ペルソナEvolution1 ツキバネカオルの仮面 作:創作魔文書鷹剣
《4月17日(火)曇り 翠蓮学園2-A》
教室の中は相変わらず騒がしい。騒がしいのが苦手な薫はおかげですっかり憂鬱だが、彼女をそうさせる原因はもう一つある。昨日の出来事・・・裏世界に迷い込み、クリフォトと出会い、ペルソナ能力に目覚めた後・・・一晩経って体の異変に気が付いた。全身が筋肉痛でズキズキいっているのだ。
(痛い・・・歩くのも辛い・・・)
クリフォト曰く「ペルソナに目覚めた直後は誰しもこうなるものですよ、翌朝には治っているはずですのでご安心を。」との事だが、それとは関係なしに薫のクリフォトへのヘイトは高まっていく。
(こんな体じゃなかったら昨日みたいにしてやったのに・・・)
知らないところでネチネチと恨み言を垂れ流されているクリフォトが哀れすぎる・・・既に言及した気がするが、別に薫はクリフォトの声が嫌いなわけではない。ただ言動がいちいちウザいせいで煽ってんのかなと思ってしまうだけだ。
《放課後・・・》
やっと退屈な時間が過ぎ去った。こんな嫌いな場所はさっさと離れて落ち着ける自宅に直行しようとしたのだが、大事な事を薫は忘れていた。
「おや、おかえりなさいませ。」
「・・・なんでいるの?」
「そりゃあ、この家に住まわせてもらっている身ですから。」
クリフォトは昨日壮絶な土下座の末に薫の家に居座る事になっていたのであり、必然的に家に帰ると彼女がいるのである。つまりイマイチ信用ならない同居人がいる家で過ごさなくてはならない薫の心境は、すこぶる最悪なのだ。
「・・・・・・・・・・。」
「あの、せめて『ただいま』とか仰ってくれません?まさかとは思いますけど、わたくしの声無視してます?」
「・・・・・・・・・・うるさい。」
「あっハイ。」
こんなやりとりしか出来ないが、一応クリフォトに対して自分から歩み寄ろうという気持ちはある。ただ薫のコミュ力があまりにも低いせいで言う事が見当たらないのだ。しかも最悪な事にクリフォトはいらない一言をつけて話してしまうせいで薫との相性はより一層悪くなっている。
「
「・・・裏世界、行くかって事・・・?」
「ええ、もちろんでございますとも。」
クリフォトの出した提案・・・共同戦線を張り、裏世界に乗り込むか否かの決断を薫は迫られていた。
(裏世界、か・・・)
正直行きたくない気持ちはある。あんな恐ろしい目に遭うのはもう御免だし、自分に「力」があるという話も理解し難い。そもそもクリフォトが何者なのかさえ知らないのだ。そんな輩のために、命の危険が伴う場所に身を投じる義理は無い・・・無いはずなのに・・・
「いいよ、私も行く。」
「・・・ッ!左様ですか!」
無いはずなのに、口はいつの間にか答えていた。頭の中では迷っているのに、本心では決意を固めていたのだ。例え己の命が脅かされようが、何処の誰とも知らないクリフォトに加担する筋合いがなかろうと、口では全く説明できないんだろうが薫の決意は固まった。
「貴女にご協力頂ける事、『決意』を固めて頂けた事、感謝致します。」
「・・・勘違いするのはやめて。」
「ええ、やめられるならばやめたいですよ。出来ればわたくしが何処をどう勘違いしているのかご教授頂ければ嬉しいんですが。」
「・・・。」
相変わらず言葉足らずなせいでイマイチ伝わっていないのだが、薫はその点を特に指摘したりしないのでその真意が伝わる事は基本的にない。今も勘違いとは何の事に対してなのかを言わないせいですれ違ったまま解消されずに微妙な雰囲気を生んでしまった。しかも本人に悪気が無いのが尚タチが悪い。
「・・・何すればいいの?」
「今日は簡単な話にございます。裏世界でチャチャっと終わらせてしまいましょう。」
