私、木佐山ちさき14歳。どこにでもいる普通の中学生。でも、一つだけみんなと違う秘密があるの。
実はここだけの話、私、魔法少女やってます!
このことは家族にも友達にも内緒なんだ。私は影ながら世界を守る魔法少女。
もちろん辛いときもあるけど、みんなの笑顔を守るためなら頑張れる!
「おはようちさき」
「おはよっ」
「最近どうだ? 何か悩みとかないか?」
この人は私のお父さん。毎日朝早くから夜遅くまで仕事をしてて、私が部活の朝練で早起きするときしか生活リズムが合わないんだ。
なんだかとっても心配性で、一緒にご飯を食べるときは必ず私の学校生活とか交友関係とかを聞いてくるの。
「毎日楽しいよ」
「ならいいんだけどな……。困ったことがあったらなんでも言うんだぞ?」
「うん。お父さんありがとう」
とっても優しくて大好きなお父さんに嘘を吐くのは心苦しいけど、この悩みは魔法少女以外には言えないから仕方ないよね。
私の最近の悩み。
それは新しい魔法少女の女の子と友達になりたいこと。
あの夜、私たちのピンチに颯爽と現れて何も言わずに帰っちゃった女の子。
折角同じ町の魔法少女になったんだし、仲良くしたいな。
「ちさきは良い子だなぁ。そうだ、おこづかい足りてるか?」
「こら、甘やかさないの」
笑顔でおこづかいアップの話をしようとしたお父さんの頭を叩いたのは私のお母さん。
普段はとっても穏やかで優しいんだけど、たまにお父さんには厳しいんだ。でもお父さんは叩かれても怒ったりしなくて、ごめんごめんて言いながら笑ってるし、お母さんもそんなお父さんにしょうがないわねって言って笑ってる。お父さんとお母さんはとっても仲良しなんだ!
「ごちそうさま。行ってきます!」
急がないと遅刻しちゃう!
朝はあんまり得意じゃないからいつもギリギリで困っちゃう。
「あ、ちさきおねえちゃん! おはよー!」
「梨花ちゃんおはよ!」
家を出たところで偶然隣の家の梨花ちゃんと鉢合わせした。
梨花ちゃんは小学四年生だけど私立の学校に通ってて、電車で通学してるから毎朝早起きなんだよね。私立の小学校ってどんなところなのかよくわからないけど、毎日早起きしなきゃいけないなんて大変だなぁ。
「遅刻しそうだからもう行くね! 気をつけてね!」
「うん!」
元気一杯に返事する梨花ちゃん可愛い~!
私にも妹がいたらこんな感じなのかな。やっぱり小さい子って可愛くて、こんな子たちを守るためにもっと頑張らなきゃって思えるんだよね。
猛ダッシュしてなんとか遅刻せずに着いたけど、服が汗で張り付いちゃって気持ち悪い。
夏はこれがあるから嫌だなぁ。
「はよーちさき。今日もギリギリだね」
「ゆりちゃんおはよ! ギリギリセーフだね!」
朝練が始まる数分前に部室に滑り込んで部員のみんなに挨拶したあと、最後に話しかけてきたショートカットのボーイッシュな女の子が、大親友の園原ゆりちゃん。
「なんだかんだで遅刻したことないから偉いよねぇ。サボリは多いけど」
「さぼりじゃないもん!」
わざとらしく頬を膨らませて怒っていますアピールしたら、ゆりちゃんが指で頬をつんつんしてきて、ぷしゅーって間抜けな音が漏れちゃった。
なんだか可笑しくて笑ったら、つられたようにゆりちゃんも笑い出した。
ゆりちゃんも本気でサボリなんて言った訳じゃなくて、気の置けない仲だからこそできるコミュニケーションってことだよ!
「あー、疲れた」
「あはは、相変わらず朝練ある日は死んでるね。おはよ」
朝練が終わって机の上でぐでーってしてたら、前の席の眼鏡をかけた女の子から話しかけられた。
この子は私の大親友で学級委員長の白雪美保ちゃん! 朝練が終わってから朝のホームルームが始まるまでは結構時間があるんだけど、美保ちゃんはいつも早く来て委員長のお仕事をしてるんだよ! 偉いよね!
「おはよー。あれ? 何か良いことあった?」
いつもにこにこしてる美保ちゃんだけど、今日はいつにも増してにこにこしてる気がする! にこにこ120%だよ!
