魔法少女タイラントシルフ   作:ペンギンフレーム

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episode3-3 妹③

 夏の残り火が勢いを弱めていくように、僅かに肌寒さを感じ始めた九月の第三日曜日。ウィッチカップの予選から丁度一週間が経過した今日、とうとう本戦のレギュレーションやチーム分けを発表する魔法局プレゼンツの特番が放送される時刻がやってきた。

 一応そういう番組が配信されることについては予選の終了直後からアナウンスされていたため、菓子やジュースを用意してマギホンを前に俺もスタンバっている。

 

 15時00分ちょうど、それまで待機中となっていた配信画面が切り替わって、何やら既存の映像を繋ぎ合わせたらしいPVが始まった。ウィッチカップに出場する魔女たちのこれまでの活躍というか、大技を使っている場面が切り取られて盛り上がる様なBGMを付けられている。本来であればそれぞれ別の映像を継ぎ接ぎしているだけのはずなのでぶつ切り感が出ていてもおかしくないのだが、編集の腕が良いのか違和感のない仕上がりになっていた。最後にウィッチカップのロゴがでかでかと映ってPVは終了し、安っぽいニュース番組のようなセットにアースと、一人の魔法少女が待機してる映像に変化した。

 

『はい、というわけで~、格好いいPVでしたね~。さすがは魔女の皆様方というような迫力でした。この番組をご覧の皆様はすでにご存知かもしれませんが、改めて説明しますね。今回こちらの魔法局局長兼対抗戦運営委員長のアース局長の企画によって開催することが決定したこのウィッチカップは、なんとなんと、魔女の皆様方だけで行われる対抗戦なんです』

 

 赤と黄色の快活な印象を与える衣装に身を包んだ金髪の魔法少女が、営業スマイルを浮かべながらつらつらとウィッチカップについての解説を始める。何だか前に見た覚えがあるなと思ったが、よく見れば画面の下の方にテロップで魔法少女アイドルサニーという名前が書かれていた。俺がまだ魔法少女になる前にネットニュースか何かで見た子だったか? 魔法局の局長と一緒にこういう番組の司会をオファーされるってことは、それなりに知名度のある魔法少女なのかもしれない。

 

 その後もちょいちょいアースに話を振りながら、企画の経緯や予選の話、出場者の紹介などが続いたが、ほとんど知っていることや興味のないことだったため菓子を貪りながら聞き流す。

 そうして番組開始から30分ほど経過したところで、ようやく本戦のルールについて触れ始めた。

 

『それでは皆さんお待ちかね、ウィッチカップ本戦のルールについてご説明して行きます』

 

 サニーさんの言葉に合わせて画面外から何やら大きなボードが運び込まれてきた。ニュース番組とかでよく見るやつ、たしかフリップボードとか言ったっけ? 話に合わせてぺりぺり紙を剥がしていくやつ。まさにあれだった。

 

『ウィッチカップのルールは通常の対抗戦とは異なるという触れ込みがされていましたが、具体的にはどのような点が異なってくるのでしょうか』

 

『大筋は変わらねえさ。じゃなかったらわざわざ対抗戦の名前を冠して開催したりしねえ。ランダムに決定したフィールド、森だとか荒野だとか市街地で陣地を奪い合うってのは当然だな。んじゃあ何が違うかっつーとまず一つ、まあこれはお前さんらもわかってるとは思うがチームの数だ』

 

『はい、そうなんですね。通常のウィッチカップでは3人で1つのチームを組んで、4チーム入り乱れての戦いとなりますが、今回はそのチームの数が3チームになるということなんですね』

 

 サニーさんが一番左端にある短めの紙をめくると、その下からチームの数は3つ! という文字が現れた。

 隠されている部分はまだまだあるので、ルール説明はずっとこの調子でいくようだ。なぜイベント特番を作るのにニュース番組を参考にした……? ノリに付いていけてないんだが。

 

『あわせて奪い合う陣地、クリスタルの数も減らしたぜ』

 

『そうすると各チームの拠点に一つずつ置かれる大クリスタルは全部で3つということになると思いますが、競技フィールドに散らばる小クリスタルの方はどうなるのでしょうか?』

 

『20個だ。小クリスタルが1ポイント、大クリスタルが5ポイント、フィールド全体で見りゃ35ポイントあることになるわな。制限時間30分が経過した時点でこのポイントが一番多いチームの勝利ってことになる。それとは別にナイスバウトをしたやつにはMVPも与えられるぜ』

 

『ポイントの計算やMVPについては通常通りということですね。なお、通常参加者はレッドチーム、ブルーチーム等色ごとのチームに分けられ、各チームの拠点に配置される大クリスタルは最初からチームカラーに染まっていますが、小クリスタルについては一番最初は無色透明です。陣地を奪うにはこのクリスタルに接触して魔力を注入する必要があり、この無色状態では自陣として獲得するのに約10秒の時間を要しますが、もしもすでに他チームの色に染まっている場合はさらにその倍、20秒の時間が必要となります。この辺は変更なしということでお間違いないでしょうか?』

 

『後で説明するつもりだったんだが、まあその通りだ。大クリスタルの塗り替えにかかる時間が60秒なのも、魔力を注入してる時は魔法が使えなくなるのもいつも通りだな』

 

『なるほどですね~。続いての相違点についてですが、対抗戦と言えば広大なフィールドでお馴染みですがチーム数の減少に伴ってその辺りにも何か変更があるのでしょうか』

 

『多少狭くはしたがまあ誤差の範囲だ。普段だって選ばれるフィールドによっては広さの違いはあるしな。それよりも大きな変更点は、拠点へのワープの撤廃だ』

 

