2人が闘技場を飛び出した直後、ノイントが落ちて来るのが見えた。
ハジメはその瞬間、自分でも信じられないほど全力疾走で落下地点まで走った。
アニメや漫画の主人公みたいに華麗なキャッチなど出来ず、泥まみれになって彼女を助ける。
衣類が全て焼け落ちて全裸になった事から一先ず目を瞑り、彼女を安全そうな岩場に寝かせた。
―――ヴガアアァァァ!
「…ハッ、コイツを寄越せってか…誰かそんな頼み聞いてやるかよ!!」
背後に降り立つ
相手はモンスターじゃない、竜人族だ…本来なら武器を向けるのはご法度なのだが…
カルトゥスが後の責任を負うと言い切り、ハジメはそれに全てを賭けたのだ。
(頼んだぜ、カルトゥスさん…!)
「挨拶代わりの一発だコノヤロウ!!」
ドォン!と老山龍砲が咆えて、通常弾Lv3が黒い竜の足元を掠める。
憎悪で皺だらけになった黒い竜の瞳に映るが、ノイントからハジメに変わった。
復讐のことも忘れ、ただ目の前に立ち塞がる障害を排除しようと襲い掛かる。
―――ッルアアアアァァ!
「おわっ!?」
紫炎の
それは一瞬、空中で制止してからハジメに狙いを定めて飛んできた。
見た目の派手さに驚きつつも、彼はバルファルク戦同様に横へ転がって避けるが……
「あがぁっ…!」
火球は不規則な軌道で動き回り、躱したハジメを追いかけてぶつかった。
彼は灼けつくような痛みに襲われるが、人体への直撃は免れる。
当たり所が丁度腰のクックフォールドだったのは不幸中の幸いだろう。
「やりやがったなぁ…こんの野郎!」
大したダメージではないと、ハジメは片足で揺れる体を支えて踏み止まる。
そのまま銃口はピタリと黒い竜に向けたまま、引き金を無心で引いた。
ドォン!ドォン!ドォン!と三発の通常弾Lv3が鱗を砕き、黒い竜は悲鳴を上げた。
―――ギャアアアァァァ!?
(残り5発)
装填された弾を忘れないために、ハジメは頭の中で復唱を繰り返す。
一歩後ろに後退りした黒い竜はギロリと彼を睨んで空高く飛び上がった。
これまでハジメが戦ってきたモンスターは飛行能力を有していても、基本的に地上で戦っていた。今度の敵は違う。黒い竜は理性を失いながらも、戦闘に於ける自身の
―――ヴルオォォッ!
「…チッ…!」
黒い竜が吐き出す紫炎の吐息に気づいて舌打ちし、ハジメは後ろに向かって転がった。
地面とぶつかった炎の波が、彼の足元を掠めるが少し熱い程度しか感じない。
銃身を持つ左手に力を込めて、銃の先を空に飛んだ黒い竜へと向ける。
黒い竜が炎の吐息を吐き終えたのと同時に、ハジメは右手の一指し指で引き金を引いた。
ドォン!ドォン!という銃声と共に通常弾Lv3が黒い竜に向かう。
しかし安定しない斜め上の照準と、反撃までの僅かなタイムラグにより二発の弾は躱される。
(残り3発…このまま狙って撃っても、当たらないか…)
ガンナーとしての射撃の腕がまだ未熟であるとハジメは自覚していた。
地上を動き回る相手に対して動きをある程度予測して狙いを定めるのは容易だが、空中を飛び回る相手となれば話は変わってくる。
(まずは貫通弾で動きを掴んで…
アレとは、ラオシャンロン戦からアイデアを得た、彼にしか出来ない戦い方である。
彼個人としては邪道かもしれないと思いつつ、ハンターは利用できるものは規則を破らない範囲で何でも利用するというスタンスである事を思い出し、仕掛ける事を決意した。
ドォン!ドォン!ドォン!と当てるつもりのない牽制射撃で通常弾Lv3を弾倉から吐き出す。
そこで一旦ハジメは老山龍砲を折り畳んで、黒い竜に対して背を向ける形で駆け出した。
当然、黒い竜が見逃すはずもなく彼を追いかけようと翼を羽ばたかせる。
―――ガアアアアァァァァ!
