ゲームだとお行儀よく狩猟後に戦う事になりますが、今回は向こうから来てくれました。
「オオオォォォッ!」
闘技場の外にまで響きそうな雄叫びを上げて、ハジメはオサイズチと戦っていた。
老山龍砲に装填された通常弾Lv3を2発、狙いは真正面から向き合うオサイズチの首下と頭。
彼の狙いに気づいたオサイズチは右へ飛んでそれを躱し、飛び掛かって距離を詰める。
「ちぃっ!」
対するハジメは壁際に向かって体を転がしながら回避、足の爪が僅かに防具の先を掠めた。
壁との距離は僅か1メートルにも満たない、ハジメは後ろへ避ける手段が無くなった。
オサイズチはそれを知って低い唸り声を上げながら刃尾を振り回して迫ろうとする。
残された左右に回避するという手が悪手である事をハジメは理解した。
オサイズチの刃尾の長さであれば、確実に彼の体を捉えて切り裂くことが出来る。
逃げ場を失えば残るは攻撃のみと考えたハジメ。
―――シャアァァッ!
(仕掛けてくるか……!)
鳴き声を発するのと同時に、地面に沈み込む爪の動きをハジメは見逃さない。
砂煙を上げながら空中へと躍り出たオサイズチは体を右回転させながら刃尾で襲い掛かる。
僅かな抵抗として通常弾Lv3を当てようとハジメは引き金に力を込めるが―――
極度の緊張感で彼の目に映る全ての動きがスローモーションになった。
オサイズチの橙色の毛皮、陽光に煌く刃尾、砂煙の沈んでいく様子、そして何よりも……
(尾の付け根、足と刃尾の間の隙間……!)
横回転するオサイズチの刃尾は攻撃範囲を広く取ろうと真っ直ぐ伸びている。
刃尾は獲物との距離が最適な位置で僅かに曲がり、刃尾の切っ先で獲物を貫こうと動く。
時間にしてコンマ数秒、尻尾の付け根と足の間に人が通り抜けられそうな隙間がある。
駆け出しのハンターはこれを潜り抜けて、攻撃を躱してきたという。
しかしハジメはそれを知識として知っている訳ではなかった。
緊張で筋肉も思考も強張った状態の中、観察力を欠かす事はないようにという先輩からの教えを忘れずに覚えていた結果、一瞬の内にそれを見つけられたのである。
(イチかバチか……ッ)
引き金を引く指を離し、銃身を胸の前で横に構える様な形で膝を曲げたハジメ。
風を切る刃尾の撓る音を聞きながら足の先で地面を蹴るイメージで跳んだ。
「っ……!」
飛び込み前転のような姿勢の中、ハジメが感じたのは背中の上を通り過ぎる尻尾の風圧。
耳が拾ったのは地面をドスドスと踏み鳴らすオサイズチの足音。
視界が縦方向に約360度、急激に変わって若干の気持ち悪さはあった。
しかし攻撃を受けた痛みはなく、背後で刃尾が虚しく地面に刺さる音がする。
(……っしゃぁ!)
内心声を上げて喜ぶが、ハジメは素早く振り返って老山龍砲を構える。
地面から刃尾を引き抜いたオサイズチが後ろのへと向き直るより先に引き金を引いた。
ドォン!と立て続けに3発、彼の位置的にも比較的狙い易いオサイズチ頭に通常弾Lv3が刺さる。
―――ギャアァァ!
運良く弾の1発が片目を潰し、残り2発は頭の逆立った白い毛を根本から抉った。
鮮血がオサイズチの足元にぼたりと垂れ落ちて、砂の地面に赤い染みが作られる。
ハジメはふぅーと長く息を吐きながらオサイズチの動きをじっと見続けた。
小型の俊敏な鳥竜種を相手にする時の極意としてハジメが意識し始めたこと。
戦いは先手必勝、然れども是は狩人と獣の狩りである。
本能で戦う獣に対し、様々な手段を駆使して知恵を絞る人間の勝ちは先手必勝だけに非ず。
敢えて先に相手から仕掛けさせる事で、攻撃を躱しての必中の攻撃を当てる。
出血量は見た目ほど多くは無いが、当たり所が悪かったのだろう。
オサイズチの吐息は荒く、逆立っていた毛の張りが失われ、刃尾が垂れ下がっていた。
普通の個体なら生き永らえることを優先して、本能に従い逃走を図る。
しかしこのオサイズチは支配種、操り手の幸利が命令を変えない限り戦うしかない。
*
(オイオイオイ……!体つきも髪の色も、とんでもない劇的ビフォーアフターしたとは内心驚いていたけど……まさか魔物に勝っちまうほど強くなってるってのか、南雲の奴はッ)
闘技場の上から戦いを一部始終、食い入るように見ていた幸利は興奮している。
自分が指示を出した
しかしそれよりも、そんな人が到底敵うはずのない魔物を相手に戦い、勝っているハジメ。
オルクス大迷宮で
また自分がこれからもっと強い魔物を従え、いつか目の前の彼を越えたいという熱意が沸いた。
それは後に幸利から失われていた努力という行為への抵抗感を拭うのに役立ったのである。
(……けど……これはそろそろ俺は逃げなきゃヤバいか……?)
