宿屋に突如カルトゥスらを連れて現れた皇女トレイシー。
ハジメはミュウに起きたことをありのままに伝え、彼の前でそれを聞いた彼女が頬を引き攣らせて笑うという珍しい光景が生まれた。
まだ若干血生臭いが、リンネも話し合いに参加するという事で同意し、ハジメは部屋に残っていたミュウ、優花、ノイントの三人を呼びに行った。
階段を降りてきて成長した姿のミュウを見て、トレイシーが頭を抱えたのは言うまでもない。
そうこうしている内に、すっかり夜になってしまった。
フューレン市内は今日の騒ぎで殆どの店が営業をしていない。
トレイシーは何処か話しやすい場所はないかと思案を巡らせるが、そこに宿屋に着くまで黙っていたカルトゥスがハンターズギルドの集会所はどうかと提案を持ち掛ける。
「今日の事後処理でギルド職員の多くは出払っている。…幸い市内に居るハンターも彼と私だけだから、第三者に盗み聞きされる可能性は無いと言っていいだろう」
「成程な…確かにあそこはうってつけだ」
彼の提案に全員が賛成―――ミュウはあまり良く分かっていないようだが―――で決まった。
トレイシーが用意した馬車に乗って、一行はすぐに集会所の近くまで移動する。
カルトゥスの言葉通り、集会所内は奥で職員が忙しく動き回っている以外は閑散としていた。
大きめのテーブルに、近くから椅子を人数分持ってきて席に座る。
気を利かせたアイルーキッチンのアイルーが一匹顔を出したので適当に飲み物を注文した。
トレイシーが何から話をするべきかと悩んでいた矢先、ハジメは思い切って口を開く。
「これが本当の事なのかは分かりませんが――――――」
そこからハジメは清水幸利から聞かされたトータスの真実を語り始めた。
途中でノイントが真・神の使徒である事を言われた時は誰もが驚いていたが、彼女は臆することなく堂々とハジメの言葉に対して首を縦に振った。
偽りの神による眷属達を相手にした結末が決まっている戦争という題目のゲーム。
異世界から召喚されたハジメ達、人間族、亜人族、魔人族が神の駒に過ぎないという話。
既にその事を知っていた竜人の2人も頷いてハジメの話に補足説明をしてくれた。
彼が話す内容が真実味を帯びてきた時……
「ぁ、ぅぅっ…っぅ!」
全てを彼が話し終えたのは十五分後、気づけば優花は涙を目に溜め、俯いて体が震えていた。
色々な感情がぐちゃぐちゃになって爆発しそうになる彼女の肩をそっとリンネが抱き寄せる。
優花は堰を切ったようにわっと泣き出して、ハジメは黙って下唇を噛んでいた。
向かいに座ったトレイシーは途中まで冷静に聞くつもりだったが、駒という扱いをされている事実を知った瞬間にギリッと奥歯を噛み締めて、握り込んだ手の中から血が滲んでいる。
「――――――その話、偽りでないと証明は出来るか?」
落ち着きを取り戻したトレイシーが低い声で一言、ハジメにそう問いかける。
並の人間なら震えて取り乱す声を前に、ハジメは表情を固くして答えた。
「魔人族の側に寝返った友人が、ノイントと同じ容姿をしている人から聞いた話だというので、確かめるには―――」
「…直接そいつに事の真偽を確かめる他ないということか…」
それから優花が泣き止むのを待って、ハジメは自分に起きたことを全て包み隠さず話した。
闘技場での戦い、古龍バルファルクの乱入、それからティオとの戦い…
本当は一度死にかけてベースキャンプ送りにされた事も伝える筈だったが、優花が泣き腫らした目で不安そうにハジメを見た瞬間、そこだけは口に出さなかった。
此処でハジメはトレイシーにモンスター以外の武器使用の事を打ち明けて謝罪するつもりだったが、既にカルトゥスから事情を聞いていた彼女は二つ返事で「問題ない」と返した。
「それについては、近々対策を講じる」
という意味深な言葉も付け足して…
それからハジメとノイントが宿屋に戻ってきた先でミュウの事に話が戻る。
体は成長したが、まだ精神的には五歳の彼女に端的かつ分かり易い説明は難しいと判断して、ノイントが魔王アダム襲来とミュウに起きた事を五分足らずで説明しきった。
直後、今まで温厚だったリンネが手に持っていたジョッキを握り潰した。
ビクッとした優花が顔を上げると、そこには鬼の形相を浮かべた羅刹がいた。
運悪く向かいに居たミュウが自分に向けられた怒りと勘違いして泣きそうになる。
「野郎ぉ…!アタシと優花ちゃんに手を出して詫びの一言も無し、挙句にミュウちゃんの超絶可愛い時期を強制スキップとかぜってぇ許さねえ…ブチ殺して生首を帝都の門に飾ってやらァ…!」