武器をしまった状態で、アイテムポーチを漁って二種類の弾を取り出しやすい位置に移動する。
背後から咆哮と同時にバチバチと燃え盛る炎の音が聞こえて、ハジメは近くの岩陰に飛び込む。
被弾は免れたかに思えたが、ボーンメイルの角飾りに火が燃え移っていた。
「う、わぁちっ…!んの野郎ォ…」
幸いに火属性やられには至らなかったが、少し髪の毛の横が焦げてしまった。
ハジメは若禿げにされるのは御免だと奥歯を噛み締めて怒りを露わにする。
老山龍砲を展開して、貫通弾Lv3を三発装填した。
徐々に羽ばたきの音が近くなってくるのを確認して、ハジメは岩に手を当てて叫ぶ。
黒い竜は隠れた彼ごと岩を砕くつもりで近づこうとしたが、光り出す地面に驚いて空中へ留まる。
「”錬成”!」
地面が波打って形を変えて、岩とハジメを覆い隠すドーム状のものへと姿を変えた。
ドームの間からは老山龍砲の銃身だけが突き出して黒い竜に銃口が向けられている。
これぞハジメ考案、対飛竜用一人トーチカ作戦。
トーチカとは鉄筋コンクリート製の防御陣地を指す軍事用語。
中に人が入って機関銃やそれに準ずる自動火器で敵部隊の侵攻を阻止する際に用いられた。
本来であれば一定の方向にのみ銃眼が開いているトーチカは、複数箇所に設置して互いの死角をカバーしつつ、敵に対して十字砲火を浴びせるなどの目的を兼ねて運用されるのだが…
ハジメの錬成で作ったトーチカには三百六十度に対して銃眼が開いている。
その代わりに逃げ場となる出入口はない。
「反撃開始だぁっ!!」
そう叫んで老山龍砲の引き金を引くハジメ。ちゃっかり岩の形を錬成で変えて、銃身を手で抑えなくても反動を抑えられるようなに工夫を加えていたのだった。
ズドォン!と貫通弾Lv3が一発、黒い竜の翼を掠める。
黒い竜も負けじと吼えて、トーチカに向かって紫炎の吐息を吐き出した。
このまま炎がトーチカに当たれば、中にいるハジメは丸焼きにされるだろう。
しかし彼は錬成師である。瞬時の突貫工事なぞお手の物だった。
「”錬成”ィ!」
ゴゴゴッ!と地面が再び波打ち、トーチカの銃眼を覆うように傘が展開する。
直後、炎が辺り一面を焼き尽くすがトーチカの中にいるハジメに火の手が触れる事はない。
錬成で生まれた防火の傘は、彼が地面から手を離すと粉々に砕け散った。
黒い竜が狼狽えたのを耳で感じ取り、彼の口元から笑みが零れる。
「もういっちょ反撃ぃ!」
ズドォン!ズドォン!と立て続けに貫通弾Lv3を発射するハジメ。
片方は黒い竜の脚を掠めるだけに終わったが、残り一発が翼膜を貫いた。
―――グギャアアァァッ!?
悲鳴を上げて空中での飛行能力が低下した黒い竜は地面に降りてくる。
ハジメは順調に事が進んでいると確信して、新たな弾を込めた。
黒い竜は飛ぶことを諦めて、再び地上での戦いに切り替えたようだ。
同時に黒い竜は彼のトーチカの攻略法を思いついてしまう。
あのドームの中に炎を通す為に、炎を防ぐ傘を壊してしまえばいい。
その為には紫煙の吐息を吐き出しながら、トーチカに接近する必要がある。
近づいて撃たれる危険はあるが、トーチカの中で人間を焼き殺すのに数秒も掛からないだろう。
―――グルオオォォォォッ!
