ペルソナEvolution1 ツキバネカオルの仮面 作:創作魔文書鷹剣
遥か遠い景色、見覚えのある街並みと桜舞い散る海。慣れ親しんだいつもの光景だった。
「お父さんお母さん!お洋服買いに行こうよ!」
少女が両親に新しい服を強請っている。なんて事はない普通の光景だった・・・炎に包まれるまでは。
《4月15日(日)曇り》
(ん・・・?)
少女が1人、電車に揺られていた。
(夢、か・・・)
酷く嫌な夢だった気がするが、何を見たのかは思い出せなかった。
(いいや、そんな事は・・・)
思い出せない事は忘れよう、それよりも今は重要な事がある。
『東仁駅〜、東仁駅でございます。』
(・・・やっとついた。)
電車を降りて駅のホームに立つと、この町の景色がよく見える。「東仁町」それが彼女 「月羽 薫」のやって来た新天地だった。決して大きな町とは言えない町だが、この静けさは都会の喧騒に疲れた彼女にはぴったりだった。
《月羽宅》
(ここか・・・私の新しい家。)
大通りから1本離れたところにある小さな家、薫の新居は1人で暮らすには充分な大きさだった。こじんまりとしたリビングとキッチン、寝室や風呂がある辺りむしろ広い部類かもしれない。
(疲れた・・・お風呂入って寝よ。)
初めての長旅で疲れ果て、漸く落ち着ける場所についた彼女の行動は早かった。
「・・・はぁ…」
湯船に浸かっていると自然に溜息が溢れる。今日まで色々ありすぎて疲れていたのもそうだが、何よりも家にいても1人というのは薫にとって楽ではあるが楽しいものではなかった。「何処にいても自分は1人ぼっち」という現実が、彼女に重くのしかかる。
《深夜・・・》
(眠れない・・・)
風呂を上がってパジャマに着替え、寝室でベッドに転がっても寝付けなかった。彼女は元々不眠症気味だったが、だとしてもこれ程寝付けないのは初めてだった。
(そう言えば、明日学校か・・・)
明日の予定を思い出して憂鬱になるが、すぐにその気持ちは霧散した。
(ん・・・?今何か聞こえた気が・・・)
どうせ空耳だろうと気にも留めなかったが、すぐに眠りに落ちていった。まるで夢の世界へ導かれるように・・・
《4月16日(月)晴れ》
(ん、もう朝・・・?)
窓の外から差し込む陽光と目覚まし時計の騒音で目が覚めた。午前7時、寝ぼけた目で時間を確認する。ちょっと早いが学校に行く支度の時間を含めればちょうどいい時間だろう。適当に朝食を摂り、事前に届いていた
(・・・これで、いいの?)
黒いブレザーと灰色のスカート、胸元のリボンがちょっと恥ずかしいが学校指定だから従うしかない。必要な物を突っ込んだカバンを持ち、家の玄関をくぐった。
《東仁町 大通り》
(・・・眠い。)
やはり薫に7時起床は早すぎたようで、登校が歩きながら睡魔と格闘する時間になってしまった。
(あ、ケーキ屋さん・・・)
通りの店舗群に目を奪われながら歩き、すぐに学校は見えてきた。翠蓮学園高校、それが彼女の転校先だ。だが、門をくぐって直ぐに違和感を覚えた。
(・・・誰もいない?)
