書き終わってから思うのは大勢人が集まると描写が難しくなるんやなって作者の感想。
ハジメが海人の子ども、ミュウを助けに下水道へ向かう少し前のこと。
買い物をしていたリンネ、優花は商業区でユンケル商会の店番を任されていたエタノと出会った。店の回転率が良くなったことで午後の仕事は暇になるだろうと予想したユンケルの気遣いでエタノは店番を部下に任せて彼女らと共に商業区を見て回ることにした。
「お2人は何時までフューレンに?」
「私達は二日後の朝までだねえ。そういうエタノちゃんは?」
「私は暫くこの町を拠点にするつもりですので、一旦は此処でお別れになりますねぇ」
「そっか。……また用があってフューレンに来る事があったら会いに行くよ。ふふっ♪その時は彼との仲がどれだけ進展したか聞かせて頂戴」
「はい♡その時は優花さんの進捗も教えて頂ければ―――」
「ちょっ――――――!?」
まさか自分に振られるとは思っていなかった、しかも内容が内心気にしている
―――狐人なのに―――猫目になってリンネと共に優花を揶揄う気満々のエタノ。
「わ、私は別に……南雲の事をそういう風には……!」
「おやぁ~?優花さん、私は一言も
「無粋だよエタノちゃん~。恋する乙女は名前を呼ばなくても彼という単語に想い人のことを連想しちゃうくらいに周りが見えなくなっちゃうんだから~」
「~~~っ!!」
このまま2人に揶揄われるのは嫌だと優花は咄嗟に言い訳を頭の中で考える。
しかし考えれば考える程に、遡る彼女の記憶の景色には必ずハジメの姿があった。
再会した時の突き放すような冷たい表情、看病する時の真剣な表情、村を出るときに初めて見た明るい顔、ブルックの町で笑った時の顔、買い物に付き合って貰った時の横顔、全部覚えていた。
自分がここまで彼を意識しているのは何かの間違いだと思いつつも、それを間違いだと口にしたら胸の奥が痛むような気がして言いたくなくて……優花は混乱する。
そんな彼女の様子を生温かい目で見守るリンネ。
傍らでニヤニヤするエタノの耳元で意地の悪い笑顔のまま言った。
「でも童貞の男の子に受けるのって、自分の気持ちに正直過ぎない
「なっ――――――――!?」
突然、味方かと思っていた相手に痛いところを突かれてエタノは尻尾を振り乱す。
まだ思考の海から抜け出せていない優花同様に、エタノを底無しの沼に放り込むリンネ。
最初にハジメのことを知ったのは長老のルアから聞いた話だった。
格上の相手にも気丈に振る舞って兎人族の女一人の為に体を張った勇ましい青年。
会ってみると女慣れしていない初心な男の子だった。わざと見せているとはいえ、自身の太腿や胸にチラチラと視線を送っていたのが丸分かりになるくらい、可愛げのある
親しくなったら自分の番いになるのは確実かと思われていた彼の周りには、業腹だが自分とは違う魅力のある女が居た。嫉妬心を隠せなかったのを今でも悔いている。
こうして年下の女の子2人を同じような状況に陥れたリンネは満足げに笑っていた。
片腕で荷物が満載の荷車を牽きながら、彼女は前方にある建物の前で見慣れた人物を見つける。
そこは商業都市フューレンでも特に活気がある冒険者ギルドだった。
「戦姫ちゃーん、やっほー!」
「ん……リンネか、その様子だと買い物帰りだな?」
冒険者ギルドの前にいたのは兵士やイルシオンを連れず、一人でいた皇女トレイシーだった。
リンネが声を掛けると彼女は振り向いて近づいて来る。
去り際、建物の中にいる誰かに「では明朝にな」と別れの言葉だけ告げて。
「珍しいね、戦姫ちゃんは冒険者ギルドになんか用事あったの?」
「あぁ……
「……へえ、鼠が?……成程ねえ」
トレイシーが爽やかな笑顔でそう口にした時は深く追求してはいけない。
今の面倒な立場になった彼女の過去を少しだけ知っているリンネはそこで会話を切り上げた。
「――――――ところで後ろの2人は何かあったのか?」
「フフフ♪聞きたい?今日の夕飯に同席してくれたら聞かせてあげる」
「夕餉か……フム、先約が2人いるのだが、招待しても構わないか?私の奢りでだ」
「おおぉ!いいね、喜んでご相伴に預かるとしましょう!!」
仮にも一国の皇女を相手に夕食へ誘い、逆に奢られる人間などそう多くはないだろう。
まだ悩める恋の乙女モードだった優花とエタノにチョップして目を覚まさせた彼女は荷車と荷物を宿屋に預けた後で「あっ」と声を上げる。
「この際だからハジメ君も誘っちゃうか!!」
夕食は宿でも頼めば別料金で食事は出してくれるそうだが、そこは各自と事前に決めている。
