そして前書きで何か話さなきゃと考えるも頭が回らず夜中になっちゃったので投稿です。
下水道への入り口は簡単に見つかった。
というのも、フューレンの下水道は都市として成立する以前に整備されたもので人が入り込める穴は町の至る所にあったのだ。
舞台の余韻に浸るのも忘れて視界の悪い地下を進むハジメ。
ノイントはこの場にいない、彼が彼女の同行を断ったからだ。
まだ完全に傷が癒えていない彼女が雑菌だらけの下水道に行くなど自殺行為である。
正確な位置だけ教えて貰い、彼女には一足先に老人の医師の所に戻るよう伝えた。
汚水が流れる下水の脇道を歩くハジメは顔を顰めて先へ進む。
暫くして水路の幅が広がり、下水が川へと流れていく穴が見えてきた。
ハジメは目を凝らして脇道の先や分かれ道の様子を窺うが、人の姿は見えない。
念のためにと声を掛けたが返事はない。……まさか、ノイントが別の何かと間違えたのか?
そんな事を考えていたハジメは、ふと気になって流れの急な下水の水面を見て――――――
「ッ!!?」
濁った汚水の流れに逆らって脇道の縁に掴まる小さな子どもの手を視界に捉えた。
慌てて駆け寄り、縁から離れる寸前だった子どもの手を掴んで引き上げる。
下水から引っ張り上げられたのは、エメラルドグリーンの髪に
ハジメが掴んだ手首の先を見ると、指と指の間にも半透明の膜がついている。
いつかに読んだ王国の本から記憶を手繰り寄せて、特徴が一致する種族の名前がパっと出てきた。
「海人族の子ども……!?」
海人族はアンカジ公国の砂漠を越えた先にあるという海上都市エリセンに暮らす種族だ。
亜人族の一種らしいが、陸での生活から水中での生活に適応した彼らは害のない種族と見做されて聖教教会の保護下に置かれているらしい。
(何でこんな所に…………)
海人は陸での生活も可能だが、あまり好んで自ら出る事はないという。
商業都市フューレンから海上都市エリセンまでは相当な距離がある。
王国領を横切ってアンカジ公国の大砂漠を越えなければならない。
4,5歳の子どもがたった一人でそんな無茶をするとは考えにくいが……
(考えてる暇はねえ……ッ)
下水から引き上げられた子どもは息をしているが、明らかに衰弱しきっている。
如何に水中で暮らせる海人といえど、汚水の中では満足に呼吸も出来ないだろう。
子どもを両手に抱え、ハジメは急いで来た道を引き返す。
小さな口でか細い呼吸を繰り返す子供に、優しく声を掛けながら。
「頑張れ……絶対に助けるからな……!」
この時ハジメは脇目も振らずに駆けていた為、気づかなかった。
子どもが捕まっていた下水の流れる場所から……
*
老人の医師のところにハジメが子どもを抱えて戻った時には外は夕方になっていた。
買い物に出かけていた2人が戻ってきたかと思えば、衰弱しきった海人の子どもを連れて来た事に彼は驚きながらも「すぐに湯を沸かす、手伝ってくれ!」と対応してくれた。
まず海人の子どもが着ていた服を脱がす。
その服はただ下水の中を流れていただけでは説明がつかないくらい汚れ傷んでいた。
もう使い物にならないと判断してそれを捨て、沸かした湯を桶に溜めて子どもを浸ける。
その時だった、意識がなかった子どもが朧げに瞼を開いたのは。
「………ぁ……」
「気が付いたか……何処か痛いところは?」
「―――――――――っ」
しかしハジメの問いかけに対して海人の子どもは怯えた表情で首を振る。
やがて手足に力が戻ったのか、桶の中から暴れて逃げ出そうとした。
薬草の調合をしていた老人の医師も手を止めて彼女を抑えようとする。
「うおっ!?ちょ、おい……落ち着けって」
「やっ……!こないでっ……!」
バシャン!と桶がひっくり返って中のお湯が床に広がった。
まだ汚水の汚れが落ちきっていない海人の子どもはヨロヨロと脱走を図るが―――
