魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

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episode5-5 歪みの王ROUND2②

「歪んだ時間」

 

 あえてその場で再生せず、残った下半身も風に変えて一度歪みの王から距離を取ってから再生する。

 時間を歪めることでの高速移動、つまりエクステンドさんの魔法に似た力だということだろう。それだけなら範囲攻撃でいくらでも対処出来るが……

 

「歪んだ空間」

 

 環境魔法の無数の竜巻を融合させて巨大化し歪みの王を巻き込もうとするが、接触する直前に一部分だけ空間ごとぐにゃりと歪められてしまい歪みの王には届かない。わかっていたことだが、やはり空間を歪める能力だったか。これのせいでこっちの攻撃の大半が無効化される。ただでさえチートじみた性能だというのに、加えて時間を歪める力まで持っているなんて反則じゃないか。

 

「「そして、歪んだ存在と歪んだ魔法」」

「歪みの王が二人!?」

 

 正体不明の何かを削り続けていた7本のトルネードミキサーが、突如内側から生じた凄まじい力によって強引に散らされ、内部から二人目の歪みの王が現れた。ついさっきまで俺と戦っていた歪みの王も健在で、今この場所に二人の歪みの王が存在していることになる。一体何がどうなってるんだ!?

 

「歪んだ存在の力は私とほぼ同等の戦闘能力、人格、記憶を持った分裂体を作り出す」

「そして歪んだ魔法は魔法攻撃を受けるほどにその魔法で受けるダメージを軽減する耐性を得る」

 

 トルネードミキサーを受けていた方の歪みの王に続いて、さっきまで戦っていた方の歪みの王が告げる。

 

 こいつ、一体いくつの能力を持ってるんだ!?

 

 いや、というか待て、ちょっと待ってくれ。だったら今まで俺が戦っていた相手は歪みの王の分裂体で、本体は俺の魔法を受け続けていたということか? そして本体がトルネードミキサーを突破して、空間を歪めたわけではなく真正面から打ち破って出て来たということは、それはつまり

 

「良い表情だ」

「理解したようだな」

 

 風魔法への耐性を十分に獲得したってことじゃないのか?

 

「誇っていい、お前の力を軽減するのにはかなりの時間を要した」

「流石は神の名を冠する力だ。再生力も随分と削られてしまった」

「まさか一人の魔法少女にここまで手こずるとはな」

「だが最早お前に私は倒せない」

 

「「詰みだ」」

 

 ……いや、まだだ

 

「どうしてその力を最初から使わなかった?」

 

 使えなかったんだろう? 今までは

 

「戻ってきたんでしょう? 感情と一緒に」

 

 歪みの王は言った。

 感情まで我が子らに分け与えたのは失敗だったと。

 戻ってきた感情の統制に手間取っていると。

 そして、お前たちに与えた力も戻って来てしまったと。

 

「あなたの力と感情は王族級ディストに与えていたものだった。そしてそれが戻って来たということは、私の仲間たちが王族級に勝ったということ」

 

 口ぶりからして、歪みの王が自分の意思で呼び戻したわけじゃない。不本意に戻って来てしまったのだとすれば、王族級が倒されたのだと考えるのが自然だ。

 

 歪みの王の言葉が真実ならば、たしかに俺の魔法ではもう決定打を与えることは出来ないのかもしれない。

 だがこの世界を守る魔女は俺だけじゃない。王族級を倒した魔女たちがいつかはこの場に来るはずだ。

 歪みの王は本来の姿に戻っている頃とも言っていたから恐らくまだ戦いは終わってないのだとは思うが、時間の問題だろう。特殊能力を失ったディストなんて魔女の敵じゃない。再生力を削り切るのに少し手間取るくらいで、時間の問題だ。

 

 環境魔法に巻き込まないためにブルシャークさんには一度避難してもらったが、風が通用しないなら環境魔法を引っ込めてまた戻って来て貰えば良い。ブルシャークさんだけでは流石に歪みの王に対処するのは難しいと思うが、他の魔女も揃えばきっと勝機はあるはず。何も詰んでなんかいない。俺は、俺たちはまだ負けてない。

 

「それに何より、あなただって私を害することは出来ない」

 

 風神の力によって風と一体化している今の俺に歪みの王の攻撃は通用しない。身体を消し飛ばされようが空間ごと歪められようが、風を集めて復活出来る。有効打がないのはお互い様だ。

 

「なるほど、折れないか」

「確かに、歪んだ理をもってしても風の理には干渉出来ない」

「だが、やりようはいくらでもある」

「例えば今の私にはこういうことが出来るわけだが」

 

