魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

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episode1-3 新型②

 分厚い雲に覆いかくされ、暗闇に閉ざされた夜。文明的な明かりもなく、世界中が黒く塗りつぶされてしまったんじゃないかと感じる街の中で、それでもなお禍々しいその靄は圧倒的な存在感を放ってます。

 座っていれば人の膝にも届かないほどの大きさで、ふりふりと揺れる尻尾から感情を読みとることは出来ないです。

 いえ、そもそも感情なんてないのかもしれないです。なぜならあれはディスト。黒猫の形を模したディストですから。

 

「気をつけるラン! 最近のディストは妙な進化をしてるラン!」

 

 以前にバロンクラスからヴィカントクラスへ急成長を遂げたディストの討伐を行ってから1週間が経過してます。

 その間に戦ったディストはたしかに、当初私が戦っていたディストと別物と呼べる個体が多かったです。

 戦闘中に急激に成長するなんて序の口で、分裂したり変形したり、なかには魔法を使ってくるディストもいました。これらのディストは、便宜的に新型ディストと名付けれました。

 

 魔法界としてもディストの変化に関する研究は続けているようですが、そもそも倒せば消えてしまうディストを研究することは難しく、進捗はほとんどないみたいです。

 そこで、一部の実力ある魔法少女にはディストの討伐と同時にもう一つのミッションが与えられることとなりました。

 内容は新型ディストのデータ収集。簡単に言うと、なるべく戦闘を引き延ばしてディストを観察する時間を作ることです。

 

「っ……? 風を掴む翼腕(フライウイング)

 

 黒猫のディストに対してつかず離れずの距離を維持していた私ですが、唐突に悪寒を感じて一旦空へ退避しました。

 対峙しているディストが新型であるかどうかは、実際にディストが何らかのアクションを起こすまではわからないんですけど、この黒猫型ディストは当たりだったみたいですね。

 

「解析完了ラン! 今回のは魔法型ディストラン! 他に引き出しがないかもうちょっと探って欲しいラン!」

「今使われた魔法は何だったんですか?」

「魅了の魔法ラン! 猫好きをかしずかせるラン!」

 

 厄介ですね。効果もそうですが、なにより発動のタイミングを一切感知できませんでした。予備動作なしに状態異常技を使ってくるなんて、これがアクションゲームだったらクソゲー間違いなしです。

 

「私もどちらかと言えば猫は好きですよ?」

「魔法少女は直接的な干渉に対するセキュリティが特別に高いラン! よっぽど相性が悪くない限り影響を受けることはないラン! 重度の猫好きだったら危なかったラン!」

 

 曖昧で参考にならない尺度ですが、動画で愛でるだけで充分、くらいの人間には通用しないみたいですね。

 

「そろそろ攻撃してみるラン! 新型ディストの中にはある程度ダメージを受けてから豹変するタイプもいるラン!」

「じゃあこっちの方が良いですね。風の刃(ウインドブレイド)

 

 今回戦っているディストは、通知の表示ではナイトクラスになっていました。実際はもっと強くて力を隠していたりするのかもしれないですけど、本当にナイトクラスだった場合、削り散らす竜巻(トルネードミキサー)では相手の変化を見る前に倒してしまいそうです。だからあえて風の刃(ウインドブレイド)で少しずつ削っていきます。

 

 風の刃(ウインドブレイド)は距離が開くほどに威力が減衰しますが、ナイトクラス程度なら減衰した状態でも十分に通用します。

 上空から飛来した三枚の刃を回避しようとした黒猫は、一枚目こそ完全に避けきりましたが、続く二枚目と三枚目で右前足と尻尾が完全に切断されました。

 

「再生はしてますけど進化したり変形しないですね」

「一応近接攻撃も試してほしいラン」

「私は遠距離型の魔法少女なんですけど」

「ちゃんと僕の指示に従ってくれないとボーナスでないラン。良一がそれでいいなら僕は構わないラン」

「チッ」

 

 そもそもの話になりますけど、なんで私がジャックの言うことを素直に聞いて追加のミッションをやってるのかと言えば、単純に追加報酬があるからです。そうでもなければジャックの言うことなんて聞くはずもありません。

 

「次の一撃で終わらせていいんですよね?」

「だいじょぶラン。さっと行ってすぱっと斬ってお終いラン」

 

