魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

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時系列はウィッチカップから数日後です。


episode3-閑 生放送の裏で

 磁力の魔女エクスマグナから用意された控室の中で、エレファントはわずかな緊張感からそわそわしながらマギホンを見つめていた。

 エレファントは詳しい経緯までは聞いていないが、タイラントシルフとエクスマグナの交渉の結果、咲良町魔法少女仲良しアピール作戦にエクスマグナの知名度を利用させて貰うこととなり、まずは魔女二人の生放送で人を集め、その後エレファント、ブレイド、プレスの三人が放送に合流するという段取りの説明を受けている。

 

 コラボ放送はもう間もなく始まる予定であり、待機場のコメントもにわかに活気づき始めていた。

 視聴者数のカウントはすでに1万人を軽く超えており、魔法少女だけではなく多くの一般人からも注目を集めていることがわかる。

 その話題性に反してタイラントシルフは非常にメディア的な露出が少ない魔法少女であり、自分からは動画をアップロードすることもなければSNSも一般人向けには開放していないため、他の魔法少女の動画や先日のウィッチカップのような映像でしか活躍を見ることが出来ない。

 そこにきて突然のコラボ生放送ともなれば、注目を集めるのは当然だった。

 

 そして予定の時刻をむかえ、待機画面が切り替わる。

 

『こんマグ~! 毎度お馴染み磁力の魔女エクスマグナでーっす! 今回はなんと、今大注目の大型新人ちゃんが遊びに来てくれました! 魔女のお茶会(ウィッチパーティー)序列第5位! 風の魔女タイラントシルフちゃんでーす! ひゅー! ぱちぱちぱちー!』

『タイラントシルフです』

 

 ビビッドカラーの黄色いサイドテールに良く焼けた肌の少女、エクスマグナがニコニコと笑いながらハイテンションで緑髪ツインテールの少女を紹介すると、相反するようにその少女、タイラントシルフは澄まし顔でつまらなそうに言葉を発した。

 

『ちょっとちょっとタイラントシルフ~、折角見に来てくれてるのに無愛想過ぎだって。ほらもっと笑って笑って』

『そんなの聞いてません』

『相変わらずクールだなぁ。ってなわけで、半眼敬語クーロリのシルフちゃんでーす! 愛想はないけど悪い子じゃないんでよろしくね!』

『なんですかその紹介……』

 

 馬鹿にされていると感じたのかジト目でエクスマグナに抗議を送るシルフだったが、その表情や言葉遣いはまさしく紹介通りであり、いきなりコメントが「ジト目クーロリありがとうございます!」「敬語ロリきゃわかよ」などとオタク特有のノリで加速し始め、エクスマグナはしめしめと満足そうな笑みを浮かべていた。

 元々エクスマグナのチャンネルは魔法少女という属性や、ソシャゲのプロデューサーという企画屋としての強みを活かして視聴者を獲得してきた経緯があるため、視聴者層はオタクに偏っている。エクスマグナ自身それを理解しているからこそ、シルフの属性がオタク受けすることを見越してコラボに誘っていたのだ。

 

『じゃあ気を取り直して、まずは自己紹介からして貰おうかな』

『……? さっきしましたけど』

『いやいやいや、あんな名前言っただけじゃ自己紹介とは言えないでしょ!? ほら、好きなものとか、趣味とか特技とか、なんでも良いからさ』

『好きなものですか……、ゲームはよくします』

『おっ、いいじゃんいいじゃん! あたしもゲームは好きだよー。最近はなにやってんの?』

『怪物狩りとか、ミニモン、あとスマファイとか……』

『えー! めっちゃ趣味合うじゃん! 今ゲーム機持ってる?』

『いえ』

『じゃあ怪物狩りとミニモンは無理だね。よし、今からスマファイしよ! 雑談のつもりだったけどゲーム配信に予定変更!』

『……別に良いですけど、私結構強いですから。負けても文句言わないで下さいね』

『おーおーお手本のようなイキリっぷりだぁ。返り討ちにしてあげるよ!』

 

 あまりゲームには詳しくないエレファントは何となく名前は聞いたことはあってもそれがどんな内容のものなのかまではわからなかった。

 ただ、「あっ(察し)」「マグナちゃんかなり強いけど大丈夫かな」「シルフちゃん終了のお知らせ」「メスガキわからせktkr」などという不穏なコメントがいくつも付けられているのを見て、何か優劣を競うようなゲームなのだということだけは何となく予想できた。

