半年かかって、ボクはプルたちみんなと再会した。こっちは七賢人の開けた次元をつなぐ穴の影響がなくなったせいか、ボクが戻ってから3か月くらい経ってるらしい。少し、時間間隔にずれがあるけれど大丈夫。ボクたちは再会を喜んで、今はプラネテューヌの教会で全員集合している。
「ゆぅ!ゆぅだ!」
「ピーシェ……そっか、ピーシェももう元通りなんだね。」
「とはいってもまだ普通に女神化はできるからちょくちょく変身されては遊び半分で大けがしかけるのよね……」
「元気なのはよいことではありませんの」
「貴女はピーシェのパンチをもろに受けてないからそんなことが言えるのよ……」
「ゆぅ!あそぼ!あそぼー!」
「ぐふぅ!?」
……とまぁ、全員集合したはいいもののまだまだ無邪気なピーシェがタックルからパンチ、キックのコンボを決めてくるから全然平和とはかけ離れているのかもしれない。
とはいえ、こっちはもうボクの第二の故郷と言っても過言じゃない場所。どこに何があるのかも覚えているし、どこにどんな石があるのかも頭に入っている。まだリーンボックスの山の方の採掘はできてないからいずれ行くとして……今はかつてエディンがあった場所にいる。
「ものの見事にぐちゃぐちゃだ……」
「手あたり次第ぶっ壊してまわったからね。まぁもともとぶっ壊れてた部分もあるんだけど……」
「そのおかげでボクたちはあいつに勝てたから……本当にありがとう」
「えへへ~、ど~いたしまして~」
「しかし……どうやってあのような恐ろしい存在を倒すことが?夕ちゃんの次元には女神も一人しかいないと聞いていましたのに」
「それは……秘密。ここにはないもので倒したからね」
「大方、そっちの影が弱点でも見抜いたのでしょう?」
「まぁ、そんな感じ。そうだ、こっちの影さんは?」
「現場よ。ちょうどこの近くで四か国合同チームの本部があるわ」
「それぞれの国にとんっでもない被害出してくれたんだから復旧とか調査とかやること山積みで困ってるのよね」
「ですからこうして合同チームで事後処理に当たっているわけですわね」
チームの人たちの動きはてきぱきしている。今何をするべきか明確にわかっているからそんなにてきぱき動けるのだ。そんな明瞭な指示ができるのは……
「ん、ブラン達か。いらっしゃい」
「もはや余裕すら感じるわね、影」
「今は技術解析と情報処理、周辺環境の復旧のフェーズだからな。技術班の人たちはてんやわんやだろうけど、統括の俺は先の見通しを立てたり仲間の余裕を見たりして全体の目的を見失わないようにしてるのさ。慣れっこだよ」
「さすがは私の右腕ね」
「まぁ、な。おや、夕じゃないか。こっちに来てたんだな」
予想通り、ここを仕切ってたのは影さんだった。少し日に焼けたその姿はもうお父さんとは完全に別人の印象が強い。
「はい、やっと来れたんです」
「そうか。……積もる話はあるだろうが、しばらくここから離れられない。茜は……」
「およ?呼んだ?」
「あぁ、ちょうどいいところに。夕が来てるんだ」
「おー!ゆーちゃん久しぶりだね!」
「久しぶり、ですね」
本部と言ってもテントがたくさん並んでいるだけで、隣のテントから茜さんがちょうどいいタイミングでやってきた。
「ふふっ、そっか。ゆーちゃんはまたひとつ、大きくなったんだね」
「え……?」
「ベール、それにみんな、せっかく来たんだしお茶でも飲んでいってよ。積もる話はそこでしよ?」
「いいんですの?茜ちゃんはここの統括補佐のはず……」
「女神様が来たんだよ?だいたいの遅れはえー君がなんとかできるからだいじょーぶ!」
左手でサムズアップする茜さん。それを受けて深いため息とともに左手で頭をおさえる影さん。その二人の薬指には同じ装飾の指輪があった。
