いつもの銃剣を装備し、空へ跳ぶ。不思議だ。さっきまであんなに重かった身体も、折れて壊れた心も、まるで嘘だったかのように軽い。
「こいつッ……!」
敵の雷撃はさっきより遅く見える。回避も防御も自在にできる。もはや重力すら感じない、自由。
「これが……女神の加護とでもいうのか……?」
空中で描いた軌道には虹色の光の残滓が漂っている。シェアデュアライザーを使っていた時よりも、シェアエナジーを放出しているということか?
「お父さん!」
「っと……!」
夕の声で意識を戦場に戻し、敵の攻撃を回避する。少しかすったあたり、考え事をしてる余裕はない。
「気に入らないわね……さっきまであんだけボロボロでギャーギャー喚いていたくせに、あいつらが現れただけでけろっとしてる……本当に、虫唾が走る……!」
「それでも、喪ったまま戻らないものだってある。今の奇跡も、それが永続的なものなのかすらわからない。だから……だからこそ、『今』に全てがある……!」
無限のシェアから女神を再構築したのなら、その再構築したシェアが失われたら女神は、茜は、存在し続けることができるのか?それがわからないから、もう一度出会えた奇跡の今を長続きさせるか、短くさせないようにするしかないのだ。
「ますます気に入らないわねぇ……じゃあその全てってやつを消し飛ばしてあげるわよ!」
「ッ……!夕!」
複素格納された超高密度圧縮シェアエナジー砲がもう一度来る……!
「
「無駄ァ!」
夕の解析でどこに放たれるか、あるいは圧縮シェアの場所を見つけられればとも思ったが、奴を中心に衝撃波が放たれ解析が届かない。
「ぐっ……」
「夕!」
「はっ、乙女の秘密を探ろうとする無粋なことをするからよ」
恐らく解析中にもろに食らったせいで衝撃の影響を如実に受けたのか、夕はしばらく落下し、地面すれすれで体勢を立て直す。
「乙女って品性、持ち合わせてないくせによく言うよ……」
立て直したはいいものの女神化が解除され膝をつく。あの衝撃波の正体は間違いなくシェアエナジーだ。もろに食らっていたら俺も落ちていたと思うほどに冷たく、かき乱されるような、そんなおぞましさ。鳥肌が止まらないくらいには、俺も影響を受けている。
「け・れ・ど……あんたは、あんたたちはこれで……お・し・ま・い・DEATH!」
「ッ……!」
俺と、地上にいる女神たちを同時に狙った超広範囲の熱の奔流。認識した時には、それに飲み込まれていた。
一度焼け焦げた地面がもう一度焼け焦げ、今度はプラネテューヌの象徴たるプラネタワーも半壊した。炎と煙の漂う空に、佇む存在はひとつ。
「ははっ……はははははっ……!」
タリの女神、キセイジョウ・レイは高笑いを浮かべる。
「私の勝ちぃ!何が女神よ、何が奇跡よ!大口叩いたくせに大したことないじゃないの!はっ!今更地獄でびーびー喚いても聞く耳持ちませんー!」
戦場だった場所に勝利宣言の覇があがる。それを止める者は、いない。
「さて、と……それじゃあ手始めにこの世界の女神は全員死んだってことで……あの半分ぶっ壊した教会の連中に教えてあげなくちゃね……」
ゆっくりと降下するレイは、違和感を覚える。
「……なに、この違和感は……女神は死んだはず……焼け焦げた地面も、炎も上がっている……なのに……なのになんで煙の臭いがしない!?」
「それは単純、その映像は偽りだからだよ」
