並行世界の先導者   作:Feldelt

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第七話 誕生、黒の女神

ノワールさんとプルと三人でメモリー・コアへ向かう。

ゆっくりでも和気あいあいと進んでいたんだけど……メモリー・コアにいた人影によってそれは一気に緊張感に変わった。

 

「誰かいる……」

「嘘、そんなことってある?そもそもこんなところに来るのは女神になりたい私かそれとも……って!あいつが手に持っているの!」

「ちょ、ノワールさん!?ごめんプル!ノワールさん一人じゃ心配だからゆっくり来て!」

「えぇ!?待ってよ二人とも~!」

 

なんて、プルの声を背中に受けながらノワールさんを追いかける。あの立ってる人、まぎれもなく手練れ……!

 

「そこの一人と一匹!手に持っているものを渡しなさい!」

「ちょ、いきなり抜剣するんですか!?」

 

ノワールさんは片手剣を帽子をかぶった女性に向けている。それは紛れもなく、悪手だけれども……それを指摘したところで、どうにかなるほど甘くなんてない。

 

「なんだ貴様ら、素性はわからんが、貴様らもこいつが目当てのようだな。」

「っ……!その結晶は……!」

「あれが、女神メモリーよ。」

「やはりか。ならば話は早い。渡さん、それで終わりだ。」

「だったら、力ずくで奪うまでよ!」

「私から?力づくで奪うと?おいおい、寝言は寝てから言え。あぁいい、みなまで言うな。すぐに眠らせてやる。永遠に、だがなぁ!」

 

増幅する殺気。あのときのお父さんがボクに向けたものなんて比べ物にならないもの。

 

「やばい!こいつ……ボクたちを完全に殺しに来てる!」

 

霊装・霞を顕現、紅月と蒼陽を装備する。

 

「光栄に思うといい。七賢人が一人、マジェコンヌ様が直々に貴様らをあの世に送ってやるのだからなぁ!」

「ぢゅー!?なに言いふらしてるっちゅか!?」

「構うまい。どうせ死ぬのだ。冥土の土産に……」

「アクティブ!《ストレイト・グレイシャー》!」

「む?貴様なかなかやるな……そうか貴様が……」

「ボクの話はもう聞いたみたい、ですね!」

 

話し終える前に奇襲したはいいものの簡単に防がれる。うーん、手に握ってる女神メモリーを奪い返せればよかったんだけど……てかボクの持ってるのを渡せばいいじゃん。でも……鞄を漁って渡せる余裕はなさそう。

 

「面白い。おいネズミ、これを持ってお前は先に行け。」

「ぢゅ?いいっちゅか?」

「構わん。奴らの狙いはこれだ、それにこの娘は手練れのようだ。片手がふさがっては面倒だしな。」

「あんたねぇ、私を無視するんじゃないわよ!」

「おおう、いたのか。貴様はこの娘の足元にも及ぶまい。ついでに始末してやるから大人しくしていろ。」

「ついで?ついでですって……?ずいぶんとなめてくれるじゃない!」

「逆上もまた悪手……!普段の冷静さを忘れないでください!」

 

速く、細やかに短剣の攻撃を重ねても一発も届くことはない。

 

「仕方ないっちゅね。」

「最初からそうしてればよいのだ。さて、出し惜しみなぞせんということだけ、言っておくぞ……!」

 

さらに増幅する殺気。笑えない……!

 

「アクティブ!《アイシクルブレイズ》!」

「煩わしい……!氷なのか炎なのかはっきりしろ!」

 

ボクの放った大技はいとも簡単に防がれ、放った後の隙を突かれる。

 

「ちっ……!」

「ほう、これを防ぐか。」

「だから、私を忘れてるんじゃないわよ!《パラライズフェンサー》!」

「ふん、甘い!」

「うそ、防いだ!?」

「遅いうえに軌道が直線では見切られて当然というものだ。」

「まるで攻撃を完全に読み切ってるような挙動と口ぶり……誓約女君?いや、あれほどではないし、お父さんやお母さんほどでは、ない!」

 

出力を上げ、もっと速く、鋭利に……!

