ペルソナEvolution1 ツキバネカオルの仮面 作:創作魔文書鷹剣
《裏世界 バベルス内部》
薄暗い通路に響く足音。その主である少年は見慣れぬ風景に戸惑いながらも前に進んでいく。全てはこの場所を脱出するために。
「一体なんだってんだ此処は?暗いし寒いしおまけに意味わかんねえぐらい道がなげぇ。なんで俺はこんな所に来ちまったんだ?」
全ての発端は下校中、路地裏の一角が妙に気になって触れてみたところ謎の歪みに飲み込まれて今に至る。正直何がどうしてそんな珍現象が起きたのか少年は理解していないが、今は理解よりも脱出が先だと思考を中断する。
「しっかし・・・コレ本当に脱出できんのか?さっきから歩けど歩けど同じ景色がぐるぐる回ってるだけのような気が・・・」
バベルスの景色は変わり映えがしなさ過ぎて歩いている気がしない。少年が歩みを進めたその先で、奇妙な何かが蠢いていた。
「なんだありゃ・・・」
少年が目にしたのは紛れもなくシャドウであった。異形の怪物であるシャドウはバベルス内を徘徊し、目につく物に襲いかかるケダモノである。それを知ってか知らずか少年はすぐに逃げ出した。だがシャドウは人間の気配に敏感なものである。動いている人影を察知した瞬間、シャドウは走り出した。
「やっべ!!あの化け物追ってきてんじゃん!!」
歩いて来た道を逆走し、必死になって逃げ出す少年。しかし現実は中々非常なものである。遂に少年の行く先は行き止まり、背後にはシャドウ。絶対絶命である。
「畜生が・・・」
シャドウは人間の精神を残酷に貪り喰らうケダモノ、少年に容赦などせず襲いかかる。
「そこまで、です!!」
シャドウの脳天に突き刺さる杖、それを握るのはやはりクリフォト。間一髪で少年は助かった。
「弾けて・・・砕けなさい!!」
杖の先から紅い光が溢れ出し、その光を一身に受けたシャドウは消滅した。
「うそん・・・」
「なんとか間に合いましたか・・・お怪我はありませんか?」
「いやー・・・まあ、うん。」
少年の答えが歯切れの悪いものだったのは気にしないとして、クリフォトがポータルを開いて彼を表世界に送ろうとした時遠くから足音が聞こえてきた。
「私を!置いて!先行くなーーーッ!!」
「あ、薫・・・よく追いつきましたね。」
「何が『よく追いつきましたね』なの!?アンタが私の事置いてったせいでシャドウが大勢来るし!その相手した後でアンタ追っかけて走ったせいで滅茶苦茶疲れたし!!いい加減にしろーーーッ!!」
渾身のシャウトと共にクリフォトを思いっきり蹴っ飛ばす。目の前に第3者がいる事さえお構いなしだ。
「お、おい。お前って・・・」
「え?あ・・・」
漸く少年の姿が視界に入った薫は今の行為が人に見られてた事に気づき、急に激しく取り乱しはじめた。
「あ、あの・・・いや、これはその・・・えっと・・・」
「ぐふっ・・・か、薫・・・近くにシャドウ、が・・・」
「え?じゃ、じゃあ私行かなきゃだから・・・」
今しがた自分が蹴っ飛ばしたクリフォトの報告を受けて薫は臨戦態勢に移行する。さっきまであんなに取り乱してたくせに直ぐ切り替えられるあたり、裏世界の薫は切り替えが早くていい。
「薫、なんでこんなに猛攻を加える必要が・・・?」
「うっさい。」
「ええ・・・?」
「な、なあ・・・お前誰?」
「それは、また後で・・・」
そんな話をしている間にシャドウが姿を現した。見上げる程の巨体を有するシャドウの肉体が迫り来る。
「・・・あれを倒せって事?」
「ええ、単純な話ですよ。」
「単純だけどさ・・・簡単じゃないよね。」
シャドウの先制攻撃で戦いの幕は上がった。シャドウの攻撃は大きく2種類に分類される。「物理」と「魔法」である。このシャドウは物理に特化しており厄介な技は持ち合わせていないが、なんならその肉体こそが厄介の塊である。薫の剣と冷気、クリフォトの杖と炎を弾き返し逆に追い詰めていく。
「あいつら・・・マジかよ、あんなデカいの相手に・・・」
その戦いを離れて見ている事しかできない少年の心中は穏やかではない。いつ自分に飛び火するかわからないのに逃げる事さえ出来ない現状を恐れると同時に、彼の思考は僅かに余計な事を考えた。
(もし俺に、あいつらと同じ事ができたら・・・)
その余計な思考が、少年の運命を変えた。鋭く刺すような旋風がシャドウの肉体を貫いた。
「え・・・?」
「貴方、まさか・・・」
振り返る薫とクリフォト、振り返った先にいるのは少年1人。
『運命は開かれた・・・』
少年の頭に響く声、バベルスに風が吹く。
『契約の盃をここに・・・我は力を与え、汝は名と未来を賭ける・・・契約を交わすならば、汝の名を・・・』
「俺は・・・天地、亮だ。」
『ならば契約を・・・契約。我は汝、汝は我・・・吹き抜ける風の如く、その手で新たな未来を導くがいい!!』
少年・・・亮は頭痛に苦しみ苦悶の声を上げる。その声が消えた時、少年の瞳は金色に輝いていた。
「来いよ・・・『ラツィエル』!!」
漸く私のお気に入り、天地くん投入。