「なっ……!」
半壊していたはずのプラネタワーは最初から無傷、燃えていた地面には炎はなく、消し飛ばしたはずの存在は全員健在、なぜだ。
「ボクの解析が止められたとき、ボクがわかっていたのは環境の情報だった。だったらそれを再現したスクリーンを作って、まずはボクが女神化解除したように見せたんだ」
「そして、スクリーン上の俺たちをめがけて放った圧縮シェアはこいつで斬らせてもらった」
凍月影は魔剣をレイに向ける。
「この魔剣は、シェアエナジーの指向性を変換させるものだ。刀身に触れたシェアエナジーの指向性を変換させる。そして触れ続ければあるタイミングで正負の対消滅が起こる」
「それで、消し飛ばしたとでも言うわけ?あれを……?」
「そうだ。そう考えると、さっき俺たちを包んだあの光は説明がつかないが……あれはなんでなんだ?」
「あの泥は世界中ほぼすべての負のシェアが顕現したもの。そして、あの泥は全てが同一……一部分が全てであったってわけだ」
「一部が受けた影響を全て受けた、だから魔剣の変換を受けてすべてが同時に正のシェアになった、ってことだね」
「魔剣の変換は柄が握られてない限りは起きないから、影の手から離れたのは私たちの意思よ」
「初耳なんだが……」
今まで起きたすべての現象の種明かし。だが、それを聞いて面白く感じるレイではない。
「……ずいぶん、コケにしてくれたじゃないの……」
「……おしゃべりは嫌い?じゃあ終わりにしよっか、お父さん」
「そう、だな。あの大技をもう一度撃たれる前にケリをつける」
「はっ、大口叩いてられんのも今のうちよ、私がどこからエナジーを持ってきたと思ってるのよ」
複素格納、凍月影はそう考えていた。だが実際は違う。次元格納……不定形であり「物体」ではなく「概念」に近いシェアエナジーは次元を超えて存在しうる。ゆえに次元を超えて持ってくることも理論上は可能である。
「まさか、向こうの次元から持ってきてたって言うの!?そしたら……まさか!」
「勘のいいガキね……正解でぇーす!イエローハートに使っていた無限シェアエナジーマシンの直列運用をすればぁ……今すぐにでも撃てるってわけよぉ!」
「……俺たちに撃っても斬るだけだぞ」
「はっ、だったら世界から壊してやるだけよ」
「ッ……!」
動く凍月影。だが雷撃が阻む。
「残念でしたー、これで今度こそ、私の勝ちぃぃぃぃぃ!!!!!」
風が吹く。右腕を天に突き上げたまま奴は動かない。何も、起きていないのだから。
「なんでッ!?こいつらが向こうに影響を及ぼすことなんてできないはず……!」
「……みんな……ありがとう……」
ボクはその瞬間、向こうのみんなが、ノワールさん、ベールさん、ブランさん、プルが、エディンの機械を片っ端からぶっ壊して回ってくれたんだとわかった。威力偵察が、成功したんだとわかった。
「全部終わったら、お礼を言いに行くから。待っててね、プル、みんな」
「……そうか。いい仲間を持ったな、夕」
「うん!」
明らかに奴はうろたえている。攻めるなら今しかない。
「審判の時は来たようだな……」
「ちくしょう……どいつもこいつも!でもねぇ!?まだ私には私のエナジーがある!これだけでもあんたたちの世界の半分以上はぶっ壊してやるわ!」
「けどそれを使うから、妨害はできないね!
「しまッ……!」
環境情報、目標の構造情報、解析完了。奴の弱点は……!