「ぴゃっ――――――!?」
「ノ、ノイント!?」
手伝いはしなくていいと老人の医師に言われて様子を見守っていたノイントが動いた。
海人の子どもを両手で抱き上げてその場から一歩も動かずにいた。
彼女は悲鳴を上げて小さな手でノイントを叩くが、彼女は無表情で微動だにしない。
流石に強引過ぎるのではとハジメが止めようとするが老人の医師が先に子どもへ話しかける。
「大丈夫だよ、私達は下水道に落ちていた君を助けただけだ。危害を加えるつもりはないから、ゆっくりと息を吐いて、落ち着きなさい」
「―――――――――ぁ」
手が汚れるのも気にせず、老人の医師が優しく子どもの頭を撫でる。
その言葉で動揺が収まったのか、子どもは恐る恐るノイントを見上げた。
叩かれた際に爪で引っかかれ、頬に痕が残っているがノイントは怒る素振りを見せない。
前に同じような事を怖い人たちにした時は、怒鳴られ脅された事を思い出した。
「あ、うああぁぁぁぁぁ~!!」
「よしよし、もう大丈夫だ、大丈夫……大丈夫だから……」
此処が少し前まで自分のいた怖い人間達の場所じゃないと安心して彼女は泣き出す。
ノイントに抱えられ、老人の医師に優しく慰められながら泣き続ける子どもの様子を見て、ハジメは彼女が置かれていた状況を察した。
そして自分が咄嗟に子どもを慰める事が出来なかったのに対して悔いる事しか出来なかった。
「――――――ぐすっ、ふぇぇ、うぅ……ぐすっ……」
「下水の中は苦しかっただろう、お湯がまだ少し残っているから体を綺麗にしなさい」
老人の医師の言葉にハッと我に返ったハジメは桶を手に駆け出す。
別室で桶に入りらなかったお湯が辛うじて残っていたのだ。
それを元に戻した桶の中へ注いで、湯加減を確かめながら老人に頷いた。
ノイントはもう子どもが暴れる事はないと判断したのか、そっと彼女を床に下ろす。
海人の子どもはお湯に浸かって、老人の医師が髪や体を綺麗に洗う。
慣れた手つきで優しい言葉を掛ける彼にすっかり子供は心を開いていた。
ハジメはやることがなくなってしまい、情けない笑みを浮かべてノイントに話しかける。
「悪いなノイント……俺は子どもにどう接してあげればいいか分からなくてさ」
「感謝も謝罪も不要です。私はただ、あの状況で子どもが外に飛び出すのは危険と判断して拘束したに過ぎません。……何故あの子どもが怯えているのかまでは、理解出来ません」
「……そう、だな……多分――――――」
と口を開きかけたハジメに対して老人の医師が小さく首を振った。
本人を目の前にしてそんな話をするのは酷というものだろう。ハジメは声を小さくして「すいません」と謝り、ノイントを連れて子どもに話を聞かれない廊下に出てから話をする事にした。
「あの子どもは多分、誘拐されて逃げてきたんだと思う」
「誘拐?」
老人の医師が子どもを落ち着かせる際に放った「危害は加えない」という言葉。
そして子どもが着ていたボロボロの服と、普段人が立ち寄らない下水道にいた事実。
そこからハジメが連想したのは数年前に帝国が廃止した奴隷制度。
あの海人の子どもは誘拐されて奴隷としてフューレンで売られそうになったところを逃げ出し、それをノイントが見つけてハジメが保護したという一連の流れ。
あくまで想像の域を出ないが、彼女の反応からその可能性は高いという。
老人の医師もそれを察して彼女の前でその話をしないようハジメの話を止めたのだ。
もし本当なら、子どもは思い出してまた怖がってしまうから………
「あの子から落ち着いて話を聞くまでなんとも言えないけどな……」
「ではこの話は――――――」
「あぁ、胸の内にしまっておいてくれ」
そうこうして話していると部屋の中から老人の医師が2人を呼ぶ声がする。
