ペルソナEvolution1 ツキバネカオルの仮面 作:創作魔文書鷹剣
《5月2日(水) 晴れ 2-A教室》
今日も教室内は賑やかなものである。この喧騒が嫌いな人間もいるにはいるが、大半の人間は好きな部類である。だが窓際の席でボーっとしてる薫は大嫌いな部類の人間である。元々人と話すのが苦手な上に友達すらいない彼女にとってこの騒ぎは喧しいだけであり、耳障りにさえ思えるものだった。過去形なのは「彼」が原因である。
「あっ・・・」
「よっ、月羽。」
「お、おはよ・・・天地、くん・・・」
薫にとって初めての友達、天地 亮がやって来た。「線」を登録して以来ちょっとだけコミュニケーションをとったり、こうして直接会って話せる日々が待っているのは分かっていたが現実になると余所余所しい態度しかとれない。
(むぅ・・・)
そしてそんな自分に自己嫌悪。だがそんな気配を察知して彼はやって来る。
「なあ・・・『くん』は無くていいって言ったろ?いや別に付けたいならそれで良いんだけどさ。」
「だ、だって・・・その・・・えっと・・・」
友達の1人でも出来れば薫のコミュ障も改善されると思いきや、そんな簡単に治るはずもなくむしろ悪化したような気さえある。
「うぅ・・・」
「あー、わかったわかった。好きなようにしろよ。」
「ご、ごめん・・・」
「謝るような事じゃねえっての。」
こんなに根気強く会話を続けようとしてくれる亮は聖人君子の類ではなかろうか。並大抵の人間ならこの時点で嫌気が刺してしまうのだが、彼の場合は規格外すぎる優しさでそれを乗り越えている。なんという優しさの化身。
「で?今日も行くのか?あのバベルスとかいう場所。」
「う、うん・・・」
「よっしゃ、じゃあ学校終わったらそのままお前ん家行くわ。俺ん家帰ってから行くのダルいし。」
「!?」
昨日は考えもしなかったが、華のJKたる薫の家に男が行くなど冷静に考えれば「そういう仲」にしか見えない。彼女はこの辺に関して特に詳しくないのだが、それでもこの行為がアウトスレスレな事はわかる。精神年齢的に純情気味な彼女には刺激が強いのだ。
「え、えっと・・・その・・・」
だが悲しきかな、彼女の口からその言葉が出て来る事は無かった。亮は授業が始まる直前まで薫の話を聞いていてくれたのだが、それでもコミュ障全開な彼女はまともに言葉すら出せなかった。
《月羽宅》
「・・・そう言えばお前って1人で暮らしてるんだよな。」
「わたくしも居ま「うん・・・」薫、せめてわたくしが話し終わってから口を開いて貰えますか?」
改めて考えてみれば不自然極まりないものだ。16歳の少女が1人暮らしなどあまり一般的な状況ではないし、その家に人間っぽい謎の生き物が居候(?)しているのはどう考えてもおかしい。亮はその辺りについて一回詳しく聞いてみたいのだが、薫が何やら悲しげな雰囲気を醸し出すために自重してきた。
(聞きたい事は山程あるけどよ・・・今アレコレ聞いても答え返せそうにないしな。あれじゃ。)
「・・・コホン、それでは御二方にお話が御座いますので。行きましょうか、バベルスに。」
「あいよ。」
「・・・。」コクンッ!
一同はポータルを潜り、裏世界へと向かった。
「・・・ホント趣味悪い。」
薫が唐突に口を開いた。
「・・・ん?」
「空は赤いし、バベルスは真っ黒だし、シャドウは山程いるし・・・」
「・・・お前、こっちだと普通に喋れるのな。」
相変わらず薫は裏世界だと普通に喋れる。表と裏でどっちが正しい人格なのかは判りかねるが、少なくとも表よりかは裏の方が相手しやすいのは確かだろう。今のところは。
「さて・・・先ずは天地様に武器の方をご用意致しました。こちらを。」
クリフォトが取り出したのは一本の斧、翠色に輝くその姿は武器というよりも芸術品のような美しさを醸し出している。
「名を『龍風神斧』、貴方のペルソナに適した形が反映されてこの姿になっているのです。」
(・・・えっ?ダサくね?)
(・・・・・・・・・・)ジト~
「なんなんですか本当に!!そんなにわたくしのネーミングセンスが気に食わないんですか!?」
「「うん。」」
クリフォトのメンタルはブレイク寸前まで追い込まれた。薫が自分のネーミングセンスを気に入っていない事は知っていたが、加えて亮までも同意見となるとそのストレスは計り知れない。精神力が鍵となるペルソナ能力に影響を及ぼさないかが心配である。
「・・・ま、まあいいでしょう。それで、その斧は貴方のペルソナが有する疾風属性の力を引き出して行使する事が出来るのです。ホラ、試しに振ってみて下さい。」
「よっ・・・と!?」
ただ軽く振り回しただけで、風の吹かない裏世界に旋風が生まれた。もし更に強く振ったならどんな威力になるのかと亮が考えていた矢先、クリフォトがツツツ〜と寄って来て耳元で囁いた。
「天地様〜?いくら疾風属性だからって、薫のスカート捲ったりしたらダメですよ〜?」
「五月蝿い、黙れ。」
「はい、すいません・・・」
この阿呆はまたやった。亮が考え込んでいたのを悪巧みの兆候だと思ったのだろうが、彼はそんな事をするような男ではないのだ。むしろクリフォトのがやりそう。
「・・・とにかく、貴方のペルソナが強い事は先の戦闘で理解できましたので。ここからはその斧で実戦あるのみですね。」
「わかったよ。そんじゃ行きますか・・・月羽も行きたそうにしてるし。」
「別に行きたいわけじゃないから、ただ暇なだけだし。」
どう見ても背中からウズウズ感が溢れ出てた気もするが、あんまり深く追求するといつものクリフォトみたいに蹴り飛ばされそうなものだから黙っておこう。
「薫って本当にツンデレですよねー・・・」
「うるさい。」
「えびゃッ!?」
「なーんでこうなるって分からないんだよ・・・」
強烈なハイキックを受けて沈黙したクリフォトに呆れながら、一行はバベルスに向かうのだった。