魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

113 / 215
episode3-閑 プール②

3.

 

 水上アスレチックをクリアしてエレファントさんたちと合流した私たちが次に向かったのは、各辺が50mずつある正方形のとても大きなプールです。さすがに深さまで50mということはないみたいですけど、成人男性が二人縦に並んでも足がつかないほどの深さなんだそうです。

 私がプールの説明を読んでいる間にエレファントさんとブレイドさんが先に入ってしまって、私も慌てて二人を追いかけたので最後まで読めませんでしたけど、どうやらただ広くて深いだけじゃなくて、一定時間ごとに波が発生するんだそうです。

 

「全然足が届かないです……」

 

 プールの縁を掴んで入水して、ギリギリまで下に向けて足を伸ばしてみますけど全然底に着く気がしません。

 いまさらですけど、私はプールなんて小中学校の授業でしか入ったことがありません。そしてそれは当然足がつくもので、自分の身長よりも底が深いプールに入るのなんてこれが初めてです。つまり何が言いたいのかというと、泳ぎ方がわかりません。

 背泳ぎとか犬かきくらいなら見様見真似で何とかなりますけど、その場で止まって浮かぶ泳ぎ方とか、沈んだ後に浮かび上がってくるような泳ぎ方を知らないんです。

 

 今までそんなこと考えたこともなかったので、いざその時になるまで全く気が付きませんでした。一度上がって浮き輪を借りてきた方が良いかもしれません。

 

「あれ? シルちゃんもしかして泳げない?」

「……はい」

 

 私と並んでプールの説明を読んでいたプレスさんも一緒に出遅れていて、エレファントさんたちの方にゆっくり泳いで行ってました。ただ、私がいつまで経ってもプールの端っこから動かないのを見て引き返してきたみたいです。

 

「そっかそっか、じゃーあたしがおぶってあげんよ☆」

「いえ、浮き輪を使うので大丈夫です」

「遠慮しなくて良いよ~。それにこっちの方が仲良くみえるっしょ?」

「それは、そうかもしれないですけど……」

 

 楽しそうにウインクしているプレスさんの提案を一度は断りましたけど、仲良しアピールに有効だと言われれば強情に反対することも出来なくて、結局押しの強さに負けてプレスさんの背中に引っ付いて運んでもらうことになりました。

 ……ただ、なんかこれって、友達っていうか親子みたいじゃないですか? 私、騙されました?

 

『まもなく水が浮き上がりまーす! 暴れないでくださーい!』

「……水が浮き上がる? ここって波のプールですよね?」

「あれれ? 説明読んでたじゃん? 30分ごとにプールの水がボールの形で浮かんで、それが落ちてきて波になるんだよ」

「最後まで読めなかったんです。でも、水が浮かぶってそんなのどうやって」

「そりゃあ魔法でしょ。魔法の世界のプールなんだからそれくらいお茶の子さいさいなんじゃない?」

 

 そう言われれば確かにそうですね。このプールに来て一番に目についたのが大きなウォータースライダーで、最初に遊んだのが水上アスレチックと、現実でもありえるものばかりだったので少しバイアスがかかってたのかもしれません。魔法の世界の施設なら、普通ならありえないようなアトラクションとかサービスだってあって当然です。

 そう考えると、何だかんだ言っても魔法少女の福利厚生って手厚いのかもしれません。命がけであるってことにさえ目を瞑れば、高額の報酬が貰えますし、こうやって魔法少女しか利用できない特別なサービスを受けることも出来るんです。自分の意思で魔法少女になった女の子にとっては、リスクとリターンの天秤は釣り合ってるんだと思います。

 

「お、来た来たっ、あたしたちツイてるね~」

「え!? あわわっ、なんですかこれ!?」

 

 プレスさんの言っていた通りそこら中で大きな水球が浮き上がり始め、それと時を同じくして私たちを持ち上げるように水面が高くなっていきます。

 

「浮かび上がる水には魔法がかかってて、こうやってお客さんも一緒に連れてってくれるんだって」

 

 プレスさんの解説を聞いて、そして実際に目に見える光景で理解しました。プールの水位が上がってたんじゃなくて、浮かび上がる水球の中に私たちがいるんです。

 

「こ、こんなの聞いてません!」

「なになに~、びびってんのシルちゃん? いつも空飛んでるんだからこれくらい余裕じゃん?」

「それとこれとは話が別です!!」

 

 この園内では魔法が使えないんですから、自分で制御できる状態で飛んでるのと強制的に高所に吊り上げられるのでは全然違います!