しかし彼以外、兵士や冒険者などに捕まえに来られたら流石に幸利も厳しい。
今は傍にいないアダムに助けを求めざるを得ないだろう。
そんな時だった、彼は不意に耳慣れない音が聞こえてくる事に気が付いた。
キイィィン…と高い山に登った時や季節の変わり目、気圧の変化などに感じる際の耳鳴り。
それに近いイメージで思わず甲高いその音に顔を顰めて、耳に手を当てながら音のする方…空の方へ視線を移す。
「――――――――――――――――――――は?」
視線の先に映る光景が理解出来ず、幸利は間抜けた声をぽつりと漏らすしかなかった。
青い空と
隕石のようなそれに気づいて彼が回避行動を取るより先に、轟音が鳴り響いた。
*
闘技場でオサイズチと睨み合っていたハジメは、不意にオサイズチの視線が自分から離れた事に気が付くと同時に、耳慣れない甲高い音が背後から迫ってきていると感じて振り返った。
次の瞬間、赤い光が塊となって闘技場の地面へ激突、衝撃波が吹き荒れる。
「――――――か、はっ!?」
ハジメの体は吹き飛ばされて、オサイズチと睨み合っていた方とは真反対の壁に叩きつけられる。肺から空気を全て吐き出したかのように苦痛が彼の体を襲い、驚愕と痛みから目を見開いた。思考は定まらず、赤い光の塊が落下した衝撃で舞い上がった砂煙で数メートル先が何も見えない。
(――――――なんだ……俺は、何をされて、一瞬、何か…)
吹き飛ばされながらも老山龍砲を手放さなかったのはハンターとして本能がなせる技のお陰だった。空いた片方の手で砂煙を吸ったと同時に喉からこみ上げる僅かな血交じりの唾液を咳き込むと同時に吐き出す。
次の瞬間、前を向いたハジメは背筋にゾクッと悪寒が走る。
ハジメが咳き込んだと同時に砂煙の向こう側から何かの気配を感じたのだ。
明らかにそれはさっきまで弱っていたオサイズチではない。
あの赤い光、恐らくはそれを纏っていたであろうモンスターのそれだろう。恐怖と共に正常化した思考が働き、光の正体を何となくだが掴みかけていた。
(……何だ……この、薄ら寒い感覚は……これじゃ、まるで――――――)
壁から離れて武器を手に取ったハジメだが、そこから一歩も動けないでいる。
体の痛みがまるで警鐘を鳴らしているかのようだった。
逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ、逃げろ……本能が叫んでいるとでもいうのか?
(……クソっ……!)
本来ハンターはモンスターと対峙する際に恐怖の感情など表に出さないよう訓練されている。
それが維持できないほどの恐怖を感じる相手が煙の向こうにいると彼の本能は知らせているのだ。
そして、本能の警鐘も虚しく……砂煙はそれの叫び声と共に姿を現した。
――――――ギイェエオオオオオォォォォォッ!!!
それは咆哮だけで砂煙を吹き飛ばし、赤く仄かに光る粒子のようなものを周囲にまき散らす。
銀色に輝く龍の鱗はそれがいかに他と比べて異質な存在であるかを主張しているようだ。
流線形の体躯は飛竜種と呼ぶにはあまりにも小さく、鳥竜種の胴体よりも細かった。
4本脚で立っていながら、その背には異様な……否、
翼あるモンスターに共通する翼膜の存在、それがこのモンスターにはない。
太い骨格部分のようなものが左右に伸びて、広げたり畳んだりする関節の部分から先は明らかに翼とは思えない何かが生えている。
真正面からそれを見たハジメが咄嗟に思い浮べたのは飛竜種等に見られる足の爪。
文字通り、翼の先に鋭く巨大な三本爪のようなものが生えているのだ。
(……アレは……なんだ……)
飛竜種?鳥竜種?それ以外の―――――――――
ハジメが硬直したまま目の前のモンスターの特徴から該当するモンスターの名前を探す。
しかし、そのどちらにも該当するモンスターはいない。
あまり考えたくはないが、彼の脳裏につい最近戦ったラオシャンロンの姿が過ぎる。
(……何で……こんな町中の闘技場に……!今、このタイミングで……!?)
曰く「歴史の陰に埋もれた伝承の中で、その龍は銀翼の凶星と恐れられた」
曰く「空に赤い彗星が浮かぶとき、絶望と災厄の化身が現れるのだという」
曰く「大地を絶望に染め上げる凶兆の出現に、人は成す術なく滅ぼされた」
古龍種”バルファルク”またの名を”天彗龍”と呼称される、伝説の存在が彼の前に立っていた。
ハジメ君が宿屋を飛び出す前に選べたかもしれない三か所(支配種ドスギルオス+ギルオス無限沸き、二つ名ダイミョウザザミ、支配種オサイズチ+イズチ2頭のいずれか)難易度で表すならノーマル、ハード、イージーですが、ここにバルファルク君を投入したら……
あら不思議!?三番目がルナティック(フロムゲー並の難易度)に!
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