並行世界の先導者   作:Feldelt

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第二十七話 そして、全てが終わる

エディンの中心で跳ねた力、その正体はかつてこの次元に存在していたという太古の国、「タリ」の女神。ここから先は推察だが、七賢人はこのタリの女神の力を取り戻すために活動していたと考えられる。そうだとすれば、各国女神への妨害工作はシェアエナジーをタリのものとするためという立派な理由づけになる。そして、別次元への侵攻はプランBとしてこの時代の女神を撃破できなかった時の逃げ道としてボクの次元が選ばれたということになる。イエローハートは、タリの女神にシェアエナジーを供与するために仕組まれたいわゆる人造女神みたいなものかと考えられる。事実、今までの女神とは全く違う無尽蔵のシェアエナジーがあった。シェアエナジーの科学的解析かぁ、お母さんもやってたけど……

 

「……というわけで、あの衝撃波の被害は各国ともに甚大、おまけにタリの女神の復活と来たもんだ。ルウィー大臣凍月影の提案として、四か国が手を取り合ってこの事態に対処するべきだと思うがいかがだろうか、異議のあるものは挙手を願いたい」

「……」

「では、引き続きの提案としてエディン中心部の威力偵察を各国女神にお願いしたい」

「威力偵察、ね……あんな衝撃波を出すようなやつに女神だけで行けと?」

「ノワールちゃん~、言い方~」

「同意ですわ。先刻夕ちゃんがイエローハート……ピーシェちゃんでしたわよね?その子との戦闘は限りなく敗北に近かったと、先ほど夕ちゃん自身から報告があったではありませんの。それ以上の力を持つ相手ともなれば、威力偵察は時期早々と考えますわ」

「……影、勘違いしないでほしいのは皆弱腰になっているわけではないわ。ただ、衝撃波の被害の事もある。国民をまずは安心させるのが第一よ。女神は……最高戦力であると同時に、最高指導者でもあるのだから」

 

ノワールさん、ベールさん、ブランさんはそれぞれの意見を言う。影さんの気持ちもわかる。あれをどうにかできるのは女神しかいないと。でも、その前にやるべきことがあると。

 

「でも~、あたしはぁ~、乗り込みたいなぁ~」

「プル……?」

 

でも、プルは違った、いつもの様子だけれども、声音はとても怒っている。それは、その場にいる誰もを凍り付かせるほどに。

 

「だってぇ~、あの人を復活させるためにぃ~、ピーシェちゃんを利用したんだよねぇ~……ゆ~ちゃんの次元をぉ~、襲ったんだよねぇ~……そう考えたらぁ~あたしぃ~許せないなぁ~……!」

 

今にも変身してしまいそうな純粋な怒りと殺気がプルから放たれている。それに逆らえる胆力を持つものは、ここにはいない。

 

「プルルートがそこまで言うなんて、珍しいわね。それなら私も行くわ。その……友達、を一人で危ないところに行かせたくないし……」

「いいの~?」

「勘違いしないでよプルルート!その……あなたのためじゃないわよ!?」

「お手本のようなツンデレですわね。いつ出発いたしますの?わたくしも同行いたしますわ」

「ベール……そうね。そもそも太古に存在していたとして、一度滅んだのは事実。今の時代に現存する最古の女神が誰か……それを教えに行く必要はあるわね」

「みんなぁ~……!」

「……そうだね。ボクの次元に……世界に、あんなものが行っていいわけがない。ここで倒すよ」

「あくまで偵察が目的なんだが……まぁ、撃破できるならそれに越したことはないだろう。どう思う?茜」

「そこ、私に振る?んー、タリの女神の復活が七賢人の目的なら、もう目的は達成されたことになるよね。それじゃあここから先、何をしてくるのか読めないのは少し厄介だね」

「行きつく考えは同じ、か。第三の提案、各国トップ2レベルでの七賢人に対する警戒態勢及びリアルタイムでの情報の共有を要請したい」

 

とまぁ、こんな感じで会議は終わった。立場が違っても、やっぱりお父さんとお母さんのように影さんと茜さんは相性がいいんだなぁって思う。

 

「……夕、身体は大丈夫なの?」

「心配ありがとう、ブランさん。ボクは大丈夫。動けるくらいには直したよ」

「そう。……それにしても、この距離でわかるほどのおぞましさ……一筋縄ではいかないのは間違いないわね」

「そう、ですね。でも……本気で怒ったあのときのお父さんに比べれば、全くですよ」

「影が怒るところをあまり想像できないのだけど……」

「ボクのお父さんと、影さんは別人ですよ。完全に。だから……ボクはあの影さんがあれ以上苦しまないように戦います。お父さんのようにさせないために」

「頼もしいわね。少し前まであまりに短気だった子とは思えないわ」

「あー……はは、そう思いますか……」

 

なーんて、ブランさんと出発前に言葉を交わす。

善は急げと言う事でもうすぐ出発することになった。

 

「それじゃあ、最初から本気でいくわよぉ?」

「一応偵察なのよね?なんでそんな消極的なのかしら。さっき問い詰めればよかったわ」

「影は情報を欲しがるからな。あいつがどれだけ情報を使いこなすかで、かなり動きやすさが変わる」

「良いことを聞きましたわ。わたくしもこの協力関係が終わった後に茜ちゃんにいろいろ動いてもらうとしますわ」

「……行こう」

 