「・・・どうやって行くの?」
「わたくしには表世界と裏世界を結ぶ
「・・・わかった。」
薫が喋る前の若干の間については触れない事にして、2人は早速裏世界に飛び込んだ。翠の光輪を潜った先に見えたのはやはり紅い雲り空と黒い建造物、そしてそれらに囲まれた黒い塔。その塔は見上げるほど高く雲を突き抜けてなお高く聳え立っている。
「あれ何?あそこ行けばいいの?」
「え、ええ・・・あの塔のてっぺんに行ければ、何かしらの発見はあるはずですよ。」
急に流暢に喋りだした薫に若干戸惑ったが、とりあえず気にしない事にしてクリフォトによる裏世界講座が始まった。この裏世界は人間の精神力が反映される世界である事、偶にあの塔のような建物がある事、その中からシャドウが湧き出ている事・・・そして、湧き出て来たシャドウを倒す唯一の方法が「ペルソナ」である事。
「わたくしはあの塔とそれを覆う建造物群を、かつて人類が築きあげたかの有名な塔を重ね『バベルス』と名付けました・・・ちょっとそこ!なんですかその不満そうな顔は!わたくしのネーミングセンスが悪いみたいな反応はやめてくださいまし!!」
「ふーん・・・」
正直クリフォトが喚いている事は薫には届いていない。今薫が気になっているのはバベルスに対して感じる謎の感情である。懐かしさのような、親近感のような・・・そんな一言では言い表せないような複雑な感情が彼女の内側から湧き上がっている。
「薫?センチメンタルに浸るのはおしまいですよ。」
「別にセンチメンタルになってないし。」
「そうですか?わたくしには故郷の風景を懐かしんでいるようにみえましたが。」
「うるさい。それよりも、行くんでしょ?あの中に。」
「ええ、ですがその前に一手間です。」
そう言うとクリフォトは、マントの下から一振りの剣を取り出した。一切の装飾も輝きも無い、灰色の剣だった。
「こちらを。」
言われるがまま、何も疑わずに剣を手にとった。すると剣は眩い光を放ち、灰色一色だった剣は金の柄と水色の刃を備えた西洋剣に変化した。
「これは?」
「それが貴女の適性である武器、ペルソナ能力を宿した『ペルソナウェポン』の一つたる『氷結戦姫』にございます。」
「氷結戦姫・・・ダサっ」
「・・・せめてディスりはわたくしに聞こえないようにお願いします。」
クリフォトのネーミングセンスが死んでいるのは置いておいて、薫は手に持つ氷結戦姫をまじまじと眺めた。見た目はいいとしてこの剣は明らかに冷た過ぎるし、何より西洋剣なんて持つのは初めてだから使い勝手がわからない。
「使い方がわからない、という顔ですね。」
「当たり前でしょ。」
「ご安心を、使い方はペルソナ能力者ならば体が理解していますので。では参りましょうか?」
「あーハイハイ行けばいいんでしょ?」
1人と1体が立ち入ったバベルスの中、そこは暗く静かな世界だった。光も騒がしさも無い、ただ不気味で異質な空気感があるだけの場所なのだ。そんな場所にこだまする両者の足音がかえって不気味さを増している。
「静かすぎ。ちょっと気味悪い。」
「裏世界において静は動への布石・・・そらっ!来ますよ!」
薫が気づくのが先かクリフォトが言うのが先か、天井に気配を感じて見上げてみれば頭上には一体のシャドウ。向こうもこちらに気づいたようで天井から落ちるように襲いくる。避けなければ、と薫が思うまでの刹那。本人の意思に反して薫は既に避けていた。
(!?)
その事に驚いた瞬間、薫の体は既に次の動きに移っていた。左手に握られた剣の柄に右手を添え、真っ直ぐにシャドウを捉えて直進する。そして彼女の意識が現実に追いついた時、既にシャドウは真っ二つに切断されていた。
「・・・素晴らしい。」