魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

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episode閑-4

 結局初日以来次のディストは発生しないまま9月1日を迎えて、美鈴は小学校に通い始めたラン。ディストの発生頻度が低いっていうのはデータでわかってたつもりだったけど、いざ体感してみるとあまりにも出て来なさすぎラン。元々ビークルが引退するまでは一人で回せてたのも良く分かるラン。前任の妖精が二人目の魔法少女を勧誘しなかったのはもしかしたら正解だったかもしれないラン。当初は縄張り争いでドンパチやりあってお互いの腕を磨いてくれる可能性を考えたけど、こんなに渋いと魔法少女をやってる旨みがほとんどないラン。縄張り争いなんて面倒なことしないで辞めちゃう可能性も全然あるラン。

 

 今後の方針についてちょっと考えなおすことにはなったけど、とりあえず二人目の魔法少女候補探しは中断してないラン。学校で友達が出来れば美鈴は魔法少女を辞めるだろうし、次の魔法少女を探しておいて損はないラン。

 そういえば、美鈴が家を出る直前まで何かもの言いたげに僕のことを見ていたけど、あえて気づかない振りをしたラン。毎日美鈴のお遊びには付き合ってあげてるし、流石に学校までついていく気はないラン。僕はそんなに暇じゃないラン。

 

 ここ数日、美鈴が寝静まった夜の内に才能がある子を探して何人か目星はついてるラン。後はこの子たちの個人情報を調べ上げて、より効果的な勧誘方法を考えるラン。結果的にうまくいったけど美鈴の時は行き当たりばったり過ぎたラン。あんなスマートじゃないやり方は僕らしくないラン。

 問題はどのタイミングで勧誘しに行くかラン。見つかった候補はみんな小学生で、生活リズムが美鈴と大差ないラン。勧誘しに行ける時間が美鈴の活動時間と丸被りラン。日中は勿論その子たちも学校だから下手に手は出せないラン。家に一人でいる時が一番安全ラン。誰かに相談させる時間と余裕は与えない方が良いラン。

 どうせ辞める見込みの美鈴のことをあんまり気にかけてもしょうがないし、そろそろお友達ごっこも終わりにするラン? 元々は新しい子と、あわよくば美鈴も続けてくれた方が良いと思ってお遊びにも付き合ってあげたけど、発生頻度が極端に低い瀬理町に魔法少女は二人いらないラン。

 

 内気な美鈴のことだし、転校初日からいきなり友達ができるってことはないと思うラン。だから今日はいつにも増してどんよりとした空気で帰って来る気がするラン。でも、一週間もすれば一人や二人くらい一緒に遊ぶ子もできるはずラン。本格的な勧誘はそのくらいから始めることにするラン。その頃には美鈴も僕に変な執着はしないと思うラン。

 

 

 

 

 

 

 予想通り浮かない表情で美鈴が帰って来た9月1日の始業式から数日が経って、そろそろ次の魔法少女を探しに行くことを切り出そうと考えていたタイミングで初日以来2回目のディスト発生が検知されたラン。等級は前回と同じく無爵級(コモンクラス)ラン。頻度だけじゃなくて質も渋いラン。

 当然、美鈴の持ってるマギホンにも通知は行っていて、人間には不愉快に聞こえる騒々しい警告音が鳴り響いたラン。美鈴はまずその警告の音に驚いてビクッと大きく身体を跳ねさせて、次にディストの発生に怯えたようにプルプルと震えだしたラン。……やっぱりこの子は魔法少女に向いてないラン。でも次の魔法少女が誕生するまでは頑張って貰うラン。

 

「美鈴、変身ラン!!」

「う、うん……! 舞い踊れ!」

 

 魚群と水のエフェクトに包まれて美鈴が変身し始めたのを確認してから、ディストが発生した地区に転移するラン。

 

「魔法少女、フィッシャーブルー!」

 

 前回の勝利が多少は自信に繋がったのか、最初の時よりは変身も様になってる気がするラン。

 

 今回のディストは鷲型、大きさも現実に実在する鷲とあんまり変わらないくらいラン。本来なら飛行能力持ちであるのが厄介なところだけど、幸いにもフィッシャーブルーの最初の魔法は対空能力を持ってるラン。

 

魚群召喚(スコール)戦鰯(バトルフィッシュ)!」

 

 我が物顔で空を飛ぶディストを見上げてへっぴり腰になりながら、フィッシャーブルーは震えた声でそう唱えたラン。すると小さな魚が大量に空中を泳ぐように現れて、一つの群れになってディストを追いかけまわし始めたラン。

 ただ、飛行速度はディストの方が上ラン。徐々に引き離されてるラン。

 

「フィッシャーブルー、バトルフィッシュの指揮をとるラン! 群れを分けてディストを挟撃するラン!」

「え? え? し、指揮ってどうやって? 挟撃ってなに?」

「声に出すでも頭の中でも何でも良いラン! 自律召喚型の魔法は術者の簡単な指示には従うはずラン! はさみうちするってことラン!!」

「えっと、えっと、みんなぁ! は、はさみうちしてぇ!」

 

 普段大声を出すことなんてないんだろうなっていうのが良く分かるくらい気の抜けた声でフィッシャーブルーがバトルフィッシュに指示を出したラン。まあ、声の大きさ何て関係ないラン。実際に声が上空まで聞こえているかどうかはどうでも良くて、魔法少女と召喚獣の間には魔法的な繋がりがあるから、声に何て出さなくても指示は届くラン。現にバトルフィッシュの群れは半数ほどが分離してディストの進路を予測しながらその行先を潰そうと軌道を変え始めたラン。