トレイシーは彼を誘う事に賛成して「面白い事になるだろう」と呟いていた。
彼は恐らくあの女の子―――エタノ、トレイシーはこの事を後から聞かされるのだが―――が担ぎ込まれたという医者の家にいるだろうとリンネは急ぎ足で向かう。
そんなこんなで移動の最中に日は沈み、夜のフューレンに松明の灯りが点き始めた。
移動の最中に優花はトレイシーと常に一緒だったイルシオンがいない理由を尋ねる。
彼女は苦笑して「フューレンは王国領の都市だからな、迎賓館で留守番中だ」と答えた。
その言葉で優花はブルックとフューレンの違和感というかズレに気が付く。
フューレンの市内を歩いているのは馬だけで、アプトノス等の草食竜の姿がなかった。
理由は単純。教義上
王都、宿場町、商業都市、湖の町といった規模がそこそこ大きい所では例外的に通行を許可しているが、町中に入れた場合は指定された区域以外出す事を禁じられているのだ。
「これでも、数年前より大分マシになった」とは皇女の弁。
以前は連れて来た帝国の人間が住民から白い目で見られることも珍しくなかったのだという。
此処でエタノが2人の会話に混じってきた。
「そういえば、私も市内を歩いた最初の日は随分と注目されましたねえ」
「奴隷の首輪をつけずに出歩く亜人というのが此処じゃ珍しいんだろうな。息が詰まるか?」
「ん~どうでしょう、目立つのがこれから名前を売る商人としてはメリットにはなりますし。逆に亜人が人間様の真似事なんて生意気だなんて因縁つけられるデメリットはある訳ですし………」
「もしこの先、フューレンで商いをしている最中に教会の人間や此処の貴族共が干渉してきたら私の名前を遠慮せずに使うといい。余程の大物でもない限りはそれで黙るさ」
「ありがとう御座います♪頭の片隅に留めておきますわね」
(………なんかまた凄い会話聞いちゃった気がする………)
優花がそんな事を思っていると、目的の家が見えてきた。
辺りはすっかり暗くなって、道行く人の姿も少なくなっている。
リンネは扉の前に立って軽く咳払いをし、ドア4回ノックした。
すると扉は開かず、部屋の中からドスを利かせたハジメの声が飛んできた。
「誰だ――――――?」
「おぉっと、そんな怖い声してどうしたのかなハジメ君?心配しなくても怪しい者じゃありません、君の師匠の師匠であるリンネお姉さんと愉快な仲間達だよ~」
「―――愉快な」
「……仲間達……?」
「―――私も含めてか!」
優花がちょっと何を言っているのか分からないという顔で頬を引き攣らせて苦笑。
エタノは扉の向こうにいる雰囲気の違うハジメの様子に興味を示しながら、唯一トレイシーだけが楽しそうにケタケタと笑っていた。
*
「リンネさん?……とその声は園部にエタノ、トレイシーさん」
老人の医師と話し合っていた最中に外から叩かれた家の扉。
相手が見知った者達であると知りホッと息をついたハジメは扉を開いた。
リンネが柔和な笑みを浮かべて「さっきは怖ぁーい声出してたけど、どうしたのかな~?」と扉の前に立っていた。後ろに3人の姿もある。
老人の医師は皇女がいる事に少し驚いた様子だが取り乱したりはしない。
「色々ありまして……何処から話せばいいのやら―――」
「長い話になりそう?それだったら丁度いいかな、ハジメ君はもう夕食済ませちゃった?」
「夕食?……いえ、バタバタしてたので……まだ何も……」
「これから後ろの戦姫ちゃんの奢りで皆でご飯食べようって話になってたのよね。んでどうせならハジメ君も一緒にどうかなーって思ったんだけど……おっ?」
リンネが素っ頓狂な声を上げてハジメの後ろへと視線を向けた。
釣られてハジメも振り返ると、半開きの扉からじぃっと二人分の目が覗いている。
……一人は片目が潰れて今は眼帯をつけているのでは隻眼なのだが。
相変わらず無表情なノイントに抱えられて泣く寸前のミュウだった。
「ハジメ、ミュウが空腹を訴えています。私も含め迅速な栄養補給を推奨します」
「……うぅ~……お兄ちゃん……お腹空いた……」
その言葉を聞いてハジメはそこまで頭が回らなかったと後悔する。
今まで犯罪者達に碌な食事も与えて貰えず、下水道へ逃げ込んで体力を消耗していたのだ。
ノイントも見舞い品の果物は食べたが、それくらいでは大した腹の足しにはならないだろう。
先の事を考えるよりも目の前の事を優先すべきだったとハジメが頭を抱えていると――――――
「――――――海人族の子どもか……その娘……」
そう言ってリンネの横を通り抜けて家の中へ踏み込んでいったトレイシーがミュウを見つめる。
