ペルソナEvolution1 ツキバネカオルの仮面 作:創作魔文書鷹剣
それは凍える冷気を跳ね除け、灼熱地獄を作り出す程の焔だった。薫の冷気と斬撃を寄せ付けなかったシャドウを相手にクリフォトは不敵に笑い、その背中に広がるマントをたなびかせて浮かび上がった。
「さあ、受けてみなさい!」
杖から焔が放たれてシャドウを襲う。その数は10や20では終わらず、幾つもの火球が灼熱の伊吹となって猛威を振るう。
「やはり冷気に耐性がある分、わたくしの『火炎』には耐えられませぬようで。まあ耐えられたら困りますが・・・」
シャドウは悲鳴をあげる事もない。ただ黙して火に焼かれ、その体が焦げて砕けた。
「この程度ではわたくしのペルソナを使うまでもない・・・ケダモノの死には相応しい終わり方ですねぇ?」
「あーハイハイそーいうのいいから。」
戦闘が終了したと同時にクリフォトが出した焔は全て鎮火した。ホントに都合の良い能力である。
「・・・アンタ強すぎない?」
「そんな事は・・・あるかもですね。」
「蹴られるならお尻とお腹とどっちがいい?」
「ハイすいません、調子こきました。」
せっかくカッコ良く決まったかと思ったらこれである。クリフォトがいかに力を見せつけようとも月羽宅での力関係は変わらないらしい。
「やっぱりアンタもペルソナ使えるんだ。」
「ええ、でなければあんな偉そうな事言いませんよ。」
「しかも炎。」
(しかも・・・?)
何がしかもなのかは置いておいて、ひとまず今の一戦で薫は一つ学んだ。ペルソナ能力とシャドウの耐性、相手の弱点を的確に突く事の必要性を。
「相性かぁ・・・なんかゲームってやつみたい。」
「ええ、ゲームってやつです。原作的に・・・」
「でも冷気も剣も効かない奴とか、今後また出たら私お荷物なんだけど。」
「その分効くシャドウ相手に暴れればいいじゃないですか。」
「そっか。」
裏世界の薫は饒舌なうえに思考パターンも前向きでありがたい。表世界の薫はあんなにネガティブなコミュ障だというのに・・・
「しっかし相性かぁ・・・私とアンタだけで人数足りるの?」
「・・・いいえ、恐らくわたくし達だけでは人数が足りません。ですが・・・」
クリフォトは「谷間」からタロットカードを取り出し、適当にシャッフルした後1番上のカードを引いた。
「『運命』のカード・・・恐らく貴女を取り巻く世界は、数奇な運命に満ちている事でしょう・・・」
「・・・テキトー過ぎない?」
「占いなんてそんなもんでしょう。」
1人と1体は慣らし終わった体で前に進む。暫く進んでいるうちに冷たい空気は消えていき、徐々に静かで薄暗いバベルスに戻った。通路の脇にある小さな部屋に寄り道し、クリフォトが細工を仕掛けた。
「ちょうどいい感じのスペースを見つけましたし、ここらで
「・・・セーブ?」
「ええ。ここでセーブしておけば、次裏世界に来た時はここから探索を始められます。いちいち入り口から探索始めたら一生進めませんし。」
「まあ、それはわかるけどさ・・・セーブとか言って大丈夫なの?」
「言わなきゃいいだけなんですけどね・・・」
あーだこーだ言いながら1人と1体は家に戻る。翌日からも日々バベルスの探索に時間を費やす生活を続け、しばらく時は経ち・・・
《5月1日(火)晴れ》
月が変わろうが薫がやる事は変わらない。適当に学校生活を送りながらバベルスに通うだけだ。今日もそのはずだったのだが、少しだけ違う出来事が待っていた。
「なあお前さ、今ちょっと時間ある?」
休み時間、自分の机でボーっとしてた薫は不意に話しかけられた。声が聞こえる右を見たら、妙に見覚えのある男子生徒がそこに立っていた。
「・・・。」コクリ
「よかったー、今暇過ぎて死にそうだったからさ。ちょっと暇潰しに駄弁ろうぜ。」
急に絡んできた男子生徒は薫を相手にひたすら話し続けた。特に返事が返ってくるわけではないが自分が喋れればそれで満足なのか、置物と化した薫に向かって喋りつづけた。
「あーっと・・・、お前さ、これって面白い?」
「・・・?」
「いやさ、普通人の話聞いてるだけってつまらなくね?」
「・・・。」
言われてみればそうなのかもしれない。だが薫は極めて特殊なのである。口が錆び付いたように動かないレベルのコミュ症である彼女にとって自分から何か話すのはハードルが高い。だから自然と彼女は聞く側に回るのであり「聞いてるだけ」がつまらないという発想がそもそも無い。
(・・・聞いてるだけ、話しかけたいけど・・・)
薫だって別に友達がいらないわけじゃない。なんなら1人ぐらい欲しいのだが、それが原因で日々煩わしい思いをするかもしれないと考えてしまう・・・ネガティヴにも程がある。
「まあ聞いてるだけでも楽しいならいいぜ、こっちから勝手に話しかけてる身で言う事じゃないけどさ。」
「・・・・・・。」
「おっと、もう授業始まるじゃん。じゃな。」
男子生徒は風のように吹き込み、風のように去って行った。
(・・・なんだろ、この感じ。)
いつもは他人との関わりを持たず(持てないだけだが)、ぼっち一直線な体質だった薫。しかしそんな彼女だからこそ人に話しかけられた時は人一倍嬉しいのである・・・まあ、本人は「嬉しい」という感情をイマイチ自覚出来ていないのだが。
(もう一回、話しかけてくれるかな・・・?)
《一方その頃・・・》
(アイツ・・・変わった奴だけど、少なくとも悪い奴じゃなさそうだな・・・)
自分の席に戻った男子生徒は窓際の1番後ろの席をチラッと見る。変わらずそこには無表情の薫が座っている。
(多分
やっと5月か・・・