『フィールド内のどこからであっても自陣の拠点にワープできる機能ですね。一瞬でワープできるわけではなく多少の溜めが必要なので緊急避難というよりは移動のための機能だったかと思いますが、なぜ今回は廃止されたのでしょうか?』

 

『色々とこまけえ理屈はあるが、元々あんまり良くは思ってなかったんだよ。それから、普段自陣の中では消費魔力減少、敵陣地の中では逆の補正があるが、そこに移動速度の補正を乗せた。自陣では速く、敵陣では遅くなるってわけだ』

 

『ワープの廃止に加えて陣地内補正の追加、これは確かに従来の対抗戦とは違う動きとなりそうですね』

 

『陣取り戦とかいう名前の割に陣地を持ってるメリットが薄いとか言う下らねえ意見を投げてきやがってよぉ。これで満足だろうが』

 

『なにやら私怨が混ざっているような気もしますが、補足しますと、陣地を奪うというのはクリスタルを染める行為を指しますが、補正のかかる陣地というのは厳密にはクリスタル周辺のことではありません。大クリスタルを中心とした直径50メートル範囲内、くわえて、自陣の小クリスタルの外辺を繋ぎ合わせて出来る内側の面が補正を受けられる陣地となります。大クリスタルも外辺としてカウントされますので、補正効果を得るには最低でも2つの小クリスタルを確保する必要があるということですね』

 

『そういうことだ。でもって、有限の陣地を奪い合うからにはどこかで敵チームとぶち当たることになる。この魔法少女同士のガチバトルが対抗戦の醍醐味ってやつだ。当然いつも通り、訓練施設で使ってるようなアバターを使うから死傷者の心配はねえ。もしやられちまっても時間経過で復活して試合に復帰可能だ。復帰にはその時点で保有してる魔力の半分が必要になるから、やられればやられるほどガス欠は早くなるぜ。それから復帰までの時間は基本的な時間が決まってて、そこにクリスタルの確保状況によってプラマイ補正がかかる。簡単に言やぁ、陣地を持ってるほど復活は遅い』

 

『相手チームの魔法少女を倒すことさえ出来れば、陣地を押されていても逆転の目はあるということですね』

 

『あぁ。とくに対抗戦中は魔力を回復する手段がねえ。序盤で押してるチームってやつは終盤でガス欠になることもざらだ。そうなると、終了間直に火力で押し負けて全滅、そのまま試合終了まで復活できなかったみてぇな試合もある』

 

『ただ無計画に陣地を広げれば良いというわけではないということですね』

 

『その辺は各チームの作戦しだいだろうな。ちなみに言っとくと、本来復活する場所は自陣の拠点だが大クリスタルを奪われてる場合はランダムだ。拠点を取られたからって即座にゲームオーバーにはならねえから安心しろよ』

 

『プラスの補正を得られる陣地で復活出来ないのは結構厳しいようにも感じますが、その辺りは如何でしょう』

 

『そりゃ負けてるのは確かなんだからしょうがねえだろ』

 

 その後も参加者が使うインターフェースの話なんかはあったが凡そはそんな内容で、しばらくアースとサニーさんの議論の態をした対抗戦の基本ルール解説や戦術例の説明などが続き、番組終了5分前というところでようやくチーム分けが発表されることとなった。引っ張り過ぎだろ……。

 

『それでは、番組終了のお時間も近づいてまいりましたので、最後の目玉情報を発表したいと思います』

 

『魔法少女対抗陣取り合戦ウィッチカップ、参加者総勢9名のチーム分けは、こいつだ!』

 

 アースのかけ声と共に画面が切り替わり、チームの名前とそこに所属する魔女の名前が記された画像が表示される。

 

―――――――――――――――――――――――――――――

〇レッドチーム

ウィグスクローソ、ドラゴンコール、エクステンドトラベラー

 

〇ブルーチーム

ドッペルゲンガー、エクスマグナ、タイラントシルフ

 

〇イエローチーム

パーマフロスト、レッドボール、ラビットフット

―――――――――――――――――――――――――――――

 

 俺のチームメイトはドッペルゲンガーさんとエクスマグナさんの二人か。戦闘スタイルや魔法については動画で散々予習したから頭には入ってる。それにこの前話した感じ、ドッペルゲンガーさんは話の通じる人だった。エクスマグナさんはちょっと相手をしたくないタイプの人だが、まあドッペルゲンガーさんが一番序列高いし、悪魔の補佐もやってくらいだし、チームのかじ取りは任せて俺は戦いに全力を尽くせば良いか。

 これまでの対抗戦の動画やこの特番を見た限り、機動力のある魔法少女が有利だというのは間違いない。俺と、ラビットフットさんと、ドラゴンコールさんが別のチームにされてるのはそのバランスを取るためだろう。飛行能力を持つ俺とドラゴンコールさんは言わずもがなだし、ラビットフットさんは直線軌道に関してはトップクラスのスピードだという話もあるからな。

 

 しかしどうしたものか。普段なら他の魔法少女とのやり取りは最低限に抑えるところだが、今回に関しては俺にも負けられない理由がある。本番の打ち合わせをするためにも一度ドッペルゲンガーさんたちと直接話した方が良いとは思うが俺は二人の連絡先を知らない。ラビットフットさんやエクステンドさんに聞けば教えて貰えるだろうか。

 

「うわっ、なんですか?」

 

 どのようにして対抗戦のチームメイトに連絡を取るか思案していたところ、マギホンに一通のメッセージが届いたようでポップな通知音が鳴った。考え事に集中して画面を全く見ていなかったので気が付かなかった。宛先は見覚えのないアドレスだったが、中身を見て、そりゃ相手も同じことを考えてるよなと思わず納得する。

 メッセージはドッペルゲンガーさんからのものだった。


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