魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

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episode2-2 新チーム③

 タイラントシルフの活躍によりアールクラスディスト討伐を終えた四人は、戦闘前に話していたとおり甘いスイーツの食べられる店にやってきていた。

 言い出しっぺのプレスは当初新しいお店を開拓するつもりだったが、結局行きつけの喫茶店に向かうこととなった。ディストと一戦交えたことでなんだか面倒になってしまったらしい。

 

「やあ、奇遇だね」

 

 四人が店に入ると、業務的な抑揚のない歓迎の言葉の後に、そんな言葉が聞こえてきた。ブレイドが声の方向へ視線を向ければ、そこにはひらひらと手を振るナックルの姿があった。サムライピーチとエクステンドも同席している。

 

 ブレイドが同じように手を振り返し、挨拶をしつつ横目でタイラントシルフを見てみると、半歩下がってエレファントの背後に隠れる様子が見えた。

 

 これで本人は隠しているつもりだというのだから、ブレイドはついつい頬が緩んでしまいそうになる。

 年齢不相応の落ち着きを持っているかと思えば、行動には幼さの片鱗が見え隠れする。どれだけ背伸びして大人のように振る舞っても、子供は子供ということかとブレイドは内心で微笑んだ。

 

 ハッキリ言って、エレファントとタイラントシルフが友好を深めていることは傍から見てバレバレだった。

 

 エレファントに撫でられて安心しきった様子のタイラントシルフや、プレスに引っ付かれた際に迷いなくエレファントへ助けを求めている様を見れば一目瞭然だ。

 

 ブレイドたちはそもそもエレファントから事前にある程度事情を聞いており、現状でエレファントにだけは心を開いているということを把握している。

 シルフがエレファントに懐いた理由、シルフが抱えている問題についてはブレイドたちも聞いていないが、エレファントからそれを聞き出すのは人の道理に反するだろうと自重している。そもそもエレファントは聞かれたとしても答えないだろう。

 

 バレバレであるにも関わらずなぜ表向きはただのチームメイトということにしているかと言えば、それはブレイドやプレスも交友を深めたいと考えているからだ。

 シルフは本当に秘密にするつもりがあるのか疑わしいほどエレファントに対してのみ心を開いているが、ただのチームメイトだと言い張るのなら同じくただのチームメイトであるブレイドやプレスが同じことをしても問題ないということになる。

 例をあげるならば、プレスがシルフの頭を撫でようとしたことだろう。結局シルフはプレスの手から逃げ出して言い訳に困っていたが、見かねたエレファントが助け船をだしてやったのだ。

 

「おや? おやおや? そこに居るのは親愛なる我が同期! 風の魔女殿じゃないか!」

 

 シルフが隠れるのを見ていたのはブレイドだけではなかったらしい。エクステンドの位置からでは、背丈の小さいシルフはエレファントの姿に覆われて見えないはずだが、エクステンドはそこに風の魔女が居るということを確信し興奮した様子で近づいてくる。

 

「な、何か用ですか?」

 

 わざわざエレファントの背後に回り込み、やたらと親しげに距離を詰めてくるエクステンドに対して、シルフは困惑しているようだった。

 

「直接会うのは初めてだね。序列第13位の魔女、エクステンドトラベラーだ。同じ魔女として、君とは一度話がしてみたいと思ってたんだよ」

「それはどうも。ご存じのようですけど、タイラントシルフです」

 

 エクステンドが差し出した手を取り、握手に応じるシルフ。

 それを見ていたサムライピーチとナックルは、ちょいちょいと手招きをしてブレイドとプレスを呼び寄せた。

 

「彼女は孤高の魔法少女ではなかったのか?」

「この前とは随分印象が違うね」

 

 フレンドリーな態度で接しているエクステンドと対比すると、シルフの対応は非常に素っ気ないものに見える。しかしそれでも、二人が戦場で目にしたタイラントシルフの雰囲気と比べれば遙かに柔和なものだった。

 あの時初めてタイラントシルフを目にした二人が抱いた印象は、無機質な暴力の塊だった。感情の読みとれない、ただその強大な力を振るうだけの機械のような少女。

 だが、目の前でエクステンドと会話をしているのは、少し不器用なだけの普通の女の子に見える。

 

「あの後エレファントが何とかしたみたいです。私たちも詳細は知りませんけど、あれ以来人が変わったみたいですよ」

「つってもエレちゃんにしか懐いてないっすけどね~。まー、普通に話せるようになっただけでも一歩前進っすね。あっ、注文いっすかー?」

 

 エクステンドが抜けた四人がけのテーブル席にブレイドとプレスが座ると、エクステンドたちは自然と三人で隣のテーブル席に座るかたちになった。

 

 ナックルがチーズケーキ、サムライピーチがパンケーキを食べているのを見て、プレスも甘い物が欲しくなったのか食い入るようにメニューを眺めながら店員を呼ぶ。

 

 いつものとだけ伝え、プレスに注文を任せてブレイドはこっそりと隣の席を盗み見る。会話の内容まではハッキリと聞こえないものの、エクステンドが積極的にシルフに話しかけ、シルフが素っ気なく塩対応をしているようであることはわかった。エレファントは二人の潤滑油として会話を繋いでいるようだった。

 

 エレファントが居ればそう心配することもないだろうと、ブレイドは視線をサムライピーチたちに戻す。

 

