「トリックオアトリート!」
「お菓子をくれなきゃ悪戯しちゃいますよ、ガオー」
元気よくハロウィンお決まりの掛け声をあげる
本日は10月31日の日曜日、絶好のハロウィン日和です。
「ハッピーハロウィン! お菓子いっぱい用意してあるよ!」
私と
日中は咲良町魔法少女と純恋町魔法少女勢揃いで仮装お菓子パーティーをして、夕暮れ時から
私にとっては自宅なので訪ねるというのも変な話ですけど、せっかく仮装してるならトリックオアトリートやろうよと双葉が言い出したのでこういう形になりました。
「お邪魔しまーす!」
「ただいまです」
「ちさきちゃんはいらっしゃい、良ちゃんはお帰りなさい。それにしても二人とも可愛い~! やっぱり魔法界で作ってる仮装はクオリティ高いね!」
勝手知ったる我が家のリビングへと移動すると、双葉がすかさずスマホを構えて仮装姿の私たちをパシャパシャと撮影し始めました。
私の仮装は不良シスターがモチーフで、修道服をイメージした紺と白のフリフリワンピースにビリビリに穴の空きまくったタイツを着用し、ベールを被ってロザリオ風のネックレスを首に下げています。
ちさきさんはヤギの悪魔をモチーフにした仮装で、モフモフの尻尾付きワンピースやヤギ角のカチューシャ、羽根つきインナー、つけ耳のヘアピンなどを付けています。
元気で明るい
「そうなんですー! もう可愛い衣装が一杯で、良ちゃんに何着て貰うかすっごく迷っちゃいました!」
魔法界には仮装のレンタルショップがあり、例年この時期にはウェイ系魔法少女たちがクオリティの高い仮装を求めて押し寄せるのだとか何とか。
ちなみにシャドウさんは最初冷笑して参加を拒否してましたけど、サキちゃんにめちゃくちゃ怒られて結局はパーティーにも参加してくれました。
魔女の特権で優先的に仮装を選べる制度のお店らしく、だからかエクスマグナさんやキャプテントレジャーさんにも遭遇しましたね。
私は正直なんでも良かったんですけど、ちさきさんにあれもこれもと着せられて3時間ほどは滞在していた気がします。
「ナイスチョイスだよちさきちゃん。清楚なシスターイメージを基調につつも不良的なエッセンスを加えて新たな魅力も引き出せてる。採点するなら、99点! 残りの1点はまだ見ぬ良ちゃんの可能性に期待して取っておくね!」
「安心してください! 次は120点を目指しますから!」
私を置き去りにして何やら盛り上がってますけど、来年も仮装するとは言ってないんですけどね……。
まあ、ちさきさんにお願いされたら結局断れないのは自分でもわかりきってるので、わざわざ否定する気にもなりません。
それにしても二人も随分仲良くなったものです。
当初はちさきさんのことを警戒している様子だった双葉ですけど、私がちさきさんの説得に折れて双葉を姉として扱うことを認めたのを切っ掛けに、急速に相互理解が深まっていったようです。
それと、双葉の言いつけを守って清い交際を続けていることも信用を得られた理由の一つなんだと思います。口づけくらいなら不純な交友とは言えないでしょう。ちさきさんも最近は落ち着いて、ギリギリを攻めるようなことも、まあ、全くないとは言いませんが控え目になっています。
「双葉姉さんは仮装しないんですか?」
「あはは、私はそういう歳でもないしね」
放っておくとまた、それぞれが撮りためている私の写真を交換し始めそうな勢いだったため新しい話題を投げかけると、双葉は肩を竦めて笑いながらそう言いました。
まだ21歳なんですから別にそんなことはないと思いますけどね。
元々は子供が仮装してお菓子を貰って回る文化のイメージがありましたけど、最近では仮装した大人が都会に集まってバカ騒ぎするイベントにもなってるみたいですし。
私はちょっとああいうノリには付いて行けないので、友人と仮装パーティーを楽しむので十分ですけど。
「はぁ~、二人の可愛い仮装姿を全世界に自慢したいよ~」
「ネットにあげるのはダメですよ」
「わかってるよ~。わかってるけど、こんなに可愛いのに私が独り占めしちゃうなんて世界の損失だなって」
「大げさすぎます」