「あ、わかっちゃう? 実は昨日から魔女のピックアップガチャが開催されててSSRの
「美保ちゃんはほんとに魔法少女が好きなんだね」
「そりゃそうでしょ! 可愛くて強い! これが興奮せずにいられますかって話だよ! ちさきちゃんも魔法少女大戦始めたらきっとわかるよ。もちろん無理強いはしないけどもしほんのちょっとでも興味があったらお試しでやってみるのも良いと思うんだよねうん魔法少女のイラストが可愛いのもそうだけど実物だって可愛いしゲームシステムだって悪くはないからね」
魔法少女のことを楽しそうに話す美保ちゃんを見るのは好きだし、私だって魔法少女のことは好きだけど、さすがに自分が出てくるゲームを遊ぶのはちょっと恥ずかしいかな~。
美保ちゃんの話を聞いている内にHRの時間になって、授業が始まって、お昼が来て、午後の授業で、そして放課後。
「ちさきー、部活行くよー!」
「うん! ちょっと待ってて!」
ゆりちゃんは違うクラスで、私たちのクラスよりちょっと先にHRが終わったみたい。
私も急いで荷物をまとめて教室を出ようと思ったんだけど、鞄の中にしまっておいたマギホンが大音量で鳴り始めた。
ディスト発生の通知。魔法少女にしか認識できない特別な警報。みんなは何事もないように帰り支度を続けたりお喋りを続けてる。
こんな光景を見るたびに思うんだ。あの日迷ってたけど最後は魔法少女になって良かったって。ほとんどの人はディストの脅威を認識できないから。被害が出始めてようやく、身近に迫る危険に気がつける。
守りたいんだ。大切な友達や家族を。それが、私にしかできないことなら!
「ゆりちゃんごめん! ちょっと用事が出来たから今日行けないかも!」
「あー、ならしょうがないか。これたら来てねー」
最初の頃ジャックに教えて貰った通り。魔法少女としての活動に関わる行動は疑われない。無条件に信じられて、悪意を向けられることがない。
自分で始めた部活動をサボることになっちゃってるのは私も良くないとは思ってるけど、今はその気持ちに蓋をする。
今はただ、ディストを倒すことだけに集中!
「転移座標:欺瞞世界・咲良町A区画」
「蹴散らせ」
転移と一緒に変身も完了!
通知で知らされたディストはナイトクラス。本来なら私一人で倒せる相手だけど、今は非常事態だから多分ブレイドとプレスも呼ばれてると思う。
それと、もしかしたらシルフちゃんも来るかもしれないよね。一緒に戦えたら少しはお話しできるかな?
わかんないけど、とにかくディストを見つけなきゃ始まらないよね!
「
からの~、大ジャンプ!
夜になると真っ黒なディストは見つけにくいけど、この時間なら上から見渡せば簡単に見つけられるもんね! 私ってあったま良い~!
「見つけた!」
しかも誰かがもう戦ってる!
急がなきゃ!
着地と同時に全力ダッシュ!
魔法少女はそう簡単に疲れないからね!
朝練も魔法少女の状態でやれたら楽ちんなんだけどなぁ。
「邪魔ぁ!」
壁をぶち破って一直線に進む。どうせ現実には影響しないから、最短で駆けつけるにはこれが一番!
戦ってる魔法少女が見えた! 見慣れない、歴史の教科書で教会に居る人が着てそうな衣装の魔法少女。シルフちゃんだ!
この前見たシルフちゃんの強さを考えたら、ナイトクラスなんて一捻りのはずだよね。それがまだ戦いが終わってないってことは、相手は新型ディスト?
「加勢するよ!」
「結構です」
ええっ!?
ブレイドとかプレスが戦ってるならわざわざそんなこと言わなかったけど、一応魔法少女のマナーとしてジャックから教えられたとおりに、走りながら声をかけたら断られた。なんで!?
了解を取る前から助太刀するつもり満々だったから、体は動き続けてる。まさか断られるなんて思ってなかったから、全力でディストに向かって踏み込んじゃってる。
今止まったらバランスを崩しちゃう。ディストの攻撃も避けられないし防御も出来ないと思う。
やっちゃったものはしょうがない。後で謝るとして、ここは全力で戦わせて貰おう。
「ごめんなさい!!」
シルフちゃんへの謝罪を込めて、ゴリラのようなシルエットのディストに拳を繰り出した。
シルフちゃんが苦戦するほどの敵だから、有効打になるとは私も思ってない。精々牽制。私がくい止めてる間にシルフちゃんが強力な魔法を使ってくれれば……!