「魔法界で遊んでるなんて珍しいと思ったけど、そういうわけか」

「ん? どういうことだ?」

 

 ブレイドたちの説明を聞いて納得した様子で頷いているナックルに対し、サムライピーチは話の繋がりが理解できないようだった。

 ブレイドたちが魔法界での活動をあまり好まず、現実で交流していることの方が多いことはサムライピーチも知っている。しかしだからと言って、魔法界で遊ぶことが皆無というわけではない。魔法界にある行きつけの喫茶店でブレイドたちと遭遇したことに特別な疑問は抱いていなかった。精々思考の片隅で、偶然今日は魔法界で遊ぶ気分だったのだろうと自己完結した程度だ。

 

 もちろん、その日の気分や急ぎの用事によってはブレイドたちが魔法界を訪れることもあるため、サムライピーチの考えが一概に間違っているというわけではないが、あえて勝者を決めるのであれば、今回はナックルに軍配が上がるだろう。

 

「これから仲良くなろうって魔法少女と遊ぶのに現実で会うのは難しいからね」

「おぉ! 言われてみればそれもそうか」

 

 ポンと手を叩きサムライピーチは小さく首を縦に振った。

 認識阻害の影響により、現実世界ではほとんどの人間が変身後の魔法少女を見ることも声を聞くことも出来ない。

 そんな状態でまともに遊べるわけもなく、そうなると変身前の本来の姿で遊べば良いという話になるが、大して仲の良くない魔法少女に変身前の自分の姿を晒すというのはリスクが大きい。

 変身前の姿を見せるか見せないかの判断基準は個人によって違い、チームメイトならOKという魔法少女もいれば、親友と呼べるほど仲を深めた魔法少女にしか見せないという魔法少女もいる。

 

 ブレイドたちが自主的に配慮したのか、シルフが変身前の姿では会わないと言ったのかまではナックルにはわからなかったが、とにかくそうした事情で魔法界に居るのだろうということはわかった。

 

「ナックルパイセンは察しがいいな~。さすがっすね!」

「どちらかというとピーチが鈍いんだと思うけどね」

「む、そんなことはないだろう。ナックルはその辺の機微に聡い。私は普通だ」

「ナックルさんが気が利くっていうのはたしかですよ」

 

 サムライピーチが人付き合いの機微に鈍いというのはブレイドも何となく感じ取っていたところではあるが、まさかそれを本人に言うことも出来ずナックルのことだけを言及した。

 

 事実、ナックルは人付き合いの機微に聡く、気が利いて、顔の広い魔法少女だ。

 

 ブレイドたち咲良町の魔法少女がこの近辺である程度交友を持っているのはナックルたち純恋町の魔法少女のみであり、それ以外に隣接している地域との魔法少女とは精々顔見知り程度。

 救援通知があれば助けに行くし、鉢合わせすれば挨拶もするが、こうしてプライベートで話し込むほどの仲ではない。

 

 それに対してナックルは比べものにならないほど交友関係が広い。

 純恋町の周辺地域の魔法少女とは変身前の姿で会うほど仲が良く、さらにその魔法少女の友人、つまり友達の友達と一緒に魔法界で遊んだりすることもある。

 魔法少女専用のSNSに多くの友人がおり、しかもネット上の関係に収まらず直接会いに行くことも一度や二度ではない。お互いに日時を示し合わせれば魔法界で簡単に合流することが出来るのだから、現実のオフ会とは比べものにならないほど簡単に直接会うことができる。

 実際に会うのは初めての友人ともすぐに打ち解け、ネット上の友人ではなく魔法少女としての友人と呼べるほど仲を深めた者も多くいる。

 

 エクステンドも有力なフェーズ2魔法少女として知られた存在で、可能ならば交友関係を持っておきたいという魔法少女は多いが、友人と呼べるほどに仲を深めている魔法少女はそこまで多くない。

 

 ブレイドたちだけに限らず、エクステンドやサムライピーチと比較してもナックルは友人の多い魔法少女だ。それは彼女の人徳によるものもあるが、人間関係に対して鋭い嗅覚を持ち、それを活かせるだけの器量を持っているからこそだろう。

 

「やめてくれ、照れるじゃないか。僕のことより新人ちゃんの話をしよう」

 

 ナックルは言葉とは裏腹に頬を赤く染めるでもなく、余裕そうに微笑んだ。

 

「ふむ、しかしそうなるとここではち合わせることも増えそうだな」

「そっすね! パイセンゴチです!」

「誰も奢るとは言ってないぞ」

「エレファントは一度現実で遊びに誘ってみるつもりみたいです。まずは二人で出かけて、シルフさんの反応次第でいずれは私たちもという風に考えてます」

「それはいいね。そのうち僕も現実で新人ちゃんとデートしたいな」

「エレファント抜きで二人きりというのはかなりハードルが高いと思いますよ?」

「じゃあダブルデートにしよう。エレフちゃんとブレイドちゃんも付いてきて」

「えー! あたしは仲間外れっすかー!」

「仕方ない、私がついて行ってやろう」

「いぇーい! トリプルデートだー!」

「お客様、店内で大きな声はお控え願います」

 

 他に客がいないとはいえ、だからと言って騒いでも良い理由にはならない。

 タイミング悪く注文の品を持ってきた妖精店員に恭しく注意され、プレスは少し恥ずかしそうにパフェをつついた。

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