 

「ちょこまかと……だが、そんなものではな!」

 

だけど、放たれたのは波動。攻撃が自分に向いているのなら、自分を中心に全方位に放てば必ず当たる攻撃。お父さんもお母さんも読み切ったり把握しきったりでボクの位置を読み切って反撃してくるからこれを失念していた……!

 

「ぐぅぅぅぅっ!」

「きゃぁぁぁぁ!」

 

おかげでまともに直撃したボクとノワールさんはボロボロに。即死まではいかなかったからOFF波動ほどではないけど……

 

「動けない……」

「強すぎる、私が、こんなに簡単に……!」

「少しは楽しめたが……こんなものか。」

 

まずいやられる、だったらボクも使うしかないのか、女神メモリー……!

 

「ぢゅーーーーーーーーーっ!?」

「……!?」

 

そのときだった。少し遠くから、さっきいたネズミの断末魔に近い叫び声が聞こえて、マジェコンヌが大きく吹き飛んだのは。ついでに足音もする。誰だろうか、この状況で来そうな人……プル?

 

「あらあらぁ?これはなかなかいいものねぇ?女の子が二人地べたを這っている様子なんて、そうそう見られるものじゃあないものねぇ?」

 

走る寒気。さっきまで感じてたものとはまた違うもの。

 

「プルルート!?なんで変身してるのよ!?」

「これが、プルの女神化した姿……女王様って感じだね……」

「いや夕、冷静すぎない!?」

「いやー、もっとすごいの知ってると、このくらいの背筋に走る悪寒は大したものじゃなくって……」

「随分な言いようねぇ……こっちはノワールちゃんと夕ちゃんを助けるために変身してあげたのに……無力で非力で、相手の力量を見抜けないほど愚かで……でもそこが可愛らしいノワールちゃんをねぇ!」

「うわー、そこまで言うんだ……」

「あーもう!助かったわよプルルート!どうもありがとう!」

「素直じゃないところも可愛いわぁ……ところでノワールちゃん、これ、なんだかわかる?」

「それ、女神メモリーじゃない!」

 

ノワールさんは咄嗟にプルの持つ女神メモリーに手を伸ばすもプルはひょいと届かない高さまで持ち上げる。

 

「誰もあげるなんて言ってないわよぉ?それともこれが欲しいのかしらぁ?」

「そうよ!欲しいわよ!あなたなら知ってるじゃない!」

「えぇそうねぇ……でも、だぁめ。少なくとも、ただではあげないわぁ。」

 

ようやくゆっくり起き上がることができたボクはお母さんから渡されていたネプビタンを飲みながら吹き飛ばされたマジェコンヌを見る。体勢を立て直してはいるものの、こちらを攻撃する意図は見受けられない。プルを警戒している……?

 

「じゃあ何よ!お願いしますプルルート様とでも言えばいいわけ!?」

「それも悪くはないけれど……そうねぇ、あたしは対価が欲しいわぁ。これをノワールちゃんに渡したとして、ノワールちゃんはあたしに何をくれるのかしらねぇ?」

 

ゾワゾワする。ボクに向けられた言葉では無いけれど、その言葉には明らかに悦を求める意思がある。

 

「プルルートに、あげるもの……?」

「そういえば、女神メモリーってとぉ〜っても珍しいものなのよねぇ……当然、ノワールちゃんはそれよりすっごいものをくれるのよねぇ?」

「のわぁ!?そんな無茶苦茶なぁ!?」

 

ボクだったら何を……いや、それを考えるのは野暮だろう。ボクとマジェコンヌは睨み合っていて、ノワールさんとプルはこんな感じ。鞄を漁る暇もないし第一、今のプルを邪魔してはいけない。

 

