並行世界の先導者   作:Feldelt

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AFTER02:清算

ルウィー教会の敷地内、限られた者のみが知っているその場所には、二つの墓標がある。

 

「ここに……来る資格はないと、思っていたんだけどな」

 

その墓標の周りには手入れされている花壇、長椅子と本。どこか幻想的な雰囲気を醸し出しているこの場所は、他でもない双子の兄妹の墓標である。

 

「黒、白。どの面を下げてと思うだろうが……ようやく、ちゃんと話をしに来ることができたよ」

 

長椅子に腰かけ、二つの墓標を見る。

 

「俺は、あの時の選択を間違ったとは思っていない。きっと、お前たちもそうなんだろう」

 

その判断がまぎれもなく正解であったことは、今に続く時間が証明している。だからこそ、後悔が募る。

 

「だから、間違えておくべきだったのかもしれないと、そう考えることも多いんだ」

 

あの引き金は、可能性全てを断つものだ。彼らが助力してくれるかもしれなかった可能性も、最後の最後まで妨害をしてくる可能性も、全てが終わったあとに奇襲してくる可能性も、白が女神としてネプギアと渡り合い、世界をよりよくしたであろう可能性も、全て断ち切る。その引き金を引く判断をあの状況で、状態で、リスクとリターン、それに感情も入れて正確に判断することは不可能だ。それは冷静な今現在の自分でも、変わらない。

 

「だがすべては結果論でしかない。今があるのは、な……」

 

終わってみればブランは、女神たちは生き返り、世界は元に戻ったと言える。だがこの二人はどうか。魔剣の中に魂があったわけではないこの二人は、ただ死んだだけである。若くしてその生涯を終えただけである。そう、普通は失われた命は二度と戻ることはないのだ。

 

「……どうしようもない、困った男だな、俺は……」

 

脳裏に浮かぶのは夕の姿である。きっと、この二人が生きていたら夕は懐いていたであろう。黒も白も、夕のことを可愛がっていたであろう。その様子を、茜とブランがほほえましく見ている光景だって簡単に想像がつく。ただの度し難い愚かな男、凍月影以外は純粋な幸せを享受している光景だ。

 

「いや、血は争えないともいうのか……」

 

だったらもはやただの屑でしかない。かなぐり捨てたはずの欲望が捨てきれなかった愚者の成れの果てだ。ほぼ全ての人間を捨てた俺自身に残ってしまった人間の残りかす。

 

「だったら俺は……俺は……ッ!」

 

左手を強く握り、動きの制御をプログラムに任せる。できる限り強く、左頬を殴るように。

 

「ぐぶっ……」

 

自分の意思とは切り離したからこその強い痛み。地面に倒れこみ、切れた口の中から血を吐く。きっとこれを繰り返せば頬や顎の骨が折れるだろう。脳震盪だって起きるはずだ。立ち上がって第二打を用意しよう。……こんなことを繰り返しても、この二人は生き返りもしなければ、満足することも、赦してくれることもないはずなのに。

 

「……珍しく先客がいると思ったら、物騒なことをしているものね」

「ブラン……」

 

身体を起こしたところで、視線の先にはブランがいた。プログラムは止めるしかない。

 

「……貴方の事だから、自分で自分を殴り続けるつもりだったのでしょう?それで誰も満足も、納得もしないことをわかっていて」

「……あぁ」

 

二人で長椅子に座った後に、ブランは本を開きながら話す。全て、わかっていて。

 

「はぁ……ここに3つ目の墓を建てられるほどの余裕はないわ。諦めて情けなく生きていなさい」

「……情けなく、か」

「……えぇ。私たちは、子供二人を大人に育てることの出来なかった情けない親よ」

「ブラン、それは……っ!」

 

違う。俺が撃ったんだ、俺の罪で責任なんだ。それを一緒に背負おうだなんて、それは……!