そうと決まれば実行に移すほかない、黒い竜は真正面のトーチカに向かって紫炎の吐息を吐く。
当然、ハジメもそれを読んでいた。詠唱と共に炎からトーチカ内部を守る防火の傘が作られる。
黒い竜はそれを好機と見て吐息を吐き出し続けたまま前進した。
自身の前脚を使って防火の傘を壊して、後は一気に紫炎の吐息を一点手中で吹きかけるだけ。
人間を焼き殺した後は、すぐに殺し損ねたあの女を見つけ出して殺さなければ…
黒い竜の意識は既に勝った気でいた、それが勝負の勝敗を分けた原因である。
「――――――そう来ると、思ってたぜぇ!!”錬成”ぃ!」
黒い竜が近づく震動を足元に感じて、トーチカの中にいたハジメはそう叫んだ。
既に左手は防火の傘の錬成に使って動かせないが、彼は老山龍砲からも手を離していた。
彼も最初は近づいて来る黒い竜に対して老山龍砲の最大火力を使って迎え撃つ。
…と考えいたのだが、相手と正面からぶつかり合う必要がない、悪魔的発想が彼の中に降りてきて、即座に作戦をそちらに切り替えたのだ。
黒い竜が足下の地面に違和感を感じた時にはもう遅い。
波打ち、状態を変える土は泥のように粘り気を含めて黒い竜の脚を絡めとっていた。
―――ッッッ!!?
「…いぃぃぃぃまァァァァッ!!」
今だ!と言おうとしてそれしかハジメの叫び声は出てこなかった。
トーチカの形を逆開きの傘のように変形させて、炎は吐き出す側へと跳ね返った。
悲鳴を上げて黒い竜はそれを避けようとするが足下が固まって動けないでいる。
憎悪を込めた自分の炎で自分の身を焦がす…なんと皮肉なことか…
足元の地面を突き上げるよう数メートルの高さへ持ち上げたハジメ。
その瞬間に両手は地面から離れて錬成は解かれていた。
老山龍砲を掴んで、予め装填していた単発装填の”徹甲榴弾Lv3”を向ける。
銃口の向かう先は黒い竜の額、狙いを定める必要もなく彼は引き金を引いた。
ドォン!と弾が吐き出されて、強い反動で彼の体は仰け反る。
しかし
たった今、自分が撃ち込んだ黒い竜の額に向かって跳んだ。
「こ、っれっでえええええええぇぇぇぇぇぇ!!!」
黒い竜の額に弾が突き刺さる、あと1秒か2秒もしない内に弾は大爆発を起こす。
ハジメは老山龍砲を逆さに持って、叫び声を上げながら振り被る。
徹甲榴弾Lv3の大爆発は黒い竜に大ダメージを与えるだろう。
しかし
「寝てろやボケぇぇぇぇっ!」
ハジメは老山龍砲で、黒い竜の額をブン殴った。
硬度トップクラスの鉱石でコーティングされた銃床が鱗を砕いてめり込み…
直後、頭部が大爆発を起こして黒い竜は叫ぶ間もなく彼共々意識を失った。
決め手がボウガン(物理)なのは気にしてはいけない…
今後も含めて、ティオにこの場で死なれたら困ってしまうので。
次で幕間の物語「消えぬ怨嗟の炎」で隠れていた言葉の全てが判明します。
…と言っても、漫画版の台詞に作者がそれっぽい独自解釈を加えただけですが…
あと是は只の独り言なのであまり気にしなくて構わないのですが…
自分でこう長く書いていると…オリ改変加えた原作キャラ含め、立ち絵みたいなものを描いてみたい衝動に駆られる今日この頃、なお作者の絵心は小学生の頃の模写で止まっている模様(自ら日課の趣味に苦行を科していく、原作ティオとは別のベクトルでMに目覚める作者だった)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
-
続編にして
-
このまま話数増やしてもいいんじゃね?
-
打ち切りはヤメロォ!
-
もっと周りの話補完して♡