 

「ねえ、ブレイドとプレスは今のスマファイって知ってる?」

「知らないわね。ゲームはやらないから……」

「あたしは友達の家で遊んだことあるよ。ざっくり言うと格闘ゲームかな~」

「それって面白いの?」

「楽しかったけどエレちゃんにはあんまり向いてないかもね。あれって蹴落としあいが醍醐味だから。シルちゃんと一緒に遊びたいならミニモンの方がおすすめだと思うよ。可愛いモンスターも一杯いるし、協力プレイも出来るし」

「へぇー、そうなんだ。ありがとうプレス」

「なんのなんの~」

 

 同じ控室でそれぞれ自分のマギホンを使って生放送を視聴してるブレイドとプレスにエレファントが質問をすると、プレスからやけに具体的なアドバイスが返され、それに対してエレファントもシルフと距離を詰めようとしていることを一切隠しもせずにお礼を述べる。そしてブレイドはそんなエレファントの様子を怪訝そうに見つめていた。

 

 約一月ほど前、ブレイドはエレファントを説得して一度シルフから遠ざけ、たった一人に依存してしまっている状況を解消しようと動き出した。結局その試みはブレイドとプレスがシルフとの距離を詰められないまま、新たな魔法少女の誕生というイレギュラーによってエレファントを遠ざける大義名分を失い失敗に終わったわけだが、ブレイドはこのまま何事もなかったかのようになぁなぁで済ませるつもりは一切ない。シルフをどうにかして救わなければという使命感に変わりはなく、そしてそれはエレファントも同じだと思っていた。だというのに、最近のエレファントの行動はまるでその逆、むしろシルフが更に依存を深めてしまうのではないかと危惧されるほどで、一体どういうつもりなのかブレイドにはわからなかった。

 

 今の発言も、共通の趣味を作ることで友好を深めようとするのならエレファントだけではなく全員でやるべきだとブレイドは考えたが、エレファントの言動は明らかに独断専行を示唆するものだった。

 

「エレファント、今ちょっといい?」

「えー、放送が終わってからじゃ駄目?」

「どうせ私たちが見てもゲームの内容なんてわからないじゃない。それよりシルフさんのことで、私たちが合流する前にどうしてもハッキリさせておきたいことがあるの」

「しょうがないなぁ、ブレイドがそこまで言うならわかったよ」

 

 マギホンをスリープにするのではなく配信をミュートにしてエレファントがブレイドに向き直る。わかったと言いつつちらちらとマギホンに視線が飛びそうになっており、後ろ髪を引かれているのは明らかだった。

 

「……どういうつもりなの? シャドウさんが新しい魔法少女と組んだことであなたがチームを離れる理由がなくなったのはわかるわ。でも、だからってあの時のあなたはあまりにも物分かりが良すぎた。それどころか、自分から帰ってこようとしたわね? シャドウさんは強い、だから新人と二人でも大丈夫だなんて」

「ブレイドは私がチームに戻って来ない方が良かった?」

「そんなわけないでしょう。私だってずっとあなたを追い出しておくつもりなんてなかったわ。でも、これじゃあまりにも早すぎるのよ。あなたがシルフさんと離れていたのは、ほんの一か月にも満たない僅かな期間だった。それじゃあ意味がない。いいえ、むしろ逆効果よ。きっとあの子はあなたへの依存を更に深めるわ。あなたには、それがわからなかったの?」

 

 本当なら、ブレイドはエレファントに対してこんなことは言いたくなかった。背中を預け合って戦える無二の親友を疑うような真似はしたくなかった。だからこそ、エレファントが自らの意思であまりにも早く戻ってきたことについても最初は言及しなかった。きっと何か考えがあるのだと様子を見ていた。いずれ時が来れば自分にも説明してくれるのだと信じていた。

 だが、これ以上はもう待てない。このままエレファントを放っておけば、自分の知らないところで取り返しのつかないことが起きてしまうような焦燥感を覚えて、ブレイドはエレファントを責めるように問い詰めた。

 

「わかってたよ」

「なら――」

 

 そう答えたエレファントの表情に翳りはなかった。

 罪悪感や後ろめたさを一切感じさせない、いつも通りの朗らかな笑顔でエレファントはブレイドの指摘を認めていた。

 

「わかってたから戻って来たんだ」

 

