魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

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episode2-5 準備①

 黄金の如き輝きを放つ細長い棒がいくつも重なり合い、まぶされた真っ白な粒子はさながら砕かれたダイヤモンドのようです。食欲を刺激する芳ばしい香りにひかれ一つ手に取ってみれば、灼熱と言う以外に形容のしようがないほどアツアツで、急いで口に放り込むと無意識のうちにハフハフと声が出てしまいます。

 

 それは人間の作りし至高のB級グルメ、フライドポテトです。

 一度食べ始めると手が止まりません!

 

「あんた、それ下品だから止めた方がいいわよ」

「げひん!? で、ですがたこ焼きとかはこうやって食べるイメージが一般的ですよ」

「知ってるわよ。でも下品なもんは下品でしょ。少なくともあたしの前では止めてよね」

「しょうがないですね……」

 

 対面に座って揚げたてのフライドポテトをパクパクと食べてるラビットフットさんの忠告に従って、私は少しだけ冷めるのを待ってから手を付けることにしました。今まで意識したことはなかったですけど、言われてみると確かに食べ物が口に入った状態でハフハフするのは下品かもしれません。

 

「熱くないんですか?」

「熱いは熱いけど我慢できないほどじゃないわよ。あんた猫舌?」

「そうですかね……? むしろラビットフットさんが熱さに強いのでは?」

 

 どこからが猫舌でどこまでが猫舌じゃないのかなんて、感覚的な話ですからね。少なくとも私自身は自分が猫舌だなんて思ったこともないです。

 

 そろそろいいかなともう一度ポテトを口に放り込むと、今度は丁度いい程度の熱さでした。美味です。

 

「美味しいですね」

「ポテトなんてどこで食べたってある程度は美味しいでしょ。普通よ」

「自分で連れて来た店でそんなことを言いますか」

 

 私たちが今居るのは竜亭と呼ばれる大衆食堂です。混乱してた私を落ち着かせるためにラビットフットさんが行きつけだと言うこの食事処に連れてきてくれました。私的には味良し雰囲気良し値段良しで中々気に入りましたけど、ラビットフットさんは辛口です。

 ただ、多分ですけど本心ではないんだと思います。話してて段々わかって来ましたけど、この人素直じゃないんです。いわゆるツンデレですね。デレの部分は見れてませんけど、言葉に嫌みがないというんでしょうか、本気っぽくないんですよね。

 

「というか結構距離がありましたけど、なんでこのお店だったんですか? お気に入りだからですか?」

「あんたがあたしと手を組むなら教えてあげる。組まないなら教えない」

「えー、意地が悪いですよ」

「うっさい! 折角助けてやったあたしの誘いを袖にしたんだからそれぐらい我慢しなさい!」

 

 ラビットフットさんは、ふんっ、と不機嫌そうに鼻を鳴らして無言でポテトを食べ始めてしまいました。意外と断られたことを気にしてるんですね。

 

「っと、ちょっとすいません」

 

 マギホンからメッセージアプリの通知音が聞こえたので、断りを入れてから確認します。送信者はエレファントさんでした。

 内容を見てみると、出来るだけ早く魔法界のタワーマンションのA棟3902号室に来て欲しいというものでした。ご丁寧に、オートロックの1階ロビーを通過するための手順も書いてあります。

 

「すみませんラビットフットさん、急ぎの用事が出来たので私はこれで失礼します」

「ちょっと待ちなさい。今の連絡誰から? 大丈夫なんでしょうね?」

「エレファントさんから連絡がありまして、タワーマンション? というところに来て欲しいそうなんです」

「……、一応聞くけど階層は38階より下なのよね」

「えっ?」

 

 3902号室というのを単純に解釈すると恐らく39階だと思いますけど、それがどうかしたんでしょうか。

 

「ていうかあんた、タワーマンションってどこにあって何なのか知ってるわけ?」

「場所は地図のURLが乗ってたので多分大丈夫です。何なのかって、タワーマンションはタワーマンションじゃないんですか?」

 