「ふぇぇ…お姉ちゃん怖いよぉ…」
「り、リンネさん…その…ミュウちゃんが怖がってますし、その辺で…」
どうやらリンネと魔王の間にはこの場ではな口に出せない深い関係があるらしい。
それを察して誰もがそのことを追求せず、ただ怒り狂う彼女を宥める事に専念した。
暫く獣のようにフーッフーッと唸っていたリンネだが、ミュウの事に気が付いてハッと我に返り、焦った様子で「ご、ごめんねぇ…お姉ちゃん怖かったね~?」とあやす。
また場が落ち着き始めたところで、ノイントが全員に向かって頭を下げる。
口にする謝罪の内容としては自分がその偽りの神に創られた存在であること、それを記憶喪失で忘れていたとはいえ、自分には償いきれない罪があること、それらを踏まえた上で怒りをどんな形でもぶつけて貰って構わないと言った。
しかし――――――
「の、ノイントが謝る事はないよ!」
真っ先に声を上げたのは泣き腫らした目を擦った優花だった。
竜人の2人が何とも言えない表情で俯いているのを見て「わ、私は所詮、ただの異世界人だし…何が正しくて何が悪いとか…子どもだからまだ曖昧だし、偉そうなことなんて何にも言う資格なんてないのかもしれないけれどさ…」と口ごもりながら話す。
「全部悪いのは、その…結局エヒトって奴なんでしょ?…なんでもかんでも、ノイント一人に罪を背負わせるのは…残酷過ぎるよ…。も、勿論…悪い事をしたのを謝ったから許すなんて事はあり得ないと思うよ!?思うけど…さ…少なくとも、罪と向き合うって気持ちが、ノイントにあるなら…私は…ノイントのこと、これから大切な友達として…受け入れたい」
「…優花…」
「それもまた正論。しかし、操られていたこの世界の住人が、その事実を知ったら死よりも厳しい償いをお前に求めて群がってくるだろう…。この世界に生きる知性ある者が背負う業は深いのだ」
「我々竜人は今回の一件で、過去の復讐に囚われるような事があってはならないと再認識した。…勿論、許す許さないは別の話だが…少なくとも、次の世代に宿業を背負わせるつもりはない」
トレイシーからは優花の言葉を肯定しながらも、厳しい意見が告げらる。
優花が竜人族の受けた迫害を詳細に聞けば、言葉は少し変わっていたかもしれない。
だが、今の彼女は何があってもノイントを毛嫌いするような事はしないだろう。
一夜とはいえ互いに身を寄せ合って眠った家族のような仲だ。
ようやく泣きそうだったミュウのご機嫌とりに成功したリンネが会話に戻ってくる。
彼女は何も言わず、無言で机に身を乗り出してノイントの額をぺチンとデコピンで叩く。
「あぅっ…!」
「はい、これでアタシの個人的な復讐は終了。…アタシも人生の大半、モンスターと食うか食われるかの生活続けてきただけの女だからさ、小難しい事は良く分からないんだけど…殺した殺されたの恨みつらみって、結局は大切な人を失った悲しみの反動で芽生えた怒りなのよね。向ける矛先が定まって、突っつくのはそれっきりで済むのならいいけれど、突っつかれた側が同じように恨みつらみでやって、やり返して繰り返し繰り返し…下手すりゃ自分の死後も続いて無限ループってなるでしょ?―――どっかで割り切る必要、あるんじゃないの?」
「言うは易く行うは難し…だがな」
「まぁ、そりゃそーなんだけどねぇ…でも大体の人がやる前から難しいって考えて諦めちゃうから、そういうのが当たり前になってるんじゃないのって思うのよ、アタシは…」
口調は軽いが、彼女の言葉はその場にいる全員に染みる言葉だった。
無理に仲良くしろとは言わない。しかし復讐の後に襲ってくる虚無は、耐え難い苦痛である。
それを一番よく理解しているティオは目を閉じて、改めて自分の心を静かに戒めた。
「さてと…話が大分脱線しちゃったかな?アタシのせいで」
そう言いながらおどけた様子でリンネはノイントに向き直って、今度は優しい笑みを浮かべて片方しかない手をポンと彼女の頭に載せて優しくその髪を撫でながら言った。
「本当に罪を償いたいなら、未来を生きる命が豊かに暮らしていけるよう、貴女は死ぬ気で努力するとか…もっと他にやれる事があるんじゃないの?」
「……その、通りです……リンネさん。……きっと私は、心の何処かで死ねば許されるなんて思ってしまった……ズルいですよね」
「うんズルいよ、だからそれをアタシは許さない。死んだ人の分まで精一杯生きて、死ぬのが馬鹿らしくなるくらい楽しい思い出を引っ提げて、死んでからあの世で先に逝った奴らに、死ぬほど尽きない土産話をしてやる…それがいいと、アタシは思うよ」