 本来なら開戦と同時に強力な魔法を使えば終わっていたんです。それをわざわざ手間をかけたんですからここで放棄するのは勿体ないです。

 どちらにせよ次の一撃で終わりですから、さっさと終わらせて追加報酬をもらいましょう。

 

風の刃(ウインドブレイド)

 

 大杖に風の刃を付与して、一気にディストめがけて急降下します。黒猫型ディストとの距離は瞬く間に縮んでいき、地面すれすれまで高度が下がったところで一閃。

 刃が届いた瞬間にU字を描くように急上昇した私はディストの最期を見ていませんが、再生していないようですから真っ二つに切り裂かれて消滅したということですね。魔法を使うだけの新型ディストだったんでしょう。

 

「地面にぶつかるんじゃないかと冷や冷やしたラン!」

 

 黒猫型ディストは本当に小さかったですからね。私も少しだけ肝が冷えました。

 それにしても、何度戦ってみても新型ディストと従来のディストの見分けがつきません。

 私や他の魔女のように十分な強さを持っている魔法少女ならまだしも、第二の門すら開いていないような魔法少女は危ないんじゃないでしょうか。

 

「それをなんとかするためにデータを集めてるラン! そう思うならもっともっと積極的に協力して欲しいラン!」

 

 十分に協力してると思いますけどね。

 まあ、心配するようなことを言いましたけど実際のところ私には関係ないからどうでもいいです。

 

「そんな態度だから他の魔法少女に怪しまれるラン」

「それとこれとは関係ないですよね?」

 

 まったくひどい話です。

 バロンクラスのディストが急に強くなったから助太刀して欲しいとジャックから聞いて、気が進まないながらも見捨てるのは後味が悪いと思って助けたら、何か企んでると誤解されるなんて。

 まだ縄張り争いとかならわかりますけど、何か企んでるとはなんですか。私がそんなにも凶悪な魔法少女に見えたというんですか。

 

 後からジャックに聞いた話によると、魔法界も一枚岩ではなく、魔法少女の力をちょっとした悪さに利用したりする素行の悪い魔法少女も居るらしく、そういう輩なんじゃないかと警戒されたということでした。

 まあ私にも非があったことは認めます。一切声もかけずに帰ったのはたしかに怪しかったかもしれないですよ。でも私はなるべく魔法少女に関わりたくないんですから仕方ないじゃないですか。

 

 別に感謝を求めてるわけじゃないんですよ。気にしないでくれるのが一番なんです。なんかよくわかんないけど助かって良かったね~、くらいに思ってくれてればいいんです!

 

 まったくもうですよまったくもう!

 

 聞けばあの魔法少女たちは私の前にジャックが担当していた、いわば私の先輩にあたる魔法少女らしいです。

 教育がなってませんね! 戦闘能力も三人で協力してあの程度のディストを倒せないようでは先が思いやられます!

 

「ジャック、前みたいなことがあったらすぐに私に知らせるんですよ。寝てても叩き起こして良いですから」

「え? 前みたいなことって、ブレイドたちがピンチになってたらってことラン? なんでラン?」

「私の知ってる範囲で人が死んだら寝覚めが悪いじゃないですか! ストレスでまた眠れなくなったらどうするんですか!」

「え、え~……? よくわかんないけどわかったラン。っていうか、そんなこと言われなくても近くの魔法少女には救援通知が届くラン」

「だったら良いです」

 

 折角手に入れた安眠を失うわけにはいきませんからね。

 心地の良い眠りのためなら、少しくらいは我慢も必要ということです。

 

 言いたいことも言って、そろそろ帰ろうかというタイミングでマギホンの通知が爆音で鳴り響きました。

 

「良一! ディストが出たラン!」

「連続ですか。最近は本当に多いですね」

「バロンクラスラン! 急ぐラン!」

 

 急かすジャックにため息を吐きつつ、転移を開始します。

 この地域の魔法少女は本来バロンクラスまでは倒せるらしいですが、安全マージンを取るために今はナイトクラスまでしか通知されていないらしいです。

 連戦は面倒ですが、私にしか出来ないのであればやらざるを得ません。

 それに、なんだかんだ言っても私にはポイントが必要なので、嫌というわけではないですからね。


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