 魔法少女の中には普通に学校に行ってるような一般的な人生を歩んできた娘だけではなく、魔法少女になれなければ命を落としてたかもしれない娘や、身を売って生活しなければならなかったような娘もいるそうです。

 そうした現実世界に居場所のない魔法少女が暮らしていくための住居や施設が集まった場所があると、以前にジャックから聞いてました。それがこのタワーマンションのことなんだと思います。

 

「知ってるならいいわ。ただ、タワーマンションの38階以上は特権として魔女に与えられる部屋よ。あんたにもいずれ魔法局の施設管理部から連絡が来る。エレファントとやらの呼び出しが38階以上なら、その話魔女が絡んでるわよ」

「魔女がですか? エクステンドさんでしょうか……」

「さっきの今であいつが何かしたとは思えないし、心配はいらないと思うけど気を引き締めて行きなさい」

「わかりました。ありがとうございます」

 

 ラビットフットさんの言う通り、まさかあの悪魔がもうエレファントさんに魔の手を伸ばしたとは考えにくいですけど、心配です。超特急で向かいましょう。

 

 

 

 

 

 

 1階ロビーの各部屋と通話することの出来る機械で3902号室にエレファントさんが居るのを確認して、一先ず安心して私はその部屋まで向かいました。鍵は開けてあるから入って良いと言うことだったので勝手に入らせてもらったのですけど、直後にブレイドさんの大声が響きました。

 

「先輩はあんなことしません!! あれは先輩じゃなかった!! 偽物だった!!」

 

 普段は理知的で、怒っている時も我を忘れるような怒り方はしないブレイドさんが、まるで子供の癇癪のように感情的な叫び声を上げています。

 な、なんなんですか?

 

「あ、あの、失礼します」

 

 うぅ、険悪な空気間の中に入って行かなければいけないなんて酷いです。何の修羅場なのかわかりませんけど、エレファントさんはどうして私を呼んだのでしょうか。

 

 おずおずと小さく声をかけて部屋に入ると、広くておしゃれな内装の部屋の中にはエレファントさんたち三人と、エクステンドさんとサムライピーチさんの二人が居ました。やっぱりエクステンドさんの部屋だったんですね。

 というか私はまだ何の連絡も受けてないのにエクステンドさんはもう部屋をお持ちなんですね。

 

「おお! よく来てくれたね風の魔女殿! 待っていたよ」

「ごめんねシルフちゃん。急に呼び出しちゃって」

「そんな! 気にしないでください! 私も丁度話しておきたいことがありましたから!」

 

 馴れ馴れしく声をかけてくるエクステンドさんをスルーして、申し訳なさそうな表情のエレファントさんをフォローします。エレファントさんに呼ばれたら睡眠中でもお風呂中でも迷わず駆けつけます。

 

「早速来てもらったところで悪いけれど、まだ状況の整理が終わってなくてね。丁度いい、風の魔女殿への説明も兼ねてもう一度順番に見直していこうか。まずはエレファントくん、お願い出来るかな?」

 

 そうして始まったエレファントさんからの説明は、途中まではラビットフットさんに聞いてた内容と一致してましたけど、ラビットフットさんが離脱してから先の話は驚愕の連続でした。途中、ドライアドさんの説明をされている時にブレイドさんが何か口を挟もうとして、話が進まないからとサムライピーチさんに窘められる一幕もありました。

 話は途中でエレファントさんからエクステンドさんへ引き継がれ、事の顛末が全て語られました。私はその話の要点を抜き出して、自分でもわかるくらいひどく底冷えした声で大筋を確認します。

 

「ドライアドさんを名乗る魔法少女とその仲間と思われる二人の魔法少女。計三人の魔法少女が咲良町を自分たちの縄張りにするために襲い掛かってきた。さらには予備戦力として魔女まで抱えてる。この連中をどうにかしないとエレファントさんたちは今後咲良町で戦えない。そういうことですね」

 

 言葉にするにつれて、私が呑気に悪魔と話してる間に何が起きてたのかの理解が進んで、笑えないほど頭にきました。

 怒鳴り声を上げたり物にあたったり、そんな露骨な感情の発露を抑えられたのは、ギリギリ残った理性が私よりもエレファントさんたちの方がよっぽど辛くて悔しくて頭にきてるはずだって自分に言い聞かせてるからです。

