「プラネテューヌの、女神……?」
ボクはそう宣言する少女を訝し気に見る。どう見てもぬいぐるみが好きな女の子……っていうかこんな森の中をスリッパで歩こうだなんて無茶苦茶な……
「うん、そうだよ~。わたしはプルルート。あなたは~?」
「ボクは夕、凍月夕。それで……プルルートさんはどうしてここに?」
「えっとねぇ~、ちょっと前になんか変な感じがしてね~、いすとわ~るに調べてもらったんだ~。そしたらね~、なんでも別の次元へ何かが動いた~って話で~……」
「ボクがここに来た時も同じ感覚がしたから見に来た……ってことですか。」
「そうそう~、ゆ~ちゃん賢い~」
女神がわかる……ということはやっぱりあの歪みがシェアエナジー由来で、大規模だということ……でもイリゼお姉さんが来るときはイストワールさんから告知があるけれどそんな気配は感じないし……いや、あの人がアポもなしに来るなんてことはないか。
「それなら話が早いです。こっちのイストワールさんに会わせてくれますか?プルルートさん。」
「あぁ、うん。いいよ~でも~、さん付けされるのはくすぐったいな~」
「えぇ……!?じゃあ……プル!ボクはプルって呼ぶよ。」
「えへへ~、強化人間っぽいあだ名だね~」
「12人もいないでしょ!?」
なーんて思ってたらまるでお母さんのようなボケをねじ込んできたとは。プル、油断ならない。
「ってあれ……この結晶……」
ひとつ、妙に視線を引き付けた結晶がある。純粋にきれいだったから鞄に入れておいたけど……恐らくは特殊なもの。そう思えるのは、ボクがこれを見つけたことにはなにかの宿命なんじゃないかと思うほどに唐突で、でも納得できているから。
「ど~したの~、ゆ~ちゃん~」
「あぁ、なんでもないよ、プル。」
そんな返事をして……ボクはプルに連れられて、プラネテューヌの教会へ向かうことになった。
「ただいま~、って、誰もいない~……」
「あはは……って、ここがプルの家……でいいのかな?広いなぁ……」
「そうでもないよ~、ここに~、ノワールちゃんといすとわ~るもいるからね~。今二人はおでかけしてるっぽいけど~……」
「そっか。」
確かにどこからどう見てもプルのメルヘンな雰囲気とは合わないものがちらほらある。シェアハウスか何かなのかな。
「ただいまー。って、プルルート!その子誰よ!」
「おかえり~、ノワールちゃん~」
扉の開く音がして、振り返る。そこにはプルよりも背が高くていかにも「お姉さん」に見える黒髪のツインテールの人がいた。
「えーっと、お邪魔してます。ボクは夕、凍月夕です。」
「あぁ、うん。私はノワール。よろしくね。……じゃなくて!なんでここに連れ込んできてるのよ!七賢人の手先だったりしたら面倒じゃない!っていうかそもそも親御さんが心配するでしょうが!女神として間違ったことをしてるんじゃないわよ!」
「あ~、それは考えてなかったな~、ゆ~ちゃん、いい子だし~」
「そういう問題じゃないわよ!えーっと、夕ちゃん?家、どこだかわかる?一緒に帰りましょ?」
そしたら今度は話の流れで連れ出されそうに。うーん、どうしよう。
「あ、えーっと、そのことなんですけど……ボク、別次元から来たというか……かくかくしかじかあって今ここに……」
「……はいーっ!?」
詰まったボクは事こまやかに成り行きを説明して……まぁ予想通りの反応が返ってきたのであった。
「あららー、ここより女神が少ない次元があるからちょーっと試そうと思ってた可愛い試作品ちゃんたちがほぼゼンメツ!しっかも向こうからこっちに辿られてきちゃったじゃない!とんだ失態だわー!」
「あぁ!?オカマテメェ報告もなしにそんなことやってたのかよ!んでもって失態だぁ!?どう落とし前つけるんだ?あぁ!?」
「わざわざ罵倒されるために失態をさらけ出してるわけじゃないわよ。これ、見てちょうだい。」
「これ……空から幼女が落ちてきて着地した!?ってなんで幼女が空から!?」