「あらぁ、くれないのぉ?だったらこれ、捨てちゃうわぁ。」

「ま、待って!」

「聞こえないわぁ、あー……捨てちゃうと誰かに拾われちゃって面倒ねぇ……じゃあ、壊しちゃおうかしらぁ!地面に叩きつけて、ヒールで粉々にして!それも悪くないわねぇ!?」

 

高笑いをするプル。背中に走り続けるゾクゾク、もう泣きそうなノワールさん。

 

「だから待ってってばぁ~っ!!」

「……気のせいかしらぁ?空耳かしらぁ?今、私が()()()()()言葉とは違う言葉が聞こえた気がするのだけど……」

「うぅ……その…………いて……るから……」

「聞こえなぁい。」

あなたの言うこと!なんでも一つだけ聞いてあげるから!だからお願い!その女神メモリーを私にちょうだい!

 

結果、出たのは「なんでもする」というワイルドカード。いや、それは……怖すぎる。

 

「ふふふふふ……あーっはっはっは!!!いいわぁ、いいわねぇ!」

 

再び高笑いのプル。あぁ、ノワールさん震えちゃってるよ、もう泣くよこの人。誇張なしに怖い、ここまで怖いって思ったのはボクがお父さんの部屋に置いてあった白い帽子を被って外に出ようとしたとき以来……いや、ほんとあのときはお父さんの顔色が変わったしめっちゃ怒ってたし……うぅ、今思い出しても体中が震えるよ……

 

 

「それじゃぁ、ノワールちゃんにはご褒美をあげなきゃねぇ?はい、あ~げる?」

「あっ……とと、これが、女神メモリー……」

「ふふふ、夕ちゃん、待たせたかしら?」

「待ってた半分、待ってない半分……ボクとしては向こうのマジェコンヌが動かないのが不思議で不思議で……」

「ふん、貴様らの茶番に興が削がれてな。だがいいのか?その娘は貴様らの友人なのだろう?女神メモリーに適合し女神となれる存在は数十年……いや、数百年に一度の存在だ。ましてや適合しなかった場合異形の化け物になってしまうのだぞ?」

「え、それは初耳……」

 

とっさにボクはノワールさんを見ると、あからさまに躊躇している。やはり、化け物になるかもしれないリスクは……

 

「その時はその時ねぇ、仕方がないことだわぁ。」

「薄情!?え、え?と、友達なんだよね、ノワールさんと……」

「えぇ、そうよぉ?夕ちゃんもそれはわかってるわよねぇ?」

「はいおっしゃる通りですよく存じております。」

「ふふふ、重要なのは、ノワールちゃんが女神になろうが化け物になろうが、あたしは今と同じように、あるいは今よりももぉ~っと、愛してあげることができるということよ。」

「ひっ……」

 

愛、それは愛なの?なぜそこで愛?ボクの思考は止まらないけれど、きっとお父さんなら適当に返事して流すし、お母さんなら、多分ボクと同じようにうわー……って思うかも。でもボクは引きつった声しか出なかった。

 

「あらあら、夕ちゃんもいい声を出すじゃない、もっと聞かせてちょうだいな……可愛い女の子のひきつった声、あたし大好物なのよねぇ!」

「ひぃぃぃぃ!?」

 

敵より味方のほうが怖いってどういうことー!?助けてお父さん、お母さん……!って、今はボクしかいないんだ、助けなんてない……でも、女神とまともにやりあえるほどボクは……!

 

「もっとぉ、もっとちょうだいな夕ちゃん……もっと聞かせてぇ?」

 

全身に走る寒気、でもその冷たさで、ボクはふと冷静になる。ボクの頬に手を滑らせているプルだけど全方位の警戒は切ってない。ノワールさんとマジェコンヌは固まってる、だったら。

 

「すぅ、はぁ……」

「あら?深呼吸なんてしちゃって……もう終わりなの?」

「終わりだよ、でも……」

 

プルの手首を掴み、顔を近づけて耳元で囁く。

 

「お楽しみは後で取っておくものだよ。」

「うふふふふ……!ゾクゾクするわぁ……!」

 