 きっともしもその場に居合わせたのがエクステンドさんじゃなくて私だったなら、こうやって冷静に考えることも出来なかったと思います。

 

 ……でも、例え冷静であっても、やっぱり許せません。

 その咲良町を襲撃したという魔法少女たちは、あろうことか私が居ない隙にエレファントさんを拘束し甚振ろうとしたんです。ふざけないでくださいよ。

 結果的にエレファントさんに何もなかったからそれで良いなんて、そんな風に思えるわけないです。

 今回はたまたま何もなかっただけで、もしかしたらもっと大変な、考えたくもないようなことになっていたかもしれないんです。

 

 許せません。

 絶対に許しません。

 もしも欺瞞世界でそいつらを見つけたらぶちのめしましょう。二度とそんなことをする気が起きないように徹底的に痛めつけましょう。二度と魔法少女になりたいなどと思えないようしてやりましょう。

 

 ……それと、あの悪魔もです。話を聞く限り、襲撃のタイミングは私が派閥に入ろうが入らなかろうが止められなかったはずです。ラビットフットさんの言う通り、あの悪魔は自分の知ってる情報をチラつかせて揺さぶりをかけていただけだったんです。過激派の手綱を握ってなんていなかった。それなのに、私が従えば咲良町が安全であるかのように錯覚させたんです。

 今回の襲撃は確かにあの悪魔の手引きではなかったんでしょう。だから糾弾することも出来ません。でもこの屈辱は絶対に忘れません。

 

「その通りだ。彼女たちの目的はあくまで縄張りの奪取で魔法少女の殺害ではなかった。だからエレファントくんたちも今こうして生きている。だけど、一歩間違えれば全員死んでてもおかしくなかった。とくにプレスくんは危なかった。もしも次にやりあうことがあれば、その一歩が間違うこともありえるだろうね」

 

 話によれば巨大な水球に包まれた意識を失うまで窒息させられたそうですからね。解放されるのが遅れてたら、死にはしなくても後遺症は残ってたかもしれません。さっきも言いましたけど、とても何もなくて良かった、で済ませられる話ではありません。

 

「いやあ、ほんと参りますよね。次はぶちのめしてやりますよ」

 

 無事に目が覚めて今はこうして会話も出来ているプレスさんですが、どうみても顔色が悪いです。同じ魔法少女に殺されかけたというのにすぐにそんな好戦的な言葉が出てくるなんて、とんでもない精神力ですね。最初は空元気かとも思いましたけど、瞳の奥に燃える闘志と言うか殺意というか、そうしたギラギラした輝きは本物でした。

 

「私もかなり、怒ってます」

 

 エレファントさんのような高潔で優しくて友達思いで女神のような人が、友人を傷つけられた何も感じないわけがありません。いつもニコニコ柔らかな笑顔を浮かべてみんなを暖かく照らしてくれる太陽のようなエレファントさんでも、さすがに今回ばかりはお怒りです。

 

「あれは先輩じゃない。先輩を貶めようとしてるのよ。許さない」

 

 なんだかブレイドさんだけ怒りどころが違う気もしますけど、連中を許せないと言う思いは一緒です。

 

「やる気満々のようでなによりだ。この私としても、隣町同士長く交流を続けてきた君たちがこんな形で居なくなってしまうのは悲しいからね。これは咲良町の問題で、私たちはこれ以上直接的に介入するべきではないと考えているけれど、まさかドライアドの言っていたように出ていくつもりなどないだろう?」

「当たり前っすよ! やり返さなきゃ女が廃るってもんです!!」

「私は、生まれ育ったこの町を私の手で守りたいです。だから逃げません」

「先輩を侮辱されておめおめと引き下がれるわけありません。あの三人、とくに先輩を騙る魔法少女だけは絶対に許しません」

「結構。ならば特訓だ。この私に良い考えがある」

 

 エクステンドさんは満足げな笑みを浮かべて、腕組みしながらうんうんと頷いていました。

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