「……あ」
「私も聞いたときは驚いたわ……」
「ブランちゃん、しばらくず~んってしてたよね~」
「取られて悔しいってことなのかしら?」
「うっせーぞてめーら!その…………」
「昔から、俺とブランはそばにいたんだ。なんだろうな、家族なんだよ。親でも、きょうだいでもない、家族……その家族が離れるってなったら、少なからず衝撃は受けるものさ。」
「ロマンチック、ですわね」
「そうだろうか。でも、そうだな……」
遠くを見ながら、影さんは言葉を続ける。
「……家族が離れるのは、辛いものだよ」
「……そうね、あなたは……」
悲しく、でも少し微笑んでいるように見える影さんの表情は、どこかお父さんに似ていた。そういえば、ボクがこっちにいる間、お父さんたちは何をしてるんだろう……
見慣れた風景、聞き慣れた環境音。静かで寂しい、そんな雰囲気がずっと続いていくと思っていた。それに目をそらさず、自分が招いた結果だと受け入れて。でも、今は違う。
「えーいー!」
「……ネプテューヌか。またサボりか?」
「人聞きが悪いなー、お仕事はネプギアがだいたい全部サクッとやってくれてるからネプ子さんはサボりではないのだ!」
「……そうかい」
喧騒と言えばあれだが、世界は活気を戻してきている。いつか見たあの眩しい理想の世界のように。
「眩しい、か……」
「およ?ふつーに昼間だよ?」
「こっちの話だ。ギアは仕事に戻ったか……茜は羽を伸ばすって言って出かけたし……帰るよ」
「え?もう?もうちょっとゆっくりしてていいんじゃない?」
「誰かさんと違って、ぐーたらしてるだけなのは嫌なのさ」
プラネテューヌの教会を後にする。今の俺の家はここじゃない。後ろからネプテューヌの声が聞こえる。活気を取り戻してる眩しい街の中で一人、まだその眩しさに対応できてない俺は……なんなんだろうな。
「……ふふっ」
プラネテューヌからルウィーへの道は歩き慣れているのもあって迷うことなく教会にたどり着く。その中で何故か笑いが込み上げてきたのは……自嘲だろうな。
「お帰りなさい、影。早かったわね」
「っ…………そう、だな……」
反応できなかった。俺に「おかえり」と言うのは茜だけだったから……ブランの声に驚いてしまった。
「…………ブラン」
「何かしら、影」
思えば今この瞬間まで、ブランと二人きりになることはなかった。いつもロムラムや茜が、教会の職員が誰かしら近くにいた。もしかしたら、俺はブランと二人きりになることを恐れていたのかもしれない。何故かはわからないが、きっとそうなると俺は……
「……すまない……」
絞り出すように出た言葉は謝罪だった。わかっている。謝って済むことではないのだ。だから、自分でもどうしてこの言葉が出たのかは理解に苦しんでいる。
「……そう。まったく、貴方は本当に……本当に困った男ね」
「……」
「けれど……そうね。あなたの口からその言葉が出たのなら……私から言うことは……」
ゆっくりと、ブランは目の前まで歩いてくる。俺の顔を見上げ、言葉を繋ぐ。
「貴方は自由よ、影。過去を忘れろとは言わないわ。でも、過去に縛られる理由ももうないでしょう?」
「それは……」
「今を生きて、未来へ生きなさい」
「……そうか」
凍月影の過去が赦されたわけではない。だが、それを理由にして未来を閉ざすこともまた、許されなかったということだ。いつだったかギアは「生きていることそのものが貴方への罰」と言っていたっけ。そうだな、そうだった。だが、それも終わったのかもしれない。終わってしまったのかもしれない。だとしたら……俺はこれからどう生きるのがいいんだろう。何故、まだ生きているのか……その答えを今ブランがくれた気がする。