リンネの言葉に頷きながら、掌から伝わぬ温もりを感じてノイントは静かに涙を流した。
この場の全員、誰一人として二人のやり取りに口を挿む者はいなかった。
彼女の懺悔と謝罪はそれで終わった。残ったのは竜人達の話だ…
竜人が受けた迫害の歴史から始まり、流浪の民と仙境の民に分かれた過程、ティオの見た目がリンネとそう変わらないのに対して563歳であると口にした瞬間、ハジメが内心激しく動揺したのは言うまでもない。
あまり暗い雰囲気にすると一緒にいるミュウが不安がるのでちょくちょく緩い空気にする。
それはこの場に於ける互いの名前を知り合った者達の共通認識だった。
ティオが見聞を広めようとした矢先にノイントと出くわした事を話す。
彼女も朧げながらその時の記憶を覚えていて、情報をすり合わせを行った。
そして各々の口から語られた言葉が線を結ぶ点と点になり、フューレンで起きた一連の騒動に加えて、トータスの真実の歴史を知ることになった一行。
「念の為に私から言っておくが、この事は他言無用だ…神の使徒同士でも、だ」
優花に向かって念押しするトレイシー。
どうして?と彼女が当然の疑問を口にして、ハジメがトレイシーに代わって話す。
恐らく神エヒト、聖教教会は裏で何らかの繋がりがある。
王国でハジメが読み漁ってきた曖昧な歴史が、彼らの手によって多くが隠蔽されたものだとするなら、その事を知ってしまった優花は神の使徒から一転、神に逆らう不届き者と、聖教教会で云うところの異端者の烙印を押されて殺されかねない。
以上の事を端的に分かり易く彼が話すと優花の顔が青ざめている。
思い返せば彼女が慕う社会科教師、畑山先生はトータスに召喚されてから終始貫徹して聖教教会のトップ、イシュタル教皇に戦争反対を訴えていた。
下手をすれば何処かで殺されていた可能性だってあったのではと思ってしまう。
「わ、わたし…早く皆の所に戻らなきゃ…!」
「戻るって…具体的にどうすんだよ?今の話、一から十までクラスの連中に説明して、全員が全員はいそーですかと従う訳ねえだろ園部。ましてやお前は戦うのが怖くなって先生についていった、天之河達から見りゃ臆病者の扱いを受けてんだ…まともに話を聞いて貰える訳ねえだろ」
「でもっ…!こうしてる間にも愛ちゃんに何かあったら…私…!」
「あんな頼りない人でも大人だ、今までの生活と常識がかなりズレているこの世界で、触れちゃいけねえことってのも直感で気づいて避けられるだろ。……少なくとも、何の考えも持たずに天之河の言葉に頷いた俺達よりは行動も考えも慎重だ」
しかし生徒の暴走を止められなかったのは如何なものかとハジメは内心思っているのだが、畑山先生を大好きでいる優花の前だからと敢えてそれについては口出ししなかった。
「それで元・神の使徒とまだ神の使徒である者同士…話は纏まったか?」
「俺のスタンスは変わりませんよトレイシーさん。ハンターとして、この世界で生き抜く術を学びながら…元の世界に帰る方法を見つけ出す…ちょっとだけ、可能性が見えてきた場所があるんで」
「…ほう?何処だそれは、言ってみろ」
「―――かつて神に逆らい、反逆者の汚名を着せられた奴らが作った隠れ家…大迷宮ですよ」
メンバーの中で一番大人(性格とか考え方)なのがリンネさんかカルトゥスさんという(実年齢で最年長が断トツでノイントなのは此処だけの話)
ハジメ「その見た目で563歳…だと…!?」(リンネと見比べながら)
リンネ「おいエロガキ、話の後で集会所裏な」
トレイシー「フム、私も詳しく聞きたい所だな…錬成師の小僧」
↑書きながら思いついたけど没にしたネタ会話(流石にハジメの命が削られるレベルで触れてはいけない話題なので)
感想、質問、ご指摘等お待ちしております。
初期で構成していたプロットより大幅に話数が増えてしまったので、本作を第一部として続編(2nd的な)を作り本作を完結させようか迷ってます。(それで投稿ペースが遅れる等はありません)
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続編にして
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このまま話数増やしてもいいんじゃね?
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打ち切りはヤメロォ!
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もっと周りの話補完して♡