユニオン)》が。

 

「ぶっつけ本番だけどやるしかない……!」

 

信仰同調(シェアリングユニオン)》は同化解放と違って対女神戦特化の必殺技。相手のシェアエナジーに同調し、相手からのシェアエナジーを含む攻撃を完全に無効化する技。代償は発動後の女神化解除……!

 

「それでも!」

 

無理やり両腕を直し、大剣モードの紅月を持つ。

 

「またまたいくよ!ぴぃ、きぃっく!」

「ボクはお前を倒す!《信仰同調(シェアリングユニオン)》ッ!」

 

黄色のオーラを纏ったボクは回避することもせず天空から降ろされる脚を見据え、大剣を振るう。

 

「《緋一文字・紅椿》ッ!」

 

イエローハートの蹴りはボクを完全にすり抜け、女神化解除と同時にボクの後ろをめがけて放った一閃が直撃する。防御も何もない、完全に入った大剣の一閃は女神と言えどかなりの大ダメージのはず……事実、十数ヤード飛ばされたイエローハートは解除までは至らないまでも動かない。

 

「とはいえ、これでまだ動けるならいよいよ打つ手なし……」

 

信仰同調(シェアリングユニオン)》発動前に予測したボクの再女神化可能予想時間はあと4分。その4分だけはどうしても逃げながら戦わないといけない。前にベールさんとやりあったときはボクの戦法が通じたからいいものの、純粋なごり押しにはどうしても弱い……つまりお父さんやお母さんもこの手の手合いは苦手なわけだ。おまけに急ピッチで再構築したもんだからまだ腕が完全には直りきってない。剣を握るのもままならなくなってきた。

 

「いよいよ大ピンチ……って、何……この寒気は……」

 

最初は腕が上手く動かないから震えてるだけだと思った。でも、次第に周囲の彩度が落ちていく。意識が落ちそうなのかとも思ったけどむしろ目は冴えているし、腕の痛みも加勢してまどろむことすらない。だったら……

 

「まだ来る……!?」

 

身構える。だがイエローハートは伸びたまま動かない。今の直撃で意識を吹っ飛ばしたなら納得がいくが、それでも寒気の原因はわからない。

 

「調べるしかない……」

 

コンソールフォルムに変身し、周囲の状況を調べる。

 

「なに、これ……」

 

結論から言えば、ボクの近くでは異常はなかった。ただ、シェアエナジーの動きは酷く不自然だった。エディンの中心部に向けて流れ込むのはここの戦闘でまき散らされた残留シェアエナジーと、イエローハート本体のシェアエナジー。少しボクのも持っていかれてる。でも理由がわからない。ボクを倒すためならイエローハートからシェアエナジーを工面してもらう必要なんてないはず。なんで……?

 

頭が追い付かない。だから、気づくのに数瞬遅れた。エディンの中心で力が跳ね、その衝撃波がここまで飛んでくることに。

 

「ッ……!」

 

ガラクタと化した戦車も地面で伸びてるイエローハートも、ボクも簡単に吹き飛ばす衝撃波。この次元すべてに影響を及ぼした一種の災害。

 

また壁に叩きつけられたボクが開いた目に映ったのは、エディンの中心から出たと思われる宙に浮く巨大な岩と、女神らしき宙に浮く人影。確認できたのはそれだけで、ボクにはひとつの仮説ができた。七賢人の本当の目的は、これなんだと。イエローハートを使いシェアエナジーの利用実験とボクというイレギュラーの対処法の模索、あわよくば利用しようという魂胆。だがあれは誰なんだ……

 

「でも、もう、動かないや……」

 

プルに連絡して拾ってもらうことにした。今は限りなく負けに近い戦いの結果から次どうするか考えないと……

 

 

 

 

 




次回、第二十七話「そして、すべてが終わる」

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