本人は至って真剣な表情なのだが、子どもにとっては怖い顔に見えたのだろう。
トレイシーに見つめられたミュウは少し怯えた表情でノイントの服をギュっと掴んだ。
先ほどまでの緩んでいた空気が張り詰めていくのを感じて優花、エタノがハジメに尋ねる。
「何があったの……?」
「……ハジメ様?」
「それは―――――――――「待った、長話になるんだったら一旦ストップ」リンネさん……」
各々が話を聞き出そうとする中でリンネが間に割って入る。
家の出入り口の前で堂々と立ち話をするのは近隣住民の迷惑になるだろう。
ミュウが空腹を訴えているという事もある。
空気を読んで真剣な表情のリンネがトレイシーへ再度口を開く。
「戦姫ちゃん、夕食の席7人追加で……私が半分出すよ」
「不要だ。ただし酒は無しだ……」
「当然」
「……その7人に……私も含まれていると考えていいのかね?」
そう口を挿んだのは老人の医師だった。
トレイシーは「当然だ、話を聞く相手は多ければ多いほどいい」と答える。
彼は急な招待にも関わらず、当事者の一人という自覚は持っているのか二つ返事で承諾した。
ハジメはミュウを安心させるために優しく頭を撫でて言った。
「これからご飯を食べられる店に行くからな、それまで我慢出来るか?」
「―――うんっ」
「よしよし偉いぞ」
幸いにも子どもの患者用の衣服が老人の医師の家に残っていた。
ミュウはそれを着て、再びノイントに抱っこされる。
こうしてトレイシー達と合流したハジメ、ノイント、ミュウ、老人の医師は夜の町中に出た。
ミュウは海人である事を知られないようにすっぽりとフードを被って……
*
「トレイシー皇女殿下、お待ちしておりました。晩餐の用意が出来ております」
商業区の中心、様々な飲食店が建ち並ぶ中の貴族御用達という高級レストラン。
ちょび髭を生やしたオーナーが恭しく一礼するのに対してトレイシーは懐からルタ金貨の入った皮袋を取り出して「7人追加だ、席とメニューの準備を頼む」とだけ言った。
「畏まりました。……お席の方は何方に?」
「私達と相席だ。それと料理と飲み物を出す以外では従業員は下がらせろ」
「御意」
高級レストランというだけあって、ドレスコード的なものが要求されるんじゃないかと身構えていた優花だがオーナーの「いらっしゃいませ、どうぞ此方に」の一言であっさり通された。
ただ亜人であるエタノに対してはオーナーは少しだけ視線が集中していたが、トレイシーの「何か問題があるか?」という言葉でハッと我に返り「何も問題は御座いません」と言った。
(トレイシーさんの先約……一体誰なんだ……?)
彼女がフューレンに来た目的を一切知らされていないハジメは想像もつかなかった。
しかし案内された先、既に席についていたその2人の内1人の顔を見た途端に心臓が凍り付く。
「―――――――――ッ!!?」
肩まで伸ばした金髪を後ろの方で結って頭の上には銀のティアラが見える。
何処か落ち着かない様子でもじもじする彼女の碧眼には見覚えがあった。
その顔を見たのはずっと前、トータスに召喚された直後のハイリヒ王国の王城の謁見の間。
あの時と同じドレス姿……見間違えるはずもない。
「すまないな王女様、私の客人を同席させて貰うぞ」
「客人?――――――――――――ッ!?あ、貴女は――――――」
どうやら彼女から
それも仕方ない事だろう、あの時のハジメと今のハジメでは背格好が違い過ぎるのだから。
弾かれたように椅子から立ち上がった彼女が見ているのは彼の後ろにいた優花。
優花は驚きで半口を開けながら、震える声でその名を呼んだ。
「り、
(嘘だろ……どういうつもりだよ、トレイシーさん……ッ!?)
普段はシリアスブレイカーとして活躍して貰う筈のリンネさんがギャグだったりシリアスだったりに空気を切り替える役回り全部任せきってる……申し訳ねえ。
ラスト俺を王国に売ったのか皇女ーーー!!?とハジメ心の叫び(※嘘です)
園部パーティーは勇者パーティーや永山パーティーほど王女様と親しくする機会がありませんでした(ベヒーモス戦後、即意気消沈からの畑山先生の護衛隊として逃げたからね)
幼女絶対守護る包囲網を作り上げるロリコンの鑑
(なお、生贄としてフューレンか主人公を差し出そうとしている模様)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております!
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