部屋に入ると子どもは体を綺麗に洗い終えて、今は着る物もないからとりあえずの所は体を冷やさないようにと老人の医師が持ってきた毛布に包まってベッドにちょこんと腰掛けていた。
老人の医師は床に零れたお湯を雑巾で拭いている最中だった。
「落ち着いたみたいだから、君達が話を聞いてあげなさい」
「先生……けど俺は――――――」
さっきは何も出来ず、ただ子どもに怖がられただけ。
その事がちょっと心に残っていたハジメは上手く話を聞いてあげられる自信がなかった。
すると老人の医師はフッと優しく微笑んで言う。
「あの子は、気が動転していただけだよ……君に対してもう怯える事は無い。……さぁ」
「っ……はい」
椅子を持ってきて海人の子どもと対面する形でハジメ、ノイントは座る。
子どもはさっきの自分がした事を気にしていたのか、キョロキョロと視線が泳いでいた。
床を拭きながら、老人の医師が表情で子どもに何かを諭すと、彼女は意を決して口を開く。
「さ、さっきは……暴れたり、引っ掻いたりして……ごめんなさい……なの」
「――――――いや……大丈夫だよ。目が覚めたらいきなり変なお兄ちゃんに抱えられてるんだもんな、ビックリしちゃうよな。…………俺の方こそごめんな」
子どもに怖がられたという精神的ダメージを隠すために敢えて自分を変なお兄ちゃんと呼んで自虐を交えつつ平常心を保って、ハジメは優しく微笑み子どもに謝る。
ノイントは無表情で「気にしていません」と言うが、引っ掻かれた頬の腫れはまだ引いていない。
しょんぼりしている子どもに、先ずはとハジメは握手を求めながら笑顔で名乗った。
「俺はハジメ、南雲ハジメって言うんだ。君の名前は?」
「私はノイントと申します」
「…………”ミュウ”」
海人の子ども……ミュウは自分の名前を言って、恐る恐るハジメの差し出した手を握った。
少し硬い皮膚の感触と、温かい彼の手を握ると少し安心したのかミュウの表情が柔らかくなる。
それから彼女はノイントにも握手をしようと振り向いたのだが、相変わらず無表情で名乗った以外は何のアクションも見せない彼女を見て、再び不安そうにする。
ハジメはノイントの方へ体を寄せてミュウに聞こえない程度の声で助言した。
「……こういう時は、仲直りの握手って言ってさっきの俺がやったように……」
「成程。――――――ではミュウ、仲直りの握手を」
「ッ!!……うんっ」
ノイントが差しだした手を見てパァッと明るい表情に戻ったミュウ。
無表情で固い握手をするノイントだが、その手から伝わる温もりは確かにあった。
そうしてお互いに自己紹介も終わって落ち着いたところでハジメが話を切り出す。
「ミュウ……聞いてもいいか?どうして、下水道にいたのか……」
「……それ、は………えっと……」
少し迷って、離れたところで見守る老人の医師に目線で助けを求めるミュウ。
彼はまた微笑んで「大丈夫だよ」とミュウに話をするよう促した。
ゆっくりと目を閉じて、下を向きながらミュウは話し始める。
「ミュウ……エリセンってところでママと一緒に暮らしてたの。……それで、ずっと前にママと一緒にお出かけしてたら、変なおじさん達に襲われて……ママ、怪我して……ミュウ、此処に連れて来られて……泣いたらおじさん達に怒鳴られて、叩かれて……同じ年の子が一杯いて……でもっ、みんなと別の場所に移されて……それで、それで……っ!」
「――――――ッ!!もういい……!」
だんだんと早口になって、震えながら涙を零すミュウをハジメは思わず抱きしめた。
またミュウは声を上げて泣き出した。今度はハジメの肩を掴んで、その胸に顔を埋めながら。
老人の医師がやっていたように優しく彼女の頭を撫でて慰める。
「怖かったな……もう、大丈夫だからな……!」
孤独になることの恐怖をハジメは嫌というほど知っている。
