決死の演技(偽) 作:ムラサコ
彼女は夜凪景としてどう生きるのか。
※原作の夜凪景主義者には好まれない点もあるかもしれませんが、ご容赦をお願いします。
89歳で死んでしまい、私は『アクタージュ』の夜凪景として転生してしまった。
とある女子高生が女優を目指す物語である。
弟妹であるルイとレイの面倒を見ながら考える。私は女優になる気があるのか。
考えに考えたのだが、やはり私は演じるよりも見るほうが好きである。
父親のお金を使うのには抵抗がある。なのでバイトを掛け持ちする。伊達に89年の人生を全うしたわけではない、世渡り術は心得ている。
原作乖離してしまうが、原作に沿わないといけないというルールはない。
二度目の人生、無理に夜凪景になっても途中で醜態を晒してしまうのは目に見えているので、私は私の人生を歩むことにする。
これがBLEACHの主要キャラだったら話は別だが、アクタージュの世界で原作乖離しても世界滅亡とか、まずあり得ない。
私は安心してバイトに勤しむことにする。
「君、大丈夫かい?」
赤い髪の筋骨隆々の人物。
私はこの人を知っている。
クラウス・V・ラインヘルツ。血界戦線の主要キャラ、『秘密結社・ライブラ』のリーダー的存在。
改めて見慣れない町を見渡す。うん、至るところにファンタジー。
分かった、ここは霧けぶる都市『ヘルサレムズ・ロット』だわ。
「大丈夫じゃないわ。私、異世界から召喚されたみたいなの」
「そうなのかね?」
彼の相棒的存在、スティーブン・A・スターフェイズも話に加わり、近くのカフェで私は洗いざらいぶちまける。
ここが創作の世界とは言わない。私だったら聞きたくないからである。
なので未来人設定でいく。『ヘルサレムズ・ロット』なら、それもイケるだろう。
「うむ、なるほど」
話を聞いたクラウスさんは難しい顔をする。沈黙した彼の代わりにスティーブンさんが私に尋ねる。
曰く、どうしてそこまでのことを話すのかと。未来人だとしても、慎重に行動してしまうのが人間だろうと。
彼の話にその通りだと思う。だが、止むにやまれぬ事情がある。
「お家に帰らないといけないの」
「お家に? まあ、それはそうだが……」
「今日の5時までに」
「今日の5時までに!?」
何をバカなことを、理解出来ないと言わんばかりの驚きの顔と声でスティーブンさんは言う。
「いや、いくらなんでも……それは無理だろう。今から情報を集めるにしても、その正確性も判断しないといけない。何より君が本当に未来人なのかも、私たちには判断する時間が必要なんだ」
「駄目、今日の5時よ。これは絶対に譲れないわ」
「いや、だから――――」
「何故、今日の5時までなんだい?」
クラウス――と叫ぶスティーブンさんの声をクラウスさんは目で制す。
「……ルイとレイ、まだ小学生の妹と弟がいるの。お母さんが死んでしまって、お父さんもどこにいるのか判らない。……あの子たちには私しかいないの、私までいなくなるなんてこと…………」
そこから先は言葉に出来なかった。
考えるだけでも恐ろしい。
手が震えているのがよく判る。
いつまで経っても帰ってこない私を待つルイとレイの顔は――――
私は青い顔をしているだろう。この震えも、いつ全身に巡るか判らない。
手だけが震えているのも、まだ私の理解が追いついていないだけか。理解するのを拒否しているのか。
――麻痺しないと壊れてしまうのが、この体が判っているおかげか。
クラウスさんはそんな私を見て、力強く言った。
――君を今日の5時までにお家に帰れることを約束しようと。
謎の亜空間の光の残滓が僅かに残っている。
「……ジャスト5時。まさか、ホントに彼女が今日のうちに元の世界に帰らえれるとは思わなかったよ」
「彼女の家族を思う信念が願いを掴んだのだ」
クラウス・V・ラインヘルツは眩しいものを見るように夜凪景を思い出す。
理由を話す彼女は震えており、暗闇に迷い込んだ子どもだった。
だが、偶々近くで転移系の神の幇助器具がマフィア間で取引されるという情報を掴み、横から強奪する形で掴めたのは、豪運といえる。
「上からはどう報告するつもりだ?」
「偶々必要としている人がいた。二人の人命を左右するため使わざるを得なかった。そう伝える」
スティーブンは呆れた様子で見ている。
「……にしても、あれは凄かったな」
私はコクリと頷く。
幇助機を手にし、マフィアに囲まれた夜凪景。銃口を一斉に向けられた彼女を、私たちは目の前の敵を相手に、カバーが間に合わない状況だった。
一秒。その瞬間で彼女がハチの巣にされる。
だが、そうは起こらなかった。
夜凪景の目が、マフィアを止めたのた。
ヘルサレムズ・ロットではまず出会うことのない、人間が見せる殺気。神がかりといえるオーラはその場の空気全てを呑み込んだ。
彼女の目に、マフィアたちは硬直した。まるで重い濃霧が蛇のようにマフィアを拘束したようにクラウスは見えたのだ。
それはスティーブンも同じだったようで、彼女が言った『メソッド演技』について語る。
「彼女、役者じゃないと言っていたけど、あれは女優だよ。僕もドラマはそんなに見るタイプじゃないけど、彼女は役者の中でも怪物って呼ばれるレベルだね」
素人から見ても分かるよ、とスティーブンの言葉にクラウスは「ああ」と返す。
「彼女が演じる舞台、叶うものなら見て見たいな」
「……それは難しいんじゃないかい」
「…………」
夜凪景が元の世界に戻れたのは、偶然の偶然。奇跡中の奇跡である。
見ることが叶わないだろうと残念がる反面、あのオーラを見れて良かったという気持ちがクラウスにはあった。
その後の帰り道、クラウスとスティーブンはドラマや舞台について、少し談笑した。
翌日、偶然カメラに撮影された夜凪景の演技にネットの片隅で盛り上がっていたことを追記しておく。
無事、お家に帰ることが出来た私。
急いでお買いものへと直行。うん、この時間ならまだ大丈夫。
「お姉ちゃん、おかえり」
「おかえり」
「ただいま」
今からご飯作るね、とルイとレイに言う。
ヘルサレムズ・ロットに行ったせいか、なんだか久しぶりに二人と会った気がする。
「あれ、お姉ちゃん。これなに」
「うわ、高そう」
レイは怪しいものを見るように、ルイはキラキラと興味津々の目で見る。
せっかく異世界に行ったのだ。お土産の一つ、許されていいだろう。
私は藍色のオーパーツのような飛行機の模型を手に取り、自慢する。
「今日の成果よ」
ちなみに、ルイとレイの反応は真逆であったことは言わずもがなだ。
転生者はジャンプ作品が好きです。
定期購読者で、よく孫との会話のネタにしていました。
例え彼女が本当の意味で夜凪景でなくても、家族を愛する気持ちに偽りはない。