並行世界の先導者   作:Feldelt

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猛烈に書きたくなったエピローグ後のお話です。



AFTER01:対話

夕が帰ってきてから数か月、ブランに少し休めと言われた結果、今俺は家族でプラネテューヌに来ている。ただ、茜も夕もいろいろ行きたいところがあるらしく、二人で早々に旅立っていった。結果、俺は一人教会でお茶を飲んでいる。

 

「すまない、イストワール。忙しいだろうに」

「いえ、アポイントメントがあったのでお気になさらないでください」

 

そのアポも前日だぞ……となりながらまたお茶を飲む。

 

「なんというか、落ち着かないな。少し前まで勝手気ままというか、普通に住んでいたからな……」

「そうですね。ですが影さん、今はもうルウィーの職員……国家公務員なのですから」

「そうだな。……ギアは仕事で、ネプテューヌはプリンか?」

「それが実は、ネプテューヌさんがお仕事を自分から始めたんです」

「What!?」

 

冗談ではない。あのネプテューヌが仕事を?

 

「ネプギアさんに任せっぱなしだったのを反省したみたいで……」

「そう、か……驚いた、本当に……」

「ただ、しばらくネプギアさんはお仕事以外のことをあまりしてこなかったみたいで、いざ早く終わらせてしまうとテラスでぼーっとしていることが多いんです」

「……わかった」

 

これも俺が招いたことか。

 

「影さん?」

「ギアと、話をさせてくれないか?」

「……そうですか。わかりました。影さんなら、お話が弾むかもしれませんね」

 

ネプギアさんはテラスにいますよ、と言ってイストワールはまた飲み物を用意しに行く。あの大きさでお盆と湯飲み二つくらいは持てるのがすごいなと思いながら、俺もよくいたテラスに向かう。

 

「あぁ……」

 

そこにいたのはネプギアだった。悲しいほどに俺に似た……俺と同じ雰囲気を纏ったネプギアが。

 

「影さん……来てたんですね」

「あぁ、休みをもらってな」

「そうですか」

 

会話は続かない。言葉もなく、二人で外を見る。

 

「……ギア」

「……影さん」

 

話始めが被る。数瞬の間の後、口角が上がる。

 

「笑うほどですか?」

「きっと考えてることも同じなんだろうと思うと、な」

「それは……そうですね。影さんが……私と、私たちと壊した世界が、元通りになっていきます。それにもしかしたら、前よりもよくなっていってる気がするんです」

「そうだな。活気がある。いつか見たあの国のように……まるで消えかけの焚火に薪をくべるように」

「……影さん、私は……」

「……火を消さないことは、消すことよりも難しい。胸を張れ、ギア。って共犯者が言うのは違うか……」

「共犯者、ですか」

 

暖かい風に髪が流される。共犯者という言葉に何かの引っかかりを得たギアは復唱し、笑う。

 

「ギア?」

「影さんに、笑わされるなんて思いませんでした」

「そうかい、気に入ったのか?」

「そうですね、とても」

「……意外だな」

「そうですか?私たちは、同じ目的のために世界を騙していたんですよ?共犯者でいいと思います。言われるまで全く思いつかなかったですけど」

「そうか。……なぁギア、いつかの旅の報告書見たか?」

 

それはもう何年も前の旅。夕がまだ幼かったころの、数少ない外出の記憶。理想への招待状。

 

「読みましたよ、何度も……何度も。夢を見てきたかのような影さんの綴るその報告書は……影さんの理想を見てきたという純粋な思いは……本当に、いいものでしたから」

「……そうか。あの理想は……夢だったはずなんだがな」

 

次元を超えた友人たちは今頃どうしてるだろうか、なんて考えたことは今の今までなかった。記憶の片隅に……記録の奥底に眠っていたものだったが、あの眩しい理想の世界に近づいた今のこの世界を見てしまえば、連鎖的に思い出される。

 

「夢は夢でも……正夢だったというだけですよ」

 

俺を真っ直ぐ見つめるギアの瞳は、輝きを増していた。あぁ、そうだった。ずっと昔、俺が世界を壊すまでは……君はそんなに輝いた瞳をしていたのか。取り戻すことができたのか。

 

「そうだな」

 

おもむろに右手をギアの頭の上に乗せる。ぽふぽふと音が聞こえるような手の上下運動と、頭を撫でる左右の運動。

 

「……少し前の私なら、この手で撫でられることは……嫌ではなくても抵抗はありましたね」

「それが正常な反応だろう、この手は……」

「でも、今はこれでいいんです」

 

両手でしっかりと、俺の手を握るギア。

 

「ギア……?」

「影さん。ありがとうございました」

 

握った手を離さず、真っ直ぐに俺を見て感謝の言葉を述べる。俺は、俺には……そんな筋合いなんてないはずなのに。

 