 

「そんな強くしがみつかなくても落としたりしないって~。ほら、怖くない怖くない」

「プレスさんは怖くないんですか……? ついこの前似たような魔法で溺れそうになったのに……」

「あはは! そんなのもう忘れちゃったよ!」

 

 普通に考えてそんな笑い飛ばせるようなことじゃないと思うんですけど……。

 この人の心臓には毛でも生えてるんですか……?

 

「魔法って凄いよねぇ。戦うだけじゃなくて、こんな夢みたいなことだって出来ちゃうんだもん。怖がってるだけなんて勿体ないって、あたしはそう思うんだ」

「……ポジティブなんですね」

「誰かさんにはお小言貰いそうだけどね~。忘れたじゃなくて今後に活かしなさい、みたいにさ」

「ふふ、もしかしてブレイドさんの真似ですか?」

 

 唐突に声音と口調を変えて誰かの真似をし始めたプレスさんに、不意打ちで思わず少しだけ笑ってしまいました。

 

「あはは、似てた?」

「全然です」

 

 でも、さっきよりは少しだけ怖くなくなりました。

 周囲を見回すと、普通にプールに入ってるだけじゃ見えなかった景色が目に映ります。確かにこれは新鮮で、プレスさんの言う通り怖がってるだけじゃもったいないって、ちょっとだけ思いました。

 

『それじゃあ落水カウントいきますよ~! 3~、2~、1~、ゼロー!!』

「え? え? うわああぁぁぁっ!?」

「ひゃっほぉぉぉー!!」

 

 その後大量の水がプールに注ぎ込まれたことで荒波が発生し、散々もみくちゃにされて危く溺れるところでした。

 やっぱり、もう魔法のプールはこりごりです!

 

 

4.

 

 思っていた以上に荒々しかった波のプールで疲弊したのは私だけではなく、エレファントさんたちも若干お疲れの様子だったので少しばかり休憩をとり、十分に元気が回復したところで今度は大きなウォータースライダーに来ました。

 魔法界特有のアトラクションは他にもまだあるようですけど、さっきみたいなのが続いては身体がもちません。その点ウォータースライダーは大きなプールになら必ずどこにでもあると言っても過言ではない定番中の定番なので、安心安全のはずです。

 

 ウォータースライダーの入口は階段を登った先にある随分と高いところみたいで、その階段を登る前のスペースに説明用の看板がありました。ちらっと見たところどうやら二人乗りのゴムボートに乗って滑り落ちるものみたいです。

 今日は咲良町の魔法少女の仲良しアピールということでエレファントさんだけにひっついてるわけにもいかなかったのでブレイドさんやプレスさんとも二人組になったりしましたけど、順番的に次はエレファントさんで良いはずです。

 

「どうしたのシルフちゃん? なんか近くない?」

「そんなことありません。それよりエレファントさん、このウォータースライダーは二人乗りみたいですよ。私と一緒に乗りませんか?」

「うん! もちろんいいよ!」

 

 階段を登っている最中、それとなくエレファントさんの隣を陣取って約束をとりつけるのに成功しました。

 

「でもシルフちゃんが積極的に誘ってくれるなんて珍しいね。もしかして、寂しかった?」

「べ、べつにそんな……、ちょっとだけ、です」

 

 少しだけ揶揄うような笑顔は私のことを心の底から友達だと思ってくれていることの証明みたいで、照れ隠しで否定しきることも出来なくて結局は俯きがちに目を逸らして認めてしまいました。

 だって、しょうがないじゃないですか。友達とプールに遊びに来るのなんて初めてなのに、全然エレファントさんと一緒に遊べなくて……、そんなの寂しくないわけありません。私だってもっと、エレファントさんと遊びたいです……。

 

