ちょっとした告知ですが、前回の話を投稿後にあらすじの追記を行いました。
内容としましては「主要人物紹介①」のオリキャラ、ルゥムのイメージイラストを親切な読者の方から頂きましたので、許可を頂き掲載したという事です。
興味のある方は是非、そちらを覗いていって下さい。
また作者は何をトチ狂ったのか絵心皆無の癖に一丁前にペンタブとかPhotoshopとかに手を出してしまいそうです…(隻腕のリンネ姉貴を書きたい衝動)
――――――暗い…何処までも暗い闇の中に、
始まりは里をこっそり抜け出した直後の偶然の出会いだった。
忘れもしない、忘れたくても毎夜毎夜覚めない悪夢にその顔は出てくるのだから。
生きる者の筈なのに、血の通っていないように見えた真っ白な肌が不気味だった。
ヒトの形をしているのに、自分以外の他を見る底抜けの海のような瞳が怖かった。
口にする言葉が、感情の色の欠片も見せない寒風のようで気持ち悪かった。
銀色の髪が靡いて、
里が、私の生まれ育った里が、争いの火の手に包まれて燃えている。
楽しかった昨日までの思い出が、さっきまで生きていた隣人が、友が、死んでいく…
「殺せ殺せ、我らが神に逆らう悪しき竜人を皆殺しにしろ!」
私たちが何をしたというのか…?私たちは平和に暮らしていただけなのに…
だから人間が滅多に足を踏み入れないような山奥に潜んでいたのだ。
それなのに…あなた達は私たちが生きている事を許さないと言うのか?
…彼らをそう焚きつけた彼女らは、お前達の主は、そんなにも私たちを嫌っているのか?
従者に手を引かれて、蹂躙する人間の手が届かない所まで私は逃げてきた。
最後まで戦っていた父上が後からやって来たが、その命はもう長くないようだった…
そして私は見た…父上が見ないように目を覆い隠す前に、それを見てしまった。
「…はは…うえ…?」
当時、王の妃として民に慕われ、誰よりも美しいと私が思っていた母上。
そんな
その後、父上が何を言って怒り狂い理性を失った妾を止めたのか、ずっと思い出せなかった。
母の亡骸は終ぞ逃げ延びた仙境に持ち帰る事も出来ず、後を追うように父も逝った。
それから、私が竜人族の女王になる事を宣言すると同時に、終わらぬ悪夢に苛まれ始めた。
…嗚呼、誰ぞ、神でも魔王でも、誰でも良い…誰でもいいから…
*
「目を開けるんだティオ、もう意識は戻っているだろう」
「――――――フ、流石は竜人で最も優れた流浪の民と噂される男じゃ。…のう、カルトゥス?」
額に走る痛みに意識を覚醒させた妾は、少しの間に見た自身の過去の余韻に浸っている。
しかし声を掛けてきた者の声に返事をして目を開かざるを得なくなった。
カルトゥス、流浪の民でありながら間諜として仙境に仕えてくれた変わり者がいた。
何時の間にやら竜人の姿に戻っていた妾の手足を、鋼色の鎖がキツく結んでいる。
ただの鋼鉄であれば竜人の力で鎖を破壊するのも容易だが、どうやらそうではないらしい。
特殊な鉱石を何種類も混ぜてある…自力で抜け出すのは厳しいじゃろうな。
カルトゥスの後ろには見覚えのない人間の小僧が立っていた。
腕を組み、険しい表情で妾の一挙手一投足を見逃すまいとしている。
自嘲気味に俯く妾に向かって、カルトゥスは静かに問いを投げてきた。
「…ティオ、自分が何をしたのか…何処まで覚えている」
「…親の仇を見つけて、魔王と結託し、奴を孤立させて怒りのままに襲ったところまでかのう。…そこから何があったのか、大方予想はついておるが…ぬしの口から聞かせてはくれぬかのう…」
そう口にした途端、カルトゥスの後ろの小僧が目元に僅かな皺を寄せた。
それは少し前の妾が浮かべていた表情だからすぐに分かった…言葉に出さずとも、それは見るだけで手に取るように分かってしまう…怒りの感情じゃ。