「それがいいな」
「晴れたわね。迷いも、表情も」
「ありがとう、ブラン」
「どういたしまして。それじゃあ影、仕事よ」
くるりと回れ右をしてブランは執務室に戻っていく。反射的に右手が伸びるが……もう、この手を伸ばす必要もない。あの子はもう、俺の……俺たちの前から消えることはないはずなのだから。
「あぁ、次は何をすればいい?ブラン」
「そうね……」
扉の前で立ち止まり、思案する。が、何かに気づいたようにこちらを見る。
「茜と、夕と。幸せに生きなさい」
生きるということに、目をそらすなと。今の幸せを手放すなと。そう言って、ブランは扉の向こうへ消えていく。
「……ただいま、えー君」
「おかえり、茜」
「ブランちゃんから、大切な仕事を貰ったね」
「聞いていたのか……それが俺の仕事なら、勤め上げるまでだよ」
ボクがこっちで過ごして1か月が経っただろうか。多分向こうはもう2か月以上は経っている。そろそろ戻らないと。そう思って次元移動用のシェアを融通してもらったり石集めと並行して自分で集めたりして、今ボクは帰る準備が万全にできたところだ。
「楽しい時間はあっという間だったよ、みんな」
「そうね、本当にあっという間だったわ」
「ゆ~ちゃん、元気でねぇ~」
「そちらの世界も復興が進んでいると聞きましたし、もしかしたらこちらに来る前とは大違いになってる可能性もありますわね」
「そうだね。楽しみ半分、怖さ半分かな。でも、道に迷うことはないと思う」
「ならいいわ。夕、向こうの影……あなたのお父さんのこと、しっかり見ておくのよ。どこかに、消えてしまわないように」
「うん、お母さんもいるけど……そうだね。お父さんは……そんな気がする」
外は綺麗な青空が広がっている。雲一つない快晴。
「じゃあね、みんな。また来るとは思うけど……そんな頻繁には来れないから、さ」
「えぇ。それじゃあね、夕。元気で過ごすのよ」
「ノワールさんも。プルも、ブランさんも、ベールさんも」
「また来てねぇ~」
プルの声を背中に受けながら、ボクは次元を移動する門をくぐる。戻る先はボクのいるべき世界。止まった針がもう一度動き始めた世界。
「……ただいま」
教会の窓から見える空も晴れていた。雲はあるけれど、青い空がよく見える。
「おかえりなさい、夕さん」
「イストワールさん。お父さんとお母さんはルウィーだろうけど……ネプギアさんは?」
「お仕事中です。ネプテューヌさんも見習ってくれればいいのですが……」
「ネプギアさんの……お姉さんだっけ。逆……じゃないの?」
「ネプテューヌさんがお姉さんなんです。ネプギアさんもネプギアさんでずいぶん甘やかしているので……」
「そう、なんだ。話をしてみたいけど……でもまずは、お父さんとお母さんに会いたいな」
「では、こちらから影さんに連絡をしておきますね」
「ありがとう、イストワールさん」
ぺこりと一礼した後、外に出てルウィーへの道を歩く。色あせているように見えた世界の景色も、向こうと同じように鮮やかに見える。それは、すれ違う人の表情もそうだ。みんな明るい。
「……これが、ボクたちが守った世界なんだね」
ひとり呟く。口角が上がる。そして駆け足になっていく。積もる雪を踏みしめながら、教会をめがけて駆け抜けていく。
「はぁ、はぁ……」
白い息と上がる肩、はやる鼓動と高揚感。扉を開けて一歩踏み込む。
「……ただいま!」
言葉と視線の向こうには二人の人影。
言葉に振り向き、微笑む。
『おかえり』
『並行世界の先導者』これにて完結でございます。
毎度毎度至らぬ点だらけではありますが走りきることができました。
今度こそこれで完結です。ありがとうございましたッ!