彼は17歳になってもそれが恐ろしく辛い事だというのを理解している。
5歳のミュウがそんな状況に置かれていたと想像するだけで彼まで泣きたくなった。
そしてハジメは実際に泣いていた。
ミュウや傍らで見守っていたノイントに見られないように必死だった。
小さな命を助けられて良かった……そんな安心感が彼の胸中に渦巻いていた。
*
それからまた泣き止んだミュウから話を聞き終えて、ハジメと老人の医師は今後を話した。
本来であれば種族間の問題にも発展しかねないミュウの保護を然るべき機関に託すべきだ。
しかし老人の医師がそれに待ったをかけたのである。
念のためにミュウが不安にならないようにノイントが傍についていた。
終始無表情で微動だにしない彼女に任せて大丈夫なのか一抹の不安は残るが……
「あの子を誘拐したのは違法とされている人身売買を行える規模の組織だ。今頃は逃げ出した彼女を捕まえようと血眼になって市内に目を張り巡らせている。当然、行方不明の子どもが保護される施設等にも監視の目がついているだろう……慎重に動かなければいけないよ」
「……一先ずはフューレンから離れるのが先決ですよね」
「うむ……だがそれも、此処を出た矢先に彼らが手を出せないような人の中に、あの子を隠す必要がある。――――――すまないが、私にはそういった人の伝手はない」
老人の医師がそう言って、ハジメはフューレンで頼れる相手を思い浮かべる。
一番最初に思い浮かんだのは皇女トレイシーだが、逆にリスクもある事を考えた。
絶対に犯罪者達では手を出せない力を持っているが、立場というものがある。
規則を逸脱した行いが彼女の立場を危うくする等あってはならない。
二番目に冒険者へ依頼する選択肢が浮かぶが、それもハジメはダメだと思った。
立場は問題なく、対人戦においても犯罪者如きに後れを取ることはない冒険者だが、道中の危険にモンスターの襲撃が含まれてるとなれば話は別である。
三番目はハンターへの依頼。
しかしこれは冒険者と逆で、モンスター対策が出来ても対人戦がハンターにとって致命傷だ。
そういった理由でハジメ自身の旅の目的地として、ウル以降にエリセンを目指す事も考えたが、自身の弱さとハンターである事のリスクを考えてミュウを守り切れるとは思えない。
(それに俺の勝手な都合で、リンネさんや園部、ノイントに迷惑は掛けられない……)
最適解があるとすれば二番と三番の折衷案。
ミュウの護衛という形でハンター、冒険者の両方から護衛を出すのだ。
だがそれも、両者が犬猿の仲である事から道中の安全が確約出来ない。
手詰まりと思ってしまった自分の考えの至らなさに思わずハジメは悪態をつく。
「くそっ……!」
「落ち着きなさい。焦って考えても、良い考えは浮かばないよ」
2人が再び思案に暮れようとしたその時……家の扉が叩かれる。
原作よりもちょっと幼女の元気がないかな?
あと最初の方で暴れたのは「誘拐された子ならこんな感じのリアクションするくね?」という作者の独自解釈です。
子どもの喋り方ってちゃんと書くの難しいねんな……子どもに戻りてえ。
さて、最後にドアをノックしたのはどちら様?
フリートホーフの皆さん?まさかの魔王様?幼女を抱えて青年が全力疾走していたという事案を受けての兵士さん?乙女センサーに新たなヒロイン出現の気配を感じ取ったヒロインレース出走枠の誰か?奈落の底から這い出してきたメインヒロイン?それとも……
モンスターに襲われて力尽きる寸前の誰かが助けを求めたのかな?
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初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