「ふん、前後の文脈から判断しろ、それが件の向こうから来た存在か。」
「えぇそうよ。けどこの子、不可思議なのよね……なにか、存在レベルで引っかかるなにかを持っている……」
「何よそれ!とりあえず、この幼女の情報は他にはないの!?」
「街中でプラネテューヌの女神と一緒にいるとこを見たわよ。まぁ、ハッキングしたカメラ越しにだけど。」
「女神と一緒!?面倒なことになる前に女神から引き剥がさなきゃだわ!それじゃあ行くから!」
「はいはい、行ってらっしゃ〜い。……しかしこの子……下手に接触するのは危なそうね。」
「えーっとつまり、この次元から兵器みたいな何かが送り込まれたからその大元を断ち切るためにこっちの次元に一人で来たってこと?」
「そういうことです。ボクの両親は色々あってボクの次元から離れることはできないし、ネプギアさん、ボクの次元の女神様は一人だけなんで……ボクがここに来ることになったんです。」
「わ〜、ゆ〜ちゃんすご〜い。ヒーローみたいだね〜。でも〜、女の子だからヒロインか〜。」
「そこじゃないでしょ!?……事情はわかったわ。嘘にしては妙にリアリティもあるし……何より、あなたはまだ子供なのだからご両親の元に帰るべきだと私は思うわ。」
事情をプルとノワールさんに説明した後にボクに投げかけられたのは、ノワールさんからの優しさだった。そう。ボクはまだ10歳だ。いくらボクの次元で4番目に強かろうと、ここではそうでない可能性の方が高い。危険を案じるには十分すぎる。
「優しいですね、ノワールさんは。」
「え、あ、うん、ありがとう……って!どうしてそんな言葉が出てくるのよ!?あなた本当に10歳!?」
「あはは、友達からもよく言われます……だいたいお父さんのせいかな……」
「どんな教育受けているのよ……でも、その肝の据わりようは本物ね。」
「お父さんが言ってました。動じれば隙が増えるって。」
「動かざること山の如しと行ったところかしら。けどそうね。あなた、相当手練れであることはわかるわ。」
「ボクも同じことを思っていました。」
「あぁ〜、だからゆ〜ちゃんもノワールちゃんもなにかピリピリしてたんだ〜、ケンカになったら嫌だな〜って思ってたんだけど、心配しすぎだったかも〜」
「さすがに心配しすぎだよプル。ボクの癖みたいなものなんだ。お父さんやお母さんみたいにとっても強い人の前だと……そして初対面だからどうしても身構えちゃうんだよ。ごめんね。」
「そうなんだ〜、ゆ〜ちゃんは心配性だね〜」
「そうみたい。」
実際、ボクはなにがあってもいいように身構えていた。普通の人が見たら特になんの違和感もないレベルで。でもプルとノワールさんはとっくに見抜いていた。……この人たちは、間違いなく強い。お父さん程の圧倒的な圧も無ければ、お母さんみたいに全てを読まれているような感覚もない。けど、何か恐ろしいものを感じる。特に、プルから。
「ゆ〜ちゃ〜ん、お〜い。」
「あぁ、どうしたのプル。」
「ぼ〜っとわたしの顔見てたから〜、わたしの顔になにかついてるのかな〜って。」
「あはは、大丈夫。何もついてないよ。それより……ボク、これからの衣食住どうしようか相談に乗ってくれませんか?」
「それなら〜、ここに住んでいいよ〜。」
「え?いいの?」
「うん、いいよ〜」
「待ちなさいプルルート。トントン拍子で話を進めないでよ。」
「そうよダメよ!」
ボクの相談とプルの提案。それに待ったをかけるノワールさんとタイミングよく発せられた初めて聞く声。反射的によりわかりやすく身構える。
「ガラッ!話は聞かせてもらったわ!ズバリ!そこの幼女を引き渡しなさい!」
「……誰?」
ボクの勘が告げている。扉を開ける擬音を手動でつけたこの人、果てしなく面倒な人だと。
次回、第四話「七賢人アブネス」
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