「もー、シルフちゃん可愛い!! 私も一緒に遊びたかったよー!」

「え、エレファントさんっ、近いです! 見られてるから離れて下さい!」

 

 エレファントさんが感極まったように私に抱き着いてきて、それをブレイドさんやプレスさん、それから他の魔法少女にも見られていて、恥ずかしさから抵抗しましたけど結局エレファントさんはウォータースライダーの入口につくまでずっと私と腕を組んで離してくれませんでした。というか入口に到着して係員の妖精から説明や注意事項を受けて、ブレイドさんとプレスさんが先に滑って行くのを見送って、私たちの番が来るその時までずっと引っ付かれてました。

 

「エレファントさん、もう私たちの番ですから」

「じゃあシルフちゃんが前で良い?」

「私の方が小さいですし、大丈夫です」

 

 ようやく離れてくれたエレファントさんがゴムボートの後ろに座って、私もそれに続いて前に座ります。イメージでしかないですけど、こういうのは大きい人が後ろで小さい人が前って感じがしますもんね。逆だと後ろの人の視界が塞がっちゃいますし。

 

「後ろの方ちょっと端っこ過ぎますね~、もうちょっと前に詰めて座ってくださ~い」

「はーい」

「!?」

 

 係員の妖精に促されてエレファントさんが少し前に位置をずらして、そのついでと言わんばかりに私のお腹に両手を回してグイっと引っ張られました。

 ただ、この状態だと私の頭に当たってしまってますっ。その、とても柔らかいものが……!

 

「良いですね~、それでは行ってらっしゃいませ~」

「エレファントさん! あ、当たってますから! 離してください!」

「良いから良いから。離れたら危ないからこのまま行くよー」

「ちょ、待っ――」

 

 私の抗議もどこ吹く風で、むしろ滑り出したらさらに強くギュッと抱きしめられました。ただ、私にももうそれに文句を言っている余裕なんてなくて。

 

「あははははっ! 気持ちいいねー!」

「すごいですっ! はやいですっ!」

 

 水飛沫を浴びながら急斜面を滑ったり、螺旋階段のようなグルグル巻きのコースを通ったり、時には幅広のコースで振り子のように左右に揺られたりと、エレファントさんと一緒にキャーキャーと声を上げながら夢中になって楽しんで、最後はボートがひっくり返るほどの勢いでプールに投げ出されました。

 ゴムボートに捕まりながら何とかプールの縁に辿り着くと、ブレイドさんとプレスさんが待っていました。

 

「凄い迫力だったわね」

「ねー、コースも結構長めだし流石は魔法界って感じ?」

「あー楽しかった! シルフちゃんはどうだった?」

「も、もう一回、乗りたいです……。駄目、ですか?」

 

 波のプールはともかくとして、水上アスレチックも面白かったですけどこのウォータースライドはすっごく気持ちよくて爽快で癖になってしまいそうなくらい楽しかったです。子供みたいにもう一回と無邪気にはしゃげれば良かったんですけど、プライドが邪魔をして、けれど誘惑には勝てなくて、恥ずかしさから途切れ途切れにそんなお願いをしてしまいました。

 

「もっっちろん良いよ!! 行こ!! シルフちゃん!!」

「あ、エレファントさん、走ったら危ないですよ!」

 

 どうやらエレファントさんも私と同じ気持ちだったみたいで、いつもよりテンションが高く興奮した様子で走り出してしまいました。私もそれを追って小走りでついていきます。

 

「今のはあたしもちょっと危なかったな~。あんな照れ顔で上目遣いは反則でしょ」

「……やっぱりエレファントが傍にいるとどうしても、ってことよね」

「ん? なんか言った?」

「いいえ、何でもないわ。それより、私たちももう一回乗る?」

「お、今日はノリいいじゃん。んじゃあたしらも行きますかー」

 

 後ろの方でブレイドさんとプレスさんが何か話してましたけど、エレファントさんを追いかけるのに集中していて内容までは聞き取れませんでした。




この後みんなでお昼を食べて午後もくたくたになるまで遊んで眠っちゃったシルフちゃんをエレファントさんが背負って帰りましたとさ、めでたしめでたし。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。