狂喜するプル。さて、そろそろ……

 

「おい、茶番もそのくらいにしろ。いい加減見苦しいぞ。」

「やっぱりいつまでも待ってくれない?だよねぇ……じゃあそこのノワールさんから女神メモリー奪い返しちゃっていいですよ。帰ろう、プル。せっかく奪い返したのに使ってくれないんじゃあね。」

「はぁ!?ちょ、夕!?本気!?」

「でも、なぁんでも言うことは聞いてくれるって約束はしたんだし……確かに使うも使わないもノワールちゃんの自由だものねぇ、あたしたちはこ・こ・ま・で。」

「プルルートまでぇ!?」

「ふん、行きつく結論がそれではなぁ!」

 

動くマジェコンヌ。正直、ここまでしないと躊躇を拭い切れないのなら……そこまでだよね。お母さんが言っていた、リスクのない選択は全部、選んじゃいけないって。

 

「……!」

 

突如光るノワールさん。あまりに唐突で眩しかったものだから目を覆うんだけど……

 

「ふふふ、それでこそ、あたしのお友達。」

「何だと……!」

 

光が収まり、ノワールさんがいた場所にいるのは白のツインテールに灰色のえーっと、あれ、プロセッサユニットを纏った女神。成功したのかな。

 

「な、れた……私が、女神に……!あはははははは!すごい!力が溢れてくるわ!」

「セリフが悪役!女神メモリーは進化の秘法かなにか!?」

「ちょっと!最終的にはやっぱり化け物になるようなこと言わない!」

「さんっざん躊躇しといてよく言いますね!?」

「それは、あれよ!主役は遅れてやってくるのよ!」

「ここぞとばかりに……まぁ、いいです。これでようやく……」

「えぇ、こいつをぶっ飛ばせるわ!」

 

大きめの剣を構える変身したノワールさん。ボクも再び二本の短剣を構えなおす。

 

「女神がこの場で増えたところで……面白い、だったら今ここで蹂躙してくれる!」

「できるものなら、ねぇ?あぁ、言い忘れてたけど……あたし、二人を傷つけたあなたのこと、許すつもりはないから……手加減されるなんて、思わないことねぇ!」

 

 

 


 

 

そんなこんなでマジェコンヌを撃退したボクたち三人は無事に帰ってきたわけだけど……え?戦闘?なんかボクが戦うというか、もはや戦いにすらなってなかったというか、プルとノワールさんが生き生きしすぎていたというか、こう、なんだろう。ちょっとマジェコンヌをかわいそうに思うくらいは一方的で……

 

「あのオバサン、つまんなかったぁ~……」

 

いつものプルに戻った第一声がこれである。ほんとに同じなのか自信がなくなったよ……

 

「うぅ、散々だったわ……変身したプルルートなんてもう御免よ……」

「プルが時々出す殺気がわかったよ……まぁノワールさんが躊躇してなきゃもう少し楽だったのに……あ。」

「いやいや躊躇するでしょ……って、どうしたのよ。」

「ゆ~ちゃんなにか思い出したの~?」

 

思い出した、というか思いついたというか、あのメモリー・コアの周り、地質がちょっと違ってて石の感触とかが結構変わってたんだよね。火山系のものでもないし礫岩泥岩でもなさそうだったんだよ。あと考えられるのは人造のものだけど女神メモリーが生み出されることに関係があるのかあるいはメモリー・コアが作った?だとしたら……

 

「ちょっとメモリー・コア周りの石を!採取してくる!」

『えぇぇぇぇぇ!?』

 

ボクはマイロックハンマーと石ノミ、採取用キットを持って単身、メモリー・コアへとんぼ返りするのであった。

 

「夕、すっごい目がキラキラしてたわね。」

「すぅ……すぅ……」

「って!驚いた直後に寝るの!?もう!……でも、女神になることができたから……万事オッケー、なのかしらね。」

 

 

 




次回、第八話「突撃、隣のラステイション」

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