「私も良ちゃんの可愛さを全世界に発信したいといつも思ってるから気持ちはわかります」
双葉が余計なことをしないように牽制していると、変な方向から双葉への援護射撃が加わりました。
「ちさきちゃん……!」
「双葉義姉さんっ!」
「そういうのもういいですから、お菓子食べましょう」
感動した様子でガシっと手を取り合ってる二人をスルーして、私は机に並べられたお菓子に視線を移します。
二人が結託して泣き落としにかかろうとするのは今に始まったことではありません。
しかしこればかりは
「ちょーっと待った! 良ちゃんも
さっさと席につこうとしていた私を制止して、双葉が突然大きな声でそんなことを言い始めました。
「別につまんなくないですよ。双葉姉さんが作ってくれたお菓子食べるの、結構楽しみでしたから」
「うぅ! なんて可愛いことを言ってくれるの良ちゃん!」
一々リアクションが大袈裟です。
「私も気にしませんよ? 双葉義姉さん、お菓子づくり上手なんですね~」
ちさきさんも机に並べられたお菓子を見ながら、温かみのあるニコニコ笑顔でそう仰ってますよ。
「ごめんなさい、正直に言うと私がやりたいだけだから付き合ってください」
「最初から素直に言えばいいものを……」
「そういうことなら喜んで! でも、ゲームってどんなのですか?」
「ドキドキ! お菓子当てゲーム!」
しおらしくなったかと思えば急に元気になりますね。
「ルールは簡単! 良ちゃんと
「なんか〇ouTuberの企画みたいなゲームですね」
「面白そうですね! ちなみに勝ちって言うのは、勝ったら何かあるんですか?」
「負けた方には芸を披露してもらいます!」
「新入社員の歓迎会じゃないんですから……」
何を晴れやかな笑顔で言い放ってるんですか。
普通こういうのって勝ったら何か貰えるものだと思うんですけど。
「この前友達と飲み行ったときゲームに負けて一発芸をやらされたんだけど、その屈辱を分かち合いたいなと思って」
「そういうのは分かち合わなくて良いです」
「あ、あはは」
流石の
「どんな些細な芸でも良いから~! 私の気持ちを理解して心の傷を癒してよ~!」
「一発芸くらいあとで私がやってあげますから……」
「ううん、それは違うよ良ちゃん! 双葉義姉さんが求めてるのは、ゲームに負けて不本意だけど芸を披露した結果ダダスベリして恥をかいたって体験の共有なんだ! ゲームをしないと意味がないんだよ!」
「ぐふぅっ」
フォローしているようで刺しに行ってませんかこれ? 双葉が吐血するイメージが浮かびましたが。本当にいつの間にこんなに仲良くなったんだか……。
「ちさきさんが良いなら私はやっても構いませんけど」
「全然大丈夫だよ! でも、やるからには負けないよ良ちゃん!」
「私も手加減はしませんよ」
「じゃあ決まりだね! 問題は全部で三つ! 目隠しを巻くから二人とも席についてね!」
爆速で復活した双葉が、隠し持っていた黒色の鉢巻きのような布を私たちの目元に巻いてフンスフンスと満足そうに鼻息を荒げています。
「ちなみにホームビデオとして録画したいんだけど二人ともいいかな?」
「好きにしてください」
「私も大丈夫です」
双葉は何かにつけては写真だの動画だのを撮りたがりますけど、昔は私も双葉に同じようにしていたことを思い出して最近は好きなようにさせてます。そのうち満足するか飽きる時が来るでしょう。
「ありがとー! それでは早速第一問! デデン! まずは良ちゃんからあ~んして」
「あー」
見えない以上は食べさせて貰う他ありませんので、言われた通りに大きく口を開けてお菓子が入ってくるのを待ちます。
「……まだですか?」
「今入れるから焦らない焦らない。丸呑みしないように気をつけてね」
「んむ」
そっと添えるように舌の上に置かれたそれを、口の中で転がしてみます。
形状は薄くて平べったいですね。舌触りはザラザラしていて、噛むとサクサクという感じです。味はシンプルに甘いです。どうやら焼き菓子のようですね。
「次はちさきちゃんね」
「あ~ん」
一問目ということもあってかこれは結構簡単でしたね。