「竜人の竜化、それは体内の魔力を消費すると同時に、使い方を誤れば理性を失う。…結果、君は仇を取る直前で割り込んだ後ろの彼に倒されて―――」
「今に至る…か…。……のう、おぬし…名はなんというのじゃ?」
少し暢気すぎる質問だったかもしれぬと、妾は口にしてから後悔した。
小僧は腕を組んだまま、顔色一つ変えずに淡々と名乗る。
「南雲ハジメ……ハンターだ」
「…そうか…妾は――――――」
自分の名前を口に出そうとして、ふと思い止まった。
…どうせ妾は死ぬ事が決まっておる…名乗ったところで意味などないだろう…と。
しかし何も答えずに黙っている訳にもいかず、咄嗟にこう言ってしまった。
「―――妾は、死を待つだけの身じゃ…名乗るほどの者でもない」
その言葉を聞いた直後、僅かに
怒りの表情が一瞬、悲しそうに見えてしまった…妾の気のせいかもしれぬがのう。
視線は手前で見下ろすカルトゥスへと移った。
「…
「………」
自分の口から、そんな言葉がスラスラ出てきたのに、内心驚いている。
憤怒の憎悪に燃える心は何処へいったのやら…妾の中には、もう何も残っておらぬ。
あれほど執拗に殺そうとした相手に対する感情も、女王であった頃の威厳も、何もない。
……空っぽになる……というのは、こういう事なのじゃろうな。
さて…妾は如何にして、人間達に殺されるのであろうな?
母上のように、生きるのが苦と感じる程の辱めを受けてから嬲り殺されるのか。
それとも父上のように、槍か剣で貫かれて血を滴らせながら苦しんで死ぬのか。
不思議と怖くはなかった…
…いや、よしんば同じところに魂が還ったとて、顔向けは出来んじゃろうな。
託された民を蔑ろにして、個としての復讐に心を燃やした娘と会いたいとは思わんだろうて。
「……妾に何か言いたい事はあるかのう。カルトゥス、ハンターの小僧」
「…フム、一先ずは君の誤解と解くべき思っていたが…復讐を遂げられず、自棄になっているか…。…そうなると…彼の用事から先に済ませてしまった方が良いかもしれないな」
やれやれ…頭の固い老人共と違って、ぬしは何でもお見通しという訳か。
カルトゥスの言う彼…小僧が一歩前に出てきて、妾をじっと見つめた。
赤い瞳…じゃが、本物ではないな…これは、獣人の秘術か?
そんな事をぼんやり考えている前で小僧は静かに口を開いた。
「カルトゥスさんから色んな話を聞いた。…竜人族のこと、アンタが追いかけ回してたノイント…本当の神の使徒って奴のこと、人間が昔やったこと…全部聞いた…」
…ゆっくりとそう語り出した小僧…ハジメの表情から怒りの色が薄れていた。
アレを傷つけたことに対して怒り狂ったぬしに、殴られ蹴られ、罵倒されて唾吐かれるくらいの事は覚悟していたんじゃが…その様子はなさそうじゃのう。
暫く沈黙を貫いているハジメに向かって妾から質問を投げかける。
「…であれば解るだろう。妾は既にぬしの大切な者を傷つけた…見たところあの神を敬う者共とは違うようじゃが…。…ぬしには、妾を殺す権利がある…」
「…殺さねえよ、そんなつもり微塵もねぇ。…俺はハンターだ、亜人だろうが竜人だろうが魔人だろうが…どんな理由があろうとも、モンスター以外の命を、奪うつもりはねえ…見縊んな」
「…では如何する?妾を都市の中で暴れた大罪人として王国の者共に突き出すか?」
「しねえよ、誰がんな面倒臭ぇことするかっつーの……俺がここに居る理由はただ一つだ」
ハァとため息をついて、ハジメは後ろに振り返って暗がりに声を掛ける。
話の途中で気づいたが、妾は何処かの建物の中にいるようだった。
松明の灯り以外は暗く…遠くに見える空の光は夕焼け色に染まっている。
暗がりの中からペタペタと素足で歩く音がして、妾は何となく誰が来ているのか察した。
「……成程、復讐されたなら…された者が復讐し返すのが道理であろうな…」
「………」