 ブレイドの言葉を遮って、エレファントは喋りながら席を立つ。

 笑顔のまま一歩ずつ近づいてくるエレファントに気圧されるようにブレイドが後ずさり、壁際まで追い詰められたところでエレファントの足が止まった。

 

「ごめんブレイド、私にもわかってるんだ。普通なら、私が一度距離を置いた方が良いのかもしれない。普通なら、ブレイドとプレスがシルフちゃんと仲良くなれるのを待った方が良いのかもしれない。だけど、自分の気持ちに嘘はつけないから」

「あ、あなた、何を言って……」

「私ね、シルフちゃんが好きなんだ。好きだから、シルフちゃんの特別になりたいって思うの。シルフちゃんを特別だって思うの。この気持ちはもう止められないよ」

「す、好きって、え、それって、つまり」

「私はシルフちゃんに恋してる」

「んなっ、そん、でも、っ――」

 

 エレファントの思いがけぬ告白にブレイドはころころと顔色を変えながら何かを言おうとしては口ごもり、また何か言いかけてやめるという壊れた機械のようになってしまった。

 元々色恋沙汰に接点がなく免疫がなかったことに加えて、同じチームメイトが、しかも女の子同士、相手は小さな子供なのにと様々言葉が頭の中を駆け巡りパニックを引き起こしていた。

 

「なーるほどね、そういうことだったんだ」

 

 ブレイドがバグって使い物にならなくなり、エレファントがそんなブレイドを心配そうに見つめている中で、それまでずっと静観していたプレスが納得がいったというように声をあげた。

 

「ブレイド、その辺にしときなよ。人の恋路を邪魔する奴はって言うじゃん? これ以上口出しすんのは野暮ってもんじゃね?」

「で、でも! それとこれとは話が別よ! 二人が結婚したとしても、頼れる友達は他にもいたほうがいいでしょ!?」

「け、結婚ってそんな、気が早いよ……」

「そりゃあそうかもしんないけど、だからってエレちゃんを遠ざけるっていうのは違うでしょ。エレちゃんはシルちゃんにアタックする、あたしらはあたしらでアプローチする。それで良いじゃん」

「……アプローチ?」

「エレちゃん、友達としてってことだからこっち見ないでね」

「そっか、じゃあ競争だね」

 

 エレファントとしては友達としての愛も家族としての愛も全てを独り占めするつもりでいるため、ブレイドとプレスがシルフと仲良くしようとすることを止めるつもりはないが、それを上回る友情を育むつもり満々だ。

 

「私がおかしいの……?」

 

 自らの許容量を上回る感情や情報を一度に叩きつけられブレイドは何が何やらという様子で目を回しているのだった。

 

 閑話休題(それはさておき)、シルフとエクスマグナの生放送の様子だが。

 

1戦目

『あれれー? ノーダメで一機落としちゃったぞ~?』

『ふ、ふん、まずは小手調べです。ここから逆転しますから』

『回避使いすぎぃ! ガードが甘いよガードが!』

『て、手加減してあげてたんです、本番は次からですっ』

 

2戦目

『マグちゃんがぁ! 画面はじぃ!』

『復帰阻止やめてください!』

『はいメテオ』

『ず、ずるです! 今私回避しました!』

 

3戦目

『うそ、私の戦闘力、高すぎ……?』

『う、うぅぅ~!』

『ちょっ、シルフちゃん、涙目でプルプルしないでよぉ。悪いことしてるみたいじゃん』

『泣いてません!』

 

 

 その後もそれはもう酷い負けっぷりを晒し、更にはその原因が知らない人とゲームするのは怖いのでネット対戦すらやったことがないというもので、COM相手に勝っただけでイキっていたという事実が露呈し、「イキリだけは一丁前」「クソザコナメクジ」「【悲報】シルフちゃんコミュ障陰キャだった」「友達0人」などと不名誉なあだ名をいくつも付けられ、それをエクスマグナが読み上げるたびに切れ散らかしてと配信開始当初のクールなイメージとはかけ離れたネタキャラのレッテルを貼られてしまったのだった。




クールぶってるけどポンコツなシルフちゃん

なお、合流後の放送は一般開放してません。
縄張り争いの話が確実に出てくるので魔法少女限定視聴の放送に切り替えられてます。
本来は作中に書くべきでしたが完全に失念していたので捕捉となります。
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