 分裂体の右腕が突然肥大し巨人の腕のように変化した。通常の人間サイズの身体にゴリラすら優に超える太さの腕が付いていてアンバランスで気味が悪い。やらないだけで巨大化しようと思えばいつでも出来るらしい。

 

「何を――」

 

 分裂体が巨大化した右手を開き、何かを掴むように空を握る。

 

「な、なに!? くっ、あぁ!?」

「エレファントさん!?」

 

 いつの間にか、真っ黒な拳の中にエレファントさんが握りこまれていて、何が起きたのかわからないというように困惑の声と苦しそうな悲鳴を上げた。

 

 う、うそだ、ありえない! エレファントさんは沖縄にいるんだぞ!? こんなところいるわけない!!

 

「歪んだ空間の力ならこの程度のことは出来て当然だ」

「さあタイラントシルフ、どうする? 仲間を見捨てて戦うか? 変身を解除するならこの魔法少女の命だけは助けてやっても良いぞ?」

「うぅっ、し、シルフちゃん……? わけ、わかんないけど……、私のことは、気にしないで……!」

「人質は黙っていろ」

「あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛っ!?」

 

 歪みの王が握り拳に軽く力を入れるだけで、エレファントさんは今にも死んでしまいそうな悲痛な声をあげる。

 

「10秒だけ時間をやろう。解除しなければ、この魔法少女の命はない」

「当然だが、風の力は使うな。妙な動きがあれば10秒を待たずに握りつぶす」

 

 空間を歪めて、エレファントさんを連れてきたって言うのか……?

 

 冷静に、冷静になれ。そもそもエレファントさんは沖縄にいるはずで、沖縄はレイジィレイジが守ってるんだ。どうしてエレファントさんは魔法少女に変身してる? 仮にニュースかSNSでディストの大量発生を知ったのだとしても、沖縄にいる間は変身する理由がない。

 それに、どうしてエレファントさんなんだ? 仲間を人質にするならブレイドさんやプレスさんでも良かったはずだ。むしろエレファントさんよりは近くに居るんだからその方が自然じゃないか? 表向き俺たちは4人仲良しチームという体を取っていて、俺とエレファントさんに特別な関係があることなんてディストには知る由もないんだ。

 

 十中八九ブラフのはずだ。俺の弱点をつくような幻を見せるとか、そういうまだ明かしていない能力があるんだ。そうじゃなければあまりにも都合が良すぎる。そもそも歪みの王が言った通りのことが出来るんだったらもっと早くそうするだろう。追い詰められて苦し紛れの賭けに出た。きっとそうだ。あのエレファントさんは偽物か、幻。無視して攻撃してしまえば良い。耐性を得て軽減されるとは言っても無傷ということはないだろう。少しでもダメージを与えるチャンスだ。撃て。魔法を撃て。

 

「っ~~!」

 

 だけど、もしも本物だったら?

 エレファントさんならレイジィレイジが守っている沖縄でも、何か出来ることがあるかもって行動を起こしていても不思議じゃない。

 歪みの王が何らかの方法で俺とエレファントさんの関係を知っていたとしたら、これ以上ないほど効果のある人質だと判断するのは当然だ。

 

 そして言動も、エレファントさんが言いそうなことを言っている。

 

 もしも、万が一、本物のエレファントさんだったらと思うと、唇が震える。足が竦んで一歩も身動きが取れず、喉がキュッと締まって声が出ない。

 

「シルフ、ちゃん……! 私、ごと、やって!!」

 

 駄目だ……、撃てない……!

 

 どうする!? どうすればいい!? もう時間がない!!

 

 歪みの王が律儀に約束を守る保証なんてない! むしろ守らない可能性の方が高いのはわかってる!! 人質のために武装解除するなんて、自分も人質もまとめて殺されるに決まってる!! でも! このまま黙ってじっとしていたら……!

 

 変身を解除するしかないのか!?

 せっかくエレファントさんと心が通じ合えたのに!

 やっと双葉と仲直りできそうなのに!!

 ようやく前を向いて進めそうなのに!!

 こんなところで終わりなのか!?

 

 そんなの嫌だっ 終われない! 終わりたくない!!

 

 だけど、エレファントさんが死んでしまうのはもっと嫌だ!!

 

 自分が終わってしまうことよりも、その方がずっと、ずっと嫌なんだ!!

 

――これからは一人で全部抱えこまないで、何かあったら相談して一緒に背負おうね

 

「……っ」

 

 俺は変身を――

 

静寂なる時の狭間(クロノキーパー)

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