「私はあなたを憎んで、恨んで……でもそれだけでした。あなたのしたことを、許すことなんてできなかった」

 

握る手の力が強くなる。

 

「でも、忘れることも、止めることもできなかった。私はあなたに、何もできなかったんです」

「そんなことは……」

「……ありますよ、私から何か行動することはできなかったんです。ただ行き場のない恨みや憎しみを抱えただけで、ぶつけることすらままならなりませんでした」

 

沈黙が流れる。この独白に、言葉は挟めない。

 

「……ですが、影さんはいなくならないでくれました。お姉ちゃん達を貫いた魔剣の力で茜さんを助けて、犯罪神を倒して、それで……私たちは帰ったんです。帰れたんです。私はそれが嬉しかった。……私は、」

 

手を見ていたギアの視線は再び俺の目に戻る。さっきよりも強い眼光とともに。

 

「あなたを恨み続けることが、憎み続けることができました。影さんが生きていてくれたから、私は……お姉ちゃんたちが帰ってくるまで、頑張れたんだと思います。だから……ありがとうございました」

 

あぁ、そうか。俺にとっての茜が、ギアにとっての俺だったのか。だったら……それは苦しかっただろうに、悲しかっただろうに。

 

「それは……」

 

握られ続けてる手を引き戻し、ギアを抱き寄せる。いつか、俺が壊れかけた時とは違う意味の抱擁がここにある。

 

「俺と同じ類の苦しみだ、存在が自分以外に定義される女神ならなおさら、それは自身を歪めていったはずなのに……!」

「……何言ってるんですか、散々歪んだあとの影さんが言っても何も響きませんよ?」

「だとしても、いやだからこそ……!」

 

ギアが俺を憎むのは当然だ。俺はそこで思考を止めていた。だからギアが俺と同じように、壊れかけていたことに気づけなかった。俺はそれが許せない。

 

「でも、わかったこともあるんです。恨み続けるのは辛いことです。それが他人であれ、自分自身であれ」

 

はっとする。自分自身を恨むことなんて、俺はともかくギアにもあったのか?

 

「影さんを止められない自分自身が許せない。寝首を搔くことだって、いつでもできたはずなのにそれをできないことも許せない。お姉ちゃんの仇なのに……ずっと、ずっと抱えてたんです」

「……」

「お姉ちゃんが、守護女神の皆さんたちが帰ってきて、それを抱える必要がなくなったんです。そしたら、一気に心が楽になったんです」

 

ギアの両腕がゆっくりと回される。言葉は続く。

 

「影さんのしたこと、行為と結果は消えません。それは罪として残ります。ですが……」

 

至近距離で、目をそらせないほどの強いまなざしでギアはさらに続ける。

 

「私はあなたを赦します。凍月影さん」

「ッ……!」

 

その言葉は、『凍月影』をまた一歩前進させるには強力すぎる言葉だった。『喪失』ででしか進むことはできなかった俺の、最後の『喪失』。それが、『ネプギアによる赦し』。

 

「もう、いいんです。終わりましたから。あなたも一緒に未来に向かうべきです。忘れてはいけません。でももう縋ってもいけません。私も私の決着をつけました。影さん、あなたもあなたの決着をつけてください」

 

なんたる偶然だろうか。ブランとほぼ同じことをギアも言っている。まだ俺は、前を向ききれていなかったのかもなしれない。それも終わったか。終わらせる時が、来たのか。

 

「あぁ、そうだな。……ありがとうギア。それに……」

 

テラスの入り口に目線を向けると隠れて聞いてるネプテューヌ、茜、夕がいた。

 

「お姉ちゃん!?いつから聞いてたの!?」

「えぇ!?気づかれた!?」

「えーっと……『理想は夢だったはず』ってところからだったはずだよね?お母さん」

「そうだねー。いやー、まさか帰ってきたら修羅場っちゃってるんだからニコニコ笑顔で眺めざるを得ないって。ねー、ねぷちゃん」

「ねー。じゃないよ!茜から見たらこれ浮気だよ!?なんでそんなのほほんとしてるのさ!」

「のほほんとするよ?えー君が私とゆーちゃん以外の女の子のところに帰ってくるなんてありえないんだからさ」

「言い切っちゃうの!?これが正妻の余裕ってやつ!?」

 

とまぁあのネプテューヌがツッコミに回るほどの余裕がなくなった様子を眺めたところで話は終了。茜からは最後に一言、「これで全部終わったね、本当に」と。全く、茜には敵わない。夕からは夕からで「お父さん、あれは浮気なの……?」とマジトーンで聞かれる始末。茜と声をそろえて『まさか』と言ったところで夕は納得した様子だった。そう、これで全部終わったのだ。

 

……いや、まだ一つ残っているな。それは帰ってからにしよう。

 

 

 




次回、「AFTER02:清算」

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