 

「貴方一人が親だったら、それは貴方だけの罪で責任よ。でも、それは違うわ。黒と白の母親は私よ。その責任から逃げるつもりはないわ」

「……」

「皮肉な話ね。子ども二人守れないくせに、国を護らなきゃいけないのは……」

「……」

 

何も言えない。言う資格がない。今までここに来ることすらできなかった、親というにはあまりにもおこがましい存在の俺には、何も。

 

「影。私を刺す前の問い、覚えているかしら」

「……俺の戦った世界に、女神のいる意味はあるのか……だったか。答えはノーだと、言った覚えがある」

「そうね。全てわかった上で貴方は選んだ、進んだ。黒と白を撃った時から、今こうなることもわかっていたのでしょう?」

「……そう、だな。わかっていた。だから、向き合うことを恐れた。資格がないと。そう、言い聞かせて」

「……はぁ……」

 

ブランは本に栞を挟み、閉じる。そしておもむろに俺の顔に手を伸ばし、しっかりと掴む。真正面にブランの顔が見えるように。それ以外が見えないように。

 

「馬ッ鹿じゃねーの!?」

 

そして出たのは罵倒である。いや、ブランの言う馬鹿は照れ隠しなこともあるから罵倒とは一概には言えないが今回は正真正銘罵倒である。

 

「全部わかってるくせに、てめぇは逃げた!今の今まで逃げ続けた!私はッ……!それでも私は、てめぇが自分の意思でここに来ることを待った!だのにまだ、てめぇは逃げるのか!」

「ッ……!」

「向き合うのが怖い?資格がない?私だってそうだ!でも逃げねぇ……私が魔剣に刺されることを選んだから黒と白はてめぇに殺られたんだ!私が……私たちがあの二人を殺ったんだ!女神として……親として、加害者として!その罪と責任からは絶対に逃げねぇ!逃げてなるものか!てめぇはどうなんだ、影!」

「俺は……」

 

ブランの叫びは、俺以外にはぶつけることができないものだった。茜は感じ取っていたかもしれないが、俺に伝えることはしなかった時点で茜も俺の問題だと認識していたし、俺が自分でなんとかできると信じてくれていたのだろう。そして、当の俺はようやくすべてが繋がった。ブランも黒と白に向き合って、苦しんで苦しんで、それでも罪と責任を自覚し、逃げないことを選んだのだ。あの日の俺たちの選択がこの二人を殺したのなら、俺だけの罪と責任というのは傲慢、あるいは思い上がりで……黒と白どころか、ブランとも向き合うことが俺はできていなかったのか。

 

「俺も逃げない。もう逃げない。黒と白からも……ブランからも」

「ッ……そう。なら……」

 

ブランは手を離し、椅子から立ち上がる。身長差のせいで座っている俺の目の高さがだいたい立っているブランの目の高さに一致するからさっきとは違って自然な姿勢で目が合う。そしてブランは微笑み……

 

「ッ……!」

 

一瞬、だが確実に唇が触れ合った。

 

「ブラン……?」

「私のわがままよ、影。もう、思い残しはないわ」

「……」

「私たちは黒と白への罪と責任を背負って今を生きる。同時に……」

「未来へ……生きる、か」

「えぇ。……黒、白。あなた達から奪った未来、絶対に失くさないわ」

 

そう言って、二人で墓標を後にする。

きっと、黒なら「……わかった、絶対だよ」って言いそうなものだし、白なら「裏切ったら許さないよ」くらい言いそうなものである。そう、聞こえたような気もする。

 

「あ、お父さん。どこ行ってたの?」

 

ブランは執務室に戻り、自室に向かう廊下で夕に会う。あの日最後に見た白の背丈よりも大きくなった夕を見て、静かに笑う。それは自嘲だが、俺はもう逃げない。未来に生きると決めたのだから。

 

「……秘密だ」

 

 

 

 




とりあえず書きたくなったAFTER編はいったん終了です。
また思いついたときに書くと思います~
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