「お父さん!首元の装飾!それを壊せばいい!」
「あぁ、よくやった夕!」
「おのれぇぇぇぇ!!!!」
奴はエナジーを向かってくるお父さんに投げようとするが、それを許すボクじゃない。数発、たった数発の光弾で、奴の姿勢は揺らぐ。その時できる一瞬の隙さえあれば、お父さんは奴を斬れる。だって、ボクのお父さんは「凍月影」なんだから。
「でぇぇぇぇぇい!」
首元の装飾をめがけてお父さんは魔剣を突き刺す。もちろんバリアは展開されるが、魔剣の前にそれは意味をなさない。お父さんとタリの女神が地面に激突し、そこから大爆発が起こる。その中心から、爆炎とともにお父さんは戻ってきた。
「……終わったよ。……最後の悪あがきで、魔剣は失われたけどな……」
「そっか。じゃあこれで本当に、大団円だね」
「みなさん、終わりましたか?」
「あぁ、ギアちゃん。そういえば見なかったけど何してたの?」
「国民の皆さんに、お姉ちゃんたちが復活したことをすぐに伝えられるように準備してたんです。ユニちゃんとロムちゃん、ラムちゃんにも手伝ってもらって……今ようやく準備がある程度できたところです」
「ネプギア……本当に、立派になったわね……」
その日、喪われたはずの女神の復活が全国民に知れ渡った。一週間後、ラステイション、リーンボックス、ルウィーのプラネテューヌからの独立が宣言され、世界は「元通り」となった。
タリの女神撃破から半年が経過した。凍月夕こと女神グロウスハートは新たに国を興すことはせず、その存在だけが四か国の住人に知られており、「クエストハンター」として名をあげていた。
凍月影、凍月茜の二名はルウィーに居を移し、女神ホワイトハートのもとで様々な仕事を受け持っている。もちろん、不老不死という女神特有の性質は引き継いでいるため、ホワイトハートは彼らを永遠に使い潰すつもりらしい。
プラネテューヌの女神はパープルシスターから再びパープルハートへと戻った。しかしこれは便宜上というものであり、外交はパープルハートが、内政はパープルシスターが受け持つことでプラネテューヌは再びの発展を始めた。
ラステイション、リーンボックス、ルウィーももちろん、協力と競争、切磋琢磨により発展を始めている。
緩やかな衰退を続けていた世界とは思えないほどに、世界は彩りを増していったのだった。
「半年、かかっちゃった」
「ゆーちゃん一人移動するために必要なシェアエナジーをゆーちゃん一人だけで集めてたからね。みんな今は手伝うよゆーなんてないわけだし」
「向こうは、何年経ってるかな」
「さぁ、な。あの歪みは、あのタリの女神が撃破された後に消えた。だから同期されていた時間がずれている可能性は大いにある」
場所はプラネテューヌ教会。次元移動を行うには最も都合がいい場所がここなのだ。
「……思えば、夕ちゃんはここから旅立ったんですよね」
「そうだな、もう、ずいぶん前のような気がする」
「ずいぶん前だよ、ちっちゃくてかわいいゆーちゃんがおっきくてかわいいゆーちゃんになってさらに女神になっちゃったってわかって私驚いたんだよ!?」
「あはは……」
ボクはもう一度、向こうのみんなに会いに行きたい。そのためにボクは頑張ってきた。今日、それがやっと叶う。
「夕さん、次元移動の準備、整いました」
「ありがとう、イストワールさん」
すぅ、はぁ。なんでかわからないけど緊張する。楽しみでもある。だって昨日は寝れなかった。
「お父さん、お母さん。行ってきます」
「あぁ、いってらっしゃい」
「今度は早めにトラブルなく帰ってくるんだよ!」
「うん!」
次元移動が開始される。確か、前は……
「やっぱり!空中に放り投げられたんだった……!」
空中で女神化し、地面にふわりと着地する。
「この景色も、なんだか懐かしいな……」
女神化を解除し、辺りを見回す。覚えている。どこを通れば目的の場所に着くのかも、どこにどんな石があるのかも、全部全部、鮮やかに覚えている。
そんな思い出に浸っていたら、草の揺れる音がする。ゆっくりと、こっちに近づいてくる。やがて止まったその音は、一気に早くなってもっともっと近づいてくる。
「ふふっ、珍しいね。そんなに走ってくるなんて」
息を切らして肩で呼吸しているその音の正体に、ボクは語りかける。そうだね、君とここで会ったんだった。
「だってぇ~、見間違いじゃないかどうか、確かめたくてぇ~」
「そっか。……久しぶり、プル」
「うん~、ひさしぶり~、ゆ~ちゃん~」
次回、エピローグ「友よありがとう」
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