ノイント…そう言われた真・神の使徒がハジメの隣に立っていた。
体の至るところに火傷の痕がついて、痛々しい姿ながらも、表情は相変わらず無を演じている。
しかし妾はもうそれに怒る事もなかった…寧ろ自嘲気味に笑みを浮かべてしまった。
「…我ながら滑稽じゃのう…そうは思わんか?追われる側だった妾と、追う者を煽動する側だったおぬし…数百年経ったというのに…どう足掻いても、その立場は変わらぬとさ」
「………」
返事は無い…ノイントはじっと妾を見つめて、何かを考えている。
寧ろ隣に立っていたハジメの表情が、また険しいものになろうとしていた。
…見方を変えれば、妾は負けてなおも相手を煽る愚者に見えるだろうからな…
一思いに殺してくれと言いたいが…敗者の願いを聞き届ける勝者なぞ居らんわ。
「………私は………」
「………ッ」
ゆっくりと口を開いて何かを言おうとするノイント。
妾は判決の時が来たのかと、覚悟はしていた筈なのに…思わず息を呑んでしまった。
「―――――――――私は貴女に謝りたくて、此処に来ました」
「………………………は?」
彼女の口から出た言葉を聞いて、妾は思わずそう答えてしまった。
しかし妾の返事を待たず、ノイントは淡々と謝罪を口にする。
「私は貴女に恨まれて、殺されそうになるくらいの酷い事をしたのだと、ハジメから聞きました。……まずは、その事について……本当に、ごめんなさい……」
今更、その口から謝罪の言葉を吐き出して、妾に何を求めている…この女は?
復讐に固執していた時のような怒りの感情は沸きだしてこない、そんな気力はない。
ただ妾は、何故?という疑問を言葉に出来ず、彼女の謝罪を聞くしかなかった。
「……それで、その……私が、その事を覚えていない事について。……私は貴女に襲われる直前までの記憶を失っていて……けれども、貴女にとって、私が忘れちゃいけない記憶を…忘れてしまって…ごめんなさい」
「………おぬし」
「…こんな事を、私がこんな事を、貴女に向かって口にするのは、凄く失礼だと思っています。…でも、これしか伝える方法…私、分からなくて…それで、えっと、その――――――――――――こんな私でも、生きることを……許して、貰えないでしょうか……」
…妾は唖然として、何も答える事は出来なかった。
ついさっきまで殺そうとしてきた相手に向かって謝り、生きることを認めろ?
そんなバカげた真似を、真・神の使徒がやったというのか?
繰り返しになるが怒る気持ちは沸いてこない。
寧ろ、何故?という疑問の言葉が膨らんで、思わず聞き返さずにはいられなかった。
「…妾が許すと…本気で、思うておるのか…おぬしは」
「…本当は、貴女に追われる途中で、昔の私がやった事、少し思い出しました…」
「…であれば尚の事―――」
「…その時は貴女に殺されて当然だと、私自身…思っていました。……けど」
さっきまでの悲しそうな表情が一転して、何かを決意した表情へと変わっている。
それは遠い昔、妾に同朋の後を託して息を引き取った父上のそれと似ていた。
口を閉ざして彼女の言葉を待つ…数秒の後、彼女は答えた。
「…大切な人が、私の名前を呼んでくれた…それで私は…生まれて初めて…
「………」
一瞬、ノイントの瞳が隣で静かに見守っていたハジメに向けられていた。
彼は気づいていたようだが、口を挿むべきではないと黙って目を瞑る。
それから口を閉ざして、真剣な表情でノイントは妾の答えを待っているようだった。
答えに妾自身、納得できない事ばかりじゃが…こう答える他ないだろうて…
「…好きにするがよい…もう、妾の復讐は終わったのじゃ」
「…ごめんなさい」
「謝罪の言葉なぞ要らぬわ。…ただ、以前のおぬしがしでかした事で失われた命の重み、それだけは未来永劫忘れるでない…それさえ忘れぬと言うのであれば、他に言うべき事はない」