 

「……! 気づかれたラン! フィッシャーブルー、逃げるラン!」

「へ……? あ、わああぁぁぁぁ!! こっち来ないでよぉぉ~~!!」

 

 バトルフィッシュの群れから逃げ回ってたディストが急に軌道を変えて僕たちめがけて急降下を始めたラン。バトルフィッシュの術者がフィッシャーブルーだと気づかれたラン。本局のデータによると、ディストは戦いの中で学習して徐々に魔法少女の戦い方を知りつつあるラン。だからディストは知ってるんだラン。強力な召喚獣と直接戦う必要はないことを。貧弱な術者を倒せば召喚された魔法生物も消えることを。

 

 このままだと追いつかれるラン。いくらフィッシャーブルーが戦いに向いてないへっぽこ魔法少女だとは言っても、たかだか無爵級の一撃で致命傷を負うことなんてないと思うけど、……正直不安ラン。仕方ないから今回は守ってあげるラン。妖精のバリアは無爵級くらいの攻撃なら無傷で弾けるラン。

 

「――っ! あぶない!!」

 

 必死で足を動かすフィッシャーブルーの背後に回って、猛スピードで迫りくる鷲型ディストを迎え撃とうとした僕は、そんな切羽詰まった声を聞くのと同時に勢いよく抱きしめられてディストの攻撃から守られてたラン。誰に? そんなの言うまでもないラン。この場に居るのは僕以外にただ一人、フィッシャーブルーだけラン。

 

「っ~~~! いたいっ、けどっ、思ってたよりは、いたくない、かも……」

「な、なにやってるラン!? ディストは!?」

 

 僕を抱きかかえながら地面を転がったフィッシャーブルーが、痛みに表情を歪ませながらそんな強がりを口にするラン。幸いにも、大きな怪我は負ってないみたいラン。どうしてこんな馬鹿げたことをしたのかって思うのと同時に、それを問い詰めるよりもまず先にディストがどうなったかを確認するラン。

 

「えへへ、また勝てた……」

 

 僕たちに攻撃したことでスピード落ちたせいか、ディストはバトルフィッシュに追いつかれて全身に群がられてるラン。たしかにあれならもうフィッシャーブルーの勝利ラン。まったく、冷や冷やさせないで欲しいラン!!

 

「フィッシャーブルー! どうして僕を庇ったりしたラン! さっきので君がやられてたらディストが現実に侵攻してたかもしれないラン!! そうしたらもっと沢山の人が犠牲になってたラン! もっとちゃんと考えて魔法少女としての使命を全うするラン!!」

「あ、はは、そっか、そうだよね……。ごめんね、ジャックくん。私バカだから、わかんなかった。友達があぶないと思って、かってにからだが動いちゃってた……」

「友達だからって……、意味がわからないラン。世界を守るために最善の選択がどうして出来ないラン?」

 

 前任の妖精が魔法少女を庇った時とは状況が全く違うラン。ディストとの戦いはまだ終わってなかったラン。そんな中でフィッシャーブルーが死んだら、死ななかったとしても戦闘を継続出来なくなったら、誰がこの町を守るラン? 僕は自分の身は守れてもディストを倒すことは出来ないラン。僕に出来ることなんて大急ぎで次の魔法少女を誕生させることか、他の町から救援を呼ぶことだけラン。そのどっちも確実な策とは言えないラン。フィッシャーブルーは僕を見捨てるべきだったラン。それが最も正しい選択ラン。

 別に、僕がバリアを持ってたからこんなことを言ってるわけじゃないラン。例え僕があの一撃を受けたら破損(ロスト)することになるんだとしても結論は変わらないラン。妖精の代わりはいくらでもいるラン。僕の後任が来るまでの間、生き残ったフィッシャーブルーが瀬理町を守ってれば何の問題もないラン。魔法少女が生き残るべきなのか、妖精が生き残るべきなのか、そんなの状況によって変わるのは当たり前で、何よりも優先されるべきはこの世界を守る使命を一時も途絶えさせないことラン。

 

 どうしてそんな簡単なことがわからないラン?

 友達だからって、それがなんだって言うラン?

 便利な言葉だと思ってたけど、なんだかよく分からなくなってきたラン。

 あんなに臆病だったフィッシャーブルーが、自分の身を犠牲にしてまで助けようとするなんて、そんなに大切なものラン?

 友達っていうのは、世界よりも優先されるラン?

 

 理解出来ないラン……。

 

「とにかく、次は同じようなことをしないように気を付けるラン。そもそも僕たち妖精はバリアを使えるからあの程度の攻撃ならかすり傷一つ負わないラン。今のでフィッシャーブルーが死んだら犬死ラン」

「いぬじに……? ワンちゃんがどうかしたの?」

「……無駄に死ぬことになるってことラン。わかったラン?」

「そっか、しんぱいしてくれてるんだ。ありがとう……」

「そんなこと一言も言ってないラン」

 

 勘違いも甚だしいラン。いずれは世界を救うほどの素質を持った魔法少女を見出す予定のこの僕が、高々フィッシャーブルー程度の魔法少女を心配するなんてあるわけないラン。まったく、どういう思考回路をしてるのやら、わけがわからないラン。

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