「呑み込んだら二問目行くよ~。回答と答え合わせは三問終わってからね!」
「あー、んぐ」
今度はさっきと違い、口の中で転がそうとした途端に形が崩れてするりと喉の奥に入ってしまいました。冷たくて、タマゴや牛乳の風味、それからカラメルの味を感じました。これもわかってしまえば簡単ですね。
「最終問題! これはちょっと難しいかも?」
「あむっ」
冷たくて、グニグニしてますね。形は球状、転がしてるだけで崩れるほど柔くはないです。甘いタレみたいなのがかかってて、噛むとシャリシャリして、フルーツが入ってるっぽいです。これはパイナップルでしょうか。あ、そういえばこんな感じの、最近どこかで見たような……。
「それじゃあ二人とも目隠しを外して、回答をスマホのメモに書いて見せてね!」
私が咀嚼を終えて回答を考えている内に双葉の準備も終わったようで、もういいよと声がかけられました。
「それじゃあ二人とも一斉に答えをオープン!」
「最後だけ自信ないけど、多分こうかな?」
『クッキー、プリン、フルーツゼリー』
「ふふん」
『クッキー、プリン、九龍球』
「正解は~! クッキー、プリン、九龍球でしたー! なんと良ちゃんは全問正解!
イカサマのないよう、事前にメモに書いてスクショしておいたらしい画像を双葉が提示してきました。
「あちゃー! 負けちゃった~! 最後のはクーロンキュー? って言うお菓子なんですか? 良ちゃんよく知ってたね」
「最近どこかで見た覚えがあるんですよね。チラッと見たくらいだった気がするのでどこだったか思い出せないんですけど」
「……あっ!」
突然双葉がしまったとでも言いたげに声をあげました。
「レシピの参考にスマホで色々動画見てたから、もしかしたら良ちゃんもその時チラッと見えちゃったのかも……」
「言われてみればそうだった気がします。……これは不公平なのでは?」
「ごめんちさきちゃん! せっかくゲームに付き合ってくれたのにぃ!」
「そんな、気にしないでください! わざとじゃないんですよね?」
「神に誓うよ~! むしろ良ちゃんの一発芸を撮影して永久保存したいくらいだったから!」
それはそれでどうなんですか。
「じゃあ、今日の動画を共有してくれたら許してあげます」
「お安い御用だよ! っていうか最初からそのつもりだよ!」
「それじゃあ最初の約束通り私も芸を披露しないとですね」
「嫌だったら無理しなくても大丈夫ですからね? 今回は明らかに双葉姉さんに落ち度がありますし」
「大丈夫だよ~、ほんとに全然気にしてないから! それにハロウィンに向けて怖い話を仕入れてたんだけど、みんなとのパーティーでは披露する機会がなかったからちょうどいいかも!」
「おっ、いいねー! ハロウィンだし怖い話の一つもしないとね! お菓子を肴に怖い話と洒落こもー!」
えぇ……? そんな、夏と言えば怪談みたいな定番ハロウィンにありましたっけ……?
「これは私の友達の友達が実際に遭遇した話なんだけどね、」
「あ、あー、私ちょっとお手洗いに行きたくなっちゃいました! 長くなるかもなので待たなくて大丈夫ですよ! ち、ちなみにどれくらいで終わりそうですか?」
流れるように語り出した
もちろん怖い話やホラーが苦手だとかそんなわけではなく、終わるまでトイレに立てこもろうだなんてこれっぽっちも考えていません。
「せっかくだから良ちゃんにも楽しんで欲しいし待つよ~。良いですよね双葉義姉さん?」
「うん、そんな焦って聞かなきゃいけないわけでもないし全然いいよ。良ちゃんお腹冷えちゃった? 温かいもの用意しようか?」
う、う゛ぅ゛~~!
結局、一度張ってしまった見栄を引っ込めることもできず、ちさきさんの怪談を聞いた私は当分の間夜に怯えて過ごすハメになるのでした。
怪談はもうコリゴリです。
iris out
シルフちゃんとエレちゃんが仮装したイラストをskebで描いていただいてXに投下したので、良ければご覧ください! めっちゃ可愛いです!
https://x.com/penguin_frame/status/2116338330044637621