学校という場所はいつも騒がしくて嫌な場所、というのが薫の学校に対して抱く感情だった。だというのに、ここはあまりにも静かで、何よりも人の気配がなかった。
(・・・あ、誰かいる。)
校舎入り口の横、何故か机と椅子が設置されているそこに誰かがいた。
「お前、月羽薫だな?」
「・・・え?」
いきなり話しかけられ、しかも名前を言い当てられた彼女はつい反応が鈍った。だが目の前の「誰か」はそんな事は気にせず話し出す。
「契約ならこれに。」
「・・・・・・・・・・」
「誰か」が差し出したのは、一枚の契約書だった。
「これ、は・・・?」
「お前の運命、奪われた過去・・・全てと戦い答えを見つけるのか、全てを諦めて安らかな眠りにつくか。選べ、お前が決めるんだ。」
「私が・・・ッ!?」
一瞬、ほんの一瞬だった。何かがちらりと見えた気がした。紅と黒、それしかない景色・・・そして、その直後に襲ってきた激しい頭痛。今の景色が何で、何故頭が痛いのか、この契約書とやらに何の意味があるのかはサッパリだが、ただ一つ直感的にわかったのは、この契約書にサインせねば未来は無い事だ。
「月、羽・・・薫。」
「・・・いいぜ、ほとんど無意識みたいだが契約は契約だ。」
既に薫の思考はぐちゃぐちゃだった。意識が朦朧として何も聞こえない・・・視界に映る景色も歪んで見える。脚もフラフラで真っ直ぐ立てない。しばらく持ち堪えたがやがて力つき、地面に倒れ込んだ・・・
「・・・・・・・・・・ん?」
気がついた時、薫は翠蓮学園の入り口に立っていた。周りには彼女と同じ制服を着た生徒が大勢おり、先程の静けさとは程遠い騒がしさがそこにあった。
「頭痛い・・・早く行こ。」
変な夢(?)を見たせいで気分が悪い。この場に留まりたくない一心から早歩きで校舎内に突入する。しかし急いで歩いていると注意力が散漫になってしまうのが世の常だ。
「・・・ッ!?」
つい急ぎ過ぎた結果曲がり角で見知らぬ男子生徒とぶつかってしまった。
「おっと、悪かったな。」
男子生徒は軽く謝罪し、薫に道を譲るとすぐに立ち去って行った。
(・・・・・・・・・・まあいいや。)
譲ってもらった道を進み、事前に聞いたとおり職員室を目指す。転校生である彼女はまず担任の先生に会ってから教室に行くんだが・・・見所も書く価値も無いから割愛しよう。
《翠蓮学園高校 2-A》
2-Aは現在非常に沸き立っている。この教室に転校生が来るというだけでも十分ビッグニュースだというのに、加えてその転校生が女子だと知った野郎共は狂喜乱舞していた。まあ中にはどうせブスだなんだと期待していない輩もいたが、彼らの予想は大きく外れる事となる。
「・・・・・・・・・・」ガラガラガラ
無言で入ってきたソレは、一同の想像を遥かに上回ってきた。
「・・・月羽、薫・・・よろしく・・・」
ブスどころか想像以上の美少女が現れ、教室内は度肝を抜かれた野郎共の無言の絶叫が響いた(?)無愛想でちゃんと喋らないところは減点かもしれないが、むしろソレがいいとのたまう強者までいる始末。もうわけがわからないよ。
(・・・やっぱり嫌。学校。)
やっぱり学校は嫌いだ。と彼女が再確認したところで、空席になっている窓際の1番後ろの席に座らされた。
「・・・はぁ。」
また口から溜息が溢れた。薫にとっては無意識に出る癖みたいなものだが、何故かこういうのに反応が良い輩が近くにいるものだ。
「ねえねえ、溜息ついてどうしたの?」
薫の前の席にいる女子生徒が急に話しかけてきた。こういう時薫は面倒だから適当にあしらって躱すのだが・・・
「・・・・・・うっs「溜息ついてたら幸せが逃げちゃうよ〜?」うs「またお話ししようね〜?じゃあ後でね〜。」・・・・・・・・・・。」
薫はまともに喋る事さえ叶わず、ただ一方的な会話以下の独り言を聞かされただけだった。元々人と話す事を億劫に感じる彼女だが、今の会話っぽい何かは心底堪えたみたいで机に伏して寝ようとする。まあ、すぐに授業が始まって起こされる事になるのだが。
《放課後・・・》
酷い1日だった。いくらなんでもコレはないだろう。あの後起きるや否やつまらない授業を延々と聞かされたうえに、休み時間になると転校初日特有の質問責めの嵐に襲われる。
おかげですっかり不機嫌になった薫はさっさと帰ろうと早足で帰路についた。因みに先程「後で話そう」と言ってた奴はついぞ話しかけてこなかった。自分で言ったくせに忘れたようだ。
「・・・・・・・・・・はぁ。」
また溜息が出てしまった。これから毎日あんな場所に行かなきゃいけないのかと思うと嫌になってくるが、幸いにも変化の時はすぐそばに・・・
(・・・何アレ?)
偶然見つけたそれは、一言で例えるなら「歪み」だった。路地裏の壁に僅かな歪みを見つけ、考える前に歩みよってしまった。
「・・・・・・・・・・。」
自分でも何でこの歪みがそんなに気になるのかサッパリだった。だが、少なくとも何か惹かれるものがある気がした。まるで光に引き寄せられる虫のように、ゆっくりとその歪みに歩みより・・・
「・・・きゃっ!?」
その姿は、完全に消えてしまった。
2回のリブートを経てわかった事は「計画を立てる事は大事」という事。