「へ?」
私のパンチを受けたディストがあっさりと飛び散って消滅した。
え? え? 凄い強いディストじゃなかったの? 普通のナイトクラスだとしても私じゃ一撃で倒すなんて無理だし……。
まさか!
「私急に強くなった!?」
「全然違うラン」
この特徴的で変な語尾は!
「ジャック!」
「エレファント、今のはバッドマナーラン。まさか君にそんな意図はなかっただろうけど、タイラントシルフが弱らせたディストを横取りしたのと結果は一緒ラン」
「う、ごめんなさい」
そっか、シルフちゃんが弱らせてたんだ。どおりで簡単に倒せたわけだ。ジャックの言うとおり、美味しいところだけ持って行ったようなものだよね。
いつの間にか近づいていたシルフちゃんも、むすっとしていて心なしか不機嫌そう……。
不機嫌そうなシルフちゃんも可愛いなぁ。
「本当にごめんね、シルフちゃん。横取りしようなんて思ってなかったんだけど、助けなきゃって早とちりしちゃって……」
「……」
うぅ、折角シルフちゃんと仲良くなれるかもって思ったのに、なにやってるの私! こんなの言い訳っぽくて余計に怒らせちゃったかな……。睨まれてる気がしてきた……。
って、そういえばまだ自己紹介もしてないじゃん! 私は一方的に知ってるだけで、シルフちゃんも私のことを知ってるとは限らないよね。
「私は魔法少女エレファント。一応この町の魔法少女で……」
「……」
うぅ、やっぱり怒ってるのかな……?
そうだ! 良いこと思いついた!
「お詫びに魔法界で晩ご飯を奢るよ! 私、美味しいお店知ってるんだ! この前助けてくれたお礼だって出来てないし!」
あんまり魔法界には行かないからあの喫茶店が魔法界でどの程度のレベルなのかはわからないけど、美味しかったのは事実だから問題ないよね!
「……別に良いです。お店の情報だけ教えて下さい。あと今後は私に関わらないで下さい」
「はぐぅ!」
え、ちょっと待って。
この子……
凄い可愛い声! さっきは戦いに集中してたから気にしてる余裕がなかったけど、甘ったるくて舌足らずでそれなのにどこか背伸びしたようなしゃべり方で、おませさん可愛い! マセカワだよ! まだ小学校低学年くらいに見えるのにしっかりしてて可愛い! でも美味しいものには興味があるところも可愛い! 喋らなくても可愛かったけど声を聞いたら可愛さ倍増だよ!
あまりの可愛さに思わず胸を押さえながら奇声をあげちゃった!
「ちょ、ちょっと、どうしたんですか? だいじょうぶですか?」
ああああ! 関わらないでくださいなんて言ってたのに心配してくれるなんて優しすぎる!
わけありなんだよねっ。本当は心優しい良い子なのに、事情があって他人を遠ざけようとしてるんだよねっ。
守りたい。ううん、守らなきゃ!
「シルフちゃん! お店のこと教えてあげるからマギホンの連絡先教えて欲しいな」
「え……。お店の名前を教えてくれればいいです」
「なんか難しい外国語で発音できないんだよね。マギホンにお店のURL送ってあげる」
「じゃ、じゃあいいですもう帰ります」
「待って!」
咄嗟にシルフちゃんの腕を掴んでひきとめる。
これだけは言っておかないといけないから。
「私、シルフちゃんと友達になりたいな」
シルフちゃんの目を真っ直ぐ見つめて真剣に訴えかける。
だけど、シルフちゃんはどこか怯えた表情で私の手を振り払った。
「っ、結構です。さっきも言いましたけど、二度と私に関わらないで下さい」
ああ! シルフちゃんが転移して帰っちゃった。
うーん、そんなに他人と関わりたくないのかなぁ? それとも、他の魔法少女と関わりたくないとか?
でも、放っておけないよね!
シルフちゃんだって好きで他人を遠ざけてるわけじゃないだろうし、何か力になれればいいんだけど……。