ボクたち五人は一気に空へ駆ける。浮遊する巨岩と、そこにいる人影へ向けて。そして……

 

「ッ……!」

 

何の前触れもなく、圧倒的な範囲、熱量のビームが巨岩から放たれたのだった。

 

 


 

 

気が付いたのは、イエローハートと戦った場所だった。全身が痛い。あのビームを見て咄嗟に防壁を張ったけど、焼け石に水だった。

 

「くそっ……」

 

冗談じゃない。まともにやりあえるどころの騒ぎじゃない。あんなものはさすがに連発はされないだろうが、大気がプラズマ化するほどのエネルギーだ。それにあれは間違いなくシェアエナジー……いったいどこから……

 

「考えるのはあとだ……動いて、戦う……!」

 

見渡せば周りには誰もいない。ボクより防壁が堅かったから吹き飛ばされた距離も長いんだ。おかげで孤立無援だよ……

 

「ぐっ……はぁ、はぁ……ッ!」

 

立ち上がるだけで全身が痛い。でも幸い、有視界範囲内に人影は……タリの女神はいる。攻撃も有効距離だ。グロウ-Cを構えて、引き金を……!

 

「へぇ……あんた、あれ受けて動けるんだ……」

 

一瞬で背後に回られた。寒気がすごい。この速度は間違いなく、同化解放……!

 

「それ、ボクの技なんだけど……」

「はぁ?よく聞こえませんよぉー!」

「ッ……そう……」

 

あてられるだけでまともに戦う気力すら削がれてしまう。全身の痛みも相まって膝がつく。

 

「立ってるだけでやっとといったところでこの私に楯突こうなんて、二万年早いのよ」

「ぐっ……」

 

蹴飛ばされる。だめだ、本当に手詰まりだ。こんなのをどうこうできる手段なんて……一つしか思い浮かばない。でも、それはここにはない。

 

「まだ何か考えてるような顔ねぇ、気に入らないわ。他の女神どもが来る前にあんたはさっさと消しといたほうがいい気がするわ」

 

動けない。抵抗すらできない。いくらボクが女神でも……ここから入れる保険なんて……

 

「それじゃあ、さよならー」

 

生成された槍がボクに振り下ろされる。遠くで聞こえるのはボクを呼ぶ誰かの声……みんなかな。でも、間に合わない……

 

 

escape hole

 

 

槍がボクに当たる直前に、ボクの持ち物のどれかが勝手に起動した。この音声……お母さんが仕組んでた……?

 

「これは……次元移動門……しまッ……なまじ物理的に触れているせいで固定された……!」

「夕……!」

 

ボク以外の四人の女神が合流したのと、タリの女神ごとボクが次元転送されたのはほぼ同時だった。

 

「なっ……消えた……!?」

「一体何がどうなってやがる、影!くそ、さっきのあれのせいで通信がまだやられてやがる!」

「考えられるのは……夕ちゃんのご両親が夕ちゃんの危機を察知して強制的に帰らせるための仕掛けを用意していたということ……しかし突拍子もありませんわ。次元移動には相当なシェアエナジーが必要なはず……」

「それじゃあなんであいつも一緒に夕ちゃんと移動したのよ、脱出装置の意味がないじゃない!」

「次元移動は一度発動すると完全に移動が完了するまで一切の身動きが取れなくなる、もし変に動いて次元と次元の間に身体の一部が転移しちまったら大変なことになるどころじゃすまねぇからな。だから……巻き込まれたってやつだ」

「それじゃあ、あたし達、不完全燃焼にもほどがあるわよぉ?」

「プルルートの言う通りね。でも、都合がいいことにまだ解決すべきものはそこに浮いてるじゃない」

「そうだな……あれを叩く。で、いいんだよな?」

「えぇ。降りかかる火の粉は、払わねばなりませんもの」

 

 


 

 

ボクは、いま、どこにいる……?

 

「くっ、ちょこざいな……!」

 

落ちていく。身体は動かない。変身もできない。でも、明るいのに、妙に暗さがあるこの空は、懐かしい。

 

「ッ……!」

 

どこからともなくビームが飛んでくる。空中に浮くあの女神を正確に狙って。そしてボクは地面にぶつかることはなく、赤い粒子が視界に映りながら、しっかりと誰かに抱きかかえられた。この暖かさも、懐かしい。

 

「……おかえり、ゆーちゃん」

「お母さん……?」

 

安心した顔でボクを見るその人は、向こうの茜さんではなく、ボクのお母さん。『凍月茜』だった。てことは……

 

「……誰よ、あんた」

「お前こそ誰だ。……俺にこんなことが言えるとは思えんが敢えて言おう……娘が、世話になったそうじゃないか」

 

尋常じゃない殺気と、漂う冷気。わかる。これはお父さんだ。

 

「はっ、一家そろってご登場ってわけ?たかが一世帯でこの私をどうこうしようと考えるなんて滑稽ですわー」

「……滑稽、か。鏡を見たことがないようだな。どう思う?ギア」

「私に振るんですか?……影さんより邪悪な何かをこの人からは感じます。そう思うと、滑稽なのはあながち間違いではなさそうですね」

「そうかい。それじゃあ始めようか……お礼参りってやつを」

 

 

 




次回、第二十八話「最終決戦」

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