妾の言葉を聞いて、ノイントは静かに肩を震わせながら頭を下げる。
ポツポツ…と地面に零れ落ちる涙、そこに偽りがある等と誰が疑えよう…
*
もう用事はないと、ノイントは暗がりに引っ込んでしまった。
これでハジメの用事とやらは済んだ訳じゃ…いよいよ、妾の終わりが近づいて来おったか。
カルトゥスに視線で促すと、奴は一歩出て一言。
「―――ではこれで彼女を鎖で縛る必要はない訳だ」
「………………は?」
妾、本日二度目の唖然とした顔で口を開けたまま固まる。
ガシャン!という音と共に体を縛っていた鎖が解けて自由の身になった。
カルトゥスは神妙な面持ちで後ろにいるハジメに問いかけた。
「…本当に、良いのかね…」
「さっきも言ったでしょう、カルトゥスさん。俺は竜人がどうとか、神様がどうとか、小難しいこと考えるのが苦手なんですよ。…だから、そいつがもうノイントを襲うような事がないっていうなら、これでチャラ。後はそっちの好きにしてください」
「どういう神経しとるんじゃおぬしは!?」
思わず妾の口からそんな叫び声が出てしまった。
ずっと腕を組みっぱなしで凝り固まった肩を解したハジメは唇を尖らせて言う。
「いや、だってよぉ…竜化したとはいえ竜人に向かってボウガンの弾をぶっ放しましたとかギルドに報告したら、俺絶対ハンタークビになっちゃうし…カルトゥスさんに迷惑かけてまで言い訳とかするの絶対に俺が後々引き摺るし…この際だから無かった事にしとくのが良いかなって」
「そうはならんじゃろう!?」
「…ティオ、君がそんな風に口出し出来る立場じゃない事を忘れるな」
「…ぐっ…!」
さっきまで意気消沈していた妾は何処へ行ったのじゃと自問自答したくもなるわ。
どうしてそんな口約束が信用できる!?妾がまた襲うとは考えぬのか…!?
…と言葉に出すより先に、カルトゥスがそっと妾の頭に手を置いて告げる。
「…もっと早くに君の心の病に気づくべきだった…ハルガに話を聞いた時から何時かはまたそんな時が来るだろうと、悠長に構えていた私にも責任の一端はある」
「…父上が…」
故人の冥福を祈るように、目を瞑ったカルトゥスはある言葉を口にする。
それは代々、竜人族に伝わる教え…全てを失ったあの日、父上が言っていた。
今この瞬間にカルトゥスの口から語られるまで、妾はそれを忘れていた。
…嗚呼、なんとも…妾自身、今までの行いが愚かであったとは重々承知している。
それ故か…熱を帯びた瞳の奥から、零れた涙が頬を伝っていくのを、この身は止められぬ。
その後、妾の頬に布切れがそっと押し当てられた。
顔を上げると、カルトゥスの脇に移動していたハジメが、仏頂面で布切れを突き出していた。
「…人が泣いてるところは、あんま見たくねえんだよ…」
「…馬鹿じゃな…おぬしは…っ」
フューレンの長い一日は、終わりを迎えようとしていた。
清水幸利との再会、古龍の襲撃、ノイントの正体、この世界の真実、竜人族…
ハジメの脳のキャパシティーはそろそろ限界に近い。
しかし限界に近い人間に対して、運命というのは悪戯をする。
この後、とんでもない出来事を前にしたハジメは、そう思うのだった…
復讐出来ずに燃え尽き症候群、ヤケクソ気味のティオが救われる話でした。
ちなみに復讐が成功しても、遅かれ早かれ当作品のティオはこうなってます。
周りの大人がもうちょっと気を遣ってあげれば、こうはならなかったという…
ハジメ君、責任逃れしたいが為に許すとか…それでいいんか…お前。
とは言っても自分に対して害はあまりなかったので、いいんでしょうね…
ちなみにギルド判定的にはハジメ君の行為はグレー寄りのアウトです。
(竜人族絡みとなると、帝国の王族絡みになってややこしいので)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